第38話 魔法?

 とにもかくにもこの世界に慣れなきゃいけないということはよくわかった。

 ひいては、この2人にもう少し詳しく教えてもらいたい、というか、できれば色々と案内してほしい。


「ところで、お二人はこれからどうするのですか? この村には討伐のために来たんですよね?」


 詳しい話は忘れたけど、2人は冒険者で、この村には討伐のために来たって言ってたはず。

 つまり、別のところに戻る可能性が高いとみた。


「私たちは、本拠地にしている、ノルディックに帰る予定だが」


 ノルディック?

 また、新しい地名が出てきてしまったよ。


「ノルディックはここから馬車で5日ほど離れた街です。ジェレンダ王国の北部を代表する街ですね」


 カリナさんが付け加えてくれた。

 予想通り、大きな街に戻るらしい。

 それは好都合。


「私もそれについて行っていいですか?」


「えっ? 構わないが……、拠点としている場所が近くにあるのではないのか?」


 そういえば、昨日別れる時にそんなこと言ったね。


「それについては大丈夫です。簡単に戻れる方法がありますので」


「簡単に戻れる? とは?」


 どういうことです? とカリナさんが首を傾げる。

 そういえば、複製のことはカリナさんは全く知らないのか。

 レアさんもそこまでは頭が回っていない様子。


「それは、そういう魔法を使うからですよ。レアさんにはお見せしましたが、複製というやつです」


「魔法? アーティファクトではなく?」


「いえ、普通に私自身が使える魔法ですが……」


 あれ? おかしいな。

 転移魔法に驚くならわかるんだけど、なんか魔法自体に驚いている感じだ。

 この世界普通に魔法あるんじゃないの?


「いや、普通は魔法を使うことなどできない。アーティファクトを通して使うことになる」


 なんてこった。

 確かに魔法というものは存在するけれど、道具を通さないと使えない世界だったなんて。

 あれ? ということはつまり?


「魔法に関する情報などは?」


「アーティファクト持ちは簡単に情報など漏らさないだろうな。そういう記録もないだろう」


 ……これはまずいかも。

 私としては、カナの狐耳を治すのに、そういう治癒系の魔法を探すつもりでいたんだけど、最初から頓挫した状態だ。

 ベルが当たり前のように言うから、てっきりあるものだと思い込んでいた。

 大きな街にでも行って、魔法使いに話を聞くなりすればいいと思ってたのに。

 魔法使いどころか、使える人すらいないとは……


 うーん、でも、アーティファクトってのがあるってのはいい情報かな?

 それで目的の魔法を持ったものを探せばいいってことだし。

 うん。やることが、人から聞くからアーティファクトを探すってのになっただけだ。

 大丈夫大丈夫。まだやれる。


「ちなみに、そのアーティファクトっていうのはどうやって手に入れるんですか?」


 店売りとかだったらいいなぁなんて、理想を持って聞いてみたんだけど。

 ほら、私みたいに錬金術師がいてその人たちが作ってるとか……


「アーティファクトは、基本遺跡とかで偶然見つかるものですね。売られることもありますが、とても高いですし、すぐに売れてしまいます」


 ……お金。

 当然ない。


 そして、今私の中に浮かび上がってきた疑問。

 あれ? ひょっとして?


「お二方、錬金術というものに聞き覚えはありますか?」


 魔法が一般的でない世界……それもしかして……


「「聞いたことない(です)」」


 魔法も錬金術もないこんな世界なんて。

 これは、本格的に情報を集めるのが困難な予感がしてきたぞ?


 というか、なんか、ベルの知っている情報と現実とでだいぶ違いがある気がする。

 ベルが嘘をついているとは思わないんだけど。

 どういうことなんだろう?



 ひとまず、私の想定していた状況とまったく違うことがわかった。

 わかったから対策を立てなくてはいけない。

 でも、今日はもう無理だわ。明日から頑張ろう。

 ベルにも色々と相談しないといけないしね。

 今は二人について街に行くことを考えよう。

 この村もまだそんなに見ていないけれど、大きな街にいたほうがいい気がするし。


「大きな街、ノルディックって言いましたっけ? にはいつ出かけるんですか?」


「本当はすぐにでも戻りたいところではあるんだ。あの大きさのシャドウウルフが出たこと報告しなければならないしな」


 話を聞いた限りだと、結構な驚異だったみたいだし、早く知らせたほうがいいのはわかる。

 でも、言い方からすると、すぐには戻れないって感じ?


「あの大きさのシャドウウルフをそのまま運ぶ手段はないからな。解体に時間がかかるだろうと思われる」


 なるほど、たしかに、馬車には乗らないだろうね。

 トラックがあるわけでもないし。担いでいくわけにはいかない。


「今、村の人に解体をお願いしている。幸いにも、ウルフの解体ができる人がいたからな」


 シャドウウルフはウルフと同じで解体できるらしい。

 そして、ウルフの解体は割と容易らしく、村に引退した冒険者がいたので名乗り出てくれたとのことだった。

 それでも、あと今日一日くらいはかかるだろうとのこと。


「ということは、早ければ明日に出発ってことですか?」


「ああ、一応早馬を走らせて報告はしているが、実物があるのとないのじゃ大違いだからな」


 本当は大きさを示すためにもそのまま持っていきたいところではあるが……と漏らす。

 解体してどういう量になるかわからないけれど、肉を見ただけじゃ正確な大きさはわからないかもね。


「一応魔石もあるので、納得してくれるとは思うが。ああ、魔石はハル殿へのお礼というのは忘れていないから安心してくれ」


 あー、そんなことも言ったっけ?

 確かに、素材は多いほうがいいから珍しいなら欲しいけれど。


「ちなみに、あの大きさの魔石なら売れば相当な額になるはずだ」


「相当な額? どのくらい?」


「うむ、属性などにもよるが、金貨1000枚を下回ることはないだろうな」


 金貨1000枚……価値がわからない。

 金の相場って毎日に変わってたくらいの知識しかない。

 聞いてみると、カリナさんが答えてくれた。


「だいたい、パン1つで大銅貨1枚になるわね」


 大銅貨10枚で1銀貨。

 銀貨10枚で1金貨らしい。


 大銅貨の下が、中、小の銅貨と続くらしい。

 金貨の上は、白、黒となるらしい。

 10進法だとわかりやすいね。


 それで、パン1つで1大銅貨って言ったっけ?

 日本円にすると、パン屋さんのパン1つで100円から200円くらい? として……

 その100倍ってことは、金貨1枚1万円くらい?


 てことは金貨1000枚って……


「1千万円!?」


 魔石一つで1千万!?


「そんな高いの!?」


「ああ、あの大きさと強さの魔物の魔石だしな。売るところで売ればその10倍でもおかしくない」


 10倍……1億……

 もう想像もできない金額だ。


「やっぱりそんなのもらえないよ」


 まさかそんな価値のものとは思ってなかったから日和ってしまう。

 貧乏人の性だね。


「二人だってお金必要でしょ?」


「いや、気にしないでくれ。残りの素材でも十分稼げるのでな」


 革とか爪とか。いくらでも売れるものがあるらしい。


「そうね、命まで救ってもらっちゃったわけだし、それに、アーティファクトまで使って回復してもらっちゃったわけだし……」


 それくらいしないと割にあわないとのこと。

 アーティファクトを使って回復? それってまさかあのヒーリングポーションのこと?

 えっ?


「あの……、ちなみに、飲んだら回復する液体なんかは流通してなかったり?」


「あるわけがないだろう。薬草などを傷に塗ったりするが、飲んだだけで回復するなど、アーティファクトでならば聞いたことがあるが……」


 なんてこった。飲んだだけで治るわけがないって、それ私と同じ感覚だよ。

 魔法世界だから当たり前にあるものだと思ってたのに。

 あれ、複製でいくらでも増やせるし、元はその薬草と水だから、ほんと価値がないと思うんだけど……


 ちなみに、興味本位であれに値段をつけるとするとどのくらいかを聞いてみた。

 どのくらいの傷まで治せるかにもよるけれども、金貨10枚は下回らないとのこと。

 10万……

 水に薬草を入れただけのもので10万……

 この世界の相場どうなっているのさ……


 なんか、気をつけないと金銭感覚おかしくなりそうだね。

 とりあえず、錬金術って存在がこの世界でも異端なんだってことがよくわかったよ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る