第32話 第一異世界人発見
さぁ、森の外に出ると決めたわけだけど、どっちがいけばいいんだろう?
ないとは思うけど、森しかない世界……みたいな可能性もなくはないわけだし。
いや、ないとは思うけどね。
でも、どっちの方向に行くかは既に決めていた。
前に魔力の花を見つけた場所と反対方向。
魔力の花があったところは、魔素が強いところって話だし、きっと強い魔物も多いはず。
人里があるとすれば、そういうところからは離れているよね。
なので、前とは正反対に向かって歩いていくつもり。
定期的に目印を置きつつ進んでいく。
それにしても、代わり映えしない森だなぁ。
魔力の花あったような開けた場所も見当たらないし。
ほんとに木ばっかり。
魔物も全然見当たらない。
たまに見つける薬草を採取していくくらいしかやることがない。
代わり映えしない中をただ歩くだけって退屈だね。
魔力制御の訓練でもしながら歩こうかな。
久々に魔石で光をつけたり消したりしながら歩いていく。
半日くらい歩き目印はざっと50個くらいは来たかな? というところで今日の探索は終わり。
複製の魔法を解く。
一瞬途切れた視界。
開いた視界の先にベルが見えた。
「おかえりなさい。マスターさん」
「ただいま。ベル」
無事にアトリエに戻ってこれた。
うん。複製移動は便利だね。
複製スキルを使っての移動が予想通り便利なのがわかったので、安心して探索を続ける。
そんな感じで代わり映えもしない道を歩き飽きたら戻るような日々を2日程。
「これで50個目っと」
定期的においている魔石を50個置いてそろそろ帰ろうかななんて思い、着た道を振り返ってみる。
多分こっち……だよね。
探索用に目印は置いてるけど、探知を使わないと方角もわからないや。
まぁ、複製解けばすぐ帰れるから目印の意味もあんまりないかもだけど。
なんとなく方向が気になってしまったので探知スキルを使ってみる。
すると、思っていた方向に目印が見えた。
うん。あってたみたい。なんとなく嬉しい。
気分がよくなって今度こそ帰ろうかなんて思ったその時。
視界の端で何かが動いた気がした。
そちらの方向をよく見てみる。
反応的には魔物……かな?
うーん、ウルフにしては大きい……
うーん? 人の影に見えるけど、でっかいしバランスおかしい?
あと、それとは別になんか座っているっぽい反応も見える?
こっちは1つ目の方とは違ってフォルム的に人みたい?
あれ? もしかして、普通の人間も魔物と同じ反応だったりするのかな?
だとすると、でっかい方は魔物で小さい方は人だったりするのかも?
で、小さい人っぽい人は座り込んでいる……
ひょっとしてピンチだったりする?
慌てて私は走りだした。
違ったら逃げればいいだけだし、流石に本当に人だったら助けた方が良さそう。
目視できるまで来る。
見えたのは、予想通り、大きい立っている豚みたいな魔物と木に背中を預けて魔物を睨んでいる女の人。
女の人は中世ファンタジーの騎士みたいな格好をしていた。
よく見たら、折れた剣っぽいのを魔物に向けている。
でも、力が入らないのか、恐怖のせいなのか、震えているように見える。
うん。どう考えてもまずい状況だね。
魔物も変な棍棒みたいのを振り上げようとしているし。
って、それはまずくない!?
慌てて、私は指輪から聖属性のナイフを取り出して豚みたいな魔物に投げた。
後ろから投げたので魔物が気がつくことはなく、ナイフは魔物の背中に刺さった。
魔物が膝から崩れ落ちる。
ギリギリで女騎士さんにはのしかからなかったみたいでよかった。
念のため、鑑定をかけてみると表示にはオークの死体と出ていた。
あー、オークね。そういえば、豚みたいな魔物の代表格みたいな感じだっけ。
で、女騎士さんの方は……
うん。何が起こったかわからない感じできょとんとしているね。
「~~~~~~~~~~~~~~~?」
何かつぶやいているけど、全然聞き取れない。
そういえば、ここ異世界だったね……
ベルが普通に言葉通じてたけど、やっぱり言葉は違う感じなのか……
どうしたものかなぁ……
女騎士さんは傷だらけながら立ち上がってオークの死体を確認しようとしている。
って、まずい。そのナイフはまずいぞ。
魔物を一撃で倒すナイフ。もしも、取り扱い間違えてささったりしたら大変なことになる。
すぐさま、私はナイフだけを指輪に収納する。
「~~~~~~~~~~~~~~~!?」
女騎士さんが消えた!? って感じの顔をしている。
そして、周りを見回している。
あー、これ完全に周りにいる何かを探している感じね。
つまり、私を。
うん。ここまで来て放置するのも気が引けるし、とりあえず、助けてあげるとしようかな。
私は、指輪から念話の魔石を取り出して話しかける。
「えっと、そこの人、大丈夫ですか? 聞こえてますか?」
「!?」
女騎士さん、びっくりしてキョロキョロしている。
折れた剣を構えているあたり警戒している感じかな。
「~~~~~~~~~~~~~~~!?」
何か言ってるけど、相変わらずわからない。
「すみませんけど、そちらの言葉がわからないです。こちらの言葉は通じていますか? もし通じていたら頷くなりしていただければと……」
私の言葉に、女騎士さんは戸惑いつつも、頷いてくれる。
よし、コミュニケーション取れてるぞ。
「ひとまず、こちらには敵意はないです。その印に回復薬をプレゼントしますので、飲んでください」
指輪からヒーリングポーションを取り出して地面に置く。
「はい。そこにヒーリングポーション置きましたので飲んでください。あ、はい。そこです」
女騎士さんは急に現れたであろうことにびっくりしつつもヒーリングポーションを手に持つ。
でも、警戒しているのかポーションを飲もうとしない。
うん。そりゃまぁ、いきなり現れて姿も見せずに、でも回復するから飲めって出されても普通は飲まないよね。
「お気持ちはわかりますが、毒ではないですよ」
そもそも、毒を盛るくらいだったら最初から放って置いている。
まぁ、毒なんてまだ持ってないけどね。
女騎士さんは匂いを嗅いだりしていたけれど、意を決したようにポーションを口に流し込んだ。
「!?」
女騎士さんの目が見開く。
目に見えて傷があった女騎士さんの身体から傷がなくなっていく。
おー、ヒーリングポーションってこんな即効性あるんだ。
こりゃ医者いらずだね。
「~~~~~~~~~~~~~~~?」
女騎士さんは自分の身体を見てびっくりしている。
言葉はわからないけれど、「傷が消えた?」みたいな感じかな。
意外とわかるもんだね。
「さて、敵意がないことはご理解いただけたでしょうか?」
私の言葉に女騎士さんが頷いてくれる。
しかし、これからどうしようかな。
せっかく話が通じそうな第一異世界人を見つけた。
色々と聞きたいことはあるけれど、このままだとコミュニケーション取りづらいよね。
言葉が通じればいいんだけど……
こんなことなら神様ともうちょっと交渉して言語パックでもつけてもらうんだった。
「~~~~~~~~~~~~~~~?」
何か聞かれているけど、ほんとわからないし。
ってそうだ。あるじゃん、言葉が通じなくてもコミュニケーションできるやつ。
というか、今私が使ってるじゃん。これ増やせばいいだけだ。
念話の魔石を複製して、地面に置く。
「女騎士さん、その魔石を持って、話しかけるみたいに念じてもらえますか?」
「~~~~~~~~」
返事をして、魔石を握りしめてくれた。
「聞こえるか?」
おお! 聞こえた!
「はい。聞こえましたよ!」
やっぱり、人とのコミュニケーションは対話からだよね。
「これで会話ができますね。よかったよかった」
私は喜ぶが、女騎士さんの顔は晴れない。
一体どういうことなんだ? みたいな感じ。
「一体どういうことなんだ?」
実際に言われてしまった。
「あなたは一体誰なんだ? 姿は見えないけれど、声は聞こえる。それにこの魔石は……」
うーん、質問が多いなぁ。まぁ、しょうがないけれど。
とりあえず、重要なことから処理だ。
「まず、始めの質問に答えると、私の名前はハル。幽霊をやってます」
「……幽霊?」
私の言葉に女騎士さんの顔がこわばる。
「あれ? 幽霊わかります? あの、死んだら化けて出るっていうアレのことなんですけど」
前にベルがこっちだと一般的って言ってたからあると思うんだけど。
あれ? レイスって魔物の話だっけ?
「あ、ああ、わかる……が」
なんとも言えない返事。
なんだろう?
「あっ、ひょっとしてレイスとかいう魔物とか思ってますか? 違いますよ。ちゃんとした人です」
私自身、どういう存在かわかってないけど、自分としては魔物ではないという認識。
説明はできないけれど、違うと言ったら違うのだ。
「ちゃんとした人は幽霊ではないと思うが……」
「まぁ、それはいいじゃないですか。とりあえず、見えないのは身体がないからって思っていただければそれでいいので」
「う、うむ。とりあえず、理解はした」
納得しれたみたいだ。
「見えないのと、声が聞こえないのはそれが理由ですね。あとその魔石に関しては、気持ちが通じるみたいな魔法が込められている感じですね」
私の言葉に女騎士さんはびっくりして魔石を見る。
「アーティファクトか!?」
アーティファクト? なにそれ。
「なんですか? それ」
「いや、そんな特定の魔法が込められた魔石などアーティファクトではないのかと」
うーん? 魔石ってそういう使い方するもんじゃないの?
この反応からすると初めて見ましたって感じなんだけど。
その辺りのところ詳しく聞きたいなぁ。
しかし、今はそれどころじゃない……ということを今思い出した。
「まぁ、それはおいおいということで。お体の方はもう大丈夫ですか?」
「あ、ああ、さっきの薬のおかげで……なんとか……って、あっ!?」
私の言葉に女騎士さんは思い出したように声を上げる。
「こうしている場合じゃない! 仲間が大変なんだ!!」
どうして酷い怪我なんてしてたのか聞くつもりだったんだけど、どうやら、思っていたよりもピンチみたい?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます