第28話 私の勝算

 この物語に作者がいるならしめしめとニヤついているに違いない。

 なにせ定番どころの山場を意図した位置に持って来たのだから。


 しかし、どうしてこうなったのか。

 いや、それ以前に今のこの状況がどうなっているのか。

 カナがいったいどういう状態なのか。

 私はすぐさま鑑定を使った。


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 名称

 カナ

 説明

 ハルの妹

 大量の聖属性魔力で強制反転・魔力暴走を起こした

 特性

 魔力暴走

 残魔力

 500%

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 魔力暴走って何?

 残魔力も100%超えちゃってるし。


 ようするに魔力を取り込みすぎて暴走を起こしたってこと……だよね?

 情況的に聖水が原因だろうね。

 でも、ベルが嘘を付いたとは思わないしなぁ。

 きっと想定外の出来事なんだろう。

 考えられる原因としては、聖水の品質と魔力量かな。

 向こうの世界だとありえない100を超える品質の聖水のせいで、変なことが起こったってことなのかと。


 原因は推測できた。

 なら考えることはその解決方法だ。

 魔力が多すぎたせいでこうなっている。

 だったら、その魔力を取ってやればいい。

 その方法は……わからない。

 わからないけど、考えるしかない。

 ここにベルはいない。聞きに戻りたいくらいだけど、そんなことしたら魔力不足で再び戻ってくるのは難しい。


 それにこの状態のカナを放っておくわけにはいかない。

 だから考える。

 今までの経験、会話を思い返し、その中から役に立つ情報がないかを探る。

 そして、私の頭に一つの会話が浮かんできた。


『おそらくですが、妹さんは悪霊に取り憑かれているものと思われます』


 それは、ベルと幽霊という存在について話をした時の記憶。


『幽霊が意識を存続させるためには魔力をどこかから調達する必要があるわけです』


『大きな魔力は他の魔力を自分の元に吸収します』


 カナについているという悪霊はカナから魔力を吸い取ろうとした。

 さっきの鑑定の結果、状態に呪われってのがなくなってたことからするとその悪霊はもういないと思う。

 そして、


『マスターさんだって幽霊じゃないですか』


 私は幽霊だ。

 だったら私にだってカナの魔力を吸収することができるはず。


 私は、白い塊に近づく。

 そしてその塊に触れるように手を伸ばした。


 触れた瞬間、視界が真っ白になり、私の中にナニカが入り込んできた。


『お姉ちゃん……ごめんなさい』


 それはカナの意識?

 前と違って悲しむような感情ではない。

 ただ、カナという存在そのものが私に流れ込んでくるような感覚だった。


 魔力の奔流に意識が飲み込まれそうになる。

 そうこの問題は、


『他の意識と混ざり合ってごちゃごちゃになるはずです。そうなると、元の意識も元通りではないでしょう』


 私の意識が吸い取った魔力と混ざっておかしなことにならないかどうか。

 つまり、私自身が保てるかどうかにかかっている。


 自分の意識が飛ばないように意識を強める。


『お姉ちゃん……ありがとう』


 勝算はあった。

 カナから余剰に溢れている魔力、それは元々私のものだったはずだ。

 つまり、カナから流れてきている魔力は私の意識が混ざっているはず。


 それに、


『お姉ちゃん……大好きだよ』


 カナから伝わってくる私への想い。

 それが、私自身を意識させてくれる。


 そう、私はカナの姉。

 こんなに想われている幸せな姉だ。

 そんな意識をなくすわけないじゃない。



 どれくらいの時間が経っただろうか。

 気がついたら白い光が収まっていた


 そして私の腕の中でぐったりとしているカナの姿。


「……カナ?」


 呼びかけると薄っすらとカナの目が開いた。


「……カナ?」


「お姉ちゃん……?」


 よかった。無事みたいだ。


「お姉ちゃん……」


 ただ、カナは非常に眠そうだ。

 意識を失いかけているような感じだ。


「うん。私だよ。お姉ちゃんだよ」


 言いながら鑑定をかけてみる。


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 名称

 カナ

 説明

 ハルの妹

 状態

 疲労

 残魔力

 120%

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 説明にあった。もろもろがなくなっている。

 状態に疲労ってことは疲れてるだけなんだろう。

 確証はないけれど、これで大丈夫という謎の安心感があった。


「お姉ちゃん……カナ……聞こえたよ……」


 聞こえた? なんのことだろう?


「お姉ちゃんが……私を大事って……幸せな姉だって」


 それはさっき私が想っていたこと?

 吸収しているだけのつもりだったんだけど、私の意識もカナに伝わっていたのかな?


「それに……これまで……私を心配してくれてたこと……全部……」


「当たり前じゃない。大事で大切な愛しい妹のことなんだもの」


 私の言葉にカナが嬉しそうに笑う。


「ありがとう。お姉ちゃん……あと……」


 カナは目をつぶった。


「おかえりなさい……」


 腕に抱いているカナから力が抜けた。


「カナ!?」


 見てみると、カナから息が漏れていた。

 すー、すー、っと。

 なんだ。寝ちゃっただけか。


 カナは幸せそうな顔で眠っている。


「ただいま」


 私はそんなカナを撫でながらつぶやいたのだった。




 さて、ちょっとだけその後の話をしようか。

 その後、私は反応がまったくなくて心配したミドリがノックしてくるまでずっとカナのことを撫で続けていた。


 部屋に入ってきたミドリは、倒れているカナを見て慌てたものの。

 その幸せそうな表情を見て安心して膝をついた。


 私はそんなミドリに状況を説明する。

 魔力暴走が起こったこと。それを私が吸収して抑えたこと。

 そして……


「ねぇハル?」


「何?」


「吸収したのはわかったけど」


「うん」


「カナの頭になにか生えているように見えるんだけど……」


 カナの頭を見る。

 うん。気がついていたよ。

 頭撫でていたんだもん。さわり心地非常に良かったよ。


「それって狐耳……だよね?」


 そう、カナの頭にはふさふさの狐耳が生えていた。

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