第10話 幽霊って何?
陽の光で目が覚めた。
夜は暗かったし眠かったからよく見なかったけど、窓があったらしい。
おかげで顔に直接陽の光を浴びてしまい、目が開いた瞬間目が眩んでしまった。
まぁ、そのせいで一気に意識が覚醒したけれども。
なんとか気を取り直してベッドから出る。
今何時だろう?
時計を探そうとして、ここが家じゃないことを思い出す。
あー、そうか私死んだんだっけ?
夢であってくれたらなぁなんて、思っていたわけではないけど。
こうして、こっちの世界で起きてしまうと、やっぱり今までの夢じゃなかったんだなぁと突きつけられた気分だ。
「しかし、ということは、あっちの世界に戻ったのも夢じゃないはずなんで、無事に行き来できたのはいいことかな?」
自分を納得させるよう、あえて声に出してみた。
うん。気を取り直そう。
落ち込んでる暇などない。
今できることをやらないと。
それはそうと、今ほんとに何時なんだろう?
窓から外を見てみると、太陽は真上に登っていた。
異世界にも太陽とかあるんだ……
まぁ、神様もゲームみたいな世界とかなんだか言ってたし、そういうことなんだと思っておこう。
太陽が真上ってことは、正午くらい?
うん? 朝じゃない……?
帰ってきたのが何時くらいだったかはしらないけれど、結構な時間寝てたことになるのかな?
あっち行ったときはまだ暗かったし、きっと夜だったとは思うんだけど、あっちでは昼間だったし、時間のズレがあるのかな?
こんなことなら時計持ってくるんだった。
時計……時計?
あ、そうか、私携帯持って帰ってきたんだっけ。
だったら、それで時間わかるじゃん。
すぐに指輪から携帯電話を取り出してみる。
無事にリストにあったし、取り出せた。
携帯電話の電源をつけて、時計を見ると……
14時になっていた。
「あれ? あっちから帰った時見たのがそのくらいじゃなかったかな?」
携帯の電池もまだ減ってない?
普通、何もしなくても待機電力で1%くらいは減ってるはずなんだけど。
ひょっとして、収納してる時って時間止まってたりするの?
そのあたり、あとでベルに確認しとこう。
とは言っても、電池は残り少ない。
念のため、携帯電話を切ってから、指輪に収納する。
さて、今日も行動開始するとしようか。
まずはベルに色々と相談かな。
私は、伸びをしながら部屋を出た。
ベルは昨日私が部屋を出たときと同じように佇んでいた。
クリスタルだし、寝るとか休むって概念ないのかも?
「おはよう。ベル」
とりあえず、声をかけてみる。
「……」
返事は帰ってこなかった。
「あれ? ベル?」
「……ぐぅ」
寝てるのかよ!
ベルが起動するまでに、何度も声をかける必要があった。
「いやぁ、すみませんね。久々の起動だったもので、疲労でも溜まってたんですかね」
「ていうか、ベルって寝るんだね……、そこに驚いたよ」
「寝る必要はないのかもしれませんが、ずっと起きてるのも疲れますし、魔力の無駄ですからね」
まぁ、たしかに、夜中に一人でずっと起きててもやることないのはわかる。
というか、考えてみたら私も似たようなもんか……
私だって体疲れてるわけでもないのに、寝てたもんね……
「あ、そうだ。マスターさん」
自分の存在を振り返っていると、ベルが声をかけてくる。
「今日は大丈夫ですが、何日かに一回でいいので私に魔力もらえますか? 多分、10日に1回くらいでいいので」
なにそれ? 充電?
「自己回復機能は残念ながらワタシには備わっていないので、誰かから供給していただく必要があるんですよ」
最初にやったときみたいに与えればいいのかな?
まぁ、それくらいなら。
「いいよ。欲しくなったら言って」
「ありがとうございます。ワタシもできるだけ節約しますので」
節約とかできるんだなぁ……
なんか携帯電話みたいと思ったのは秘密だ。
「そうだ、それでベルに相談したいことがあるんだけど」
「なんですか?」
私は、昨日の夜、向うの世界に戻ったときの話をする。
妹の状況、ミドリの状況。
向うでの指輪の動作など、割と事細かく話したつもりだ。
「ふむ、ワタシ的にはその携帯電話とやらが気になりますが」
「いや、それは後で見せるから、それよりも……」
「ええ、わかっています。妹さんのことですよね」
「うん。何かわかる?」
「えっとですね……」
ベルは少し黙って何か考えている様子だった。
「はい。おそらくですが、妹さんは悪霊に取り憑かれているものと思われます」
なんか、とんでもないこと言い出した。
悪霊?
「そんなのいるの?」
つい聞いてしまった。が、
「マスターさんだって幽霊じゃないですか」
完璧な回答で返されてしまった。
うん。忘れてたわけじゃないけど、そうだよね……
いや、でも、
「私はこの世界に来るから幽霊になったんじゃないの?」
「いえ、別にそういうことではないですよ? 確かに、この世界は魔力が漂っていますから、幽霊、アンデッドが生まれやすいという環境ではありますが」
「ますが?」
「どんな生物でも生まれ持って魔力を持っています。生きるのに必要ですからね。マスターさんの世界でも一緒です」
「それじゃあ、地球人も皆魔法を使えるってこと!?」
「いえ、生まれ持っている量は様々ですが、魔力が漂っていない世界ですとおそらく魔法が使えるほど量にはまずならないのかと」
「なるほど?」
「逆に魔力が漂っている世界ですと、魔力は回復することができますから、使えば使うほど内包する魔力は増えていきます」
「あっちだと存在自体はあるけど、使い切ったら回復しないし育たないから、実質ないようなものってことね」
「そう、ただし、例外があります。それが幽霊です」
「なんとなく、話は読めてきた気がする……けど、続けて」
「マスターさん、ほんと理解早いですよね……」
ふぅっと息を吐くベル。
息出てないけど。
「続けますね。生まれ持って、他の人より魔力を持っている生物がいます。それが死んだ時、その魔力は意識とともに、体から開放されます」
「それが幽霊?」
「はい。その理解で正しいです。ただし、この状態ではすぐに魔力がなくなってしまいます。意識を存在させるだけで魔力を消費してしまいますしね」
「それじゃあ、向うの世界が幽霊で溢れているってわけでもないのね」
「魔力がなくなると、意識ごと消えてしまいます。そのまま、どうなるかは……、一般的に知られていません」
「きっと、神様の元に行くんだろね。生まれ変わりになるんでしょきっと」
「マスターさんの記憶の通りですとそうなんでしょうね。それだけでもすごい発見なんですが……」
「いや、それはいいからさ。幽霊の続き」
若干、脱線気味になったのを軌道修正する。
「はい。つまり、幽霊が意識を存続させるためには魔力をどこかから調達する必要があるわけです」
「どこか……ね……」
「そもそも、普通は魔力なんてものは知りません。だから普通は消えるはずなんです。ただ、例えば何人もの人が一度になくなる事故があったとします」
「……」
「もしも、その中に一際大きい魔力を持つ特別な人間がいたとして、それが『生きたい!』と強く願ったとします」
「うん」
「そうすると、その大きな魔力は他の魔力を自分の元に吸収します」
「太陽みたいね……、いや、引っ張るってところだけだけど」
「大量の魔力を吸った大きな魔力と意識は簡単に消えなくなります。そして。その意識は学びます。他の人の魔力を吸い取れば自分はまだ存在できる……と」
「でもさ、それって混ざり合っちゃったりしないの? ほら、他の人の意識が、とか」
「混ざりますね。元となる意識が強くはありますが、他の意識と混ざり合ってごちゃごちゃになるはずです。そうなると、元の意識も元通りではないでしょう」
「なんかそれもう人間の意識じゃないみたいね」
「そのとおりです。それはもう、生きたいという願いを持った、他の人から魔力を吸い取るだけの化け物になります」
「魔力を吸い取るだけの化け物……つまり、それが」
「悪霊ということです」
途中で予想した通りではあったけれど。
改めて言われるとクるものがあるなぁ……
悪霊の起源なんて考えたこともなかったのに。
「悪霊は人の意識を吸い取るために行動します」
「カナについているのもそれで?」
「はい。おそらく妹さんの魔力を奪い取ろうとしているのではないかと」
「それってまずいよね……」
「まずいですね。先程も言いましたが、魔力は生きるために必要ですから」
「魔力を全部奪い取られたらどうなるの?」
「それは……」
ベルは答えない。
その反応でわかった。
もういいや。
とりあえず、このままだととんでもないことになる。
これだけわかってれいればいい。
冷静になろう。
慌てちゃ駄目だ。
こういうときこそ落ち着いて考えるべき。
「で、なんとかする方法はあるの? ちなみに、私全然、カナに触れようとしたら全然近づけなかったんだけど」
「人についた悪霊は、引き剥がせれば退治は簡単なんですが……」
「無理矢理引き剥がせないの?」
「聞いた限りだと、もう既に混じり始めてしまっている状態ですので、そう簡単には……」
ベルの口調が詰まる。
「なるほど……」
焦らない。焦らない。
「混じっているって言ったよね? その状態を解決する方法は?」
「意識とは絵の具のようなものでして、赤色と青色を混ぜて紫色になったものを、分離しろと言われても難しいでしょ?」
わかりやすく絶望状態なことがわかった。
でも、意識を色で例えられるとなんか若干イラっとした。
「詰んでないよね?」
「普通だったら詰んでいます。このまま、意識が弱っていくだけです」
「普通だったら?」
「はい。ですが、ここには普通じゃない、錬金術を使えるマスターさんがいます」
つまり、
「錬金術でなんとかできるってこと!?」
「はい。悪霊に効く聖水を使えば悪霊だけを倒すことができます」
「聖水? それどうやって作るの!?」
「聖水は聖属性の魔石と水で作れます」
「聖属性の魔石?」
「はい。魔石というのは言葉のとおりですね。魔力を持った石です。聖属性の魔石は聖の属性ですね」
そのまんまだ。
だが、肝心な情報がない。
「で、それがどこで手に入るかは?」
「残念ながら、ワタシにはわかりません」
「それじゃあ駄目じゃない!」
いくら錬金術で作ることができても、素材がなければ作れない。
「この世界にあることは間違いないのですが……」
「それをのんきに探してる時間はないでしょ?」
「はい……、ですが、そこでヒーリングポーションです」
「はぁ?」
イマイチ話がつながらない。
「昨日もお話した通り、ヒーリングポーションは体を回復する効果、それに元気がでる効果があります」
「うん。それは試したからわかるけど」
「悪霊というのは、弱った人に取り憑き、人の意識を弱らせていきます。取り込んでいくという言い方のが正しいですが」
「それで?」
「ヒーリングポーションの元気の出る効果というのは、その意識を活性化することができます」
「つまり、悪霊が弱らせたのを回復することができるってこと?」
「そのとおりです!」
なるほど。
「じゃあ、昨日、はからずもミドリに渡したのは英断だったってことね……」
「そうですね……、話を聞いた限りだと、結構まずい状況だったと思います。ヒーリングポーションによって、それが回復してくれるはずです」
「じゃあ、次行ったら触れたりする?」
「そこまでにはならないのではないかと。あくまでもヒーリングポーションは弱りきったのを回復してくれるだけです。根本を除去しないといけません。先にそちらですね。」
やっぱり、そこに帰着するのか……
カナの負の感情の原因。
私が死んだということ、それをなんとか解決しなければならない。
やるべきことはわかった。
1.私が死んで悲しんでいる状況を解決
2.聖水を作って悪霊を退治
この2つ。
どっちも難題だけど、やることがはっきりしているだけましだ。
あとはそれに向けて情報収集をしていくだけ。
さしあたっては、聖属性の魔石を探しつつ、私の状況をなんとかカナに伝える方法を考えるってことね。
そのためには、姿……最低限声をなんとか届けられればいいんだけど。
あれ? そういえば、最初にベルと話した時、なんか言ってなかったっけ?
「ねぇベル。そういえば、あなたと私って実際には会話しているわけじゃないのよね?」
「はい。念話の魔法を使って、ワタシの意思をマスターさんに伝えています」
念話の魔法……念話の魔法か……
「それって私も使えるの?」
「うーん、難易度はさほど高くないので使えるとは思うのですが……」
「ですが?」
「残念ながら、ワタシは教えることができませんので」
「なんで? 使えるんでしょ?」
「ワタシにはその能力が備えられたというだけで、教えられたわけではないので……」
あー、なるほどね。
「元からある機能を使ってるだけでどうやって使えるようになったかは知らないってことね」
「そんな感じです」
じゃあ、駄目か……いい案だと思ったんだけどなぁ。
「ですが、念話の魔法を備えた魔石を作れば、マスターさんにも使えます」
念話の魔法の……魔石?
「そんなピンポイントのもの作れるの?」
「はい。要するに魔法を備えた石ですので、ワタシがその魔法を込めれば作れますよ」
なるほど、なるほど。
「じゃあ、作ろう。それで、何が必要なの? 手に入るの?」
悩むまでもなく即決した。
必要なものはすぐに作る。すぐ行動。
これに限る。
ただ、さっきもあったけど、素材がなければ作れない。
「念話の魔石を作るレシピは……魔石があれば大丈夫です。それにワタシが魔法を込めます。魔石も手に入れ方はわかりやすいですよ」
「わかりやすい? ってどういうこと」
「魔石は魔物から入手することができます」
つまり、
「魔物を倒せば魔石は手に入ります」
次にやることが決まった。
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