第27話 一山やってきた
「それじゃあ、カナちゃん。ご飯ここに置いておくからね」
ミドリはカナがいる部屋の前でそう言うと、お昼ごはんを置いた。
ちなみに、お昼ごはんはうどん。
魔力付与ポーションを混ぜるのに液体多めということでそうなった。
魔力付与ポーション自体に味が付いていないことが幸いだった。
ミドリはちらっとハルの方を見て去っていく。
ミドリがその場に残っているとカナは出てこないらしい。
残された私はカナが食事をとるまで待つことにした。
ただ立って待っているのも暇だし。
せっかくなので、携帯電話を充電しながらいじって、その時を待つ。
その間にこれまでの事を自分で振り返ってみる。
自分でも信じられないくらい落ち着いているなぁ。
一度死んでしまっているせいで、変なスイッチでも入ったのかな?
考えてみたら死んでから、カナを心配しつつも色々と実験なんてしつつ楽しんでしまった感もあるし。
いまだから思うけど、ちょっと情緒不安定だったのは否めないかも?
だけど、今になって考えると色々とただの現実逃避だったのかもしれないね。
私はカナのことが大切だ。そんなの当たり前のこと。
そうでもないと、独り残されるカナを心配して地球に戻る能力なんて求めなかった。
でも、未だに事を全部受け入れられていないというのもあったりする。
自分が死んだこと。異世界に降り立ったこと。
そしてカナの今の状況。
その全てを完全に受け入れられるわけがない。
私がやってきたのは、ただ目の前のそれを一つ一つ対処してきただけ。
これからどうなるかなんて考える余裕なんてなかったからね。
これが終わったらもうちょっと後のこと考えようかな。
……自分で言うのもなんだけど、これ死亡フラグみたいだね。
しばらく経った後、ガチャッという音が聞こえてきた。
音のする方向に目を向ける。
そこには、顔を出してお昼ごはんを回収するカナの姿があった。
そういえば、久しぶりにカナの顔を見た気がする。
でも、記憶にあるのに比べると、大分痩けちゃってるね……
元々年相応の幼い顔付き。
身体もやせ細っていて見ていて不安になるくらいだ。
でも、それも今日まで。
気合を入れ直して部屋に入る。
カナはお昼ごはんを持って部屋の隅に行く。
下を向きながら食べている。
とりあえず、食べ終わるまで待とうかな。
流石に緊張してきたかも。
これカナが顔を上げたら私に気がついたりするかな?
だけど、ずっと下むいて食べてて気がつく様子はない。
その間に私も気持ち整えなきゃ。
もそもそと食べるカナを見守る。
前に見た黒いモヤはヒーリングポーションのおかげなのかカナの周りに薄っすらと見えるくらいだけど。
しばらくそのまま見守り、そして、カナが器を置いた。
声をかけるなら今だろう。
念話の魔石を握りしめた。
「カナ」
私の声が聞こえたのか、カナはビクッとして、顔を上げた。
カナの虚ろな目が私を捉えた。
「……お……ねえ……ちゃん?」
ありえないような信じられないような物を見るような目だった。
死んだはずの人が現れたらそんなもんかな。
私的には感動の姉妹再会で、私の胸に飛び込んでおいで、みたいな気分なんだけど……
なんか、カナの様子がおかしい。
再会を喜ぶどころか、なぜだか怖がっている感じ。
お姉ちゃんそんなに怖くないよ?
安心させようと思って、近づこうと一歩踏み出す。
が、
「ごめんなさい! お姉ちゃん! ごめんなさい!」
ナンデ? ナンデ? ニゲルノ?
カナは私から逃げるように部屋の端っこに行く。
「か、カナ? 私だよ? お姉ちゃんだよ?」
私は立ち止まってカナを見る。
だけれども、カナは怯えた様子で伏せてしまっている。
ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返してるし。
なんで? 私が死んだことにカナの責任とかないはず。
カナが自分を責める理由がわからない。
ともかく、このままでは話もできない。
何より正直、この状態のカナを見ているのは心が辛い。
大事な妹に怯えられるは嫌だ。
それに、ここまでとは思わなかったけど、話が通じない可能性というのも当然考えてある。
前にカナを見た時に見たあの黒いモヤ。
あれに触れた時に私に流れ込んできた感情。
あれがカナの感情だとすると、こうなるということも大いに想像できたのだ。
だから、その時に取る行動は決めてある。
「カナ……ちょっと我慢してね」
私は指輪から聖水を取り出す。
そしてカナに近づきその中身をカナに浴びせかけた。
カナのこの状況は悪霊のせい。
感情に訴えかけるのも大事だとは思うけれど、それ以上にまずできることをやってからだ。
つまり、その原因を取っ払ってしまうしかない。
カナが聖水で水びたしになる。
ごめんね。後でちゃんと謝るから。
聖水の中身がなくなる。
カナを覆っていた黒いモヤが蒸発するように消えていく。
モヤ自体が悪霊とまでは言わないけれどこれがないに越したことはないでしょう。
黒いモヤがカナの身体から消え去り。
そして、
白いモヤが大きく膨れ上がった。
「はぁ!?」
先程とは比べ物にならないくらいの密度を持った白いモヤ。
いや、もはやモヤとは呼べない、白い塊のようになっている。
それが完全にカナを覆い隠してしまった。
なんで? 聖水で悪霊を浄化できたはずじゃないの?
これで大団円だったはずじゃないの?
思わず後ずさってしまいながら、私は、
「ああ、本当に一山来ちゃったよ……」
なんて口にしていたのだった。
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