第63話 裏切者

「という事で隼人、向こうに連絡を取るから色々と頼んだ」


「オーキードーキー」


 隼人はすぐにパソコンで作業を始め、数分後に俺にサムズアップをして準備が出来た事を知らせた。

 俺は文言を隼人に伝え、隼人はそれをメールに打ち込んでいった。


「送信、っと」


「サンキュー」


 俺が伝えた内容は、生配信でのコラボトークと電子誓約書の締結、誓約書の内容も一緒に送ってある。

 こちらとしては無理難題を押し付けるつもりもなく、ただ余計な干渉をして欲しくないだけである。


 その誓約書の内容が飲めるならば、話をするという感じだ。

 やや上からな気もするけれど、そこは大人の対応をして欲しいものだ。

 

「情報提供、してくれるかねぇ?」


「さぁな。政府側が知らないわけは無いんだ。何しろ愛波がいる研究所は国営なんだからな」


「そりゃそうだけどさ。愛波ちゃんの事を話せば君の身元が100%バレるよ?」


「生配信で愛波の話はしないさ。何しろ秘匿情報だし、それに関する誓約書にサインしてるしな」


「国民にバレたら大騒ぎになりそうだもんねぇ。その男がどこにいるか知らないけど、そいつにPKされたらとんでもない事になる、なんてね」


「俺としてはなぜ秘匿するのか疑問だがな」


「まぁねぇ。お国の考えは僕ら一般人には分かりませんから」


 愛波が保護されている固定対象研究所フィクスドステートラボラトリー

 そこで一つの共通項が発見されたのは数年前の事だ。


 時間固定者タイムフィクスとなった被害者達には必ず体のどこかに3つの穴、まるで針で貫かれたような丸い穴が穿たれていた。


 その穴の形状と、被害者の時間を縫い留めて固定化してしまうそのPKの名を時停穿孔ペネトレイトキーパーと呼称されるようになった。


 時停穿孔の被害は増え続けており、運び込まれる対象者は性別も年齢もタイプも全てがバラバラで、奴の目的は全く知れなかった。


 だからこそ俺は奴を見つけ出し、その目的を吐かせた上で蛮行を止めさせる。


 勿論相応の報いを受けさせた上でだが。

 

「そういやコノミン。もうすぐあの日だけど……ご予定は?」


「あ? 何の日だって?」


 隼人はカレンダーを見ながらそう言った。

 奴が何を言いたいかは分かっている。


 12月24日の話だ。


「だって君、近頃祈ちゃんといー感じじゃん? だから聞いてみただけの話さ」


「馬鹿野郎。祈とはそんなんじゃない――多分」


「君がそう思い込みたいのは分かるけどね? 傍から見たら君ら両片想いって感じでまどろっこしいんだよねぇ」


「ばっばかやろう! いや、向こうが俺を好いてくれているのは、まぁ分かる、けどな」


「だろう? いくら鈍感で戦闘狂の君でも分かるくらいなんだ。一般人の僕らからの目線も考えてみたまえよ」


「だ、だが今は非常警戒中で、警戒レベルは玄関絶対防衛戦で……」


「はいはい。初めての色恋でパニくってるのは分かるけどさ。男としてそこはきちんと向き合わなきゃだぜ?」


「他人事だと思って貴様……」


「何言ってんだい。僕と君は家族だろう? 大事な家族の幸せを願って何がいけないと言うのかね? ワトソン君」


「ぐ……! 貴様……そんなこっ恥ずかしい事をよくサラッと言えるものだな……!」


「別に恥ずかしくは無いだろう? 僕も君も天涯孤独、共に幼い頃から一緒に育った家族。それを語るのに羞恥など欠片も感じないね」


「あーあー! わかったよ! ありがとな! 俺だってお前を家族だって思ってるし、親友だって思ってるよ! これでいいか!」


「はぁい、ありがとう。その言葉が聞けて僕も満足だ」



 何だかい良いように丸め込まれたような気がしてならないけれど、今言った言葉は本心である。


 愛波と俺と隼人、ずっと3人で頑張って生きてきた。

 脳裏に愛波の笑顔が浮かび、その愛波と仲良さそうに手を取り合って笑う祈の姿も。


 恋愛経験なんて皆無な俺に、どうしろというのだ。

 12月24日、正確には24日の日没から25日の日没までが聖なる夜とされているが――。


「ていうかお前! 俺が大臣と話をするかもしれないって大事な時にそういう事ぶっこんで来るんじゃないよ!」


「あっははー! そいつはすまないね。けど、ちゃんと考えておいた方がいいぜ兄弟。女の子にとってクリスマスってのはとーっても大事な日らしいからね?」


「どこ情報だよ」


「色々とね。情報通な僕は何でも知っているのさ」


「ふん、お前だって色恋沙汰なんて欠片もないくせに」


「心外だねぇ。僕だって君の知らない所で色々あるんだよ?」


「は……? おい待て、どういう事だ」


 隼人の口から信じられない言葉が飛び出したが、それを理解するのに数秒かかった。

 確かに俺が知らない所は数多くあるし、隼人だって俺の知らない所はあるはずだ。

 あるのか……?

 いや、全部が筒抜けって事は無いだろうし、うん。


「ふふん。容姿端麗、頭脳明晰、おまけに地位も名誉も金もある。そんな僕を世の女の子達が放っておくと思うかい? 君がダンジョンとお付き合いしている間、僕にだって社交界の色々があるのだよ。例えば社交パーティとかね?」


「ま、まさか貴様……すでに……?」


「童貞乙」


「ば……かな……! 貴様あああ裏切ったなぁあああ!」


 勝ち誇った顔をする隼人を前に、俺は床に崩れ落ちるしかなかった。

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