第60話 新たな人事
「あのメッセージ、本当によろしいのですか?」
「問題ない。むしろ前任のあの老害こそ問題だ」
「は。それは仰る通りです」
ダンジョン環境省にある一室、大臣の執務室に彼らはいた。
現ダンジョン環境省大臣堂洞俊輝、そして新たに就任した副大臣。
二人が見詰めるのはパソコンに映し出された動画。
動画では重賀虎能充が、たった一人で数十人のごろつき達を相手取っている。
「年齢不詳、住所も特定不可能、そしてジョブスフィア及びユニーク武器の持ち主……か」
「それに関してですが、例の部隊長から彼は恐らく未成年であると報告が上がっております」
「そうか。それは非常によろしくない報告だな」
「保科はいかんせん無能過ぎました」
「なぜ彼が大臣だったと思う?」
「コネクション、でしょうか」
「その通りさ。いつの時代も腐った政治家は多い。この私もな」
「大臣はまだまともな方かと」
「ダンジョン黎明期、オリジンオブジェクトが現出した時は政府も大混乱だった。急ごしらえで設立したこのダンジョン環境省も、体制を整えるのに数年を要した」
「当時は大臣も現地調査特待員として、探索をしていらしたのですよね」
「昔の話だ。だがそれこそが一番の経験だったと思うよ。当時の探索は荒れた。荒れに荒れた。さながら世紀末格闘漫画のようにな」
「そうですね」
堂洞は椅子に背を預けて天井を見詰め、自分の頬にある大きな傷跡を撫でた。
「そもそもユニーク武器もジョブスフィアも、他人に譲渡出来るものではない。その事すら理解していなかったとは、愚かとしか言いようがない」
「部下達から何度も進言があったそうですが、全て無視していたようです」
「……他人を押さえつけている限り、自分もそこから動くことは出来ない」
「ジョージ・ワシントンの言葉ですか」
「イエス。利己的な自らの心を正義と信じ、他者を陥れ利用するしか能の無い人間は今の時代には不要だ」
「同感です」
「これからは、というよりダンジョンがこの世界に発生してからだが――探索者は国をよりよい方向へ導く存在だと私は思っている。昨今の技術発展は目まぐるしく、それを可能としているのはダンジョンから得られる素材や資源だ。過去の石炭しかり、石油しかり、レアアースしかり――ダンジョンの攻略度によって国の繁栄が左右されると言っても過言ではない。東アジアのある国はダンジョン探索を規制し過ぎた結果、探索者は育たず資源も思うように得られず、止めに同時多発的なDBBによってほぼ壊滅した」
「ジャッジメント氏は応じてくれるでしょうか」
「どうだかな。我ら役人に対してのファーストインプレッションが最悪だからな。だが私は諦めん。彼を特別協力員として迎えるまではな」
「彼を迎え入れて何をなさるおつもりですか?」
「色々だよ。だが誓ってもいい、決して彼を邪魔する事はしない。利用もしない――まぁ見方によっては利用していると言われるかもしれないがね」
堂洞はそこで深いため息を吐き、その目は特殊部隊長と対峙している虎能充を見詰めていた。
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