第13話 ハイエナ都市ジェノサイド

 ホッパーとの戦いから数日が経ち、世の中は落ち着きを取り戻していた。しかし世間では人間以上の何者かが、今までの騒動を起こしているのではないかと気付き始め声を上げる者もで始めていた。

 そんななか、ライは小学校に通学していた。


「あっ、おはよう。ライ」


「おっはー」


「おはよう…」


 教室に入ると3人のクラスメイトの少年が挨拶してきた。

 一人はライと同じ位の背丈の子、ポッチャリとして恰幅の良い少年、小さめの体で気弱な少年。

 それぞれ名を順番にリュウ、ミク、リキと言う。3人はライが転校して来てから何かと良くしてくれている少年達だった。


「おはよう!」


 ライは元気に挨拶を返すと自分の机に行き、カバンから教科書を取り、机に入れる。


「ねぇ…今日放課後遊べる?」


リキに予定を聞かれる。ピキッとライは動きを止める。

 

「あー…ごめん今日は予定があるんだ。」


 ライは予定があると断る。そうほぼ毎日学校が終わった後訓練が入っている。放課後自由だったことは数えるほどしかない。


「そっか…じゃあ、今度の休みうちの父さんが隣の県の街中に出来たショッピングモールにみんなを連れてってくれるって言ってたんだけどそっちは行ける?」


 またもライの動きが止まる。ここ最近の休みはほとんど訓練になっていたからだ。


「ごめんね、最近忙しくてさなかなか自由になれないんだよね。もうちょっと待ってて、また今度誘ってね。ほんとにごめん。」


 申し訳無さそうにライは断った。


「そっか…」


「仕方ないね。」


「じゃあ、次の20分休憩のときまた集まろうぜ。」


 3人はそれぞれの席に戻る。3人が戻った後ライは席に腰をおろし、窓を眺める。空は快晴晴れ渡っていた。


「ここまでのことは考えて無かったな…」


 自分から志願した以上戦う術を身につけるため訓練をやめるわけにいかない。しかし、友達と遊ぶのもライにとってはかけがえのない時間である。小学校低学年のライにとってどちらに天秤が傾くかは言わなくてもわかることだった。


「訓練を休みたいって言ったら伊織のスパイクニーキックが炸裂するからなぁ…」


 そんなこんなでチャイムが鳴り、担任が入ってくる。


「あっ、トイレ行ってなかった…。」


 それからライは朝のホームルームから1時間目終わりまでトイレを我慢し、授業の内容を全く聞いていなかった。



 そして放課後、友達と遊びたい気持ちを抑え、EAGST基地に向かう。基地では基礎トレーニング、走り込み、そして模擬戦が行われる。模擬戦では新しい2人と行った。

 一人はカナダから来たノア、体格の良い青年だが謙虚で腰が低く、誰に対しても敬うことを怠らない真面目な男である。


「カナダより日本のサーモンのほうが美味しいです!!」


 誰に対しても敬語を崩さないスタイルである。

 そんな彼の専用装備は謙虚では無かった。二門の砲を備えたカナディアンキャノン、スーツの肩と連結させ、ビーム、火炎、実弾を撃ち出す、強力なユニットである。


 もう一人フランスから来た見事なスタイルの緑色の髪の女性、イレーヌ。彼女の専用装備は左腕の義腕である。かつて事故に遭い、失った腕を補うために着けた代物だ。カナディアンキャノン同様様々な攻撃機能が内蔵されている。


「はぁっ!」


「くっ!」


 模擬戦でライとノアはガッチリと組み合う。そしてノアの方が押していた。


「カナダの熊たちとやり合った私の力お見せしましょう!」


「絶対うそだ!アタタタッ!すっごい力。」




 所変わりメガフィスの海底基地、ここでは日本に前線基地を建てる計画の話し合いが行われていた。


「前線基地を建てるために都市を丸ごと一つ占領してしまおう。」


 シュタールの一声から始まる。


「では何処の街を乗っ取るんだ?」


 ボルターが疑問を投げる。


「うむ、此処を狙おうと思う。」


 スクリーンに映し出された日本地図、それが拡大される。


「F市、手始めに此処に前線基地を建てようと思う。我々は今まで何度も作戦を実行してきたが充分な物資を確保出来ないでいた。より近い場所に基地を作れば充分な戦力と物資が賄えるであろう。」


「今回は今までで一番大掛かりだねぇ。」


 グリモワが作戦の規模について言及する。


「うむ、これだけの大きな作戦だ。秘密裏にするのは無理だ。だがやらなくてはならぬ。」


 シュタールが力説する。


「なら、今回は我らに任せてもらおう。」


 フレオーンが人材提供に名乗りを上げる。


「ハイエナの化身、ノワール!」


「ははっ!」


 フレオーンの呼び掛けに一匹の獣が現れる。人型の黒いハイエナだった。


「ノワール、お前の出番だ。三千匹のお前の手下ハイエナとともに基地となる都市を乗っ取るのだ。」


「承知しました。」


 ノワールは膝まつく。


「なら、応援要員が必要だな。」


 ボルターも人材の作戦参加に名乗りを上げる。


「デンコオロギ」


「は、はい」


 現れたのは人型のコオロギだった。


「デンコオロギお前は我ら電気族の中でもトップクラスの蓄電量を誇る。その蓄える力で都市の電力を吸い尽くし、停電で人間をパニックにさせるのだ。」


「俺等からも出すか、シザワーム!」


 ブレイズは刃族からも精鋭を出すことにした。


「はい。」


 現れたのはハサミムシの外見をした怪人だった。


「お前の自慢の鋏で人間共を切り刻んでやれ!御使いが現れたらアイツを殺せ。」


「はっ!お任せを!」


 シザワームは膝を地につけ命令を受ける。

 ノワールが口を開く。


「既に私の三千匹の手下のハイエナがアフリカ大陸から天然の地下空洞通路で日本に向かって来ています。」


「うむ、それでは行って参れ、吉報を待っている。」


「「「ははっー!」」」


 シュタールの号令とともに三体の怪人は準備に取り掛かった。




 訓練を終え、自宅に帰宅したライは夕食を食べ終え、のんびりとくつろぐ時間を過ごすはずだった。


「あっ、それオイラのお菓子!」


 自宅のリビングにはイレーヌが居座っていた。ライ達親子を護衛するためEAGSTから誰かが一人が龍峰宅に駐在することになっているがこの日はイレーヌがそうだった。 

 堂々にもソファに横になり、サブスクをかけ、ライのスナック菓子を食べていた。シンプルなサマードレスを着ていて、左腕は義腕を隠すために肘まである黒いレースのグローブをしていた。


「家のものは何でも好きにして良いってお母様から言われてるから遠慮無く…てね。」


「遠慮無さすぎ!ってそれまだクリアしてないゲーム、あっ、あーあ、クリアされた…。」


「まぁまぁ良いじゃないの?ライ、こうして家を守ってくれるのだから。」


麗がなだめるように仲裁する。


「って言っても好き勝手やり過ぎでしょ!」


「ったくピーピーうるさい。器が小さければ背も小さんだから。」


 鬱陶しそうにイレーヌはライを見る。その口からは溜息がこぼれていた。


「オイラ8歳、背が小さくて当たり前、器もこれから大きくなっていくの!」


「そんなことよりライ、早くお風呂入っちゃなさい。」


「ハイハイ」


 麗に促され風呂場に向かうライ。


「一番風呂ご馳走さま。」


(アイツ、家にくつろぎに来ただけじゃ…)


 ライは心の中でブツブツと言いながら風呂場へ行った。



 数日後、ここはライ達が住む県の隣県にあたる地域の都市その日は休日も相まってもうすぐ日が暮れようとしているのに人で溢れていた。

 街灯がつき始め街が昼から夜の装いに変わろうとしていたときそれは起こった。

 バチッ!

 突然街中の明かりが全て消えた。街灯、野外モニター、信号、電光掲示板、看板、ビル群の電球これら全てが一瞬にして仕事を止められた。


「ええっ、なになに!?」「急に暗くなったんだけど?」「うおっ、電気ついてね―じゃん」「停電?」


 街中の人々はパニックになる者、冷静に現状を把握する者、興奮する者、様々な反応を見せていた。

 皆一斉に持っているスマホのライトをつける。


 ドチャ…!


 妙な音がどこからかした、


「えっ、なに?今の音?」


 ザワザワと周囲がざわつき始める。誰が音がしたであろう場所を照らす。


「うっ、うわぁぁぁぁ!!!」「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!」


 悲鳴があちこちから上がる。人々が見たのは何かに“噛み千切られた”ようなズタズタになり、血塗れで内臓が出ている、人だったモノの体だった。

 悲鳴はやがて恐怖となり、伝染病のように大衆に広がっていった。それを止められる人物、術はない。


 ガチャ、!ベチャ、!グチャ!


 似たような音が周囲から聞こえる。音のした方向を照らすと同じような死体が一つ、また一つとあった。


「ーーー!!」


 声にならない、支離滅裂な叫びが何十何百と重なる。


 グルルルルッ!!


 唸り声が何処からか響く。それを聞いた人々は声を消し、一斉に動きを止める。

 暗くなった空間に小さな2つの光が見えた。それ360度あらゆるところ、木の上、茂みの中、路地に見られた。それらの光が徐々に大きくなっていく。まるで近づいてくるように。誰もがわかったそれは獣の眼だと。

 そして現れたのは日本には野生で絶対いない動物ハイエナだった。


「うっ、嘘だろ何でこんなのがここにいるんだ…。」


 非現実的と言っても過言ではない光景に皆足が竦む。

 彼らは肉食動物、彼らが今標的にしているのは何か、無惨に転がっているモノを見れば子どもでもわかることだった。


 グウゥゥ、グアァァッ!!


 一斉にハイエナ達が人々を襲い始める。


「キャアァァァァァァァァァ!!!!」


「アッ…アッ…アッ…。」

 

 逃げ惑う者、恐怖で腰が抜けて地べたにへたり込むもの、錯乱したように手に持っているものを振り回す者、そんな人間にハイエナ達は噛み千切る、切り裂くなどして狩りをする。


 プシュュュュッッッ!!


 街のいたるところから断末魔と噴水のように血が噴き出す音が聞こえる。

 その様子をハイエナ達の頭領ノワール達がビルの屋上から見ていた。


「ハハハッ!良いぞ、その調子でこの街の人間を一人残らず殺すのだ。」


 ノワールは上機嫌といったようすだった。その光景をシザワームも眺めて、


「既に都市への電力供給はデンコオロギが絶っている。後は人間の攻撃部隊が来る前にサッサッとこの都市を占領してしまおう。」


「うむ、なのでオークコング隊も出撃させている。都市の境界線にも防衛網を張っている。」


 ノワールは自信を持って言う。そこでシザワームは現状を確認する。


「もう10分経った。今のキルスコアは?」


 側にいたオークコングがタブレットを見せる。


「ギィッ!ただいまキルスコア1481人でございます。」


「おおっ!もう4桁いったのか。さすがノワールが仕込んだハイエナ部隊、オレの出番が無いかもな。」


 カカカッとシザワームは笑う。


「何を言う、本当は自分もやりたくてたまらないのだろう?」


 ノワールはシザワームの本心を突く。


「バレたか。」


「当たり前だそのために我らは組まされているのだから。」


「なら。」


「うん、そなたの力貸してほしい。」


「ああ、わかっている。おい、まだ手のつけていない場所はどこだ、案内しろ。」


 シザワームはオークコングを引き連れて、戦線に赴いた。


「デンコオロギに電力を吸い終わり次第戦線に出てほしいと伝えてくれ。」


 ノワールはオークコングに命令する。


「さぁ、我らの基地建設の邪魔はさせぬぞ。御使い…!」




 その頃龍峰宅では休日明け学校に雑巾を持っていくことで少し揉めていた。


「どうして今になって言うの!」


 麗はライを叱りつける。


「いやー、完璧に忘れてたんだって。」


 事前に言っていなかったようで家の中にないか探しているのだった。


「お便り出さないからでしょ、まったく!」


「おっ!そこのグータライレーヌに買いに行かせるのはどうかね?」


 ソファに横になり、サブスクでライの楽しみにしていたアニメの先行配信を先に観ていたイレーヌを見て名案思いつたとばかりに提案する。


「ダメッ!人様に頼らないの。ほらっ今から買いに行くよ。」


「う、うん…。」


 仕方無しと出かける準備をしているとEAGSTの通信機器が鳴る。


「はい、龍峰です。」


「あぁ、ライ君か非常事態なんだ、すぐに基地に来てくれ。」


 早川からの要請を受ける。


「了解しました。よしっ、イレーヌ行こう!」


「はぁ…面倒なんだけど?」


 気だるいといった感じでイレーヌは渋々ソファから起き上がる。


「何言ってんの、オイラの楽しみ片っ端から奪っておいて。あっ、ヒロインまだ水着にならないのか…早く帰って観たい!母さんゴメン一人で行ってきて、気を付けてよ。」


「それこっちの台詞!」


 ライとイレーヌは地下リニアに続く扉を開け、駆け下りて行った。

 


 本部に着くといつも以上に物々しい雰囲気で、人の行き来も激しかった。

 作戦室に着くとノアの他に黒部、伊織、オリビア、ネイルも招集されていた。


(非常事態でこの人数一体何があったんだろう…?)

 

 いつもと違う雰囲気にライは気が気でなかった。


「揃ったか…。皆聞いてくれ。」


 早川は何時にない緊張感のある表情で全員に語る。


「今から約一時間前隣県の都市で人々がハイエナの大群に惨殺される事態が起こった。」


「「「!!!!」」」


 その場にいた全員が衝撃を受ける。


「それはどういうことなんだっ!何で日本にハイエナなんてモノがいるんだ。しかもそれが人間を襲っているって!?」


 ネイルは誰もが思ったことを口にする。それに対して早川は答えるように映像を見せる。


「これを見てくれ。」


 モニターに映されたのはヘリが上空から撮った街の映像だった。街のあちこちをハイエナが駆け回り、道には沢山の“人間だった”赤い物体が至る所に散乱していた。モザイクも修正も何も無い映像で、オリビアは背後からライの目を隠した。

 

「ご覧の惨状だ…。そしてよく見てほしい。」


 早川は映像を注意深く見るように促す。ライはオリビアに目隠しされているため全く見えない。


「メガフィスの雑魚集団!」


 見つけた伊織は思わず声を上げる。銃や刃物を持ったオークコング達が人間を襲っていたのである。


「さらにこれも」


 早川は別の映像に切り替える。そこにはノワールやシザワームが映っていた。


「完全にメガフィスの犯行という訳か…。ここまでやるとは連中、街を乗っ取る気か?」


 黒部がメガフィスの目的を探る。


「恐らくそう見て間違いないだろう。奴らはこの街を自分達の住処にするのかもしれない。」


「でもこんなことをすれば世間に存在を完全に知られてしまうのではないですか。彼はそれを承知でやっていると?」


 ノアは疑問を口にする。


「奴らもなりふり構っていられないのかよほど世界を相手に戦う自信があるのか…」


「うん、そこで君達に敵の討伐と生き残っている民間人の救出を頼む。」


 早川は全員に要請する。それに付け加え、


「今回は大規模な戦闘が予想される。EAGSTの一般隊員も武装して作戦に参加する。」


 今までで最大規模の戦いになる予想だった。


「街へ行く道路には敵が武装して門番のように待ち構えている。まずそれらを突破しなければならない。それを突破後都市に突入する。」


 早川は作戦を説明する。それにオリビアが疑問を上げる。


「下水道を通って地下から潜入はできないのですか?」


 早川はその問いに答える。


「映像を解析してわかったが、マンホールや下水道に繋がるものにはトリモチのようなもので閉じてしまっている。地下からの突入は難しい。」


 メガフィス側は用意周到に進入口を塞いでいた。よって正面から行くしか手はなかった。


 そして早川は話を続ける。


「そしてもう一つ今回作戦に参加するのを一人紹介する。来てくれ。」


 デスクに付いているマイクで話す。どうやら違う場所にいる誰かを呼び出しているようだ。

 10秒ほど間が空き、作戦室の扉が開く。

 現れたのはショートヘアで片目が隠れていて、伊織やイレーヌと比べると若干小柄の女性だった。


「紹介しよう。彼女は桔梗芽琉隊員だ。彼女も今回の作戦に参加してもらう。」


「桔梗です。どうぞよろしく。」


 芽琉はペコリと頭を下げる。そして続けざまに


「私の先祖は大昔メガフィスと戦っていました。なので私もちょっとした能力を使えます。」


「へぇ…どんなことが出来るのかしら?見せてもらえない?」


 イレーヌは興味津々に能力披露を要求する。


「それは作戦まで楽しみにしていてもらうよ。」


 それを早川が制した。


「では、みんな準備に取り掛かってくれ。人員の配置などは現場への移動途中に説明する。それではよろしく頼む。」


 早川が頭を下げ作戦実行を頼むと全員が敬礼して応え、準備の為作戦室を後にする。



 ノワール達の人間狩りは今だ続いていた。街の建物はどれもボロボロになり、瓦礫などが道には散らばっており廃墟となっていた。 

 そんな廃ビルの一室でノワールは休息を取っていた。


「現在のキルスコアは?」


 近くに立つオークコングに配下たちが狩った人間の数を聞く。


「はっ、ただいま20184人です。」


 手元のタブレットを見せる、そこには無残に惨殺される人間たちが映し出されていた。


「よしっ、基地建造のための物資の運搬班を呼べ。」


 ノワールが指示を出しているとき。 


「失礼、お邪魔する。」


 暗闇から一人の人物が現れる。


「お前、ティーグか?」


 ノワールは現れたのは人物を目で捉え名前をつぶやく。


「順調そうで何よりだが敵が動き始めているぞ。」


「それは見越している。」


「これまでの少人数ではなく向こうも軍隊レベルで攻めてくるぞ。」


 「当たり前だなにせ街一つ占領したのだからそうでなくては面白くない!」


 ティーグの警告にノワールは両手を広げガハハッと笑う。


「ということはもちろん御使いも来るわけか…」


「奴の相手は私がする。お前はいち早く建設準備に取り掛かるんだ。」


 サッと背を向け再び暗闇に消えゆくティーグ、その背中を見てノワールが


「では任せしよう。どうか総崩れにならないように…。」


 ティーグは何も応えず、完全に暗闇に消え、その場を去っていった。




 ライ達は現場に到着した。都市近くには規制線が張られて一般人は入れないようにされていた。マスコミや野次馬たちで人だかりが出来ていた。 街の至る所には防御壁が立てられ、武装したオークコング達も付き、外からの侵入者を排除する構えだった。

 ライ達は基地建設のための資材運搬がされている一箇所から攻め入ることにした。

 運搬車が通りまだ閉じきっていない防御壁に突撃した。


「今だ行くぞ。」


 黒部の掛け声とともに警備するオークコングたちを襲撃する。

 ババババババババッ!!!

 銃撃戦となる。


「わぁーっ!!」「きゃー!!!」


 銃声が響くと野次馬のほとんどが怯えて逃げて行った。

 そんな銃撃の中をイエローのパワードスーツを着た芽琉が敵に向かっていく。


「っ!!」


 芽琉は目にも止まらぬ速さで駆けると


 サッ、サッ、サッ、サッ!


 敵は真っ二つになっていった。

 彼女、桔梗芽琉には特殊な能力が備わっている。その能力は加速による高速運動、ライのものとは比べ物にならないほどのスタミナを持っており、安定したスピードで動くことが出来る。

 彼女の能力を活かすためパワードスーツも特別なモノな仕様だ。

 加速でスピードが落ちないようスーツは軽量化が図られており、芽琉のスーツには実弾兵器が内蔵されていない。内蔵されている武器はビーム砲のみ、その他は大型のビームナイフ2本と小型ハンドビームガンだけだ。

 スパスパと残りを片付けると芽琉は「来て」とジェスチャーを出し、部隊を誘導する。


「突入する!」


 黒部の一声で武装した一般隊員達、伊織、ネイル、ノア、イレーヌは都市へ突入するのだった。

 ライとオリビアは後方待機で保護した一般人を受け入れたり、戦力が足りなくなったときのための控えにまわっていた。

 ライはいつでも動けるように龍王装甲に変身し、待機していた。

 後方要員としてだが、本当は幼いライに凄惨な現場を見せたくない、そんな早川の考えで突入隊には入れなかった。それはライ以外皆に知らされていたことだった。

 ピーーッ…こっ…ち…ら…

 無線からは一般人を救助した報告や隊員が負傷した内容が次々と入ってくる。

 市街地からは銃声や獣の声が響いていた。

 

「みんな大丈夫かな…。」


 ライは大きな箱の中で戦う仲間たちを案ずるのだった。


 

 突入部隊は防御壁突破後何班かに分かれて行動していた。

 真っ向から迫るオークコングやあらゆるところから飛び出してくるハイエナを射撃したり、サーベルで斬っていく。


「まるでソンビゲームだなぁっ!」


 一般隊員達は遊びのように銃を発砲する。

 が、後ろからハイエナが飛びつき噛みつく。


「あああぁぁ…!ぎゃあああぁぁぁ!!!」


 ハイエナの顎の力は強力だ、鉄より硬い隊員たちの防護服も何度も噛みつかれては破れてしまう。

 実戦で油断した隊員達の断末魔があちらこちらから聞こえてくる。


「チィィ!」


 黒部はハイエナの群れに飛び込み一匹を蹴り飛ばし、残りをビームソードでバッサバッサと斬っていく。


「負傷者を下がらせろ、周囲警戒強化!」


 一般隊員達で負傷した隊員を引きずり後退させる。


(一瞬も油断してはならない!)


 黒部は気を引き締めて周囲を警戒するのだった。


 

 伊織はビル7階で生存者を発見し、保護移送している最中だった。

 警戒しつつ、階段を下っていた。そこにオークコング数体が伊織達を見つけ階段を登ってきた。後方からも迫って来る。

 パァン!パァン!パァン!

 すぐさまリボルバーを撃ちこれを撃退。後方の敵も隊員達の射撃で掃討した。


「いいっ!?指一本!生存者に触れさせちゃ駄目よ!」


 隊員達に喝を入れる。


「「「了解!!」」」


 隊員達はそれに野太い声で応える。一般隊員達から伊織やオリビア、イレーヌなどは人気が高く憧れを抱いている者も多い、そんな伊織からの喝は何よりも彼らのちからになるのだった。

 1階まで辿り着き出口まで急ぐ。途中、広い吹き抜けの場所まで来る。すると吹き抜け2階部分からハイエナ達が飛び降りてくる。


「くっ…!」


 伊織達はすぐに銃で迎撃し、撃ち落としていくが何匹かは撃ち漏らし、隊員に襲い掛かる。


「助けてー!」「ギャアアァァ!!」


 何人かはあっという間に血だるまになってしまう。


「生存者の周囲を固めろ、絶対に殺らせるな!」


 伊織は隊員に命令する。その時


「グルルッ…!」


 一匹のハイエナが正面から飛びかかってくる。


「雑魚がぁっ!」


 伊織の膝の装甲が変形しスパイクとなり、ハイエナに膝蹴りする、スパイクは顎から脳天まで貫通した。


「オオオォォッ…!」


 オークコングが剣を振り下ろす。

 ガキンッ!

 右手のリボルバーと左手に持つビーム銃を交差して剣を防ぐ。


「くっ…!」


 オークコングの胴体をスパイクで刺し、蹴り飛ばす。続いて襲ってきたハイエナ数匹にリボルバーとビーム銃を撃ちまくる。


「しまっ…!」


 一瞬の隙をついて背後から一匹ハイエナが伊織に飛びつこうとする。そのとき、


「デアァッ!」


 グサリと槍がハイエナを貫く、槍を突いたのはネイルだった。


「よぉ、ちょっとピンチなんじゃないか?」


 槍を振り回して敵を牽制しながら伊織に声をかける。


「たまたまよ、たまたま。」


 伊織はリボルバーをリロードし、ハイエナ達に撃ちまくった。


「よいしょおっ!」


 ネイルは槍の穂先からロープ状のビームを出すとハイエナに絡ませた。

 そのまま釣り上げ振り回して周囲の敵に攻撃した。

 

「一本釣り戦法だ!それっ!」


 周囲の敵は皆吹っ飛び倒れていった。


「さあ、今がチャンス行くよ!」


 伊織達は一般人の周囲を囲みながらその場を後にした。



 所変わり待機所では保護された一般人を続々と受け入れていた。突入してから既に2時間が過ぎていた。

 ライはいつでも出られるようにスタンバイしておくだけだった。歯がゆいムズムズした気持ちを抑えて。

 そこに一人のやつれた男性が保護されて来た。男性を見た瞬間ライは一瞬固まる。


「あれ?あのおじさん何処かで見た、会った気がする…?」


 ここ最近の記憶を思い出す。


(絶対何処かで会ってるはず。)


 必死に記憶を巡る。そして思い出す。


(そうだ、あの人ミクのお父さんだ!)


 そう、男性はライのクラスメイトで友達のリキの父親だった。


「た、助けて下さい。子どもが!子どもたちとはぐれて、子ども達がまだ何処かにいるんです!!」


 男性の言葉を聞いてライは冷たい汗を流す。そして数日前のリキの言葉を思い出す。


(そうだ!休みの日遊びに誘ってくれたんだっけ。じゃあ、子供たちっていうのは…。うっ…!)


 ライの意識にある映像が流れ込む。廃れたショッピングモールでリュウ、ミク、リキの3人がハイエナ達に囲まれる映像だった。


(今のは?まずい!この予知が本当なら…!)


「急がなきゃ…!」


 ライは街に向けて走り出す。


「!?ライ、何処に行くの!駄目よ、戻ってらっしゃい!!!」


 オリビアはライの様子に気づき、戻るように呼びかける。


「ゴメン、友達が危ないんだ!!」


 オリビアの制止を振り切りライは危険地帯となった街に飛び込んでいった。




 

























 


 









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龍王装甲ライ @uminokame

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