第76話 私とみんなとクリスマス
「って事だから。よろしくね」
『は~い』
『わかった』
私はグループ通話でコラボ配信の話を翆ちゃんと瑠璃ちゃんに伝えると、二人共本当に楽しみだと言ってくれた。
コノミが私の事を信頼してくれたのはとても嬉しい。
例え全幅の信頼でなくとも、閉ざした心を私に開いてくれた。
それが何よりも嬉しかった。
もしかしてコノミも私の事好きなのかな? とか、私の事どう思ってるのかな? とか考えたりもしたけど……今は私の気持ちを伝え続けるだけにするのだ。
見返りが欲しい、と思うのは贅沢な考えだし、色々とドタバタしてそれどころじゃなかったし。
コノミの隣にいれる、それだけで今は十分だ。
隼人さんの広すぎる家で5人で暮らしたあの日々は、私にとって素晴らしくもあったし長めの修学旅行みたいで楽しかった。
何より毎日寝起きのコノミを見れたのは最高だった。
ぼさぼさ頭を掻きながらあくびをして洗面台に向かう姿なんて愛おしすぎた。
最初に見た時はあれだけでどんぶり三杯はイケると思ったくらいだ。
皆が着た服を洗うのは私が率先してやっていた。
洗濯機に入れる前にコノミの服を選別し、胸いっぱいにコノミの香りを吸い込む。
コノミの香りが、細胞の欠片が私の鼻を抜け肺の中いっぱいに広がって満ち満ちていく。
その時私は「あぁ、こんな至福の時間があっていいのだろうか。ここが果ての理想郷なのか」と、ちょっとコノミっぽい思考回路になってしまった。
洗い上がった服に私のお気に入りの香水を少しふりかけると、コノミが私の香りに包まれるのだと思い口角が緩む。
翆ちゃんにその瞬間を見られたけれど、あの子はサムズアップをしてくれた。
二人には、私がコノミを好きな事はバレているので問題はない。
というより隼人さんにもバレていそうな気もする。
まぁあれだけ皆の前でアピールしてたら分かるよね。
翆ちゃんにはお姫様抱っこのマウント取られたけど……取られたけど!
『ていうか祈さ。クリスマスどうすんの?』
「へ?」
携帯のスピーカーから瑠璃ちゃんの声が聞こえた。
『へ? じゃなくてさ。コラボ配信の2日後クリスマスだけど……また去年みたく女子3人で過ごすの?』
「あ、あー! 確かにね! そうだよね! どうしようね!?」
平凡Dガールズを結成してからというもの、イベントの日は大体3人で集まって何かしらをしていた。
バレンタインしかりハロウィンしかり七夕しかり、いつでもどこでも3人は一緒だった。
『翆は~隼人さんのおうちでパーリナイしたいな~』
『くは! その手があったか! 瑠璃もソレ賛成』
けど今年はコノミや隼人さんがいる。
あの人達はどうするのだろう?
師走だし仕事納めとかの関係もあるし、隼人さんはやっぱりお仕事なのかな?
コノミは……誰かそういった異性の子がいたりするのかな。
もしかしたら男の人っていう線もあったり……?
どっちが受けでどっちが責め……? ってあほか私は。
「明日メッセージでコノミに聞いてみるよ。あの豪華な家でパーティーかぁ……楽しそう」
『だよね~あの巨大テレビだったら映画見ても大迫力だったしね~』
『わかる。サラウンドシステム? だっけ? スピーカーも全方位にあって、臨場感マジパネェっすってなった』
「ポップコーンとシャンメリーとお菓子と色々買ってさ~」
『『いいねぇ~』』
夜も遅いというのに、ガールズトークは止まることなく続いていった。
クリスマスかぁ――私は出来ればコノミと過ごしたいけれど、でもそれは翆ちゃんや瑠璃ちゃんを裏切る事になってしまうし、本当にどうしよう。
男関係の話なんてこれまで3人とも一切無かったし、2人は私がコノミを好いていると知っていはいるけれど、だからと言ってコノミと2人で過ごしたい、なんて言ったらどんな顔をするのだろう。
ぐるぐると頭の中で浮かんでは消えていく思考の数々に揉まれながら、私は翠ちゃんと瑠璃ちゃんのお喋りをBGMにしてゆっくりと眠りに落ちて行ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます