第25話 オオスズメバチ討伐

 起きてすぐに私は行動を開始した。


 錬金術で爆弾を作る。

 素材はスライムの皮、それに蜂用の殺虫スプレー。

 出来上がったのは、対蜂用爆弾。

 品質は驚異の500を超えている。

 インフレにも程があるよね。

 ちなみに、大きさはソフトボールくらいになっている。

 この中にスプレーの中身全部入ってるとしたらとんでもない圧力になってそうだね。


 それから、同じく昨日買ったライターを使って新しい武器も作る。

 爆弾の品質からすると必要ない気はしているけれど、武器は多いに越したことはないからね。

 ちなみに、ベルは見たことのないライターに対して目を輝かせていた。


 錬金術を終えた私は、作ったものを全部指輪にしまい込んで家を出た。

 向かう先は昨日と同じく花畑のところ。

 昨日目印を回収しなかったので、ただそれを辿っていくだけで簡単にたどり着くことができた。


 蜂いなくなってたりしないかな? と期待したけれども、そこは昨日と全く同じ光景だった。

 気が付かれないようにそろーっと、近寄る。


 間近で見るとやっぱり怖いなぁ。

 こんな大きな蜂がもしも地球にいたとしたら大事件だよ。

 でも、ここは異世界。

 そして対策もばっちりしてきている。


 指輪から蜂用爆弾を取り出す。

 よしっ。それじゃあ、蜂退治と行こうか。


「えやっ!」


 両手を振りかぶって、蜂用爆弾を蜂に向かって投げる。

 できるだけ蜂の群れの中心になるような感じで。

 爆弾は無事に蜂の群れの中に落ちた。

 少し花を潰してしまったけど、不可抗力だね。


 蜂たちは驚いたように爆弾から距離を取っている。

 が、スライムの皮だと気がついたのか、攻撃を始めた。

 そっか、ナイフを投げるつもりだったんだけど、攻撃してくれるなそれの方がいいよね。

 一匹がお尻の針を爆弾に突き刺そうとするのを見て、慌てて木の裏に隠れた。


 ボンッ!


 凄い音とともに、白い煙が辺りに広がる。

 木の影から顔だけを出して確認をする。

 蜂達は煙に当たると、ピクピクとしながら墜落をしていく。

 煙はどんどん広がっていき、周りにいた蜂達はすべて地に落ちた。


 探知スキルを使ってみると、生きている蜂はいなくなっていた。

 いやぁ、さすが地球の蜂用スプレー、凄い効果だね。

 でも、これで花を採取できるね。

 私は木の影から出て花に近寄ろうとする。

 その瞬間。


 ブゥーーン!!


 低い低音が耳に飛び込んできた。

 反射的に耳を払ってしまうけれど、別に耳の近くに虫がいるわけではない。

 音は上から聞こえてきていた。

 それに気がついた瞬間、私は後ろに飛び退いていた。


 ゴツッ!


 何かが地面にぶつかるような音。

 大きな蜂が地面に針を指していた。

 これは昨日も見たクイーンだ。


 クイーンは明らかに私を狙って攻撃をしてきていた。

 それはつまり、私が見えているってことだ。


 白い煙はまだ周りにも残っているはずなんだけど、倒れなかったのかな。

 よくよく見てみると、クイーンは何かをまとっているように見える。

 それによって白い煙がクイーン自体に届いていない感じだ。


 風のバリア? みたいな?

 あー、そういえば、昨日鑑定した時、風の魔法を使うって書いてあったっけ?

 それで煙を防いでいるって感じかな?

 なかなかやるじゃない。


 クイーンは警戒するように私から距離を取る。

 私の隙きを伺っているような感じだ。


 私は指輪から聖属性のナイフを複製して取り出す。

 まぁ、この様子じゃあ当たらないかなぁ……


「えりゃっ!」


 蜂に向かって投げる。

 やはりと言うべきか、蜂は容易に避ける。

 そして、すぐに私に向かって襲いかかってきた。


 予測はしていたので、横に飛んで避ける。

 とりあえず、距離を取っておけばいきなり攻撃をくらうことはなさそうかなぁ。


 でも、こちらの攻撃も当たらない。

 一撃でも当ててしまえばいいんだけど、当たらないとどうしようもないし、どうしたものかなぁ。


 再度距離を取ってにらみ合うような姿勢になる。

 こうなったら新しい武器を使うしかないかなぁ。

 指輪から武器を取り出そうとしたその時、ふっと、蜂が動いた。

 さっきとは違う動き。

 嫌な予感とともに、私は横っ飛びをする。


 ブォン!!


 伏せた私の上をまるでジェット機が通り過ぎたような轟音。

 転がるように私は距離を取る。

 ちらっと周りを見ると辺りは一変していた。

 辺りの木が折れて吹き飛んでいる。

 さっきの蜂の攻撃のせいだろう。


 風の魔法……かな?

 私が見えるだけあってやっぱり強い魔力を持っているみたいだ。

 あれがもし私に当たっていたと思うとゾッとする。

 あまり時間をかけていられないね。


 冷静になれ私。慌てていても得は何もない。

 震えそうになる身体を押さえて立ち上がる。

 考えてみれば、新武器を使うのに周りの木がなくなったのは私にとって利点だ。

 避ける直前に取り出した武器は私の手の中にある。

 私はこの武器、昨日買ったライターと殺虫スプレーを組み合わせた新武器をクイーンに向ける。


 クイーンは警戒するように私の前を飛んでいる。

 距離はおよそ3メートル。



 私は、クイーンにライターの先を合わせて、トリガーを引く。

 その瞬間、スプレーの口から炎が飛び出す。


 これが私の新武器。

 ライターと殺虫スプレーでちょっとした火炎放射器になるんだけど、そのままでは威力が低すぎる。

 そこを魔石を使って威力を強化した。


 火炎放射器に巻かれたクイーンは燃え上がる。

 抵抗して消すためにか風を起こすけど、私は継続してスプレーを向け続ける。

 炎に巻かれ続けたクイーンは、やがて動かなくなり、そのまま燃え尽きた。

 それを確認して私はトリガーから指を離す。


「……ふーっ」


 倒した……よね?


「っ……はー……よかったぁ」


 緊張が一気に抜けていった。

 流石の私でも、あのクイーンの攻撃には肝を冷やした。

 でも、やっぱり所詮はただの虫だね。

 虫は火属性ってのを聞いてたから、昨日お店でライターを見つけて買っておいてよかった。

 でも、流石にこの武器はやりすぎたかなぁ……

 後には何も残っていない。

 素材も魔石も全部なくなってしまった。

 錬金術師としてはこれはあんまりよくないね。


「うん。でも、まぁ……」


 花畑に戻る。

 沢山の蜂の死体が残っている。

 それに潰れてしまっている花も沢山ある。

 その中から、無事な花を摘む。


「よしっ、これで魔力持ちの花入手完了だね」


 念願の魔力持ちの花を手に入れた。

 あとはこれを使って錬金術をするだけ。

 本当にあとちょっとだ。頑張らなきゃ。


 よしっ、っと気合を入れ直した私は。

 ついでなので、倒した蜂を指輪に格納することにした。

 クイーンの素材が入手できなかったのはアレだけど、蜂の素材はなにかに使えるかもだしね。

 大きさとか状態が良さそうなのを数体ほど指輪に収納をしてアトリエに戻ることにした。

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