第35話 村発見

 レアさんがお仲間さんを背負って森の中を歩いていく。

 私はそれについていく。


 方向としては、ちょうどレアさんと遭遇したあたりのほうかな。

 あ、そりゃ、レアさんは村に助けを求めに行ってたのか、同じになるはずね。


 その間に村の事を聞いておいた。

 村の名前は、ワイス村。この森の直ぐ側にある村だそうだ。

 それほど大きな村ではないらしく、住民は100人ほどらしい。

 なんでも、あの狼が森で目撃されて、危ないということで、冒険者ギルドに助けを求めたとのことらしい。

 それで、それを討伐にレアさんとお仲間さんがやってきたとのことだ。


「つまり、レアさんは冒険者ということですか?」


「ああ、私とカリナは北方を拠点に冒険者をしている」


 なるほど、冒険者。

 冒険者というのは、ミドリが言っていた異世界ファンタジー小説の定番にも出てきていた。

 主に魔物を狩ったり、素材の採集などをしたりして生計を立てている人たちのことだ。

 一応確認してみるけど、おおよそその認識でズレはなさそうだった。


「二人であの狼を倒しに来たんですか?」


 無謀では?


「いや、普通のシャドウウルフは確かに驚異ではあるが、あそこまでのものではない。流石にウルフよりは強いがな」


 あ、そうなんだ。

 てっきりシャドウウルフって魔物がああいう感じの魔物なのかと思ってた。


「普通のシャドウウルフならば二人で倒せるはずだったのだ」


 そういえば、ベルも変異種云々言ってたね。

 ウルフの変異種って意味もだけど、シャドウウルフの変異種って意味でもあったのかな?


「それにしても、まさかあれ程の魔物とは思わなかったな。ハル殿がいなければ死んでいたところだった」


 うん。まぁ、死んでただろうね。

 お仲間さんはシャドウウルフに、レアさんはオークに。

 どっちも危機一髪の瞬間だったんだね。


「まぁ、お礼は後でもらうから。今も案内してもらっているしね」


「そんなことで返せるとは思えないんだが……、まぁ、なんでも言ってくれ」


 真面目な人っぽいし、ちゃんと返さないと落ち着かない人なんだろうね。

 まぁ、冒険者ってことは例えば私が錬金術するのに必要な素材集めてもらったりできるかな?

 そう考えるとここで縁を作れたのは私的にもよかったかも。

 こっちの世界で初めてあった人ではあるけれど、なんとなく、長い付き合いになりそうな気がする。

 なったらいいね。



 そこから、またしばらく歩いた。

 ちなみに、目印代わりにしていた聖属性の魔石は複製を解いておいた。

 あの効果の物を誰かが拾ったりしたら危ないかもだしね。

 まぁ、誰かが拾ってたとしても、複製を解けば消えるんだけど。


「村はまだなの?」


 ひとまず、話を逸らすために振ってみる。


「そろそろ、森を抜けるはずで……、あ、ほら見えたぞ」


 レアさんが指差す方向の遠く、森が途切れていた。

 おお、木がない場所ってのも久しぶりにみたね。

 アトリエの周り以来だね。


 そして、ついに私は森の外までたどり着いた。

 長かったね。この世界に降り立ってから、結構な日数がかかってるよ。


「あれが、ワイス村だ」


 レアさんが指差す方向に家っぽいものが見える。

 うん。ファンタジーでよく見るようなやつだね。

 西洋風の昔の住居。


 レアさんが村に向かって歩き出す。


「あ、レアさん、ちょっと待って」


「うん?」


「流石に、シャドウウルフを出すところはあんまり見られたくないので」


 びっくりさせるだろうしね。それに、変な誤解与えたくないし。


「ああ、そういうことか。わかった」


 レアさんは、森の中に戻ってくる。


「とりあえず、ここに出しますね」


 森の外から見えない程度に隠れた場所にシャドウウルフの死体を出す。


「おおっ! 急に出てきたぞ!」


「まぁ、そういう能力ですので。この辺りなら、運びやすいし他の魔物の心配もないんじゃないですか?」


「そうだな。ここなら村までひとっ走りして、すぐに戻ってこれると思う」


 よし、とりあえず、私の仕事はこれで終わりかな。


「それじゃあ、そうしましょうか。あ、私は面倒なことにならないようにここで別れるつもりでいますけど」


 それでいいですよね? と聞くと、レアさんが慌てた。


「いやいや、紹介はできないが、村にいてくれて大丈夫だぞ?」


 うーん、村が気になるっちゃ気になるけど、私も疲れたしなぁ。

 どうせだったら、後でレアさんに案内してもらったほうが効率いいし。

 それだったら落ち着いてからでいいと思う。


「大丈夫です。森の中に拠点にしてた場所があるので。そっちのが落ち着きます」


「うーん、しかしだなぁ……」


「それに、私自身、知らない人たちの中にいるのは疲れますし」


 見えないし、話しかけるわけにもいかない。

 実は人間観察とか嫌いじゃないけどね。

 ひとまず、今はそういうことにしておこうか。


「あー、私も相手はできないだろうが……」


 渋々とレアさんは納得してくれた。


「明日また戻ってきますので。そういう感じでお願いします」


「ああ、わかった。なるべく一人でいるようにするので話しかけてくれ」


 頑張って驚かせないようにしよう。


「それではまた明日」


 挨拶をした私は、複製の魔法を解く。

 一瞬途切れた視界。




 開いた視界の先にベルが見えた。


「おかえりなさい。マスターさん」


「ただいま。ベル」


 無事にアトリエに戻ってこれた。

 うん。複製移動は便利だね。

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