第71話 お引越し
堂洞との対談から数週間が経ち、俺と祈達はそれなりに外出をするようになっていた。
瑠璃ちゃんや翆ちゃんはこれ以上甘えていられないと言って、隼人の家から出る事になった。
気にしないで良いと隼人から言われてはいたものの、やはり男女一つ屋根の下では色々と困る事もあるのだろう。
二人は俺と関わりがある事がPK達にバレているため、念の為に今住んでいる自宅を引き払い、新たな家に引っ越すと言っていた。
自宅がバレているわけじゃあないのだが、用心するに越したことは無い。
祈も引っ越したらどうかと二人に言われたらしいが、遠回しに断ったそうだ。
「何で引っ越さないんだ? 怖くないのか?」
と俺が聞いた所――
「コノミの隣に住んでいるのが世界一安全だから」
と言われてしまい、俺も思わず顔が赤くなってしまった。
滅茶苦茶信頼されているようで、喜ばしい限りだ。
ちなみに瑠璃ちゃんと翆ちゃんは都心からそれなりに離れた場所に住んでおり、この際なので隼人の家の近くで物件を探すらしい。
隼人が住んでいる地域は家賃が高く、1ルームですら15万近い物件がゴロゴロある。
そこらへんは大丈夫なのかと聞いたら、平凡Dガールズのスポンサーが家賃を半分出してくれるのだとか。
スポンサーが誰なのかは考えないでも分かるが、あいつもあいつなりに彼女達を大層気に入っているようだった。
「僕はアイテムや装備、お金回りのバックアップしか出来ないからね。僕が出来る事なら喜んで協力したいのさ」
とキザったらしくドヤる隼人の顔が目に浮かぶよ。
隼人からすれば10万そこらなんて小銭程度の金額だからな、家賃全部払ったとしても、アイツの生活に支障なんて欠片も出ないんだろう。
金と知力の面では勝てる気がしないな。
まぁ俺も稼いだ金を全部自分の物にすれば、かなりの高所得者になるのだろうがな。
そうしないのにはちゃんとした理由があるのだ。
「そういえばコノミはさ、どうしてあんなオンボロアパートに住んでいるの?」
とつい先日、引っ越しの話をしている時に、祈からそんな質問をされた。
愛波の話をしたのもあるが、この子には何故か話してもいいだろうという気持ちになる。
それが信頼だと言われれば、あぁそうか、と納得出来る自分がいる。
愛波の話を打ち明けた時に流してくれたあの涙を、俺は一生忘れないだろう。
絶対的な信頼というわけではないけれど、少なくともあの子のおかげで今の俺に変わる事が出来たのは事実だ。
自分でも気付かぬ内に信頼してしまっていた、それが事実だ。
「俺はさ、施設で育ったって言ったろ?」
「うん」
「そこに寄付してるんだよ。俺が育った場所だけでなく、全国のダンジョン被災未成年者保護施設にもな。まぁ全国区となると俺が出せる金額なんて、たかが知れてるが……それでも施設の子供達がよりよく暮らせるのならと思ってさ」
「す……」
「す?」
俺がそれを話すと、祈は何故か固まって目を潤ませていた。
「素晴らしい事だよコノミいいい! なんて! 君はなんていいヤツなんだあああ! ふぇーーーん! 好きいいいい!」
動いたと思ったら突然俺の首根っこに抱き着いてきて、おいおいと泣き始めてしまった。
良い事をしているつもりなんて微塵も思っていなかったが、祈からすれば良い事だったのだろう。
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