第29話 狐耳妹かわいい

「わかりません」


 カナを助けた。

 カナの頭に狐耳が生えていた。

 狐耳についてベルに聞いてみた。

 いまここ。


 という感じだ。

 そして返ってきたのがさっきの言葉。

 そっか、わからないか……


「いや、なんとかする方法とかないの? 錬金術で薬作るとかさ」


「いえ、流石に人の頭に狐耳が生えた事例とか聞いたことないですし……」


 あー、うん。まぁ、そうだよね。

 魔法の世界と言えど、どうやら特殊な事例を引いたみたい。


「ただ、話を聞いた限りだと、マスターさんの妹に憑いたっていう悪霊もかなり特殊だったみたいですね……」


 えっ? どういうこと?


「普通はいくら聖水の効力が高かったとしても暴走なんてことになりません」


 なるようなら先に言ってますとのこと。

 そりゃね。私的にもベルはあの聖水見てるんだから忠告くらいしておいてくれと言いたかったのはあるけど。


「じゃあ、どういうことなの?」


「うーん、考えられるとすると、元となった霊がよほど聖属性と相性がよかったとか……ですかね?」


 聖属性と相性がいい幽霊……?

 そんなのあるの?


「まぁ、推測でしかないですけどね。そもそも聞いたことのない事例ですし」


 うーん、特殊な例ってことかな?

 いや、なんか最近こういうのよく引いてるし、特殊が特殊を呼んだってことかもね。


「いや、まぁ、悪霊に関しては、とりあえずはいいや。問題はカナの耳よ」


 あのままじゃ家の外にも出れない。せっかく助けたのに後遺症残るとか勘弁して欲しい。

 可愛いけど。かわいいけどね。


「それなんですが、ひょっとしたら問題ないかもですよ?」


 はぁ?


「いや、こっちの世界がどうなってるか知らないけれど、あっちに獣耳の生えた人はいないよ?」


 地球に獣人なんて人種はいない。

 いや、秋葉原とかの客引きにはいるかも知れないけれど。

 あれは特殊な別世界の一つだ。


「いえ、そういう意味ではなく、普通の人にその耳見えないかもということです」


「でも確かに見えたよ? それにミドリにも見えてたし」


「マスターさんの姿と同じですよ。魔力が多いと見えるのではないかと」


 あー、そういうことか。


「察するに霊の残滓なんだから、それが見える人じゃないと見えないってこと?」


「そういう感じです」


 推測でしかないですけどね、とベルが言う。

 でも、たしかに、普通に物理的に狐耳が生えてきたって考えるよりは納得できる。

 納得できる? いや、できないって。


「まぁ、ともかく確認いただければと思います。もしかしたら、すぐに消えるかも知れないですしね」


 とりあえず、今日行ったら確認をしようかな。

 きっとミドリの魔力付与ポーションの効果も消えているだろうし。



 そんな感じで、一日をソワソワとしながら過ごし。

 夜になると、早速私は地球へと向かった。


 降り立った先はいつものごとく私の家。

 ひょっとしたら直接ミドリの家に行けたりもするのかね?

 そのうち確かめてみたいな。

 なんてことを考えていると、


 トンッ


 っと腰に衝撃があった。


「わっ? なに?」


 見ると、腰に抱きついている頭が一つ。狐耳だった。


「お姉ちゃん!」


 この声と頭は……


「カナ?」


 私の声にカナが顔を上げた。


「うん。カナだよ!」


 笑顔のカナと目があった。

 よかった。ちゃんと笑えてるね。

 久々にカナの笑顔見たね。


「カナ、大丈夫なの?」


「うん。お姉ちゃんが助けてくれたから」


 スリスリと私にすり寄るカナ。撫でる私。


「助けたって、あ、その辺の事情とかってわかるの?」


 昨日はあの後、カナが目覚める前に戻ってしまったから、私とは話していない。


「うん。ミドリ姉ちゃんに聞いたし、それに……ただいまって言ったよね?」


 あー、確かに言ったね。

 あの時のこと覚えてたんだ。

 眠そうだったし、夢だと思ったかと。


「ミドリからはどこまで聞いてるの?」


「うーん? お姉ちゃんが幽霊になって、カナも大変だったんだけど、お姉ちゃんがどうにかしてくれたってことくらい?」


「なるほど」


 要するに概要ね。

 まぁ、たしかに異世界とかその辺説明するの大変よね。

 その辺りの説明どうしようかなぁ。


「カナちゃん?」


 私が悩んでいると、奥からミドリが出てきた。


「さっきから誰に話してるの? ひょっとしてそこにハルがいる?」


「うん。いるよ」


 あ、ミドリは私が見えてないだね。

 というか、


「カナは私が見えてるの?」


 というか、触ってるよね?


「? お姉ちゃん見えるよ?」


「ちなみに、ミドリは?」


 あ、そっか、私の声届いてないんだっけ。

 私は念話の魔石を取り出して、再度聞いてみる。


「あ、ハル? うん。見えてないよ?」


 うーん、ミドリの方の効果は切れてる。

 時間的に考えたら、カナの方も切れてておかしくないんだけど……


「うーん?」


 ひょっとしてこれもなんかの後遺症みたいなやつとか?

 あ、そうだ。後遺症で思い出した。


「ねぇ、ミドリ、ちなみにカナの狐耳ってまだ見えてる?」


「えっ? 見えないけど……まだあるの?」


 ミドリには見えないっと。


「カナは頭の耳わかる?」


「うん。狐さんのお耳あるよね。動かせるよ!」


 ピクピクと狐耳が動く。

 狐耳の妹がかわいい……ではなくて。


「そっか、ってことは、やっぱりなんかしら影響が残ってるってことっぽいね」


 耳があるのも、カナが私を認識できるのも。

 ちなみに、鑑定をカナにかけてみても変わりはなかった。

 せめて狐耳のことくらい触れて欲しい。


「カナおかしいの?」


 カナが不安そうに私を見ている。

 まずい。


「いえ、大丈夫だよ」


 私は笑顔を作ってカナに見せる。


「それになにかあっても、またお姉ちゃんが助けるから」


「それなら大丈夫だね!」


 カナの顔から不安が抜けた。あるのは無条件の信頼。

 信頼してくれるのは嬉しい。その信頼に答えなきゃね。

 それはそうと、狐耳の妹がかわいい。

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