第1話 異世界転生?お断りします

「お断りします」


「えっ?」


 前略、おそらくどこかの世界に転生していらっしゃるであろう、お父さんお母さん。

 私です、あなた達の娘、春華(ハルカ)です。

 私は今、あなた方と同じように地球で命を落とし、神様と交渉をしております。

 えっ? 何を言っているかわからない?

 正直、私自身も話についていけないところがあるのですが、まぁ、簡単に説明いたしますと、


 1.猫を助けてトラックに轢かれた

 2.助けた猫が神様(世界神)だったらしく、私が死んだのはミスだったそう

 3.お詫びとして異世界へのいわゆるチート付き転生を勧められた


 というところです。3行で説明できましたね。

 と、いうことで今にいたります。


「私には地球に残した妹がいます。既に両親は他界しているので、私がいなくなったら妹は天涯孤独になってしまいます。なので、異世界転生はお断りします。地球に帰してください」


「いや、だがな、お主の体はもう地球では死んでいて生き返ることはできないのじゃが」


「そもそも、私が地球で死んだのはあなたのミスであると、先程自身でおっしゃいましたよね? ならばその責任を取るのはあなたの役目ではないですか?」


「だから、異世界へのチート付き転生を……」


「それは先程お断りしました。私の望みは地球に帰ること、それだけです」


「うむむ、だがしかし、お主の魂はもう異世界へと移動してしまって、あとは体に入るだけになっているのじゃ」


「ではその魂を地球に戻してください」


「……それはできないのじゃ」


「なぜですか?」


「簡単に言うとじゃな、同じ世界に連続で同じ魂を転生させることはできない。これが世界のルールとなっているのじゃよ」


「その世界のルールもあなたが決めたのですよね? だったらルールを変えてしまえばいいのでは?」


「私が決めたルールではあるのじゃが、今は魂の管理は他の神が行っていての、それに魂の転移に関しては既に世界の根幹に組み込まれてしまっているため、それを変えてしまうと取り返しのつかないことが起こる可能性があるのじゃ……」


「取り返しのつかないこと……とは?」


「最悪の場合、世界の消失じゃな」


「ああ、それは最悪ですね。流石の私もそれは望んでいません」


 そもそも、帰るべき地球がなくなってしまっては意味がないし。


「じゃろ? なのでお主の魂はもう異世界で生まれ変わるしかないのじゃよ、わかっておくれ……」


 これまでの情報を整理すると、私はもう異世界で生まれ変わるしかないらしい。

 ならば、別のアプローチをするまでだ。


「わかりました、では、私が転生する予定となっている世界はどんな世界ですか?」


 私が聞くと、神様は安堵の表情を浮かべる。


「いわゆる、お主たちで言うところファンタジーというような感じかの? 魔法とか魔物とか居る世界のはずじゃ、そこでお主は赤ん坊からやり直すというわけじゃ」


「なるほど、魔法……」


「先程言ったチート付き転生をすれば、魔法や身体の強化などをして勇者にもしてやれるぞ? それとも、超美人の姫とかのが良いかの? 両方というのもできるぞい?」


 あいにくと、勇者にも姫の座にも興味がない。

 だけど、魔法がある世界か。

 だったら、


「神様、魔法には転移のような魔法はありますか?」


「もちろんあるぞ、その世界では失われた魔法にはなるが、わしならその魔法を授けられる」


「では、その魔法で地球に転移することはできますか?」


「……はぁ?」


 神様に呆けた顔をされてしまった。

 そんなにおかしなことは言ってないと思うのだけど……


「だから、私がその魔法を持ち転生をして、その後に地球に転移することは可能ですか? と聞いているのです」


「い、いや言っておる意味はわかる、わかるが……、お主、地球のことは諦めたのでは……」


「諦めるとかはありません、私は地球に帰る。これはもう確定事項なのです。そのための方策を今探っているだけです」


「……」


「それで、どうなのですか? その魔法は活用できそうですか?」


「……不可能じゃ」


「それは何故ですか?」


「転移の魔法というのは、自身の知っている場所に転移する魔法なのじゃ、たしかにお主は地球のことも知っている。だから、やろうと思えば出来るじゃろう」


「では?」


「しかし、そのためには莫大な魔力が必要になる。人間一人の身体と魂はとてつもない質量なのじゃ、それをまして世界を超えて移動となると、魔力では到底不可能なのじゃ」


「それができるだけの魔力をください……と言っても駄目なのでしょうね」


「うむ、チート付き転生とは言うものの、流石に神の座を与えることはできぬのじゃ。それをしてしまうと、世界の均衡が乱れ、また最悪の場合消失する」


 また消失か。本当なんだろうか?

 この神様、それを言えばなんとかなると思っていない?

 いや、でも、神になりたいとは思っていないし、世界が消失するとまで言われてしまうと流石に私としても許容はできない。


「……先程、”人間一人の身体と魂”は無理というお話でしたが、魂だけということでしたらどうでしょう?」


「うむ? ……いや、うーむ、身体とセットというよりはマシじゃが、それでもかなりの魔力になるの……、あと身体と魂が離れるなど死しか方法がないぞ」


「私が今その状態なのですよね? 魂だけの存在。だったら転生はいらないので、このままの状態でその世界に送り込んでくださいと言ったらできますか?」


「えっ? いや、えっ? 身体がいらないということか?」


「はい、どのみち赤ん坊からやり直すというのも無駄な時間がかかりますし、それだったら身体とかいりません」


「お主、凄いことを言うのぉ……」


 優先順位の問題をつけた結果なので、私としても身体は惜しいが、それで目的が達せられるのなら必要ではない。


「あと、転移するというのも、それである必要はありません。他の方法でもいいので似たようなことができるのはありませんか?」


 ようするに、一番の目的は妹を天蓋孤独にしないこと。それさえ達せられれば手段はどうでもいい。


「お主の考えはよくわかった」


 神様は目をつぶった。

 何か考えている様子だ。

 私がどうやっても諦める様子がないので、真剣に方策について考えてくれている感じだ。


「……では、転移よりは複製の魔法ならどうじゃろう?」


 神様が目を開き言った。


「複製ですか?」


「そうじゃ、この複製の魔法というのはじゃな、お主が触れたものを複製するという単純な魔法ではあるのじゃが、複製する場所は自由が効くのじゃ」


「つまり、私が触れたものを地球に複製することが可能ということですか?」


「うむ、しかも、複製の魔法は転移とは違い、移動することには魔力は消費しない。複製時に魔力を注ぐことで複製品を作り出す。かかるのはその魔力だけなのじゃ」


「つまり、私が私の身体に触れることで複製が可能ということですか?」


「いや、それはできぬ。先程も言ったとおり、身体と魂というセットはとてつもない質量なのじゃ、どれだけ魔力を注ごうと複製はできない。じゃが……」


「魂だけということであれば可能ということですね。なるほど……」


「それも、膨大な魔力を注いだ上で短時間ではあるがの……」


「それができるだけの魔力はいただけるので?」


「うむ、お主に与える予定だったチート能力をすべて魔力に変換すれば、1時間くらいは活動できるくらいの能力くらいにはなるはずじゃぞ」


「1時間……まぁ、時間に関しては追々ということで。念のため聞いておきますが、一回複製したら終わりではないですよね?」


「……魔力は魔素がある世界ならば自然と回復することができる。丸一日程度で全回復するはずじゃ。もちろん、魔力を消費する行動をすればもっと時間は長くなるがの。ああ、もちろん、お主の移動する世界にも魔素はあるぞい」


 魔力とは充電池みたいなものなのだろうか? 電力が魔素で、魔素を溜め込むことで魔法が使えるということか。


「複製時の意識の切り替わりはどうなりますか?」


「意識は複製したときに、魔力が大きい方に引っ張られていくのじゃ。その差がいわゆる活動限界ということになるの。複製の方は存在しているだけで徐々に魔力を消費していくため、差が逆転したら戻ることになるぞい」


「つまり、持てる魔力のほとんどを複製体の方に注げばそれだけ活動時間が伸びると?」


「そのとおり、そのとおりではあるが、それはおすすめしない」


「何故ですか?」


「複製体の方に魔力を注ぐと、元の方は魔力が少ないまま無防備な状態になってしまう。そうなると、悪意に乗っ取られてしまう恐れがある。そちらが乗っ取られてしまうと、意識の戻る場所がなくなり、複製体の方の魔力が尽きてしまうと意識の消失に繋がってしまう」


「メインはあくまでも元の方ということですね。なるほど……」


 つまり、ポイントをまとめると、こんな感じかな?


 ・転生ではなくこの状態のまま転移をする

 ・元の世界に戻りたくなったら自分(オリジナル)に複製の魔法を使い、複製体に魔力を注ぐ

 ・注いだ魔力の量に応じて元の世界で活動ができる

 ・複製体にオリジナルよりも魔力を注ぐと意識が複製体の方に行く

 ・複製体の方は魔力を徐々に消費していき、オリジナルを下回った段階で意識が戻る


 あとはそれを可能にするだけの魔力はもらえる。といったところだろうか。

 うん、悪くないんじゃないかな。

 あとそうだった、忘れるところだった。


「魂だけで活動することでのマイナス要素とはどのくらいありますか? 魂だけ私の世界では幽霊みたいなものだと思うのですが、それで合っていますか?」


「一番のマイナス要素としては、先程言ったとおり悪意に乗っ取られる恐れがある。この場合の悪意というのは負の感情の塊みたいやつじゃの。弱い魂は悪意に侵されてしまうのじゃ」


 悪意に侵される。つまり、悪霊になるということか。

 オリジナルも複製体の方もどっちも避けなければならないな。


「あとはお主の考える幽霊というのでほぼほぼ間違っておらんじゃろ。いろいろな行動に魔力を消費することになるが、多分、お主の考える行動はだいたいできるぞい」


 魔力は何もしなければ回復していく。幽霊ということはポルターガイストみたいな物を操作したりとかもできるだろう。

 だったら、


「ではその条件でお願いします」


「……提案しておいてなんじゃが、本当にそれでいいのかの? 身体がないというのはかなりのストレスだと思うのじゃが」


「問題ありません。なんでしたら、移動してから身体を得る方法を考えるだけです」


「……言っておくが人に乗り移ったり等はできぬからな」


「わかっています。それに人を害するような行動は嫌いですので」


 相手が敵だったらその限りじゃないけど。


「……うむ、ではその条件で転移を」


「と、待ってください」


「なんじゃ?」


「私に付与する魔力についてなのですが……」


「それだったら、先程も言ったとおり、1時間程度は活動できるような魔力を……、あ、この場合の1時間というのは7:3くらいで複製に魔力を与えた上でのものじゃな」


「はい、でしたら、それを1日……半日くらいにしてください」


「はぁ?」


「もしくは3時間程度でもいいですよ?」


「い、いや、しかし、それは流石に与えすぎて……」


「また、世界の均衡が乱れるですか?」


「乱れはしないが、ここで与えすぎると他の神との兼ね合いがのぉ……」


「乱れないならお願いします」


「いや、しかし魂の管理をしている神が……」


「それはそちらの事情ですよね? 私からするとそれは関係ないことです」


「……」


「そもそも、今回のことは、神様であるあなたのミスから始まっているのです。それに対して私は最大限の譲歩してあなたの提案を受け入れようというわけです」


「複製の魔法は……」


「それは譲歩の結果です。譲歩というのは、その漢字の通り譲るということです、つまり私には譲った分を得る権利があるはずです」


「うぐぐぐ……」


 つまり、最初から私には否は一切ない。

 あるのは神様のミスという一点のみ。


「神様、ミスを補ってください」


 交渉というのは妥協したら負けなのである。

 搾り取るだけ搾り取る、これだけ迷惑をかけられているのだから、私の要求などかわいいものじゃないだろうか。



 余談


「あれだけ神に逆らっておいて許されると思っているのか?」


「えっ? だって、それだったら最初からミスをなかったことにするはずですよね? それをしない、できないということは私の存在はそれだけ価値のあるものだと」


「むぐぐっ……」

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