第9話 複製魔法

 ベルで思い出した。

 そういえば、指輪の機能ってこっちでも使えるのかな?


 あまりにも違和感なく、指に収まってたから忘れてたけど、寝るときもそのままにしちゃってた。

 そのまま、複製の魔法で自分ごと複製しちゃったのかな?


『さっき話した、指輪を使ってみるから待ってて』


 一応、ミドリに声をかけておく。

 何も返さないで急に消えたって思われても嫌だからね。

 ミドリは、「なにするの?」と言ってるけど、その返事は後でいいや。


 確か、ものを収納したり、出したりできる。

 えっと、まずは指輪に魔力を込めて、一覧を出して。


 指輪に意識を集中する。

 おっ?


 前と同じように透明なディスプレイが出てきた。


 賢者の杖 |1

 ヒーリングポーション | 1


 となっている。

 取り出すなら、ヒーリングポーションのほうかなぁ。

 それで、念じればいいんだっけ。


 ヒーリングポーションを取り出して手に持つ。


 念じてみたら、光がディスプレイから出てきて、手の中に収まる。

 光が収まると私の手にはヒーリングポーションが握られていた。

 手は握ってたんだけど、実体化した途端それに押されたような感じだった。


 うん。無事に指輪から物を取り出せたね。

 これってミドリにも見えるんだろうか?

 あっちの世界のものは見えないとか制限ありそうなもんだけど。


 試しに、地面に置いてみる。


『今、地面にポーション置いたんだけど、見える?』


 私のメールを見て、ミドリは下を向く。


「なんかガラス瓶っぽいやつが見えるね!」


 あら? ちゃんと見えるらしい。

 別に制限はなかったようだ。

 ってことは、あっちのものはこっちに持って気放題ってことかな。

 こっちからすると珍しいものだらけの気もするけど。


『ちなみに、それって持てる?』


 ミドリが手を伸ばして、瓶をつかむ。


「持てるね。これは何?」


 ちゃんと持ててるみたいだ。


『それは、私が初めて錬金術で作ったヒーリングポーションだよ』


 あ、そういえば、ミドリも隈があるし、疲れてそうだね。


『飲んでいいよ。話によると、体力が回復するらしいよ』


「えっ? これ飲むの? 確かに緑色で綺麗ではあるけど。……大丈夫なの?」


『まぁまぁ、飲み薬みたいなもんだよ。それに、原料を考えると危険はことはないだろうし』


「でも、貴重なんじゃ……」


『まぁ、また作ればいいんだし、きっと大丈夫だよ』


 私のメールを見て、ミドリは何やら考え込んでる。

 そんなに不安なのかな?

 成分は水と薬草のはず。

 薬草が何かわからないけど、まぁ、薬草ってくらいだからきっと大丈夫だと思うんだけど。


「ねぇ、ハル?」


 考え込んでいたミドリが顔を上げる。

 なんだろ?


「これに複製の魔法かけられたりしないかな?」


 うん?

 うーん、なるほど、たしかに、それができればこれがもう一つできるはず。

 やってみるのも面白いかも?


「大変じゃなかったら試してみてほしい」


 ミドリが地面にポーションを置いた。

 ものに複製をかけるのは初めてだけど、きっと私を複製したときと同じでいけるよね?

 ポーションに意識とかはないから、半分以上とか意識する必要はないし。


『試してみるね』


 メールを送り、ヒーリングポーションに手をかざす。

 イメージとしては、隣にもう一つ同じやつがあるような感じ。

 うん。大丈夫。

 それじゃあ、


「複製」


 私の言葉とともに、ヒーリングポーションが揺らぎ、半透明なポーションが出てきた。

 それはそのまま、横にスライドしていきイメージした場所に来ると、半透明だったのが透けなくなる。

 結果、同じポーションが2つ並んだ。


「2つに増えた! これが魔法!?」


 どうやらミドリにも同じ光景が見えていたのかな?


「忍者の分身みたい!」


 あー、その例えしっくり来た。

 確かに、忍者の分身の術ってこんなイメージかも。

 なんて考えていたけど、今度は急に私の視界が揺らいだ。


 あれ?

 と思ったけど、すぐに治った。


 もしかして、今ふらついたのかな?

 なんだろう、私の存在そのものが少し薄くなったような感じがする。

 私……あ、ひょっとして魔力が少なくなってるとか?

 今の私って魔力そのものみたいなものだし、それが減ってくると、あっちに戻されそうになるのかも。

 それで今の視界の揺らぎか。

 推測でしかないけど、きっと当たってる気がする。

 確か維持してるだけでも魔力消費するんだっけ?

 そう考えると、もう、あんまり時間ないのかも?


 今起こったことをミドリに伝える。

 あんまり心配をかけたくないから、そろそろあっちに引き戻されるかも? ということだけ。


 ミドリはそれでも心配そうに、そして残念そうにしている。


『まぁまぁ、きっとまたすぐに来るから。それより、この複製したポーション飲んでみてよ』


 ミドリの心配を打ち消すように私は言った。

 あんまり時間はなさそうだけど、とりあえず、ポーションの効果だけは確認しておきたい。


 ミドリは戸惑っていたけど、地面にあるポーションを持つ。

 複製したほうだった。

 目が泳いでいたけど、ミドリは意を決したように、瓶の蓋を開け、口をつける。

 瓶が傾き、ミドリの口に液体が入る。


「うん!?」


 ミドリが声を上げた。

 なに? まずかった!?


「おいしい! なんかほのかに甘い!」


 どうやら大丈夫だった様子。

 甘いんだ。


 ごくっごくっ


 とミドリが液体を飲んでいく。

 止まらない。

 もしかしてそんなに美味しいの?

 私も飲んでみたいな。


「ぷはーっ、美味しかったよ!」


 ついに、一度も手を下ろすことなく飲みきってしまった。

 ミドリを見ていると、すぅっとミドリの顔が変化した。

 うん? 隈が消えた!

 それに肌にも張りが出てる!

 そんなにすぐに効果が出るものなの?

 逆に不安になるよ。


『隈が消えたね。体調はどう?』


 ミドリに聞いてみる。


「なんかすごい元気が出てきた!」


 ミドリから生のオーラが溢れている。

 ミドリはどちらかというとインドア派のはずなんだけど、この活力。

 結構な効果がありそうだけど、ドーピングとかではないから副作用はないはず。

 こんなに効果あるなら、ひょっとしてカナにも効果があるんじゃないかな?

 せっかく複製の魔法で増やしたんだから、これうまく活用できないだろうか。


『もう一本の方をなんとかカナに飲ませられないかな?』


 ミドリはもう一本に目を向ける。


「確かに、これだったらカナちゃんも元気だしてくれるかも知れないね。うーん、料理に混ぜる……とかならひょっとしたらできるかも知れない」


 ほんと?

 だったら、試してみて欲しい。


『それじゃあ、お願い』


「うん。任せて。あ、でも……」


 うん?


「もう一本ないかな? 複製品でいいんだけど。できればもう一回味わいたいんだけど……」


 中毒性!?

 いや、それだけ美味しかったんだと思いたい。

 だが、残念ながら、それは厳しそう。


『もうそろそろ、魔力が尽きそうなので無理』


 残念そうな顔をするミドリ。

 まぁ、またあっちで作ってきて渡してあげよう。



 本格的に魔力が尽きそうだ。

 なくなっても戻されるだけだろうけど、やっぱり怖いので自主的に戻っておきたい。


『そろそろ、あっちに戻るよ』


 メールで、ミドリに伝える。

 ミドリは悲しそうにしている。


『でも、また明日も来るから。安心して』


「ほんと! 待ってるからな絶対だぞ!」


 嬉しそうにしているミドリを見つつ、帰る準備をする。

 とは言っても、せいぜい、この携帯電話をしまうことくらいか。

 充電……は、結構やばいかも?

 なんとかして充電したいけど、まぁ、明日考えよう。

 携帯電話の電源を切っておく。


 こっちの物を収納できるか不安ではあったけど、まぁ、向うの物を出せるくらいだし、制限はないみたいだ。

 無事に、携帯電話を指輪に収納する。


 おっと、ついでだから、さっきむしった草も持って帰っておくか。

 なんかの錬金術の素材に使えるかもだし、ベルにこっちの素材持ってくるように頼まれているしね。


 最後にミドリに伝え……メールは携帯閉まっちゃたし無理か。


『また、明日』


 地面書く。

 ミドリがその文字を見たのを確認して、私は目をつぶって向うに戻る意識をする。

 薄れていく意識の中で、ミドリの声が聞こえた。


「また、明日」


 意識は溶けるように消えた。



 どこからからか浮上するような感覚とともに、私は目を開いた。

 暗くてよくわからないけど、横になっていることを考えると、無事に異世界の方に戻ってきたらしい。


 なんとなくだけど、ちょっと体がだるい気がする。

 これは、さっきと同じように魔力が少なくなってる感覚かな?

 確かに、向うに行くために結構な魔力を複製の方に与えちゃったし、こっちの方は残り少ないのかも。


 まぁ、きっと寝れば回復するでしょ。

 ちょうど横になっていることだし、もう一度目をつぶって寝ることにした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る