第11話 雷脚の飛蝗女①
メガフィス帝国その基地では次なる作戦が考えられていた。
「次はうちから精鋭を出そう。」
電気族将軍ボルダーが他の将軍達に向かっていう。
「ボルダー、お前が率先するとは珍しいな。」
獣族将軍フレオーンがボルダーに話す。
「余程自信のある人材がいるのか?」
シュタールが尋ねる。
「うむ、来いホッパー」
ボルダーに呼ばれて現れたのは女性のシルエットの飛蝗の怪人だった。
「はい、お呼びでしょうかボルダー様。」
「ああ、お前に御使い倒しを命じる。」
「御意」
ライジンホッパーは命令を受けて頷く。
「なら、うちからも一人出そうかねぇ。デビルウータン。」
グリモワに呼ばれて来たのはオランウータン型の怪人だった。
「はい、デビルウータン此処に…」
「お前も御使い倒しに出ておくれ。」
「はい、承知いたしました。」
「じゃあ俺等からもひとり出すか。」
ブレイズも人材を出すのに名乗りを上げる。
「来い、オーガホーリー」
「呼んだか?将軍」
現れたのは植物の柊を模した怪人だった。
「お前も御使い切り刻んで来い!」
「ああ、言われなくても…!」
ブレイズからの命令に当たり前だと言わんばかりに食い気味に返答する。
「ほとんど女か…」
フレオーンがボソッと呟く。今回の作戦参加のうちデビルウータン以外は女性怪人なのだ。
「獣将軍様、女ではいけませんか!?」
ライジンホッパーはキレ気味にフレオーンに問いかける。
「いや失礼、戦いでは男も女も関係ないな。」
「…わかっていただければ良いです。」
フレオーンが謝罪するとライジンホッパーも冷静になり謝罪を受け入れた。
「すまない、コイツは昔から女であることを指摘されるとカッとなりやすいんだ。」
ボルダーがフレオーンに詫びを入れ、フォローする。
「それだけ女であることを馬鹿にされてきたのであろう。」
シュタールがライジンホッパーの人生を言い当てる。メガフィス帝国では女性は実力があってもなかなか認められない風潮があった。
「その中で将軍に上り詰めたグリモワは相当なものだ。」
「はっ、魔術将軍様のことはとても尊敬しています。」
「なら女性地位向上のため御使いの首取ってきてもらおうかねぇ。」
「お任せください。」
そう言い残すとホッパーはシュッと姿を消した。それに続きデビルウータンとオーガホーリーも作戦に赴いた。
「これからは女であろうとドンドン実力を買っていかねばならんな。」
フレオーンはホッパーに言われたことで考えを改める。
「うむ、現に今上にいるのはグリモワのみ。大昔ではあるが奴もいたな。」
シュタールが女性怪人で上級階級がいないことを認識していた。
「まぁ、取り敢えず見ていてくれ、あやつが御使いを倒せるかどうかを…」
ボルダーは自分の信じて呟く。そこに
「女の幹部で奴とは私のお師匠のことか?」
ティーグが姿を見せる。
「お前何しに来た。話によれば御使いと戦ったそうじゃねぇか。」
ブレイズがティーグに詰め寄る。
「ああ、挨拶代わりに一戦交えてきた。」
「ほう、でどうだった?」
「まだまだ発展途上だが確実に我々の障害になる。そうならないように秘宝を集めて対抗しなければ。」
ティーグは先のライとの戦いを思い出す、最初は自分が押していたが、ボロボロになりながらのライの猛攻は凄まじかった。あの日見た龍王装甲の正体、あの赤い髪の幼い少年、子どもであの力を出せるとは、成長具合では本当にメガフィスを滅ぼしてしまうかもしれない。ティーグにそんな考えが過った。
「ところで秘宝の場所は分かったのか?」
フレオーンが尋ねる。
「この地方の山間部にあるのは分かった。あとは場所を絞り込むだけだ。」
ティーグは調査していたことを素直に話す。
「そうか、なら頼んだぞ。」
シュタールはティーグにもう一度頼み込む。
「ああ…」
ティーグは短く返すとその場を立ち去る。
ライはオリビアの付き添いでショッピングモールに出かけていた。
それは1週間前に遡る。ライがどうしても観たい映画があり連れてってほしいと母親の麗に頼んでいたが、教師である麗は職場の高校の行事で行けないと言われた。
「せっかく訓練が早く終わる日だからさぁ、なんとかならない?ザ・ペロッシュ観たいの、ネットでマイケル・バートンのザットマンが出てくるって書いてあったの。」
「何もその日に観に行かなくても別の日に行けばいいじゃない。それにこないだシンパイダーマン観に行ったばっかりじゃない。」
「他の日だと夜までビッチリ訓練があるから行けないの。ダメなの?母さん、終わったあとでも良いから。」
「そんなこと言っても夕方の遅い時間だから無理。」
キッパリと言われてしまう。ムムムッとライは困ってしまう。
それを見ていた伊織は、
「私もその日予定があるから連れてけないかな。」
と、まだ聞いてもいないのに無理と告げられた。そこに、
「あら、どうかしたの珍しく声を上げて。」
オリビアがリビングにやって来た。
「いやね、この子が…」
伊織が一連のやり取りを説明する。それを聞いてウンウンと頷き理解したオリビア。
「そうだったの…じゃあ私と行きましょうか?」
「えっ…?」
ライは一瞬止まるがすぐに
「いいの!?」
オリビアの言葉に飛びつく。
「ええ、その日は予定も無いし、暇だから。それにザットマンって私も子どものときよくDVDで観てたから。」
「オイラ、サブスクで全部観た。」
「何気ない世代差発言ね…。」
2人のやりとりを聞いて伊織が呟く。
「いいの?オリビアさん、お願いしちゃって?」
麗が申し訳無さそうに言う。
「大丈夫ですよ。私も久しぶりにショッピングしたかったですしね。ライ、付き合って。」
「ん…?うん。」
「じゃあ、お願いね、オリビアさん。」
麗が頭を下げて頼む、
「よし、来週が楽しみだ。」
ライはやる気満々の様子を見せた。そして今に至る
「うん…イイ感じに締めてたけど、倒すべき敵は倒せないままだったね。」
映画を観終わり素直な感想を述べるライであった。その後オリビアの買い物に付き合ったり、食事したりして、楽しく時間を過ごした。日が落ちた頃帰宅するために外に出る。暗くなったため街灯に明かりが灯っている。
ショッピングモールまでは電車で来たため駅に向かって歩いていた。
ヒュンヒュン
フッとライは街灯を見上げる。周りには虫たちが飛んでいる。が、何か変だ。よく見てみると飛んでいるのは蛾などではなく飛蝗だった。それもかなりの大きさのものだ。
ライはそこで違和感の決定的瞬間を目撃する。
(バッタが電気を食べてる…?)
飛蝗たちは電気を吸収していた。その様子をオリビアも見ていた。次の瞬間
バッ…
街灯から明かりが消える。それと同じく全ての街灯から明かりが消え、周辺の住宅からも明かりが消え、周囲は真っ暗になる。
「なっ…なんだ!」
「大変よ!電車も止まっているみたい。」
周りからは人々の叫び声や悲鳴が聞こえてくる。今の飛蝗が周辺の電気を吸い取っていたのだ。
「とにかく基地の地下リニアの入口ポイントまで行きましょう。」
オリビアが腕時計のライト機能を付けて、移動をしようとする。そこに、
ビュウゥゥゥ!
先程の飛蝗たちがオリビアの光目掛けて飛んでくる。
「危ない!」
ライはすぐさまオリビアを庇い、掌から衝撃波を放つ。衝撃波を受けた飛蝗たちは地に落ちていく。
「明かりをつけるのは危険のようね…。」
ライトを消すと2人は長い時間をかけて、EAGESTの地下リニアのポイントまで移動した。 基地まで行き、作戦室に入る。
「無事か?2人共。」
室内には既にネイルが居て2人を待っていた。
「無事で何よりだ。」
早川が2人の後から作戦室に入ってくる。
「司令、バッタ、バッタ。」
ライが自分たちの見たことを言おうとする。
「分かっている。本日17時頃大量の飛蝗の群れが飛来して、電気を源動力とするものなら何でも飛び掛かり、電気を吸っているようだ。停電になっている地域が多い。」
早川は今外で起きていることを説明する。
「地上だけでなく、地下鉄などにも侵入しているそうだ。交通機関も止まってしまっている。」
「メガフィスの化け物の仕業かもしれない…ってわけか。」
ネイルは誰もが思っていることを口にする。
「いずれ大量の電力が手に入る場所を襲うだろう。」
「それって…?」
早川の言葉にライは疑問を持つ。ネイルが気がつく
「発電所だ…!」
「大変!そんなとこ襲われたら、電気は復旧なんて出来ないわ!」
オリビアは思わず声を上げてしまう。
「更にこんな情報もあるんだ。」
早川はスクリーンをマップを映し出す。
「電力を吸った飛蝗は皆ある方向に飛んで行ったそうだ。」
スクリーンのマップは飛蝗たちが現れた場所から矢印が伸びていき一つのポイントに収束する。
「恐らくこの地域から飛蝗たちが出て行く。操っている者がいると思う。」
「それでは…!」
「うん…。発電所は別働隊に任せ、君達はこのポイントに向かって行って、飛蝗の謎を解いてきてくれ。」
早川は3人にそう告げる。
「ああ、それと…博士。」
早川がそう言うと作戦室の別の扉から見た目50代後半ほどの男性が現れる。
「紹介しよう。パワードスーツや武器などのEAGESTの開発部門の最高責任者を担っている井戸辺博士だ。」
「よろしく。」
井戸辺と言う男は3人に軽く頭を下げる。そして話を続ける。
「今回はパワードスーツの改良について話しに来た。先のオニサザエとの戦いの後、その殻を回収して、装甲の材質として取り入れてみた。」
「あのばか硬かったあれを!」
ネイルは驚きを隠せなかった。
「まど改良の途中だが現時点でスーツの装甲の硬度は今までの2割アップと行ったところなんだ。」
「そいつはすごい。」
「今後の改良次第で装甲はもっと硬くなっていく予測だ。そしてもう一つジャンプ補助の足裏と背中のジェットもイジってある。最大20メートルが30メートルまでアップしている。」
「よし、改良されたスーツで早速敵を迎え討ちに行くか。」
ネイルが一番に作戦室から出て、現場へ行く準備にかかる。
「すまない、頼んだぞ。」
それを見た早川が頭を下げる。オリビアとライも準備のため作戦室を後にする。
EAGESTの予想を立てた場所にホッパーたち3体は潜んでいた。電気を吸収して来た飛蝗たちがホッパーの周囲を囲む。360度飛蝗から光を照射され、ホッパーは体全体にその光を吸収し、エネルギーを蓄える。
「ああ、ああぁ!漲る、力が!」
「ベースとなった生物を操れる奴って良いよな。俺なんかオランウータンは日本に少ししか居ないから呼んだところでどうにも出来ないしさ。」
「私なんて柊の生えてる場所にいかなきゃ、何にも出来ないさ。」
デビルウータンとオーガホーリーが愚痴を言っている間にホッパーはエネルギーを吸収し終える。するとまた飛蝗たちは電気を求めて飛び立って行った。
「私を女だと馬鹿にしてきた奴らを御使いを倒すことで見返してやる!」
ホッパーは決意を固める。
「何故そこまでそこに拘る?」
オーガホーリーは疑問を投げかける。
「かつて将軍になれる機会が何度かあった。でもその度にあのボルダーに負けて、遂にはなることは出来なかった。」
ホッパーはそう答える。
「それは単純に実力差があったからじゃ…」
デビルウータンの言葉を遮るようにホッパーは続ける
「周りはやっぱり女では無理だと言った。そんなことはない、全ては偶々ボルダーがなれただけだと、私の方が上だと証明してみせる!」
ホッパーは現実を認められない子どものような理屈をこねたあと、デビルウータンが何かを察知する。
「来た。」
アイテムの水晶に変身したライとネイル、オリビアがホッパーたちのいるポイントに入る、様子が映し出される。
「意外と早く来たね。」
オーガホーリーは戦闘態勢を整える。
「それじゃ、行きましょう。」
ホッパーは言う。
「龍を狩りに…」
ライ達は山道を警戒しながら歩いて敵を捜索していた。
ライトを使えば飛蝗達が群がって来るので使えず、月明かりだけを頼りに暗い山を歩いている厳しい状況だった。
「もう予測のポイントに入ってる、いつ敵が来るか分からないから十分注意して。」
ライはオリビアから言われて周囲を注意深く見る。
そのとき暗い足元で石に気付かず、躓いてしまう。
「あっ…!」
近くの木に手をつき倒れるのを防ぐ。
「あーびっくりし…」
ライはほっとしているところに
「ヒヒヒヒヒ、かかったねぇ。」
どこからか声がする、即座に周囲を警戒する3人。が、ライはすぐにその声がどこからかわかった、それは今自分が手をついている木からであった。
木は形を変えて、やがてオーガホーリーが姿を現す。
「御使いの首貰った!」
両腕に持った柊の葉の形状の刃でライの胸に☓の字で斬りつける。
「シャーッ!」
オーガホーリーは追撃して来る。そこに
ガキンッ!
「やるせるかよっ!」
ネイルがアイアンランスで刃を受け止めて、追撃を阻止した。
「遂に出てきた!」
ライは立ち上がり戦闘態勢に入る。だが、背後の木の上にもう一つ気配があるのを感じた。
ハッと後ろを振り向き、見上げるとそこにデビルウータンがいた。
「俺は魔術族デビルウータン、御使い死ね!」
掌からリング状の光線を放つ。ライとオリビアは瞬時に躱す。ライが態勢を直すまえにデビルウータンが仕掛ける。
「エアチョーク」
デビルウータンはライを見ながら両手で絞める動作をする。
「うっ!ううぅ…!」
するとライは苦しそうな様子で首を触る。それはまるで首を絞めてる視えない手を解こうとしているようだ。
「っ!…っ!」
とてつもない強い力で首を絞められている。徐々に視界が暗くなっていく。
「このっ!」
オリビアがデビルウータンに向けて発砲する。デビルウータンはそれを躱したため、術が解ける。
「ゲホッ!ゲホッ!やってくれたな、お返しだ!」
術が解かれライはすぐさま反撃に出る。手甲の爪を発射する。
「ムンッ!」
デビルウータンは水晶から発せられた光で爪を撃ち落とす。
「まだ!」
ライは加速し高速移動をする。一気に相手の間合いに入り、
「でやっ!」
デビルウータンの脇腹に蹴りを入れる。続け様に手甲の爪で深く斬りつける。
「ギャアァァ!」
デビルウータンは悲鳴を上げながら地面にのたうち回る。
そのままライは飛び出し、ネイルと交戦中のオーガホーリーに襲いかかる。
手甲の爪で攻撃するが柊の葉の形をした刃を盾として防がれる。オーガホーリーは反撃で小さい柊の葉の手裏剣を投げる。
ライはバリヤーを張り、手裏剣を防ぐ。そして大きく跳び上がり、オーガホーリーの目の前に降り立った。足払いをし、態勢を崩す。アッパーカットからのサマーソルトキックの連続攻撃でオーガホーリーは地面に倒れる。
「チャンスだ!」
ライは追撃しようとオーガホーリーに迫る。だが、
ドスッ…!
ライは左脇腹に衝撃とビリビリと電撃で痺れるのを感じた次の瞬間、吹き飛ばされた。
「がぁっ…!!」
気付いたときはライは5〜6メートルほど飛ばされ転がっていた。
何が起こったのかまるで分からなかった。確かなのは左脇腹にある痛みと電撃の痺れがあったことだ。
ハッと自分が先程までいた場所を目にする。そこにはオーガホーリーと別の人影があった。
それは人型雌飛蝗ライジンホッパーだった。
「なんだお前は!?」
ライは目の前に現れた化物に問う。
「私は電気族のホッパー。私の蹴りでお前を殺す!」
地面を蹴り上げ、超スピードでライの目の前まで迫る。まだ態勢が整っていないライの頭を雷撃を纏った脚で蹴り飛ばす。
ライは再び飛ばされる。蹴られた衝撃が最初に来て、後に痛みが一気に襲って来た。
「がああぁぁーー!」
頭を抱えのたうち回る。視界が意識がぼやけていく。頬を叩き無理矢理意識を取り戻す。
なんとか立ち上がり、手甲の爪をホッパー目がけて飛ばす。
「そんなものに頼らず、自分の力で戦ったらどうだ!」
ホッパーは飛んでくる爪を全て蹴り落とす。間髪入れずに跳び上がり、ライ目がけて降下しながら踵降ろしを仕掛ける。
ゴンッ!!
「ぐう!ぅぅぅ…!」
ライは両腕で防ぐが腕に激痛が走る。が、痛みを堪えて反撃に出る。
「このおぉぉーー!!」
両腕のストレートパンチを連発する。
「トロいな…」
ホッパーはそれを難なく躱し、膝蹴りでカウンターを入れる。
「グフッ!!」
ライは腹部を抑えながら後ずさる。ホッパーはライの頭を掴み上げる。
「弱い、弱いぞっ!こんな奴に同胞は殺されていったのか、だらし無い奴らだ。」
「くっ…!オイラまだ戦い慣れてないから今までのは奇跡かもね…。」
「…つ!何を子どもみたいなことをッ!!」
ホッパーは両脚に電気エネルギーを集中させると華麗に舞うように、でも凄まじい速さの足技の応酬を叩き込む。
「はぁっ!たあっ!フアッ!」
ブレイキングダウンのような回し蹴りでライを圧倒する。
「ぐわあぁぁ!!」
(駄目だ、速すぎて反撃の隙がない!)
攻撃の間隔がほぼないといったほどあまりにも短く、反撃も防御も出来ない状態だった。
「トドメ!」
ホッパーは跳び上がると、前宙をし、その勢いでライに飛び蹴りを仕掛けた。
「うわわわあああぁぁぁ……」
まともに受けたライは後ろの崖から落ちて行った。
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