第59話 スキャンダル?
祈と語る時間はまったりと暖かく過ぎていき、気付けば俺は眠り込んでしまったらしい。
パシャパシャと軽快な音が耳に入り、まどろみの中でゆっくりと瞼を開けた。
「あ、起きた」
「ん……?」
「やぁおはようコノミン。よく眠れたかい?」
「隼人……おはよう。話していたら寝てしまったようだ」
「そうみたいだねぇ。実に仲睦まじく羨ましい」
開けた視界の中に、俺を覗き込む隼人の姿があった。
そしてぴょこぴょこと、左右から女の子の顔が飛び出した。
「瑠璃、祈がコーチの事コノミって呼び捨てにしてるから、変だと思ってた」
「あ~分かる~私もそれ思ってたけど、触れないでおこ~って」
薄いメイクを施した瑠璃ちゃんと翆ちゃんが、顔を合わせてね~っとやっている中で、俺はある事に気付いた。
肩に何やら重い物体が乗っていた。
それが何かは考えないでも分かる。
祈の頭だろう。
「こ、これはだな……」
「祈ったら口開けて寝てる」
「はしたないね~」
二人が祈の頬をちょんちょんと突くと、祈はううん、と小さく呻いてゆっくりと瞼を開けた。
「ふぁっ!? 瑠璃ちゃん翆ちゃん!? お、おはよう!?」
「寝ぼすけめ。今何時だと思ってる」
「おそよ~。いい絵が撮れました~」
「どゆこと!? 今何時!? ふああコノミごめん! 私寝ちゃってたよ!? え!? コノミの肩で!? うわぁああ~!」
寝起きだというのに、実に元気な様子で祈は飛び起きた。
口元を袖でぐしぐしとこすり、顔を真っ赤にしながら洗面所へと駆けて行ってしまった。
瑠璃ちゃんと翆ちゃんはそれを面白がりながら、後を追って行った。
「随分と仲が進んだようだね? コノミン」
3人が洗面所へ消えたのを確認した隼人が、俺の隣に座った。
「た、たまたまだ。昨日はずっと話し込んでいて……」
「何を話したんだい? お互いソファーで寄り添って寝るまで、なんてさ」
「……愛波の話だ」
「へぇ……? 君が他人にそれを話すなんてね。あの子は君のヤドリギかい?」
「……うるせぇ。こちとら戸惑ってんだ。茶化すな」
「茶化しているつもりはないよ。僕としては嬉しい限りさ」
そう言って隼人は自分の携帯画面を俺に向けた。
「おまっ!? 何だこれ! いつのまに!?」
「ふふん。朝起きたらこうなっていたからねぇ。ちょっと作ってみた」
画面に映し出されていたのは、俺と祈が肩を預け合って眠りこけている写真。
それに【熱愛発覚!? 大人気アイドルとジャッジメントの密会!】というテロップが付いて、ゴシップ記事のようなありさまだった。
「お前、それをどうするつもりだ」
「どうもしないさ。ただの悪戯心だよ」
「だといいがな」
「まぁぶっちゃけ、これを流してさらに世間の目を注目させようか、とは考えたけれどね」
「やはりか貴様あああ! 消せ! 今すぐ消せ!」
「あっはっは! やーだよー! ちなみにクラウドにもアップしてるからバックアップもバッチリさ」
「くそ……! あーもう、パシャパシャいってたのはお前のカメラの音かよ」
「ん? 違うよ? 君が起きる寸前に写真を撮っていたのはガールズ2人さ」
「あ・い・つ・らああああ!」
俺が洗面台の方へ顔を向けた瞬間、祈の「ぎゃあああ!」という声が聞こえたので、あの2人も写真を見せたのだろう。
そしてドタバタという足音と、きゃぴきゃぴとした笑い声が聞こえた。
「コノミン……」
「なんだクソ野郎」
「今更だけど、今をときめくアイドル3人娘が僕の家できゃっきゃうふふしてるよ」
「あぁそうだな」
「たまんないね!? ここがヴァルハラかい!?」
「うるせぇよ!?」
「あっはっはっは!」
隼人が茶番をしてひとしきり笑った後、すん、と真面目な顔になって俺を見た。
「……何だよ」
「実はねぇ。コノミンにお便りが来ている」
「またDМか?」
「そうだよ。でも今度はちょっとばかり相手が面倒くさい」
「というと?」
隼人は俺の質問に答える代わりに、DМ画面を俺に見せた。
「何々……? 突然失礼いたします、ご多忙とは思いますがジャッジメント様にお話があり、メッセージを送らせて頂きました……はぁ!?」
「ね? めんどくさいだろう?」
文面には色々と書かれていたが、要約すると俺の力を見込んで依頼したい事がある、報酬は勿論出すし、俺の私生活などにも一切干渉する事は無い。
話だけでも聞いてはもらえないだろうか、疑いの種が一粒でもあるのなら、生配信をしながら話すのでもかまわない。
という内容だった。
そしてDМの送り主の名は――。
「ダンジョン環境省大臣、
「送り主のデータ洗ってみたけど、どうやら本物っぽいんだよねぇソレ」
「新しく就任した大臣だよな。確か探索者もしていたっていう」
「そうそう。探索者のよりよい未来の為に尽力するって、記者会見してたよ」
「お前はどう思う?」
「んーわからん。けどまぁ、話を聞くくらいいいんじゃね? って僕は思うけどね」
「新しいダンジョン環境大臣……か。さてどうするか……」
突然降って湧いた現大臣からの直接アポ。
文面の内容が嘘偽りないのだとしたら、話をするぐらい構わないのだろうか……。
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