第3話 あなたは私の敵?

「誰……!?」


 突然の声に、驚いてしまう。

 周りを見渡してみても相変わらず誰もいない。

 声はなにかの機械音声を組み合わせたような音だった。


「あなたの目の前にいますよ」


 目の前って、いや、予想はしていたけど。


「……もしかしてこのクリスタル?」


「そのとおりです」


「いや、でもなんでクリスタルが喋っているの?」


 私の知っている無機物は喋らない。

 ってそうだ、ここファンタジーだった。


「声が出ているわけではありません。魔法であなたに直接話しかけています」


 魔法、魔法かぁ……

 魔法ならそういうこともできるのかな?

 つくづく、私の知っている常識とは違う世界だなと改めて認識する。


 これが誰かが私を騙しているとかではないよね?

 いや、騙されていたとしても、本当かどうか判断するすべがないけども。

 だから、


「あなたは私の敵?」


 結局のところこれにつきる。


「敵ではありません。どちらかといえば味方です」


「それを証明することは?」


「できません……が、そもそも、ワタシには、こうやって、話しかけることしかできませんのデ」


「魔法とかでは?」


「念話の魔法しか、使えません。そういう風に、作られていまス」


 念話の魔法ってのがこうやって話しかける魔法なのかな?

 まぁ、いいや敵意は感じないし。

 いや、敵意とかそもそもわからないけど。

 それよりも気になることが一つ。


「作られています? ってことは誰かがあなたを作ったってこと?」


「はい、ワタシは、錬金術によって、作られていまス」


「錬金術?」


 金を作るための研究とか学問のことだっけ?

 中世の時代に研究されてたとか、なんか学校で習った気がする。


「はい、錬金術により、クリスタルに、知性や念話の魔法などを付加されることで、あなたとお話できるように作られましタ」


 なんか、私の知っている錬金術と違うような気がするけど。


「そもそも、あなたの言う錬金術って何?」


「錬金術とは、簡単に言うと、複数の素材を組み合わせることによリ、新たな素材や物体を作り出す魔法技術、のことを言いまス」


 ……言わんとすることはわからんでもない。

 要するに地球でやっている製造と同じこと。

 鉄と木を組み合わせて、斧を作ったりとかそういうこと。


 ただ、そこに魔法という概念が入っているせいで複雑になっているのかと。


「あなたは、このアトリエのマスターとして認められましタ。なので、錬金術も使えるはずでス」


「はぁ?」


 いつの間にかそのとんでも技術が使えるようになっていたらしい。

 どう考えてもさっき触ったのが原因だけど。


 とは言ったものの。


「使えるはずと言われても、やり方も必要性もわからないけど」


「ご安心くださイ。その辺りを、ご説明するために、私がいるのです。が、その前に……」


 声がだんだん小さくなっていく。


「もう一度、魔力ヲ、頂いテ、よろしいですカ? 正直、こうやっテ、話しているのモ、そろそロ、限界……デ……」


 フゥンと切れるようにクリスタルの緑が消えて、元の灰色に戻る。

 それっきり声は聞こえなくなった。

 機械が強制終了したように。


 魔力くれとか言ってたっけ?

 やり方は……もう一度ってことはさっきみたいに触ればいいのかな?


 まだ、完全に信用したわけじゃないけど、ひとまずの敵意はなかったことだし。

 情報を仕入れるためにももうちょっと話す必要があるよね。


 私はもう一度クリスタルに向かって手をのばす。


 ピリッ!


 先程と同じように手に静電気が走るような感覚がする。

 わかっていたので今度は手を離さずにすんだ。


 触れているとまたしても徐々に濃くなっていく。

 先程よりも速いスピードで全部が綺麗な緑色になった。


「失礼しましタ」


 また、声が聞こえだした。


「できれば手は、そのままでお願いしまス。ご安心くださイ。あなたの、魔力量からすると、ほんの少しですみますのデ」


「別にいいけど」


 吸収されているような感覚もないし。


 しばらくそのまま手をおいたままにしておく。


「助かりまス。……そうだ、今のうちに、これもお渡ししておきまス」


 声が言うと、置いている私の手が一瞬光る。

 びっくりする。

 見ると、手の人差し指に指輪が一つハマっていた。


「なにこれ」


 何やら金色の宝石らしきものがついた指輪。

 パット見でも高そう。


「そちらは、素材などを収納するために、作られた指輪でス。詳しくは、後でお話しますので、もう少しお待ちくださいイ」


 なんかとんでもないものもらった気がするけど。

 まぁ、今更かな?


 またしばらく静寂が流れる。

 一分くらいそうしていただろうか。



「ふぅ……、あ、どうもどうもお世話をかけました。もう手を離してくださって大丈夫ですよ」


 声が聞こえた。

 手を離してみる。


「改めまして、ワタシの名前はベルと言います。マスターさん、今後ともどうかよろしくお願いしますね」


 なんかさっきと口調違わない? なんというか滑らかになった?

 それになんか声のトーンも柔らかくなってる気がするし。


「それはワタシの自我が戻ったせいですね? さっきまではギリギリのところで活動していましたので最低限の活動をしてましたので」


「……別に何も言ってないけど」


「表情を見ていればなんとなく考えてることがわかりましたので」


 どうやら顔に出ていた様子。

 手間がはぶけてよかったと思っておこう。



「それで? 結局のところあなたなんなの? 錬金術で作られたってことしか聞いてないけど」


「そのとおりでしかないですよ? 私は錬金術で作られたマスターさんのサポートをするためのクリスタルです」


「あなた……」


「できればベル、とお呼びください」


「……ベルは私のサポートをしてくれるってこと?」


「はい、マスターさんはここのアトリエの主として正式に認められましたので、そういうことになりますね。とは言ってもワタシは錬金術のことしか知らないわけですが」


「錬金術のことしか……って、じゃあ、例えばこの森の外のこととか」


「知りません」


「あー……」


 あてが外れた。


「あ、でもでも、錬金術ってとっても凄いんですよ! きっとあなたのお役にも立ちますから!」


 慌てるようにクリスタル……ベルが言う。


「とは言ってもねぇ……」


 こちとら、この世界に来てまだ右も左もわからない状態だ。

 その状態で錬金術とか言われても、はぁ? としかならない。


「まぁ、まぁ、試しにやってみませんか? ほら、そちらの言葉で"百聞は一見にしかず"ってのがありますでしょ? 試してなんぼですよ」


「いや、実際それどころじゃ……」


 ってそうだ。

 鍋とクリスタルにびっくりしてすっかり忘れてしまっていたけれど、私でっかい狼に追われてたんだった。


「大丈夫です。この小屋は錬金術によって守られていますのちょっとしたことでは壊れませんよ」


 また表情に出ていたのだろうか。


「先程マスターさんの登録をしたときになんとなくの状況を読み取りましたので、そこからの判断です」


 随分と察しが良いことで……

 って、なんか聞き捨てならない言葉があったような?


「読み取りましたってどういうこと?」


「言葉どおりですよ? 簡単にですが、マスターさんの事情は把握させていただきました。なので、マスターさんがこの世界の人間じゃないことやここに来るまでに至った経緯も把握しております」


「それって……、個人情報では?」


「大丈夫です! それを表に出したりはしませんので! それよりも錬金術試してみましょう!」


「いやいやいや、そこ重要なところでしょ!」


「大丈夫です!」


「いや、でも!」


「大丈夫です!」


 以降、何を言おうとも大丈夫ですしか返してくれない。

 仕方なく、錬金術を試してみることになった。

 後でちゃんと確認するからね。

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