第37話 この世界について

「どうも、初めまして私はカリナと申します」


 カリナさんが意識を取り戻すまで5分ほどかかった。

 そして、カリナさんは何事もなかったかのように自己紹介をする。


「レア共々、助けていただいたようで誠にありがとうございました」


 立ち上がって頭を下げられてしまった。


「いえいえ、たまたま通りかかっただけでしたので」


 表情も真顔で言葉尻も凄く丁寧。

 でも、足震えてるんだよなぁ……

 よほど、幽霊が苦手らしい。

 まぁ、でも、気にしないでくれってことだと思うので、あえてそこを突っつくことはしない。

 でも、少しでも軽減させた方が話しやすいかもね。


「ひとまず、このままでは話しづらいと思いますので、こちらを飲んでいただけますか?」


「これは?」


 私は魔力付与ポーションを複製して取り出す。

 レアさんがまず、それを手にとった。


「私のことが見えるようになる薬です。危ないものではないですよ」


「ハル殿が見えるようになる薬!? そんなものあるのか!?」


 続いてカリナさんの前にも置く。


「カリナさんもどうぞ」


「あ、はい。ありがとうございます。あの……」


 カリナさんは持ってくれたものの、なんだか不安げだ。

 信用できないとか?


「はい?」


「ハルさん……でしたよね……? これでおかしなものがいっぱい見えるようになったりはしませんか?」


 見れば手が震えている。

 ほんとこの人幽霊駄目なんだなぁ……


「今の所は私以外の幽霊は見ていないですね。そもそも、いるのかもわからないです」


 言ってからカナに取り憑いていた悪霊がいたなぁと思い返す。

 ……こっちの世界では見ていないから間違いじゃないよね。

 安心した様子のカリナさんを見ると、これ以上言えないしね。


 二人は、同時にポーションを口にし、


「「!?」」


 途端に目を見開く。

 何?


「見えてないですか?」


 聞いてみるが、首を振られる。

 そして、ポーションのビンを置いて私の方をまじまじと見る。


「ハル殿……」


「はい?」


「随分と若かったのだな……」


 いや、そんなに変わらなくない?

 レアさんたちだって、見た感じ20前でしょ?

 たぶん、3,4個くらいしか変わらないじゃん。


「こんな幼い子に戦闘を手伝ってもらったなんて……」


 カリナさんも続けて言う。

 うん? 若いと幼いだと言葉の印象違くない?

 というか、二人共勘違いしていない?


「私は15歳ですけど」


「「えっ!?」」


 大変驚かれたよ。

 日本人って海外だと幼く見られがちって聞いたことがあるからそういうことだよねきっと。

 うん。決して私の見た目が幼いわけじゃない。



 聞いたところ、この世界では15歳で成人なのだそうだ。

 いくつに見えたかは私の精神衛生上の問題で聞かないことにした。

 ついでに、レアさんとカリナさんはそれぞれ、18と19歳らしい。

 カリナさんの方がお姉さんなのね。


 とりあえず、2人とも私のことが見えるようになったようなので、話を進めることにした。

 具体的にはこの世界についてのこと。


「この世界の記憶がないことは話したと思うのですが、色々と聞いてもいいですか?」


「ああ、もちろんだ。なんでも聞いてくれ」


 聞きたいことは色々とあるけれども、何から聞いたものか……

 ここは定番のことから始めるとしようかな。


「まず、ここはどこなんでしょうか? ワイス村という地名は聞きましたが聞き覚えがなく」


 ここはどこ、私は誰? という感じね。

 私は誰かはわかっているから、ここは場所の把握から始める。


「ワイス村はジェレンダ王国の最北端に位置する村だな」


 ジェレンダ王国……、王国なんだね。

 ってことは王様とかいるのかな? まぁ、関わることはないだろうけども。


「付け加えると、王国北部にある魔の森に接している村という点で有名ですね。シャドウウルフが出た森が、魔の森です」


「魔の森ですか……」


「そう、強い魔物が沢山いる森で、人は滅多に入らない。それが魔の森」


 私のアトリエはそんなところにあったのか……

 というか、神様、私をそんな危ないところに落としたの?

 嫌がらせじゃない?

 もっとたかっておくべきだったかな。

 おっと、今は話を続けなきゃ。


「ジェレンダ王国というのも聞き覚えがないですね。地図とかあったりしませんか?」


「あるぞ、ちょっと待ってくれ、と、ほら。これだ」


「ありがとうございます」


 レアさんが紙を広げる。

 私の想像する紙と違ってなんか色がついてる。

 アニメとかで見る宝の地図がこんな感じだったかな。


 地図を見てみると、横に広い感じの菱形に似た感じの地図だった。

 所々に文字が書いてあるのが地名かな?

 なんか下意外の菱形の外が斜線になっているけどなんなんだろ?

 孤島だったりするのかな?


「このあたりがワイス村だな」


 レアさんが上の方を指さす。

 ちょうど菱形の上の出っ張りのあたりだ。

 なるほど、最北端ね。

 あれ? でも、


「魔の森は地図には書かれていないんですか?」


 地図には魔の森の部分が抜けている。


「ああ、そのことか」


 レアさんが菱形の上の斜線を指さす。


「だいたい、この辺りが魔の森と言われている」


 レアさんの指が北の方の斜線を丸く描いた。

 縮尺がないから、いまいち大きさがわからないけれども、王国の大きさからすると結構な範囲だ。


「言われているってことは正確にはわかっていないってことですか?」


「ああ、先ほども言った通り、魔の森には強い魔物が出るのでな。今では調査を諦められているんだ」


 未開の地ってことね。

 ということは?


「魔の森の外は何があるかわかっていないんですか?」


「その通りだ」


 そんなことあるんだ……

 ということはまさか?


「この地図の斜線の範囲すべて未開ってことですか?」


「正確にはすべてではないが、概ねその認識で正しい」


 なんてこった。


 聞けば、北には魔の森。

 東には大きな山脈。

 西には砂漠。

 どこも強い魔物が出るらしい。

 そして、南には海。

 こちらも、ある程度の範囲までは大丈夫らしいのだが、遠くに行くと強い魔物に襲われるらしい。

 クラーケンとか、リヴァイアサンとか聞いただけでも強そうな名前がいっぱい出てきた。


「つまり、この菱形の範囲がジェレンダ王国の領土で……、それ以外は人が生きていけない場所ってことですか?」


「その通りだ!」


 自信満々にうなづくレアさん。

 カリナさんもうなづいている。


 あー、なんだか、すごい場所に来てしまったんだなぁ、というのが今更湧いてきたよ。

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