第20話 錬金術とプログラム

 さて、狼を狩るための武器を作るとしよう。

 本当は魔法が使えればいいんだけど、残念ながら使えない。

 今回は物理的な武器が必要だ。

 とすると、……剣とか?


 いや、でも、魔物を目の前に剣振るとか無理でしょ。

 できれば遠くからサクッと終わらせるようなやつがいい。

 となると、……弓?


 いやいや、使ったことない人がいきなり当てられたりしないでしょ。

 ということをベルと相談していると、


「でしたら、投げナイフとかどうですか? それに、錬金術で魔法を付与することもできますよ?」


 投げナイフはわかるけど、錬金術で魔法を付加ってどういうこと?


「錬金術師としては、魔道具で魔法を使うのがメインですからね。もちろん、武器にも付与できます」


「あー、でもそれって魔石と同じにならない?」


 無属性の魔石で練習はしたけれど、さすがにあの魔石では前と同じ結果になる気がする。

 魔力込めすぎってやつだね。


「うーん、付与の仕方によるかと思いますよ」


「付与の仕方?」


「あの魔石は、マスターさんが何もイメージしていないので、聖属性の浄化を拡散するという効果になっていますが、例えば、その浄化の発動方法も錬金術で指定できます」


「発動方法……? 敵に当たったたらとかができるってこと?」


「そのとおりです、加えて、発動効果なども指定できます」


 発動効果を指定って……


「それ、魔法じゃないの?」


「魔法ほど複雑なことはできないです。聖属性の魔石であれば、魔力量で範囲を決めるくらいです」


「範囲決められるならいいかもね。ベルが懸念してた、森の魔物全部浄化……ってのもなくなるし」


 うん? それだと、魔法操作の練習っていらなかったんじゃない?


「魔法操作は結局基本ですので必要です」


 あ、はい。

 なんか力強い声に反論できなかった。



「ま、まぁ、ある程度、効果設定できるってことはわかったけど。どうすればいいの?」


「効果の指定などには、理念を触媒として使えばいいのです」


 理念を……触媒?

 ちょっと言ってる意味がわからない。


「触媒とは簡単に言うと、錬金術の反応を助けるようなものです」


「あー、なんか、昔学校の先生がちらっと言ってた気がする」


 ちらっと言ってただけで、テスト範囲とかではないから詳しくは覚えてないけど。


「あれ? でも、触媒だけだと最終的な結果は変わらないんじゃなかったっけ?」


 なんとなく、そんなことを熱弁していたような気がする。

 意味がわからないなぁ、と思いながら聞いたような記憶がある。


「そういう意味だと、そちらの世界とは触媒という言葉では意味合いが違うかも知れないですね」


「まぁ、いいよ。ともかく、理念を一緒に素材にするってことね」


 ……


「理念って素材にできるの?」


 そもそも、理念って何?

 理念って考え方的なやつじゃなかったっけ?

 抽象過ぎてわからん。


「まぁ、要するにこうなったらこうなる、みたいな考えを加えると思っていただけると」


「いや、加えるにしたってどういうこと?」


「それでしたら、マスターさんもすでにやってらっしゃるじゃないですか」


「えっ?」


「ほら、魔力を注ぐ時にゆっくりと、とか、どのくらい、とか考えてますよね? それです」


 確かに、ベルに言われて、混ざるようにゆっくりととか、魔力を注ごうとか考えたりはした。


「確かに、考えてたりするけど、それでいいの?」


「はい。マスターさんの考えが魔力を通じて理念として混ざります。そんな感じです」


 なんとなく、意味合いとしてはわかった。


「つまり、こうなってほしいみたいのを考えながら、魔力を込めればいいってこと?」


「そういうことです。それが複雑化したものと考えていただければ」


 なるほどなるほど。


「うん。多分、わかった。できると思う」



 とりあえず、考えればいいってことだけど、混ぜながらどういうふうにしたいかは考えおくことにする。


「ねぇ、ベル。紙とペンってある?」


「はい。リビングにありますよ。机の上に載っているかと」


 机の上か。ちゃんと見てなかったな。

 紙とペンを持って戻ってくる。

 紙は、地球のものとは違い色が付いていて厚かった。

 羊皮紙ってやつかな?

 ペンもインクを付ける方式のやつだった。

 使ったことないけど、まぁ、大丈夫でしょ。


 それじゃあ、最低限必要な機能を書いていくことにしよう。

 ベルと相談しつつ、作るものは魔法付きの投げナイフで、欲しい機能を3つにした。


 1.対象に刺さったら浄化の魔法が発動

 2.発動する浄化の魔法は極小である

 3.浄化の魔法の威力は込められた魔力に依存する


 こんなところか。

 なんだろう、父が生きてた時にねだって教えてもらった、プログラムの要件定義がこんな感じだった気がする。

 欲しい機能をまとめて、それを元に詳細をつめて、プログラムにしていく感じ。

 当たったら発動とかちょっとゲームっぽくない?

 当たり判定をちゃんと自分でプログラムするのって結構大変だったなぁ。

 まぁ、今回はそこまでいらないとは思うけど。


 今回はこの3つを考えつつ、魔力を注げばいいわけか……


「結構面倒じゃない?」


「と、言われましても作法ですので……」


 そもそも、考えるって何?

 結構な時間魔力を注ぐことになるんだけど、どのくらい考えればいいの?

 3つのことだけ考えるって結構大変じゃない?


「なんか楽する方法ないもんかな……」


 こう、プログラム書いていた人間としては、効率化を重視したいわけで……

 なんて、考えているとふと、羊皮紙が目につく。


「例えばこれも素材として魔法陣に置くとか?」


「意味がわかりません」


「いや、こうやってさ」


 どうせ実験だし試してみることにする。

 言いつつ、羊皮紙を手に取る。


「これをぽいっと」


 魔法陣に置く。

 ついでに、複製して聖属性の魔石とキッチンから取ってきて複製した包丁も置く。

 包丁を使ったのは、これの形を変えればナイフですよというベルの言葉からだ。

 調理用のナイフを包丁って言うんじゃなかったかな?

 まぁ、包丁そのままよりも武器っぽくしたい気はするけれども。


 置いた、紙、包丁、聖属性の3つを素材を指定したら、錬成を開始する。

 ナイフをイメージしつつ、紙に書いてあることが効果になりますようにと思いを込めて。

 つまるところ、3つのことを考えるのは無理なので、紙に書いたことをまとめて1つの考えとしたような感じだ。


 魔力を注いでいると煙が上がった。

 出来上がった反応だ。

 魔法陣にイメージ通りのナイフがある。


 うん。

 なんか包丁を包丁しただけって感じだけど、まぁ、いいや。

 それはともかく効果だ。


「えっと、鑑定すればいいのかな?」


「はい。それで大丈夫です」


 じゃあ、鑑定っと。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名称

 聖なる包丁

 説明

 聖なる力が宿った包丁

 刺さったなモノを浄化する効果がある

 品質

 400

 効果

 1.対象に刺さったら浄化の魔法が発動

 2.発動する浄化の魔法は極小である

 3.浄化の魔法の威力は込められた魔力に依存する

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 いつもの鑑定に比べて効果ってのが追加されているけど、紙に書いたそのままだった。

 これ成功でいいのかな?

 試してみないとわからないけど、効果ってちゃんと出てるし。


「ねぇ、ベル、これって……」


 振り返ってベルの方を見る。

 こころなしか、色が薄くなっているように思える。


「………」


 返事がない。

 前にもこんなことあったような?


「あれ? ベル?」


「……はっ!」


 おっ?


「いやー、今変な夢見ましてね。紙を入れただけなのに効果がそのままになっているナイフが……」


「いや、夢じゃないし、その反応もういいから」


 否定するためにナイフを手に取る。


「……わかりますか? マスターさん……」


「うん? なに?」


「私これでも、錬金術に関してはかなりの知識があるんですよ」


「だろうね?」


「その私が知らない方法があるって、初めて2日目程度の人に実証された時の気持ち」


 あー、うん。

 今までの固定概念をぶち破っちゃった感じ?


「とりあえず……詳しく教えて下さい! 頼みますから、どういう考えてどういう感じで付与したんですか! そこの辺のところ詳しく教えて下さい!」


 いや、そんな頼まれなくても話すけど?

 とりあえず、ベルにどういうイメージでやったのかを話すと、


「そんな簡単な考えで……」


 とうなだれるような感じになるのだった。


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