第62話 与太話
「どうしたもんかなぁ」
俺は隼人の家のリビングで、ソファに寝転がりながらメッセージを見詰めていた。
こちらとしてはもう関わりたくない存在なのだが、かといって知らぬ存ぜぬを貫き通すかと言えば、そういうわけでもない。
これは隼人とも相談したのだが、仮に俺が環境省の話を聞くとして、それにかこつけて何かしらの情報を得られないかと考えていた。
何かしらの情報とは勿論、愛波をPKしたあの男の情報だ。
俺は今まで関東を中心にPKKをして回っていたが、それは奴が関東圏にいると思っているからだ。
だがもし、そうじゃないとしたら俺の行動は意味のない事になってしまう。
俺がPKKをする目的はその男を見つけ出し、復讐する事なのだから。
俺が政府側と接触して、男の情報を得られるのならば、多少のリスクを冒してでも接触する意味はある。
堂洞という男が保科のような独善的な男ではない、という保証はない。
しかし向こうは生配信でも構わないと言っているし、これ以上下手な失言をして世論を敵に回すようなことはしないだろう。
「はぁ……頭痛ぇ……」
「考え事? はいお茶」
「あぁ、ありがとう祈」
いつの間にか俺の頭の上で祈がにっこりと笑っており、その手には俺の湯飲みが握られていた。
祈は俺に湯飲みを渡すと、ソファに寄りかかってじっと俺の顔を見詰めてきた。
「何だよ」
「隼人さんから聞いたよ? 国の偉い人からDМ来たんだって?」
「ったく……何で言うかな」
「むしろ何で言わないのかな? 私じゃ役不足ですか? ん?」
「いや、役不足とかそういうわけじゃあないけど……」
「で、その事で難しい顔をして悩んでいると、そういうわけですね?」
「そーだよ。その通り」
「お話だけでもしてみたらいいじゃない。向こうはこちらに一切の干渉をしないって言ってるんでしょ? 文面でさ」
「まぁな」
「ならいいじゃない。もしかしたら謝礼とかもらえるかもよ?」
「謝礼が欲しいわけじゃないぞ。俺としては関わりたくない所だ」
「でもさ、結局コノミも私も探索者なわけで、その一番上がダンジョン環境省の大臣さんでしょ? だったら無碍にしないでもいいと私は思います」
「確かになぁ」
俺はソファから起き上がり、ずずっとお茶をすする。
ネット上ではあの謎の特殊部隊は、金で雇われたアウトローだという噂で持ち切りだ。
それに付随して俺まで色々と考察がされている。
あの動きは人間じゃないとか、全部やらせなのではとか、俺のバックボーンは実は政府で、保科を消す為に一芝居打ったとか、俺の正体は実は公安部所属で、ダンジョン内の治安を維持する為に奔走しているとか、そういった出鱈目な話がそこかしこにある。
なんなら動画にもなっていて、陰謀論者達までそれに加わっているというカオスっぷりだ。
だから俺が政府や公安など国の人間じゃない事や、その他諸々を釈明するとしたら、必然的に堂洞と生配信で話をした方がいいかもしれない。
まぁ、ネットの与太話なんて放っておけばいいのだけれど、俺的にはどうにもむず痒いのだ。
「うん。話してみるよ。ありがとう祈」
「え? 私は何もしてないけど……どういたしまして?」
そうと決まれば隼人と相談だ。
俺はぬるくなったお茶を一気に飲み干し、祈にごちそうさまと言って隼人のいる部屋へ向かった。
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