第15話 ご都合主義な世界

 神社についた。

 ミドリは、昨日の場所に着くと周りを見回し始めた。


「ハル? いるの?」


 おっと、声をかけられてしまった。

 じゃあ、返事をメールで……いや、周りには誰もいないし、念話の魔石を試してみようかな。


 アイテムリストから念話の魔石を取り出し握りしめる。


「ミドリ? 聞こえる?」


 ミドリは驚いたように周りを見る。


「ハル!? 声が聞こえるよ!?」


 問題なく、聞こえているみたいだ。

 ただ、ミドリはものすごい困惑している。


「落ち着いて。姿は見せれないけど、声を届ける手段を手に入れたの」


「な、なるほど?」


 昨日の今日で凄いね、とミドリがつぶやいている。

 しかし、ハルらしい、という評価はいかがなものかと思う。


「そういう魔法なの? ハル魔法を使えるようになったの?」


 ミドリが聞いてくる。

 目を輝かせているようにも見える。

 あー、うん。魔法とか好きだよね……


「魔法ではあるけど、私が使ってるわけじゃなくて、そういう魔法を持った魔石を使ってるの」


「魔石? そんなものもあるの?」


 私は、ミドリに念話の魔石について説明をする。

 すると、ミドリの目がよりいっそう輝き出した。


「魔法が使える魔石!? それって私でも使えるの!?」


 あー、どうなんだろ?

 確か、魔力自体は魔石に込められているんだっけ?

 試してみてもいいけど、


「後でもいいかな? 試してもらいたい気持ちはあるんだけど、先にカナちゃんの話とかしておかないと」


 ミドリが少し残念そうにする。

 が、納得したように頷く。


「そうだよね、うん。先にお互いの確認しようか」


 とりあえず、認識のすり合わせから始めることにした。

 私からは、ベルから聞いたこと。

 主に、カナの現在の状況とその解決策についての話をした。



「つまり、その聖水を作れればカナちゃんが助かるってこと? それでそのためには、聖属性の魔石の魔石が必要ってことね」


「うん。ひとまずそういうこと。でも、肝心な聖属性の魔石は聖属性の石が必要で、それを手に入れる目処は全然立ってない」


「そっか、確かに聞いてる限りだとまだ転移して2日目で森の中しか移動していないみたいだしね」


 そう。結局のところ、あっちの世界のことほとんどわかっていないのが辛いところ。

 ベルのおかげで色々な素材の知識とかは手に入るけど、どこで手に入るかはわからない。

 それに、そもそも、森の外どころか中すらも何があるのかわかっていない。


「森を出て異世界探索が優先かなぁ。聖属性ってことはなんか神聖っぽい場所にでもあるのかな?」


 神聖ってなんだろうね?


「神聖……、神聖な場所ね……ぱっと思いつくのは教会とか? ゲームなんかだと神官とかがいるようなイメージだし」


「教会ね。うーん、神様も概ね私の想像するゲームの世界みたいなって言ってたし、街に行けばありそうかも?」


「でも、ちゃんと準備はしておいたほうがいいよ。森の外がどうなってるかわからないし」


「あー、そうね」


 幸いにも、今いる拠点は安全だけど、そもそも転移してすぐにでっかい狼に追われたこともあるし。

 例えば森の外はあれがうじゃうじゃいるようなところだったら困る。


「何か武器とか作れないの? それこそ魔法とか」


「念話の魔石はさっき話したとおり、ベルの協力があって初めて作れたやつだからなぁ。それこそ街に行けば魔法の本とかあるのかもだけど……」


 出かけるのが危険だから準備するのに、出かけた先のものが必要とか、


「探知の能力を使って魔物から逃げ続ければなんとかなるかな?」


「アイテムとか敵の位置がわかるんだっけ? でも自分の見える範囲しかわからないってのはちょっと怖いね」


 そうなのだ。

 例えば、嗅覚が凄くてものすごい足が速い魔物がいたとして、先に魔物に見つかったら私には逃げる手段がない。

 ちょうど、あの狼みたいな魔物ね。

 あれから逃げられたのは、木をすり抜けられたからどうにかなっただけ。

 飛ぶような敵がいたら終わりだ。


「ねぇ、その探知の能力ってこっちでも使えるの? こっちにも錬金術に素材とかってないのかな?」


 あー、その考えはなかった。

 でも、確かにベルが服を鑑定した時に、羊毛とか言ってたっけ?

 だったら、多分こっちの世界の羊毛も使えるんだろうとは思う。


「ほら、それにちょうどここ神社だし、神聖な場所って気はしない?」


 確かに、教会とはちょっとイメージ違うけど、日本で言えば神社は神聖な場所であることは間違いないか。

 まぁ、駄目で元々だけど、試してみようか。


「ちょっと使ってみるね」


 探知スキルを使ってみる。

 とたん、目がおかしくなったように、世界が暗くなった。

 うん!?

 私目はつぶってないよ!?

 目をこすってみるけど、変わっていない。


 よくよく地面を見てみると、地面はもともとの色のままで生えている草が黒い雲をまとっている感じだ。

 これはこの草が素材ってこと?

 えっと、黒素材ってことは、あれ? 一番いいやつじゃなかった?

 神龍の舌と同じくらいのレア度とか言ってなかったっけ?

 それがそこら中にあるんだけど?


「ハル? どう? 素材として使えそうなやつあった?」


 ミドリの声に我に帰った。

 目が疲れるため、一度探知スキルを切る。


「ミドリ……、あるにはあるんだけど……」


「何? 素材として駄目ってこと?」


「その逆で……」


 黒色の素材について説明をする。

 周りがそれだらけなことも。


「なるほど? うーん、この世界の素材はレアなものが多いってこと?」


「そうみたい。多分、これ持ち帰って作れば、錬金術としても相当役に立つと思う」


「やったじゃん! だったら、こっちで素材探したりもできるよ! ほらこの石とかどう?」


 ミドリが石を手に持つ。

 私は、それをつまんでみる。

 急に消えたことで、「わわっ」っとミドリが一瞬慌てていた。


 石、どこからどう見てもなんの変哲もない石。

 今度は鑑定スキルを使ってみる。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 名称

 石(聖)

 説明

 石

 神聖な場所に長く在るため聖属性が染み付いた

 品質

 256

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うな? ご都合主義な……」


 目の前の結果が信じられず思わずつぶやいてしまった。

 ツッコミどころはたくさんあるけれど、それ以上に今の状況が出来すぎていて、ありえない。


 いや、確かにね。

 神聖な場所だしって期待はあったよ?

 でも、それで本当に目的の物が手に入るとは思わないじゃない?

 小説とかだったら何かの意思を感じるところ。

 だが、私にとってこの現実は現実だ。


「ハル? どうかしたの?」


 さっきの私のつぶやきが聞こえていたような感じだ。

 でも、なんて説明したらいいんだろう?


「あー、うん。とりあえず、この石を使えば聖水作れるかも……」


 私は、自分自身信じられないままミドリに説明をした。


「ほんとに!?」


 ミドリは単純に喜んでいる様子。

 まぁ、現実にある以上、疑ってもしょうがないよね。


「うん。根本的な解決にはならないけど、一歩は進んだ感じかな」


 帰ったら早速作ってみることにしようかな。

 あとは、私がカナに接触できればどうにかなるかな。

 声は念話の魔石で届けられるようになったわけだけど、できれば姿まで見せられるようになりたい。

 仮に声だけで失敗したら取り返しがつかないし、できるだけ確実にしておきたいね。

 幸いにもヒーリングポーションで時間は稼げているみたいだしね。

 焦りは禁物。



 なにはともあれ、大きな問題が一つ解決したことで安心はできた。

 それに、こっちの世界の素材が使えそうってわかったのも大きな利点だ。


「こっちの世界で色々と素材を集めて向うで錬金するっていうのが良さそうかな。こっちのは軒並み性能がいいみたいだし」


 他の素材も調べつつミドリと話す。


「でも、なんでこんなに品質に違いがあるんだろう?」


 そもそも、ベルは品質の最高100とか言ってなかったっけ?

 平気でそれを超えているんだけど。


「うーん、推測だけど、世界の発展レベルの違いとか?」


 世界の発展レベル?


「どういうこと?」


「あー、これは推測でしかないんだけどね? ハルが転移した世界とこの世界とだと、こっちの世界の方が歴史とかが長いんじゃないかなって?」


 この世界の歴史。

 地球ができてから46億年だっけ?

 世界って言うとまた違うのかもだけど。


「そう、世界だって歴史が長くなっていくと進化していくんじゃないかなってことよ」


 あー、そういうこと?

 例えば、星にレベルみたいのがあるとして、地球は46億年のレベルになる。

 そのため、地球からできた素材とかもそれに引っ張られて46億年のレベルになってる。

 あっちの世界はもしかしたらそこまでの歴史はないのかもってことね。

 なるほどね、なるほど?

 正しいかどうかは別としてミドリの言いたいことはわかった。


「まぁ、ほんとに推測でしかないんだけどね」


 ミドリが重ねるように付け足す。

 でも、それだったら品質の違いは納得できる。


「よくそんなこと思いついたね。少なくとも私じゃ思いつかないよ」


 私がそういうと、ミドリは照れたように笑う。


「昨日ハルが、異世界に転移したって聞いて、そういうテーマの小説を色々と読んだから」


 世界のレベルの話もその中で見つけたものとのこと。


「あー、そういえば、さっきもWeb小説読んでたね」


 あれもそれの一つだったのか。


「ハル……さっきも……って言った? ひょっとして見てたの?」


 あ、口が滑った。

 口じゃなくて思考だけど。


「ハル……、いつから私を見ていたのかちょっと話してみようか」


 ミドリの顔が赤黒くなってる。

 照れつつも闇のオーラをまとってる感じ?

 なんて考えてる場合じゃない。

 もう素直に話そう。


 結局のところ、後ろから覗き込むのは趣味が悪いとお説教をくらい。

 恥ずかしいから今後はやめてくれとの、脅は……お願いをされるのだった。


 後に黒歴史カナにバラすとか言われたら……ねぇ?

 黒歴史の内容?

 少なくとも私はオボエテナイカナー。


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