第72話 YOUはどうして〇〇に?

 そして現在。


「ねね! コノミはコラボの話考えてくれた?」


 湯飲みを二つ、テーブルに置きながら祈が言った。

 テーブルにはお茶受けとしてみたらし団子が12本、綺麗に積み上げられていた。

 

「……あぁ、その話か。いいぞ」


 テーブルの前に座った俺は、自然と出されたほうじ茶を見ながら言った。

 個人的にお茶受けには三色団子が好みなのだが、まぁいいだろう。

 そんな事をぼんやりと考えながら、祈が入れてくれたお茶をすする。


 前々から何度もお願いされていたのだが、状況が状況だったために先延ばしにしていた平凡Dガールズとのコラボ配信企画。

 何をやるとか、内容はまだ未定だが、色々と落ち着いた今でなら大丈夫だろう。


「ホント!? やった! ありがとーコノミ!」


「改めて聞くが、コラボ動画を出すという事は――」


「しつこいよ? もう私達はジャッジメントにコーチングしてもらっているってファンの皆に話してる。それは君も知ってるでしょう?」


「ぐ……そうだな……」


「コノミって案外ビビりな所あるよね」


「なっ!? それは貴様らヴァルキュリア達を心配してだな!?」


「分かってる、分かってる。ありがとね」


 最近祈は俺の本性をグサリと刺してくる事がある。

 今でこそほとんど出ないが、昔の俺には逃げ癖があった。


 嫌な事は見ないふり、やりたくない事からは全力で逃げる。

 そんな幼稚な考えは封印していたはずなのだがな。

 原因はきっと祈達だろう。


 信頼するというのは、多少の甘えも出てしまう。

 隼人と二人で頑張っていた頃は、逃げるという選択肢が出る事は無かったのだから。

 

「で、どうする?」


「どうするとは?」


「初コラボ企画の内容だよ」


「あぁ、ね。どうすっかな。やっぱりダンジョン配信か?」


「それもいいね。私達爆速でレベルアップしたし、高難易度ダンジョンに行って皆を驚かすのもアリ」


 ちょっと多いかな、と思っていたみたらし団子はどんどん数を減らし、ほうじ茶も2杯目を頂いている。

 この甘じょっぱさがほうじ茶によく合っており、この組み合わせも悪くないなと思った。

 テレビからは夕方のニュースが垂れ流されており、部屋の温度も程よい暖かさだ。


「風吹さんは来られないぞ」


「大丈夫だよ。風吹さん今はボディビルの世界大会でしょ? それにいつまでも甘えてられないよ」


「あの人も多忙だからな」


 風吹さんは世界ランカーのヒーラーというだけあって、毎日色んな所から協力要請が来ている。


 それに加えて元ボディビルチャンピオンという経歴上、世界大会の審査員としても活動している。


 あの人の協力があったからこそ、平凡Dガールズはみな高レベルに至れたのだ。

 本当に感謝している。


「一応翆ちゃんや瑠璃ちゃんに聞いてみるけど、ダンジョン配信が第一案でいいかな?」


「構わん」


「よっしゃ! 漲って来たあああ!」


 がばりと立ち上がった祈は拳を天井に向け、ガッツポーズを決めた。

 

「ていうかさ祈」


「何でしょう」


「聞きたい事があるんだがいいか?」


「はい?」


 今現在、俺がいるのはあのオンボロアパート五月ハイツ。

 時刻は夕方17:30。

 夕焼けはとうに過ぎ、冬の早すぎる日の入りが終わった頃である。


 俺は昼頃からダンジョンに潜り、数人のPKを狩りメタルフレアリザードというダンジョンボスを討伐した後、スーパーで夕食の買い出しを終えて家に帰宅した。


 今日は総菜が安い日で、とんかつやフライドポテトに天婦羅などを買い込み、1人揚げ物パーティーを楽しもうと思っていた。

 

「どうして祈が俺の部屋にいるんだ?」


 部屋の鍵を開けると何故か明かりが灯り、部屋の奥から祈が心底嬉しそうな顔でおかえりー! と出迎えてくれた。


 呆気に取られ固まる俺をよそに、祈はいそいそとお茶の準備を始め、ごくごく自然に、まるでこれまでずっとそうして来たかのように振る舞い、固まる俺をよそにコラボの話を出し、今に至るのであった。

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