第40話 異世界の定番

「異世界の大きな街を目指すことになったよ」


 異世界で出発の準備を終えて、地球でミドリとカナに報告をすることにした。

 準備するものもほとんどなかったけどね。

 気持ちの準備くらい?


 カナはなぜだか羨ましそうにしている。


「お出かけいいなぁ……」


 どうやら大きな街に行くということが羨ましい様子。

 と言っても、異世界には連れていけないしねぇ……


 うん? ひょっとして複製魔法を使えばできる?

 あ、駄目か。

 肉体あると魔力必要量が増えるんだったね。

 そのせいで私幽霊やってるんだったね。すっかり忘れてたよ。

 というわけで、カナを連れてはいけない。

 写真でも撮ってきてあげれば喜ぶかな?

 携帯電話の充電だけはちゃんとしておこう。

 そう話すと、


「お願いお姉ちゃん」


 カナは無邪気に喜んでくれている。


「なるほど、魔法が失われた世界……そういうパターンか……」


 そして私の話を聞いたミドリが何事かつぶやいている。


「ひょっとしてそんな感じの小説か何かでもあった?」


 あるなら参考として聞いておきたいんだけど。


「うん。パターンとしては、あるかな。ちょっと探しておく」


「よろしく」


 生憎とすぐには出てこないらしいので、探しておいてもらうことになった。


「魔法が今もないのは残念だけど、古代文明にアーティファクト……それはそれでアリだよね」


 あー、ミドリ確かにアーティファクトとか好きそうだよね。

 気持ちもわからないでもない。

 何か手に入ったら持ってきてあげようかな。


「でも、定番からすると、そういうアーティファクトって危険なやつも混ざってるのよ」


「危険?」


 なんだか、聞き捨てならないことを言い出したミドリ。


「そう、だって以前の文明滅びてるんでしょ? アーティファクトによって滅びたかもしれないじゃない」


 人類には早すぎたのだ……、とミドリがつぶやく。

 確かに、魔法とかがなくなっている原因は気になってはいた。

 本当にアーティファクトによって滅びたのだとしたら、錬金術が関わっている可能性もなくない。

 便利だから使っちゃうけれど、危険性を理解しないまま使っているのは怖いことだよね。

 危険性を把握するためにも、


「その辺りの昔の歴史みたいのも調べた方がいいね」


「それがいいと思う」


 私のつぶやきにミドリも同意してくれた。

 なんか遺跡巡りみたいのするはめになるのかな? なんて漠然と想像しているけど、どうなんだろうね?

 街についたら情報収集かな。


 調べたら、実際大したことなかったとかならいいんだけどね。

 突然変異で人の魔力が減っていきましたとか?

 ……ないような気がするなぁ。



「あっ! そうそう! ハルに渡す物があったんだ!」


「うん? 何?」


「ちょっと待ってて」


 言うと、ミドリは自室に戻り、すぐにまた戻ってきた。

 両手で持っているそれは……


「リバーシだよっ!」


 私の言葉を遮るようにミドリが言った。


「リバーシ?」


 あれ? 私の知ってる名前と違う?

 裏表が黒と白の石を盤面に置いていくあれだよね?


「異世界モノではリバーシって言うんだよ!」


 あ、はい。なぜだか強い口調で言われてしまった。

 個人的には別の名前の方が覚えがあるけれど、そこまで主張するからにはそういうことにしておこう。


「でも、なんで持ってきたの?」


 ボードゲーム持ってくる意味がよくわからない。

 旅するのに必要なわけでもあるまいし。


「異世界ではね、娯楽がともかく不足しているの!」


 私の疑問に、胸を張って答えてくる。


「そんな時に、リバーシを開発すると凄い役立つんだよ!」


 ミドリが異世界でのリバーシ活用に関して熱弁してくれた。

 話を要約すると、


 異世界では娯楽がともかく少ない

 そのため、新しい娯楽というものが求めらている

 その点リバーシはルールが単純で且つ作りやすい


 そんな理由で、異世界ではリバーシを発明して娯楽無双するのがテンプレなのだという。

 ハルも異世界に行ったからにはやらないと先人に怒られるよ! とのこと。


 先人って誰だよって思わなくもないけれども、それを言い返せる熱量じゃなかった。

 そうして、ミドリからリバーシを押し付けられてしまった。

 まぁ、言いたいことは理解したし暇つぶしにはなるかな。

 向こうに持っていって道中とか暇な時にレアさんたちとやればいいかな。



「しかし、久々に見たね。これ」


 両親が生きていた頃に見た気がするけれど。

 この黒と白のコマはしばらく見た記憶がない。

 うん? あれ? 見たのってアプリでだったかな?

 うちの両親もデジタル畑の人だったし、非電動ゲームはあまりやった記憶がない。

 ちらっとカナを見るけれど、初めて見るような顔をしている。

 ひょっとして実物見たのこれが初めて?


「ひょっとしてわざわざ買ってきた?」


「そう! こんなこともあろうかと準備しておいた!」


 こんなこともあろうかと、って言葉なかなか使う機会ないよね。

 なんだろうね、このミドリのテンプレにかける情熱は。

 私ちょっと引き気味ですよ?


「お姉ちゃん。カナやってみたい!」


「私も! 久々にやってみたい!」


 カナの言葉にミドリも同意する。

 買うだけ買って箱すら開けていなかったらしい。


「いや、まぁ、いいけどね」


 ルール確認にもなるし。


「やった! じゃあ開けよう!」


 カナが早速箱からボードを取り出す。


「それじゃあ、順番でやっていこうか。最初はカナちゃんとハルね!」


 そしてなぜか紙を取り出して対戦表を作るミドリ。

 私はその様子を見ながら、とりあえず、必勝法でも調べるかなぁと携帯電話をいじるのであった。



 余談

 最終的に3人での勝者は私の元に転がり込んできた。

 一応必勝法調べたおかげにはなるのかな?

 すぐに実践できるようなものじゃなかったから、角置くの注意したくらいだけど。


 しかし、まぁ、自分たちでやっておきながら、随分とレベルの低い戦いだったなぁ。


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