第11話 魔物?

 やること決まったのはいいけど、


「さすがにこの間みたいなのに追いかけ回されるのはなぁ……」


 あの大きな狼みたいなやつ。

 正直、生きた心地しなかった。

 生きてないけど。


「あれは流石に特殊な例です。あんな魔物がそこらにいるようではこの世界の人間は既に滅亡しているはずです」


 あー、たしかに、あれが平均だったらそれはやばい世界だよね。

 どうやら、最初からとんでもないのを引き当てたようだ。


「普通はもっと小さいです。マスターさんの想像する狼くらいかと」


 でも、通常サイズの狼ね……

 それでも勝てなくない?

 それに、


「その特殊な例の魔物が近くにいるってことは変わりないじゃない?」


 たまたま出くわしたとかじゃない限り、近くにねぐらでもありそうな感じじゃないのかな?


「ねぐらがあるかどうかはわかりませんが、素材採取にあたって便利な能力が指輪に備わっています」


 指輪って収納できるだけじゃないの?

 それだけでも十分凄いけど。


「素材採取に必要な能力、それは、"探知"と"鑑定"です!」


 探知と鑑定?

 いや、言葉の意味はわかるけど。


「どういう能力なの?」


「ひとまず、探知について説明しましょうか」


 鑑定は後でとのこと。

 曰く、そのほうが都合がいいとのこと。

 まぁ、どちらかと言えば想像がつかないは探知の方だし、異論はない。


「探知は、周囲の状況を把握するための能力になります。これを使うことによって、周囲の素材などが見えるようになります」


「見える? ってどういうこと? イマイチ想像がつかないんだけど」


「要するに、周囲にある素材が光って見えると思っていただければわかりやすいかと」


 あー、なるほど。スクリーンみたいのが現れるような感じじゃなく、直接目にガイドが入るような感じかな。

 あっちの世界で言うと、ARみたいなやつかな?

 もっとも、あっちだとメガネ型デバイスが発売したりしなかったりしてるけど。


「さらに、その光は壁などに遮られても透けて見えます」


 おっ? それはちょっと凄いかも。

 どういう感じなんだろう?


「と、ここまで説明しましたが、実際に使っていただくのが一番わかりやすいかと」


 それはそうだね。


「どう使うの?」


「収納の魔法と同じですよ。指輪に魔力を込めていただくだけです」


 なるほど?

 あれ?


「指輪に魔力を込めるとリストみたいのが現れたよね。それが出るんじゃないの?」


「すみません、ちょっと足りてませんでした。魔力を込めていただくのですが、その際に”探知を使う”と意識をして魔力を込めてください。それで使えます」


 なるほど。


「つまり、何も意識してない時は、リストが開いて、能力を意識していると、そっちが発動するってことね」


 理解した。


「補足をすると、"リストを開く"とか"〇〇を取り出す"とか意識していただくとその効果が出ますよ」


「あのリスト開かなくてもいいんだ。それは便利かも。収納した物を覚えておけばいちいちリスト開く必要ないってことね」


「そのとおりです。それで、」


 おっと、話がそれてしまった。


「"探知を使う"ね。やってみる」


 指輪に探知を使うという思いを込めてみる。

 イメージとしては、指輪に向かって思いを飛ばすような感じ。


 すると、指輪が青く光った。

 目をつぶるほどじゃないけど、結構な光量。

 しかし、すぐに消えた。


 が、その変化はすぐに現れた。


「なんか、壁に草の形の雲みたいなのが見える!」


 壁があるはずの場所、そこに白く草の形をした雲みたいなものが映っている。

 確かに壁はあるはずなんだけど、影絵のようにそこに霧が映ってるような奇妙な感じだ。


「それが素材ですね。おそらく薬草でも生えているのではないかと」


 なるほど、これが見えるってことか。

 壁も見えるってことは、直接だとオーラみたいな感じなのかな?


 あれ? でも、


「別の方には、青い雲みたいなのが見えるよ?」


 なんだろう、形からすると、これも草みたいに見えるけど。


「色はその素材の珍しさを表しています。白が一番低レベルで、緑はその次ですね」


 ふーん、なるほど。


「ちなみに、どういう風に続いていくの?」


「白、緑に続き、青、紫、銀色、金色、黒という感じに続きます。後ろに行くに連れて希少と思っていただければ」


 レア度ってやつかな? 結構な段階あるんだね。


「ちなみに、黒ってどんなやつなの?」


「黒は神龍の舌とかですね」


「うん。神龍とかいることにまず驚きだけど、相当な珍しさなのはわかった」


「ようするに、世界でもそれ一つしかなくて、素材力も凄いものが黒ランクと思っていただければ」


「把握した」


 それで、白と青の草ってことは大したやつじゃないのかな?


「おそらく、どちらも薬草ではないかと。同じ素材でも、品質に応じて色が変わったりするので」


「そういうこともあるんだ。じゃあ、パッと見じゃわからないのね」


 言いつつ、周りを見回してみる。

 所々に草っぽいもやもやが見える。

 どのくらいの範囲見えてるのかわからないけど、遠くにあるのほど小さく見えるのは、普通の視界と一緒かな?


 うん?


「なんか今動いた?」


 白いもやもやみたいなやつが動いた。

 形も草みたいなやつではなく丸っぽかった。


「うん。やっぱりなんか動いてるよ! 草が風に揺られてるって感じじゃない。なんか生き物が移動してる感じ!」


 私が言うと、ベルが聞いてくる。


「ひょっとして、赤く枠線みたいなやつがないですか?」


 言われて見てみると。


「うん。ある」


 少し小さくて分かりづらいけど、たしかにある。


「それがこの探知の凄いところです。実は、魔物も素材として見ることができるのです」


「じゃあ、これ魔物ってこと!?」


「おそらく、どういう形ですか?」


「えっと、赤い線で囲ってある白くて丸いのが伸びたり縮んだりして動いてる感じ?」


 私が言うと、ベルは「あー」と納得したような感じだった。


「それはおそらくスライムでしょう」


「スライム!」


 色んなゲームに出てくる魔物か!


「お察しの通り、凄く弱いです」


「やっぱり雑魚モンスターなんだね」


「普通のスライムですし、そんなものかと。それはそうと、探知についてはご理解いただけましたか?」


 大体わかった気がする。


「素材と魔物が壁とかを貫通して見えるってことね。レア度によって色が変わって、あと、魔物は赤く枠線がある」


「そのとおりです。それで魔物を探しつつ、倒しつつ、逃げつつ、素材を採取していただければと」


「了解。これは便利ね。ヤバそうな魔物いたら遠くから見つけて逃げられるもの」


 もう一度、周りを見回して見ても近くの魔物はさっきのスライムっぽいやつだけだった。


「ねぇ、スライムってどんな魔物?」


 子供でも倒せるってことは、私でも問題ないでしょ。


「スライムはいろいろな物を取り込んで溶かす魔物です。もちろん、人間を溶かす程の力はありまんせんが、生き物の死体とかを片付けるので、自然の掃除屋さんみたいな生き物です」


 なるほど、自然の循環には必要な生物であることはわかった。


「じゃあ、倒さないほうがいい? 魔石目当てに倒すつもりだったんだけど」


「あ、いえ、倒しちゃって大丈夫ですよ。たくさんいるので一匹くらい全く問題ないです。それに全滅してもどこからともなく現れますし」


 なら、問題ないか。


「簡単な倒し方とかある?」


「スライムは、魔法で消滅させるか、もしくは魔石が見えているのでそれを破壊すれば倒せます。手で直接握りつぶすか、賢者の杖で思いっきり叩けばいいでしょう」


「えっ? でも魔石残したいんだけど?」


「錬金術を使えば、魔石のかけらから魔石に戻すことできますので、大丈夫かと。スライムは弱いですが、魔石を潰さないとなると魔法を使うしかないので」


 なるほど、結構面倒なんだな。

 スライム見てみないとなんとも言えないけど、私の想像するようなスライムだったら手を突っ込むのは嫌だなぁ。


 それじゃあ、杖を出してっと。


「とりあえず、行ってくる」


「いってらっしゃ~い」


 見送られて部屋を出た。

 ついつい玄関を回ってしまうのは癖だね。

 すり抜けるのはわかってるんだけど、なんか違和感があるし。


 家を出て真っ直ぐにスライムがいる方角へ向かう。

 幸いにも玄関の方からまっすぐに行った木の木陰にそれはいた。


 青色のゼリー状の物体。

 楕円形の形で、長い方は30センチくらいかな?

 それが伸びたり縮んだりしながら動いている。

 目はないし、口もなさそう。


 スライムは少し大きめの石の上に乗っかるとそれを自分の体内に入れ、動かなくなった。

 なんだろう? 食事かな?

 どうやら食べている最中は動かなくなるみたいだ。


 確かに弱そう。

 前に見た狼は見るだけでも、もう怖かったのに、これはそういう感じはまったくない。

 逆にちょっと可愛いくらいだ。

 ペットにしたらいい感じかも?


 っていけないいけない。

 これから倒す魔物に感情移入とかしてはいけない。


 私は意を決して、杖を構えてスライムに近寄る。

 宝石とかが付いている重い方をスライムに向ける感じ。

 近寄ってわかったけど、スライムの中心のあたりに赤い宝石みたいなやつが見える。

 多分、これが魔石かな?


 これを叩けって言ってたっけ?


「なんか可愛そうな気がするけど……、えいやっ!」


 私は、杖を振り上げ思いっきり赤い宝石に叩きつけた。

 始めは感触はあまりなかった。

 例えるなら、水の中を動かすような感じ。

 そこから硬いものを叩いたが手に伝わってきた。


 ガキンッ!


 どうやら杖に押されて地面に魔石が当たったみたいだ。

 思いっきり叩いたけど、手にしびれはない。


 杖を上げてみると、魔石は割れて半分になっていた。


「これでいいのかな?」


 スライムはさっきと同じで動く気配はない。

 でも、さっきよりも張りがなくなってるような気がする。


「えっと、魔石の回収……」


 いや、もうこのまま持っていってベルに見せたほうがいいかも?

 なんかの素材になるかもしれないし。

 それに、大丈夫って言ってたけど、あんまり手を突っ込みたくないし、できるだけ触りたくない。

 なんかぬるぬるしてそうだし……


 収納を使う。

 リストを見ると、スライムの死骸、というものが追加されていた。

 無事に倒せたみたいだ。


 それじゃあ、戻ってベルに見せようか。

 帰りがけに、家の中で見かけた草を採取しつつ、私は家の中に戻った。


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