第21話 チートナイフ

 そんなこんなでナイフが出来上がった。

 これを持ってウルフ狩りに行こうと思う。


 ベルに一声かけて、家を出る。

 探知スキルを使ってみる。

 近くに生えている草っぽいのがあるだけで、モンスターの反応はない。


 これはちょっと遠出する必要があるかもなぁ……

 遠出するなら迷わないようにしないといけない。

 ヘンゼルとグレーテルみたいに何か落としていけばいいかな。

 あ、でもあの童話だとパンくずは食べられて戻れなかったんだっけ。

 なにか目印になりそうなものないかな?


 あ、いいのがあるじゃない。

 指輪から聖石を取り出す。

 これだったら、レア度も高いから探知スキル使ったら目立つよね。

 できるだけわかりやすいところがいいから、木に穴あける感じでいいかな?


 木に近寄ってナイフを刺す。

 ほとんど抵抗がなく刺さってしまった。

 性能高いおかげかな?

 便利でいいけど、指切ったりしたら怖いね。扱いには気をつけないと。

 ゆっくりと聖石が入るだけを掘って、その中に複製した聖石を入れる。

 念のため、探知スキルを使ってみると、綺麗に石だけ見えた。

 これが見えなくならない程度に目印としていけば迷わないかな。


 できるだけ真っ直ぐに進みつつ、定期的に聖石を埋め込んでいく。

 15本くらい来て探知スキルを使ったところ、遠くに魔物が動く反応を見つけた。

 スライムはこれまでも見ているけれども、それとは明らかに違うフォルム。

 4本足で移動しているような感じ。

 犬? いや、これが多分、ウルフでしょ。


 そろーっと、音を立てないようにシルエットに寄っていく。


 ウルフは、私の想像する狼を一回り大きくしたような感じだった。

 しかし、前にみたでっかいやつに比べたら雲泥の差だった。

 確かに、牙も爪も危なそうで怖いけれど、前みたいな恐怖感はない。

 あの時は、すぐにでも逃げなきゃとしか考えられなかったしね。


 気に隠れて様子を伺ってみる。

 狼は私に気が付かず、背を向ける形で移動している。

 あまり離れると目印の聖石が見えなくなっちゃう。


 正直、動物っぽいからスライムとは違った意味で攻撃しづらいんだけど、でもアレは魔物。

 人に危害を加える可能性だってある。

 自分だって例外じゃない。

 だったらやることは一つだ。


 そろっとウルフに近寄る。

 結構近くまで寄ったのだけど、やはり気がつかれない。

 指輪から、さっき作ったナイフを取り出して複製する。

 これをウルフに向かって、投げる!


 ナイフは一直線にウルフに向かっていき、刺さった。


 グヲッ!


 ウルフが短い悲鳴を上げたと思ったらすぐに動かなくなった。

 倒した?


 えっと、うん。浄化の魔法の効果は現れているみたい?

 目とか生きている時のままで怖いんだけど、こう、魂だけが抜けたような感じになってるし。

 でも、死んでるんだよね。


 鑑定で確認をすると、ちゃんとウルフの死骸になっていた。

 はぎ取れる素材もいくつか在るみたいだね。

 でも、流石にここでやるのは気が引けるなぁ。

 そもそも解体とかできる気がしないし。

 ひとまず、帰ってベルに相談するとして、収納しておこう。

 指輪にウルフの死骸を収納して、ふぅーっと息を吐く。


 やっぱりちょっと緊張してたみたいだ。

 息と一緒に気持ちが落ち着いた。


 うん。じゃあ戻ろうか。

 探知スキルを使って聖石の位置を確認する。

 ちゃんと見える。

 じゃあ、後はこれをたどっていくだけだね。


 それにしても、聖石のナイフ、作った自分が言うのもなんだけど、反則すぎない?

 チートって言われても、しょうがない威力。

 チートナイフ。

 これひょっとしてあのでっかい狼も倒せるんじゃ……

 いや、まぁ、あえて試そうとは思わないけどね。



 無事に迷うことなく、アトリエにたどり着くことができた。


「ベル、帰ったよ」


「おかえりない。マスターさん。ウルフは無事に狩れましたか?」


「うん。この通り」


 指輪からウルフの死骸を出す。


「ちょっと! まだ血が出てるじゃないですか! 血抜きしないと!」


 血抜き?


「倒したらなるべくすぐに冷やして血抜きしないと品質が下がってしまいます!」


「いや、そんな事言われても、ごく一般的な日本の学生にそんなこと言われても」


 解体の手順とか知らないし。


「どうにか、解体せずなんとかならない?」


 錬金術のとんでもスキルとかでなんとか。


「ならないこともないですが、品質は下がりますよ? それでもいいなら肉にするくらいはできます」


 できるんだ。


「ならそれでいいよ。食べれない範囲とかでも何か活用考えるから」


 最悪、日本の方からカレールーでも持ってきて混ぜればなんとかなるでしょ。

 カレー万能。


「まぁ、焼いて口に入れて大丈夫にならそれでいいよ」


「マスターさんがいいならそれでいいですが……」


 ちゃんと部位ごとに分けた方が美味しいんですがねぇと言いつつもベルは納得してくれたようだ。


「ひとまず、そのウルフの死骸を魔法陣に置いてください」


 言われるがままに鍋に放り込む。

 魔法陣のサイズに比べてウルフが大きいので足だけちょっと中心から飛び出してしまった。


「そしたら、錬金を開始してください。魔力は素材を抽出するようなイメージでお願いします」


「素材を抽出ね……」


 あ、なるほどね。


「あ、ついでに肉だけでなく、革や骨とかも再構成できますよ」


「うーん、使うかわからないけど、とりあえず、残しておくことにするよ」


「必要な素材を取り終えたら、魔法陣を停止すると素材も消えます」


「元の素材消えちゃうんだ」


「はい。正確には魔力になって霧散する感じですが、普通見えないので消えるで問題ないです」


 まぁ、無駄に残ってゴミが増えるよりはいいか。



 言われたとおりに魔力を注ぎ、無事に、肉と骨と皮を錬成することができた。

 どれも一つの平べったくで大きいものになっている。

 ウルフの素材が種類ごとに一つの塊になった感じだ。

 肉とかは、私のイメージのせいか大きなステーキみたいになっている。

 ステーキにしては、長さ1メートル以上あるし、暑さも10cmはありそうだ。


 うん。でも、これでウルフ肉は入手できたね。

 鑑定しても、ウルフ肉になっているし。


「で、これが料理に使えるんだっけ?」


「はい。料理の材料を入れて、錬金術を使えば料理が出来上がりますよ」


 料理の材料。

 肉は確保したから、あとは調味料とかかな?

 でも、調味料は塩くらいしかない。


「シンプルにステーキを塩で味付けくらいしかできないかなぁ」


「こっちの世界だとそれでも十分ですけどね」


 そうなんだ……、こっちの世界の料理って随分味気なさそうだね。


「まぁ、やってみようか。簡単そうだし」



 でっかいウルフ肉から一部を切り出して魔法陣に置く。

 塩もキッチンから持ってきて振りかける。

 そして、素材として指定。

 美味しいステーキになりますようにと想いを込めて魔力を込める。



 5分ほどで焼き上がった肉が魔法陣の上に浮かんだ。

 5分で料理って思うと効率いいね。

 食べれればだけど。


 キッチンから木のお皿を持ってきてそこに盛り付ける。

 ついでに、フォークとナイフも持ってくる。


「見た目は……普通のステーキだね……」


 普通に美味しそうなステーキだ。

 ウルフから作ったことを知らなければ高級店のビーフステーキと言われても信じられると思う。


「一応鑑定してみたらどうですか?」


 食べられないものだったら大変だし、とのこと。

 もっともなので、鑑定を使ってみる。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名称

 ウルフ肉のステーキ

 説明

 ウルフの肉で作られたステーキ

 食用(それなりに美味しい)

 品質

 33

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「説明には食用ってなってる、あとなんか美味しいとかついてるけど、これ何?」


「美味しいんじゃないですか?」


「いや、誰の主観なのよそれ」


 まぁ、食べてみればわかること。

 試しに、一口分だけ切り出し、意を決して口に入れる。


 味は……


「……あれ? 美味しい?」


「なんで疑問形なんですか」


「いや、だって味悪くなるって言ってたじゃない。それに、味付けも塩だけだったし」


 肉は柔らかく、噛むと肉汁があふれる。

 味付けも塩だけとは思えないほど、複雑な味をしている。


「あー、マスターさんの魔力量で注いで美味しくなれってなると、それなりに美味しくなりますよ」


 どうやら、魔力を込めた結果のようだ。

 でも、この場合はよし。


「うん。美味しい。それなりに美味しいステーキだね」


 作った分のステーキはすぐになくなってしまった。


「いかがでしたか? 始めての錬金術で料理は?」


 食べ終わった私を見てベルが聞いてくる。


「うん。美味しかった。美味しかったけど……」


「けど?」


「これきっと日本から素材とか調味料持ってきたらもっと美味しくなると思うんだ」


 塩だけじゃなく、醤油とかマヨネーズとか。

 合いそうな調味料はいくらでもある。


「美味しいって言いながら食べたのに……」


「ベル、これは覚えていて欲しいんだけど……」


「なんですか?」


「日本人の食に対する熱意に果てはないんだよ」


「はぁ……」


 なんとも言えないという感じのベル。

 ベルも食べれたらいいのにね。


 この話をできるのは、ミドリくらいしかいない。

 よし、それじゃあ、ミドリへのお土産にもう一つ作ろうかな。


 そうして、私は2枚目のステーキを作り始めるのだった。


 ……ついでに自分用にもう一つ作ってもいいよね。

 どうせウルフの肉はまだまだいっぱいあるんだし。


 そんなわけで久々の食事を満喫したのだった。

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