第39話 ベル開放作戦
予想外の出来事はあったものの、明日には村から出るということで話がまとまった。
私はレアさんたちと別れて、アトリエに帰ることに。
ベルに色々と聞かなきゃいけないこともあるしね。
用意も色々としないといけない。
「ただいま」
「おかえりなさい」
帰るとそのベルがいつものように迎えてくれた。
確かこの部屋の中でなら動けるはずだけど、ベルはいつも同じ位置にいる気がする。
いや、それは今はいいや。
「ベル。こっちの人と知り合いになって、いろいろ聞いたらベルから聞いてた話を全然違うんだけど?」
私は、レアさんたちから聞いてきた情報を話す。
主に、魔法や錬金術というのが存在しないということ。
そして、錬金術で作ったものの価値に関してだ。
話が終えると、ベルは
「そうなんですね……」
と黙りきったまま喋らない。
どことなく混乱しているようにも見える。
いや、見た目変わらないからわからないけれど、きっと混乱しているんだと思う。
「マスターさん」
「うん?」
しばらく黙ったあと、ベルが口を開いた。
「まず、釈明をしますが。ワタシがマスターさんに嘘をついたということはありません」
「うん。それはわかってるよ」
嘘をついて騙す意味ないしね。
足りないことはちょくちょくあるけれども。
「ワタシがマスターさんに話したことは、ワタシの知識からのものになります」
うん? なんか、遠回りな気がするけれど、当たり前のことだよね?
知らないことは話せないでしょ。
「つまり、ワタシの知識が間違っていたことになります」
「うん。そうなんだろうね」
私としては別に責めているわけじゃなく、なんで違ったのかが気になるだけだ。
「そのことなんですが……」
私の質問に、ベルが何かを考えている声で話し出す。
「ワタシの知識は間違ってはいないのだと思います」
「うん? さっきと逆のこと言ってない?」
「失礼しました。正確には、間違っていなかった。ということです」
さっきとの言葉の違いは……
「過去形?」
「はい。つまり、ワタシの知識が過去のものだったということです」
なるほど。
「つまり、ベルが作られた時期には確かに、魔法も錬金術も一般的だったけど、時間が経って変わってしまったってこと?」
「はい。どのくらい経ったのかは正確にはわかりませんが、相当な時間が経っているものと思われます」
うーん、それだったら、知識間違っていたのもしょうがないけれども。
「でも、なんでそう思ったの? こう言っちゃなんだけど、間違った知識がベルに与えられた可能性もあるでしょ?」
ベルは基本的に森の外の知識はない。
そして、どうして今の状況になっているのかもわからないって言ってたはずだ。
「理由としては、マスターさんがおっしゃったアーティファクトという存在ですね」
「アーティファクトね。ポーションがアーティファクト扱いとかされてたし」
「まさに、それです。ポーションがアーティファクトということは、間違いなく錬金術があったということではないでしょうか?」
うん?
あー、なるほどね。
たしかに、レアさんは飲んだだけで回復するアーティファクトを聞いたことがあるって言ってた。
ってことは、それがあるってことだ。
それが錬金術で作れたものだとしたら、たしかに昔錬金術があった可能性は高いかもね。
「同じものだったとしたらだけどね」
実は全く違うものだったりするかもしれないし。
「はい、その可能性もありますが、アーティファクトと呼ばれるものが遺跡から出土するということは、過去にそういう文明があったということなので……」
なるほど、たしかに過去に今とは全く違う高度な文明があったということではあるかも。
そして、ベルの知識はその高度な文明の時代の知識であること。
うん。納得できた。
「まぁ、考えてみたら、ベルなんてまんまアーティファクトの塊みたいなものだもんね」
「確かに、前時代のものだとしたらそうなりますが、なんか複雑な気持ちですね……」
まぁ、古いってことだからね。
でも、強力な魔道具って意味もあるから。
とりあえず、知識の掛け違いの原因は想像がついた。
それに関して、私にできることは今はない。
結局のところ、レアさんたちについて行って自分で調査するしかなさそう。
これは、思っていたよりもカナの耳をなんとかするの時間かかりそうだね。
私が見えること以外、悪影響出ていないのが幸いだね。
「それにしても、外の世界がどうなっているのか気になりますね……」
私が悩んでいるとベルがつぶやくようにそう言った。
さっきも思ったけど、ベルってこの部屋から出れないんだよね。
そうそう、それも考えてたんだ。
「なんとか出てる方法ってないの? できればベルについてきてもらえると楽なんだけど……」
今日外で色々な人を見たけど、やっぱり当人同士の会話がわからないのは不便だと思った。
できれば情報収集するのに手伝ってくれる人がいると楽だと思う。
さすがにレアさんたちに頼り切りってわけにはいかないしね。
「ついていきたいのは山々なのですが、やっぱり不可能かと……」
ベルが移動して、扉の外に出ようとするがそこで止まってしまう。
なんとか出れる方法ないものかな……
そもそも、なんで出れないんだろ?
なんかが縛り付けてるとか?
まぁ、わかんないことは聞いてみよう。
「なんでベル、この部屋から出れないの?」
「わかりません」
そっか、わからないかぁ……
「いや、もっとなんか情報ないの? 魔法で縛られてるとかさ」
「そんな感じはしないですね……、少なくとも、ワタシはマスターさんから頂いた魔力だけで動いていますし」
他からの供給があるわけじゃないから、線でつながっているわけでもないとのこと。
「無理したら出れないかな?」
部屋から出ようとしているベルを押してみる。
が、やはり、壁があるかのように押せない。
ベルだけに反応する壁がある感じ?
「やっぱり駄目そうですね……」
物理的には無理か……
だったら物理じゃない手段だ。
「ベル、ちょっとじっとしててね」
「はい? えっ? 何するんですか?」
まぁまぁ、とベルをなだめて。
私はベルに触れる。
困ったときの魔法。困ったときの複製だ。
複製をベルに使う。
部屋の外にベルと全く同じ形のクリスタルが出来上がる。
動く気配はない。
最悪、引きずり戻されるのも想像していたけれど、物理的に引き戻されてるってことはなさそう。
で、問題は、意識の方だ。
結構多めに魔力をつけて、意識が複製の方に行くようにしたけど、どうだろう?
「ベル? 今どっちにいる?」
見た目で見ても全くわからない。
「こっちです! 出れました! 出れましたよ!」
外にある方のベルがくるくると回っている。
おー、出れたのか。
ってことは、部屋に結界みたいなやつが張ってあったみたいな感じなのかな?
ともかく、ベルはアトリエの部屋から出ることに成功した。
これで外に連れて行く目処が立ったぞ。
それにしても、ベルは随分とはしゃいでるね。
でも、机の上に乗るのは良くないと思うよ?
いや、浮いてるから接してないけれど、気分的にね。
はしゃいでいるベル。
しかし、
「でも、このままだと外には連れてけないよね……」
「……えっ?」
私の言葉にベルの動きが止まる。
「どういうことです!?」
驚異的な速さで私の前に戻ってくる。
早すぎて若干怖いよ。
「いや、だって、浮いているクリスタルとか、間違いなく目立つでしょ」
目立ちすぎるでしょ。
「確かに、聞いた話だと錬金術も魔法も廃れた世界……、そんな中にワタシが行ったら……」
「誘拐されて、研究所みたいなところで解体されるかもね?」
「それはまずいです!」
うん。私としても困る。
ベルの錬金術の知識は必要だ。
「マスターさん! なんとかしてください!」
いや、なんとかって言われてもねぇ……
「ベルこそなんか見た目変えられないの?」
人の形とかにでもなれれば目立たないと思うけれど。
「なれません! ワタシはこの姿です!」
「じゃあ、だめじゃん」
「そんな……せっかく、部屋から出れるようになったのに……」
さっきまでの喜びようが嘘のようにうなだれているベル。
なんか斜めになっているけど、うなだれているんだよね……
そんな様子を見ていたらかわいそうになってしまう。
うーん、なんとかならないかなぁ……
考えてみるけれど、いい案が浮かんでこない。
「こう、小型になるような薬とかないの?」
人の形にこだわらなければ小型化して、私のアクセサリーとして付いてきてもらうとかできそうだけど。
そういう薬ないものかな? 不思議の国のアリスみたいなやつ。
なんか、定番の一つだし、錬金術でなら作れそうな気がするんだけど。
「小型化のポーションはあるにはありますが……」
「……が?」
「素材の難易度が高いかと……」
地球にもそんな素材ないだろうしねぇ。
「もしくは、魔法で小型化の魔法を見つければ……」
「いや、だから、魔法がほとんど廃れちゃってる世界なんだって」
「そうでした!」
話しをしたけれど、やはり今の状態だとベルを連れて歩くのは難しそう。
見えることで困るとか私と逆だね。
「まぁ、私一人の時とかなら呼んであげられるからそれまで我慢してよ」
「絶対ですよ! 絶対ですからね!」
そんなに念を押さなくても約束するって。
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