第33話 リベンジ
「仲間がいらっしゃるので?」
周りを見回してみても気配はないけど。
「ああ! 大きなシャドウウルフと戦っていてな……私だけ逃されたんだ!」
助けを呼んでこいと言われたらしい。
なるほど……それで一人だったわけね。
それで傷ついているところにオークと遭遇してピンチとそういうわけね。
って大きなウルフ? なんか覚えがあるね。
「それってもしかして、黒くて普通のウルフの数倍くらい大きいやつ?」
「あ、ああ。あんな巨大なシャドウウルフは初めて見た……」
どう考えても私がこっちに降り立った時に見たやつだね。あれが複数いるとは思いたくないし。
どうやら、あの黒いウルフはシャドウウルフというらしい。
「こうしちゃいられない! 助けをっ!」
女騎士さんが走り出そうとして、止まる。
下を向いて何やら葛藤しているような感じだ。
うーん、この流れは予測できるぞ?
うん。でも、まぁ、しょうがないか。
「すまない! ハル殿と言ったか! 命の恩人に申し訳ないのだが!」
予想したとおり、女騎士さんは振り返り私に声をかけてくる。
「私の仲間を助けてくれないだろうか!」
女騎士さんは頭を下げてくる。きれいなお辞儀だね。
うん。予測どおりだね。その答えももう出てる。
「いいですよ」
私の言葉に女騎士さんは驚いたように顔を上げる。
「いい……のか? 危険なんだぞ?」
うん。まぁ、危険だろうね。
でも……
「あのウルフには私も思うところがありましてね」
やられっぱなしは性に合わない。倍返しだ。
「すまない……恩に着る」
女騎士さんはもう一度頭を下げる。
「私の名前はレア。ハル殿。このお礼は必ずする」
女騎士、改めレアさんは頭を上げて言った。
お礼というにはちょっと気が早い気がする。
まだ、私もあれに勝てるかわかっていないしね。
まぁ、精一杯頑張ろう。一応作戦は立てておこうかね。
女騎士さんの後ろを追いかけて走る。
この人結構早いね。
私も普通だったら絶対追いつけていない。
木をすり抜けられるからギリギリなんとかついていけている状態だ。
「いたぞっ! あそこだっ!」
レアさんが前を指差す。
そこには、今にも爪を振り下ろそうとしている、前にもみたでっかい黒狼と、爪の先に倒れている女の人。
ってさっきも似たようなことあったけど、まずいでしょ!?
「~~~~~~!!!」
レアさんが悲鳴を上げた。
そのときには私はもう動いていた。
指輪からライターを取り出してすぐにトリガーを押す。
大きな蜂を退治したときに使った特性のライターだ。
ライターの先から火がビームのように飛んでいく。
あたったら終わりの超高火力ビームだ。
しかし、当たった。と思ったのもつかの間、急に狼がジャンプをした。
避けた!?
超高火力ビームが地面を貫く。
狼は距離を取るように後ろへと降り立つ。
「ぐぅぅうううううううううう!」
そして、私をにらみつつ唸る。
わかってたけど、私を完全に認識しているね。
にらみ合う私と狼。
その隙きを見て、レアさんが倒れている女の人を私の元へと運んできた。
「……大丈夫だ」
どうやらまだ生きているらしい。
回復させて上げたいけれど、先にあの狼をなんとかするほうがいいかもね。
しかし、やっぱり早い敵は相手するのが大変だね。
しかし、今のを避けられたのは完全に予想外だ。
光の速度……とまでは行かないけれど、銃の弾丸くらいの速度はあったはずなのに。
でも、次の作戦は立ててある。
「レアさん、作戦通りにお願いしますね」
「ああ! 任せろ!」
私の言葉にレアさんが狼に向かって走りだす。
その手には折れた剣。
事前に立てた作戦、レアさんには揺動役をやってもらうことにした。
その隙きを見て私が聖属性のナイフを投げていくという作戦。
危険な役目だけど、レアさんは倒せるのならということで一も二もなく受けてくれた。
レアさんが狼の横に行くように走る。
狼は視線でレアさんをおいかける。
「当たらないだろうけどっ!」
私は左手に持ったナイフを一本右手に持ち直し投げる。
やはり、狼はそのナイフを躱してしまう。
もう一度ナイフを投げるけれど、避けられる。
うーん、ナイフを落とすように攻撃してくれるなら楽だったんだけど。
あのナイフの効果わかってるみたいな動きだ。
目線はレアさんを追いつつ、気配だけでナイフを躱している感じ。
しかし、レアさんが狼の背後を取る。
ちょうど挟み込むような形になった。
狼はチラチラとレアさんの方を見つつ、しかし、警戒は明らかに私の方に向けていた。
どうやらこのナイフをよほど驚異と思っているみたいだ。
込められている魔力を感じてるとかかもね。
それにしても随分知性があるみたいだね。
私の方には全然近寄ってこないし。
あの避ける速さとこの警戒をかいくぐってナイフを当てられるかな?
……無理だろうなぁ。
左手に残っているナイフは残り2本。
狼としてはそれを避けてから反撃に出るって感じかね。
当然、複製で増やせるから数なんて限りはないけどね。
でも、そんなの教える必要はないよ。教える手段もないけどね。
攻撃手段っていうのは大きなアドバンテージだ。
「そろそろ仕掛けるよ」
反対へと回り込んだレアさんが攻撃を仕掛ける。
折れた剣ではあるけれど、元々が長い剣のようで、その攻撃力は残っている。
狼がサイドステップするように避ける。
その隙きを見て私も投げる。
我ながら着地点を予測して当てるような完璧な狙いだった。
が、それも狼はひょいっと躱してしまう。
半身を避けるような感じだ。
そして、狼はレアさんに攻撃に出る。
「ぬぅっ!?」
飛びかかるようにレアさんに爪を振るう。
大きな腕と爪がレアさんに迫る。
けど、
「今っ!」
レアさんがその腕めがけて、聖属性のナイフを振るう。
これが作戦その1。
レアさんには事前に聖属性のナイフを渡しておいた。
それを隙を見て使ってもらうという作戦だ。
狼の攻撃のタイミング。
完全に入った、と思った。
が、レアさんのナイフを視認した狼は後ろ足に力を入れて、ジャンプをした。
「グオオォオオオッ」
同時に狼が吠えた。
その瞬間、風に弾かれるように聖属性のナイフが飛んでいってしまう。
レアさんがその勢いに負けて後ろに倒れ込んだ。
多分、魔法を使ったのだと思う。
しかし、狼の腕は宙を切る。
急にジャンプしたことで腕を止めきれなかったような感じだ。
そのせいで宙に浮いている狼の姿勢が崩れている。
今だっ!
私はその狼に向かって最後の一本を複製して投げる。
ナイフは狼に向かって飛んでいき……
狼が身体を捻ってそのナイフを躱した。
避けられた!?
というよりも、私のナイフ投擲技術の問題だ。
やっぱり素人が無理して戦闘なんかするもんじゃないね。
私は続けてナイフを複製して構えた。
狼の目がナイフをロックオンしている。
ナイフが増えたことを理解して、警戒度合いが上がったようだ。
そして、私の方を見たまま狼が着地をする。
「私の方ばっかり見てていいの?」
作戦の肝は見せた。
レアさんに聖属性のナイフを持たせたこと、そして、複製で聖属性のナイフが増えること。
「これで終りね」
着地した狼にレアさんがナイフを刺していた。
レアさんに渡したナイフは一本ではない。
一本目は先程飛ばされてしまったけれど、二本目のナイフはまだ残っている。
刺せば勝利の必殺のナイフ、別に刺すのが私である必要はない。
「グオオォオオオッ!?」
狼の巨体が断末魔を上げて倒れる。
ドスンという大きな音と振動が響いた。
「はぁ……」
私は上を見上げて息をついた。
あー、流石に疲れたわ。
いや、まぁ、ナイフを遠くから投げてるだけだったけど、こう精神的にね。
私の疲労はきっとレアさんほどじゃないだろう。
レアさんは目の前のことが信じられないように倒れた狼の巨体とナイフを見ている。
一応事前にナイフのことは説明しておいたけど、実際にその効果を目の当たりにして戸惑っている感じだ。
「レアさん? 終わりましたよ」
いつまでもその様子を見ているわけにもいかないので、声をかける。
「あ、ああ。すまない」
レアさんは私の声に我を取り戻したようだ。
「ありがとう、感謝する。おかげでこいつを倒すことができた。仲間も助けられた」
レアさんが頭を下げる。
うん。感謝は伝わったよ。
でも、残念ながら頭を下げる方向完全に逆だったりするんだよ。
伝わったからいいけどね。
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