第7話 怪異!幽霊からのメッセージ
メールを送ることに思い至った私はすぐさま自分の家に戻る。
携帯電話は私の記憶だと、鞄の中に入れてたはず。
鞄はさっき事務所で見つけたからその中に入ってるはず。
そりゃ、検分とかはされてるだろうけど、事故には直接関係ないはずだから対して漁られていない……と思いたい。
解約されているかどうかは怪しいけど、10日程度だったらまだチャンスはある。
戻った私は、携帯が無事であることを祈りつつ、鞄を開ける。
……あった!
私の携帯はちょっと前のガラケー。
両親が死んで貧乏になってから、もともと持っていたスマホは解約してしまったのだが、不便だということでナナミさんに持たされたやつ。
もっとも、連絡くらいにしか使わないので、安さ優先で頑なにガラケーにしたのは私だけど。
ミドリからはスマホにしてくれと常々言われてたけど、これが壊れたらね、なんて回避してたっけ。
と、そんなことはどうでもいい。
今は携帯の確認だ。
パカッっと携帯を開く。
電池は……まだある。
10日も放置してるのに使えるのはガラケーの数少ない利点じゃないかな?
電波も……やった! まだネット繋がりそう。
解約はされていなかったみたい。
これならメール送れる!
携帯を持った私は、鞄を元通りにすると、またミドリの家に戻る。
一瞬、これでカナにメッセージ送ろうかとも思ったけど、きっと駄目な気がする。
あの様子じゃメールなんか見ていないだろうし、見てもいたずらか何かと思われちゃう気がする。
ミドリはさっきと同じ席でまだ私のメールを見ていた。
そうそう、ミドリに送るにしてもちゃんと内容を考えなきゃいけないよね。
いたずらか何かの間違いと思われても困るし。
いや、幽霊からのメールとか本物の怪異であることは間違いないんだけど。
ミドリを横目に見ながらメールの内容を考える。
うーん、内容として伝えたいのは2点かな。
一つは、私であることがわかること。
もう一つが、二人で話せる場所に来て欲しいこと。
流石にここで話すわけにいかないしね。
ナナミさんにミドリがおかしくなったと思われちゃう。
どこかいい場所あったかな?
人が来なくて私とミドリでならわかる『約束の場所』的なやつ。
そんな都合のいい場所とか……あるな。
子供の頃によく遊んだ神社の裏手。
カナがまだ小さかった頃に二人で秘密基地にしてたっけ。
子供の頃にミドリがアニメの影響を受けて、一緒にそういうの作ったやつ。
あそこだったら私とミドリだけが知ってる。
カナはもちろん多分ミドリの両親も知らないはずの、いわば二人だけの思い出の場所ってやつだ。
うん。これで決定。
じゃあ内容もシンプルでいいかな。
その方が私らしいし。
それじゃ、送信っと。
あとは信じてくれるかは賭けでしかない。
10秒くらいしてミドリのスマホが着信音を鳴らした。
着信音は私の両親が好きで私も大好きなちょっと古めの曲。
私専用にしてると前にミドリが言ってた。
おっ、きたかな?
それを私は後ろから見守る。
自分のメールを見るところを横から見るって変な感じがするね。
ミドリは着信音に反応し、固まってしまっている。
ありえないものを見るようにスマホを食い入るように見つめている。
画面には私からの着信を知らせる通知が出ていた。
ミドリは動かない。
そりゃ、ありえないこと起こってるからね。
でも開いてくれないと困るなぁ。
結構な間固まっていたように思うけど、ミドリは恐る恐るメールを開いた。
『幼い頃に二人で遊んだ、秘密基地で待ってる』
本当は待ってるじゃなく、ここにいるんだけどね。
連れ出すには待ってるって書いたほうがいいかなって。
ミドリは信じられないものを見たようにメールを見ている。
目が動いているところを見ると何度も読み返しているんだろう。
「……ハル? いや、そんなはず……、もしかしてカナちゃんが?」
あー、そうなっちゃうのか。
確かに、死んだ本人からメールが届くよりは、なりすましを疑う方のは当然かな。
でも、残念ながら本人なのだ。
どうにか行ってくれないかなぁ。
なんて、見守っていると、
「……行ってみよう!」
ミドリが立ち上がった。
おっ? どうやら向かってくれる様子。
確かに考えてみれば、もしもカナからだったとしても、せっかくの機会だしね。
どうやら私は賭けに勝ったようだ。
もっとも、信じてくれたかどうかは微妙だけど。
ミドリは「ちょっと出かけてくる」と奥に声をかけ、家を出ていく。
おっと、
ミドリは家を出て、一瞬ちらっと私の家の方を見たけど、すぐに向き直り神社の方に向かう。
私もその後ろについていく。
神社は歩いて5分程度の場所にある。
別に長い階段とかがあるわけでもないので、子供でも簡単に行くことができた。
ただ、少し入り組んだ道の先にあるため、なかなか人が来ない。
秘密の話をするのにはピッタリの場所と言えるだろう。
神社についた。
私達の秘密基地は、この神社の裏手にあった。
今思えばブルーシートで範囲だけ決めたような簡単なものではあったけども。
ミドリも迷いなくそちらに向かう。
裏手についたけど、当然だけど秘密基地はない。
台風が来たときに飛ばされてしまって結局そのままだったのだ。
今はちょっと開けたスペースがあるだけとなっている。
ミドリはそこで立ち止まり、キョロキョロと周りを見回している。
「ハル……いないの?」
おっと呼ばれてしまった。
しかし、ここで『はーい』と出ていくわけにもいかない。
そもそも出来たらこんなことしてないし。
仕方なく、もう一度メールを送ることにする。
メールはミドリのスマホにすぐに届いた。
『信じてもらえないかも知れないけど、今目の前にいるよ』
メールを見たミドリはすぐに顔を上げる。
当然だけど、私の姿は見えない。
「いたずら……? 誰かいるのか?」
ミドリは周りに声をかける。
だが、声は帰ってこない。
私はメールを続ける。
『いたずらじゃないよ! 幽霊になったけど戻ってきたんだよ!』
ミドリはもう一度メールを見る。
だが、
「幽霊って……、そんな馬鹿なことあるわけないでしょう!」
まずい、怒ってる。
いや、まぁ、逆の立場になって考えると気持ちはわかるけど。
そうなれば最終手段だ。
『じゃあ証明するから、右手を前に出して。信じさせてみせるから』
ミドリがやってくれるか不安だったけど、悩んだ挙げ末、無事に手を前に出してくれた。
ありがたい。
私は、自分の左手に魔力を集めた。
物を触ることができたのなら、きっとミドリに触ることだってできるはず。
そして、私は、ミドリの手に触れた。
ミドリの体がビクッと震えた。
「うわっ、何!?」
焦ったミドリはすぐに手を引っ込めようとする。
そりゃ、あちら側からしたら急に見えないなにかに触られた感じだろうし。
だが、逃さん。
私は、握手をするようにその手を掴んだ。
「手が動かない!?」
ミドリは慌てて、手を降って振りほどこうとしてる。
あー、そういえばミドリはホラー系弱かったなぁと今更思い出した。
だけど、ここで引き返したりはできない。
逃げられたりしたら困るしね。
だから、いっそのこと。
私は、手に込めていた魔力を全身に広める。
そして、そのままミドリに抱きついた。
抱きしめるように。
「わぁあああああ!!」
急に体が動かなくなったのだろうミドリが悲鳴を上げる。
ここが人のいない無人の神社でよかった。
まぁ意図的にそういう場所を選んだんだけど。
「離して! 離してよっ!」
抵抗するミドリだけど、信じて欲しい。
私は、残った右手でミドリの頭を撫でる。
害する気はない。信じて欲しいと思いを込めて。
撫で続けていると、ミドリの抵抗がなくなった。
「……ハル、ひょっとして本当にハルなの?」
どうやら伝わった様子。
言葉に私は撫でるのをやめて両手でミドリを抱きしめた。
これで伝わるかな?
「ハル……、ほんとに……、うっ、うぅ……、うわぁああああああああぁ」
ミドリが泣き出してしまった。ミドリが抱き返してきた。
どうやら信じてくれたみたいだ。
私はミドリが泣き止むまでまた頭をなで続けた。
その間、私は、そういえば、生きてる人の体ってこんなに暖かったんだなぁと他人事のように考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます