第36話 異世界の村

 次の日、朝から地球に帰った私は、ミドリに第一異世界人に会ったことを話していた。


「女騎士とオーク!? そんなR指定漫画みたいな!」


 ミドリが何を言っているかわからないけれど、なぜか組み合わせに感じるところがあったらしい。


「それで、その女騎士さん、レアさんを助けて一緒に狼退治をしたわけ」


 その後のことも説明をする。

 総評すると。


「とりあえず、いい人に出会えたかな?」


「だね。冒険者ってことは色々な知識があるはずだし、きっと魔法とかにも詳しいはず!」


 ミドリから異世界の冒険者についての講習が続いた。

 女の子が冒険者ギルドに入ったら馬鹿にされるのがテンプレらしい。

 なるほど? でも、私は普通の人には見えないからそういうこともないだろうね。



 そんな感じで地球の時間を過ごした私は、異世界に戻り、昨日来た村へと向かうことにした。

 複製の魔法を使って移動時間を省略したい。

 地球に複製できるんだから、できるはずよね?


 私は、昨日見つけた村をイメージする。

 そういえば、外観しか見てなかったけど、それで問題ないでしょう。

 複製を使ってみる。

 もはや慣れた意識が飛ぶ感覚の後に、私は森の出口に立っていた。

 遠くにはイメージした通りの村が見える。


「よし、これで移動時間の節約とかできるね」


 物を増やすだけじゃなく、移動にも使えるとかほんと便利ね。



 私は、見える村に近寄ってみる。

 ワイス村だったけ?

 住民100人程度って言ってたからそんなに大きな村ではないはずだけど。


 村は低めの柵で囲まれているような感じだった。

 入り口と思わしき場所には一人の男の人が立っていた。

 門番か何かかな? 随分眠そうにしている。

 普通は知らない人は通さないとかなんだろうね。

 まぁ、私には関係ないね。

 素通りして村の中に入った。

 幽霊に対してはセキュリティなんてあったもんじゃないね。


 村の中は木で作られたような家がいっぱい立っているような感じだった。

 その中を私は歩く。

 時折すれ違う人もいるけれど、どの人も眠そうにしているね。

 さてさて、レアさんはどこかな?

 こんなことなら待ち合わせ場所とか決めておくんだったね。

 まぁ、冒険者って言ってたから、どこかに泊まっているんだろうと思うんだけど。

 こんな村に宿みたいのあるのかな?

 どっかで井戸端会議でもしてれば話は早いんだけど……


 井戸……あるかな?

 ありそうなのは……想像だけど、村の中心とか?

 なんかそういうイメージだよね。

 とりあえず、真ん中らへんに向かってみようかな。


 門をくぐってまっすぐ歩くと、本当に井戸があった。

 ちょうどよく井戸端会議をしている人たちがいた。


「~~~~~~~~~~」


「~~~~~~~~~~」


 しかも、なんか見たことある人がいるなぁと思ったらレアさんだった。

 レアさんとお仲間さんと、見たことない人が一人。村の人とかかな?


 しかし、会話の内容が全くわからない。

 今更だけど、これ結構不便だね。

 レアさんとだけ会話するのなら、いいけれど、みんなに念話の魔石渡すわけにもいかないしね。

 今後活動していくなら、こっちの言葉覚えていくなりしていく必要ありそう。

 でも、覚えるまで大変だなぁ……

 なんかいい案考えないと。


 うーん、しかし話が長い。

 流石にここで話しかけるわけにはいかないよね。

 とりあえず、一人になるのを待とうかな。

 せめて、村の人と別れるまで待ちたい。

 レアさんのお仲間は、事情が事情だけにバレててもしょうがないかなぁって気がしてる。

 普通に考えたら、逃したはずの仲間が戻ってきて一人で倒しましたっておかしいよね。

 その辺り、レアさんはどうしたかな?


 見ていると、やっとレアさんが村人と別れて歩き出す。

 と、思ったらまた別の人に話しかけられている。


「~~~~~~~~~~」


 さっきもそうだけど、なんか感謝されてるような感じ?

 対応をして、歩きだし、また話しかける。


 なんかすっごい感謝されてるね。雰囲気から察すると、なんか村の英雄扱いを受けてるみたい。

 その度、なんか微妙な顔をしているレアさん。

 まぁ、察するに、私のおかげだから、自分が英雄扱いされるのは納得いかない的な?

 でも私のこと言えないから微妙な感じになってるみたい。


 レアさんのおかげでもあるから、胸を張っていいと思うんだけどね。

 そもそも、私一人だったらあの狼とか放置してたし。


 そして、一緒に歩いているお仲間さんも、なんか微妙な顔してるし。

 こっちの人は話したこともないから、わからないなぁ。

 名前……カリナさんだったけ?

 大きな盾を持って、鎧も着込んでる。

 女の人なのに、よくあんなに重そうで歩けるね。


 二人は感謝されつつも、歩きやがてひとつの建物に入っていく。

 見たことのない文字だけど、なんかのお店かな?

 一緒に入ってみると、カウンターにテーブル。

 そして食事を食べている人。

 ごはん屋さんかな? 食事を取りに来た感じ?


「~~~~~~~~~~」


「~~~~~~~~~~」


 レアさんはカウンターの中の人と何かを会話すると、テーブルに座るでもなく、奥にある階段へと向かっていった。

 あれ? 食事じゃないの?

 ついていくと、レアさんとカリナさんは一つの部屋に入る。


 部屋の中はベッドが2つ。

 あー、なるほど宿屋かな? ご飯屋と宿屋を同時にやってる的な。

 ファンタジーにもよくあるスタイルのやつだね。


 レアさんとお仲間さんはそれぞれ、ベッドに座り込むと何やら話を始めた。

 うん。この感じだと、レアさんが一人になることはなさそうかなぁ。

 と、なると話しかけるのは今かな。


「レアさん。聞こえますか?」


 私の声にレアさんがビクッとした。


「~~~~~~~~~~?」


 その様子にカリナさんが不思議そうな? 疑わしいような目線を向けて何か言っている。


「~~~~~~~~~~!」


 それを慌てて否定しようとするレアさん。

 一人で部屋から出ようとする。が、カリナさんに腕を掴まれて止められてしまった。


 あー、私が来たことに気がついてどうにか一人になろうとしたけど、止められたやつだね。

 この感じからすると、レアさんは私のことをカリナさんに話しておらず、疑われているような感じかな?


「~~~~~~~~~~!」


 レアさんはなんとか抜け出そうともがいているけれど、抜け出せる感じじゃない。

 これはもう、しょうがないよね。


「レアさん、察するに私のこと話せないで困っている感じですか?」


 私の言葉にレアさんは首を縦に振っている。

 そして、それを見たカリナさんにまたなんか追求されている。

 こりゃ駄目だ。


「レアさんが大丈夫って思うのなら、私のこと話してくれて大丈夫ですよ。念話の魔石も使って大丈夫です」


 レアさんは少し迷った様子だったが、ポケットから念話の魔石を取り出して、何やら一言カリナさんに言う。

 そして、魔石を握りしめた。


「カリナならば大丈夫だとは思うが、本当にいいのか?」


 念話が伝わってきた。


「いいですよ。どうせ、二人には色々とお世話になるつもりですし」


 元々レアさんには色々と他のつもりだったし、二人がパーティを組んでいるなら、話を通しておいた方がいい。


「すまない」


 そう言って、レアさんはカリナさんに何事か話し始める。

 その言葉を聞いたカリナさんは、周りを見回し始めた。


「ハル殿、この魔石をカリナに渡してしまって大丈夫か?」


「いいですよ。あ、そういうことなら、これをどうぞ」


 私は、自分の念話の魔石を複製した。

 あえて、少し高めの位置に複製して、ポスっと魔石がベッドに落ちる。


「~~~~~~~~~~!?」


 カリナさんが驚いているが、レアさんは魔石を手に取り、それをカリナさんに渡した。

 そして、何事か言うとカリナさんが、魔石を握りしめた。


「あ、あの? こ、これでいいのでしょうか?」


 これがカリナさんの声かな?

 なんか、微妙に声がこわばってる感じ?

 おっと、返事しなくちゃ。


「はい。聞こえてますよ。カリナさんでしたよね? はじめまして。ハルです。幽霊をしています」


「ふぁぁ……」


 ふぁぁ?

 どういう返事? 念話の魔石がバグった?

 不思議に思ってカリナさんの方を見ると、


「うん?」


 カリナさんの黒目だけがあらぬ方向を向いていて、口もポカーンと開けていた。

 これはひょっとして?


「気絶してる?」


「だな……、申し訳ないのだが、カリナは幽霊とかアンデッドといった類のものが苦手なのだ」


 あー、そういうこと。

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