第75話 おやすみなさい
結局コラボの話やら装備の話やらと、話題に尽きる事が無いままお喋りは続いた。
いも羊羹でお腹が少し膨れ、祈が晩御飯を作ってくれる流れになったために、揚げ物パーティーは明日へと持ち越された。
「ん―――! そろそろおいとましようかな」
祈はぐっと背伸びをし、壁にかけてあるダークネス時計に目をやった。
時刻はもう23時を回ってしまっていた。
「晩飯とか団子とかありがとな」
「どういたしましてぇ! ご用命があればいつでも作りに来るからねん」
と、祈は満面の笑みを浮かべ、うちの合鍵をちゃらりと掌に乗せて見せた。
「それじゃ、まとまった話を翆ちゃんと瑠璃ちゃんに送るね」
帰り支度をする祈は思い出したように言った。
コラボ配信は上野にある高難易度ダンジョンで行われる事になった。
探索するのは成長型のダンジョン深層で、推奨レベルは900から上となっている。
祈達3人の固有スキルは非常に強力なものになっており、アイドルや平凡Dガールズを象徴するようなスキルだった。
固有スキルという名称は明かさないが、鍛錬の末に体得したスキルがある、という話をする予定だ。
「分かった」
「んふー! 楽しみだなぁ! コラボ配信!」
「俺がアンチに叩かれない事を祈る」
「あはは! コノミアンチ多いもんね。でも仕方ないよ。私達にだってアンチはいるし」
掲示板やら動画のコメントやらに、たまに湧いてくる俺のアンチ。
PKをPKするなんて酷い、彼らだって人間だ、どう責任を取るのか、やっている事は犯罪行為だ、などなど。
そういったコメントはもっぱら他の人に袋叩きにされて消えていく。
俺が直接コメントに返信した所で、火に油を注ぐようなものだから全て無視している。
人里に降りてくる熊を射殺するのは非人道的だ、かわいそうだ、熊だって生きている、と猟友会の皆々様にクレームを入れる人達と同じ思考回路なのだろう。
と俺は思っている。
自分が体験しないと被害の大きさや痛みが分からない人種は少なからずいるし、そのような考え方に真っ向からぶつかったとて何も変わらないし解決しない。
だからこそ俺は相手にせず放置を決め込む。
しかし祈達は違う。
アンチの人も見てくれている事には変わりない、だから元気にしてあげたい、というスタンスだ。
アンチを否定せず、否定意見すら包み込んでしまう心の広さが彼女達にはあった。
「とりあえず否定しておきたい輩はどこにでも湧くからな」
「そだねぇ。くわばらくわばら。それじゃあまたね。おやすみなさい」
「おやすみ」
そう言って祈は玄関をくぐり、隣の自宅へと帰っていった。
「ふあ……あふ。ねむ」
1人になった途端にしょぼつき始めた目を擦りつつ、俺はベッドへ倒れ込んだ。
「風呂は明日の朝だな……あ、歯磨きしてない……ま、いいか……」
大量に摂取した甘味と晩御飯で膨れた腹を摩り、なんとも言えない幸福感に包まれる。
明日は起きたらとりあえず隼人の家だな。
そんで今日の文句をぶつけてやる。
だがどうせ、のらりくらりと躱されて言い包められるのだろうな。
本当に困った親友だよ。
「12月……24日か」
眠い目を頑張って開き、壁にかけてあるカレンダーを見る。
コラボ配信の予定日は22日、その2日後に訪れる一大イベントクリスマス。
「クリスマスプレゼント……考えておかないと……な……」
クリスマスどころか、異性へプレゼントを贈るなんて一度もなかった俺だ。
隼人にアドバイスを貰わなければならないな。
そんな事を考えながら俺は、迫りくる睡魔と共に眠りの深淵へと落ちて行ったのだった。
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