第10話吸血ヒルの抑止力②

 ライと獣王装甲を纏う者の闘いはライが押されていた。

 ギンッ!

 ライは獣王装甲の振るう剣〈アスカロン〉を手甲の爪で受け止める。が、


「グフッ!」


 無防備な胴体に蹴りを入れられ後ろに転がる。


「マズイゾ、ライ!」


 白龍が話しかける。


「なにが?」


 ライは一体何が不味いのか聞く。


「奴ノ剣〈アスカロン〉ハ大昔ニ竜ヲ退治シタ英雄ガ使ッタ剣ダ。今ノオ前デハ相性ガ悪スギル。」


「そんなこと言ったって…」


 ライは獣王装甲の剣撃を躱し、


「この状況逃げられそうにもないよ!火龍!」


 すかさず距離を取り、高熱火炎を発射する。


「この程度簡単に見切れる!」


 獣王装甲は跳び上がると錐揉み回転し、ライの背後に着地する。


「っ!しまった。」


 ライが振り向く前に


「はっ!!」


 獣王装甲はライの背中を斬りつける。斬撃を受けた瞬間鎧から火花が散る。


「ガァァ!」


 ライは前から倒れる。倒れたままではいけないとすぐに立ち上がるが、獣王装甲が駆けて来てすれ違いざまに腹部を斬りつけられ、火花が散る。


「グウゥ…!ゥゥゥ…」


 ライは膝を付く。しかし負けるかと攻めに出た。


「ハァ!タァ!デヤァ!」


 連続で蹴り、拳で攻撃を仕掛けるが全て躱されたり、アスカロンで防がれてしまう。


「これはっ!」


 拳の連撃に合わせて手から衝撃波を放つ。


「っ!」


 獣王装甲は咄嗟に左腕で防ぐ。


「今のは良かった。」


 獣王装甲が話す。ダメージもなければ、体も微動だにしてない。完全に防ぎきっていた。


「くっ!」


 ライは強敵を前に睨むしかなかった。


(コイツ、オニサザエよりずっと強い…)


 闘いを通じて確実にわかったことだった。先の鎧族オニサザエも強敵だったが目の前のそれはオニサザエよりも遥かに上だった。


「ならばこちらも良いものをやろう…」


 獣王装甲は手の指から爪を伸ばす。


「バイブ•ネイル」


 その爪をライの腹部に突き立てる。それと同時に爪から激しい振動が発生し、獣王装甲が腕を上げるとそのままライは吹き飛んだ。

 数メートル飛んだ後に木に叩き付けられる。


「っー!…ハッァァ…」


 そこに獣王装甲が急接近して来る。ライは手甲の爪で攻撃を仕掛けるが全て捌かれてしまう。逆にアスカロンによる斬撃を3発受けてしまう。


「グゥゥゥ…!」


 ふらふらで両膝が地面に付きそうになるが獣王装甲に首を掴まれる。そのまま持ち上げられる。


「ゥゥゥ…オブッ!」


 膝蹴りを喰らい、宙高く舞い上がる。そして獣王装甲の左籠手が展開し弓になる。

 弦を引くとエネルギーで生成された矢が現れる。ライに狙いを定める。


「ライガー•アロー」


 矢はライに一直線に飛んでいく。


「あっ…」


 矢は見事にライに命中し、爆発が起こる。

 ドタッと地面に落ちるライ。


「う、ううう…うっ、クソ…」


 ライは倒れながら獣王装甲を見る。圧倒的に強い、このままでは本当に命が危ない。しかしそんな状況で倒れていても引くことは考えなかった。


(コイツメガフィスの中でも偉いやつなのかもしれない。)


 獣王装甲を倒して何か聞き出せば父親の居場所がわかるかもしれない。そう考えたライは全身の痛みに耐えながらまた立ち上がる。フラフラとしたもののすぐに安定し、足元にあった石を持つ。

 手に持った石に力を注入する。石爆弾の出来上がりだ。


「ラアァァァ!」


 石爆弾を投げる。


「……」


 獣王装甲は何かを感じたのか石爆弾を斬らず、弾き飛ばした。

 ドカーン!!

 飛んでいった先で爆発が起こる。


「ならっ…!」


 手甲の爪を次々と飛ばす。しかしそれも剣で叩き落される。

 シュッと相手に間合いに入られ、斬撃を連発される。

 

「グアァァ!」


 鎧全身から火花が飛ぶ。

 獣王装甲は指で銃の形をとる。その人差し指の先には銀の弾丸がセットされていた。


「絶弾」


 技の名前を言うと同時に銀の弾丸は目にも止まらぬ速さで発射された。

 

「ッグガ…!」


 弾はライの胴体に命中そのまま数メートル体が飛んだ。

 なおもまだ立ち上がるライに続け様に弾丸を連射する。

 ガガガガガッ!

 

「ハァッ、ハ…」


 ライは全身を撃たれて倒れる。


「ライ、ライ大丈夫カ?」


 白龍が心配そうに声をかける。


「ね、ねぇ、あいつに弱点とかないの?」


 ライはかろうじて話せる状態だった。


「私モ記憶ノ大半ヲ失クシテシマッテイル。シカシ弱点トハ言ワナイガ獣王装甲ハ龍王装甲ヨリ戦闘ニ特化シテイルガ単純ナチカラデハコチラノホウガ上ダ。装甲モコチラノホウガ厚イ。ナントカ相手ノ攻撃ヲ受ケズニコチラノ攻撃ヲ当テテ行クシカナイ。」


「よしっ、わかった。」


 ライは全身に力を入れ起き上がる。それを獣王装甲が見て、


「まだ立つかそう来なくては。」


 ライに向かって来る。敵が振るう〈アスカロン〉は竜退治の剣だけあって受けるダメージも相当なものだ、あの剣撃を受けないようしなければ、ライは咄嗟に考える。

 

「来い、そんなものに頼っているうちはオイラは倒せないぞ。」


 ライは獣王装甲を挑発するように言う。


「馬鹿め、戦いに必要なのは奇っ怪な術ではない、敵を仕留める牙と爪だ!」


 獣王装甲はアスカロンを構え駆けてくる。ライも敵に向かって走る。


「でぇぇぇいぃぃぃ!!」


 獣王装甲が剣でライを斬りかかる。しかしそれを高速移動で回避する。


「何っ?」


 敵はライを見失う。ライは獣王装甲の周りを円を描くように加速して駆ける。やがて残像ができ、獣王装甲はどれが本物か周りを見て攻撃をする。しかし実体に当たることはなかった。


「さぁ、行くぞ。」


 走る残像の中からライが飛び出し、敵に接近して攻撃する。


「でりゃぁ!」


「ぐっ…!」


 ライは獣王装甲の顔に拳を入れる。スタミナが付いた今ある程度の時間安定した速さで走ることが出来る。相手がよろめいている隙に背後から再び攻撃をする。そしてあらゆる方向から攻撃する。


「でやぁ!たぁっ!どりゃぁ!」


「くっ…!かはっ!」


 獣王装甲はなす術ないといった様子でライの攻撃を受ける一方だった。


「くそっ!なら!ーーッ!!」


 獣王装甲は鎧の口にあたる箇所から衝撃波を放った。

 ライは膝を着いて動きを止める。


「しめた、そこかっ!」


 アスカロンで斬りかかる。


「しまった!このぉー!」


 ライは地面を蹴って後ろに下がる。斬撃をギリギリかわすことが出来た。


「ふー!危なかった、お返しだ!」

 

 斬撃を躱したことにより、相手に隙が生まれた。その瞬間を逃さず、ラリアットを敵の喉元に叩き込む。


「ぐっ…!はあぁぁ!!」


 喉元に重い衝撃と痛みが走るが、獣王装甲は剣でやり返そうとする。すかさずその腕を抑える。

力はこちらのほうが上と言っていた白龍の言葉は嘘でなく獣王装甲ハ剣を振るうことが出来ないでいた。

 そこに頭突きを喰らわす。


「ぐっ…!」

 

 敵は一瞬後ろに反れる。しかしもう片方の手の爪を伸ばす。そしてライの身体に斬りつける。


「いっ…!」


 ライはなんとか耐え腹部に膝蹴りをする。怯んだ隙に跳び上がり、延髄蹴りを放つ。蹴りは獣王装甲の手元に当たり、アスカロンを吹き飛ばした。


「今だ!」


 ライは高く舞い上がる。


「ハッ!!」


 獣王装甲は逃がすまいと銀の弾丸〈絶弾〉を撃つ、それに対しライは手甲の爪を伸ばし、身体を高速で回転させる。


「クロースピンガード」


 ガキン!、ガキン!

 弾丸は全て弾かれた。


「どうだっ!ウリャアァァ!」


 ライは空中で大の字の姿勢になると掌、脚からエネルギーをジェット噴射のように放つ。そのまま地面にスピードを付けて降下していく。猛スピードで獣王装甲に胴体から突っ込んでいく。


「ジェットボディプレス!!」


「ヌウゥゥ…!」


 猛スピードのボディプレスを受け獣王装甲はなす術なく地面に倒れる。

 ふらふらになりながらもライは立ち、敵の背後に周り首をホールド、一気に絞め上げる。


「さぁ!どうだっ!!」


 ライは目一杯力を入れ絞める。だが獣王装甲はライの腹に肘打ちをする。


「うっ…!」


 肘打ちを受けた瞬間締めていた手が緩む、そして頭を掴まれ、投げ飛ばされる。

 瞬時に立ち上がるが敵は攻めて来ない。


「良いじゃないか。最初は期待していなかったが予想以上の実力だ。」


 獣王装甲はササッと後ろに下がる。


「待て、逃げるのか!?」


 ライは獣王装甲に問いかける。


「最初に言っただろう?力を試させてもらう…と。また会おう、御使いよ。次から殺しにかかるぞ。」


 そう言うと獣王装甲は跳び上がり、何処へと去っていった。


「はっ…はあぁぁー」


 ライは変身し解きその場に倒れ込む。終始強気な姿勢を見せていたが、内心は逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。


(あと一分でも戦いが長引けば間違いなくヤラれてた。)


 額からそして全身から大量の汗が流れる。それがどれだけ緊迫した戦いだったかを物語っている。

 すぐに伊織達と合流しなければ。そう思うが戦闘で受けた傷の痛みとプレッシャーからの気疲れで体を動かせないでいた。


(せめて場所だけでも掴んでおかないと…)


 ライは少し意識を集中させる。2人の居場所を探す。ふと、ある方向から2人の気配を感じる。倒れていても視界の端でしか確認出来ないが、2人のオーラが視えた。

 それを確認したら。


(少しだけ、少しだけ)


 ライは目を閉じ体が動けるまで回復するのを待つのであった。



 黒部と伊織は吸血ヒルを発見した廃墟の大広間でメガフィスと戦闘を開始していた。


「はぁっ!たぁ!」

 

 迫りくるオークコング達を次々と返り討ちにしていく。黒部はビーム銃2丁を連結させ、高出力のビームで、伊織はパワードスーツの腰部分からグレネードランチャーを発射しオークコング部隊を一掃した。

 そこに間を置かず無数の蛍が2人に向かって飛んでくる。蛍と接触するとビリビリッと電撃が流れる。


「次はオレが相手だ。」


 カミナリボタルとポイズンが2人の目の前に立つ。


「くっ…!」


 伊織はリボルバーを2体に向けて撃つ。しかしカミナリボタルの操る蛍がそれを阻止し、弾丸を受けた蛍は飛び散る。


「ちっ!あれ面倒いな!」


 伊織は苛つくように言う。

 とそこに吸血ヒルの触手が2人目掛けて襲ってくる。2人はそれを跳んで躱し、それぞれ銃で攻撃する。

 銃で撃たれ血が噴き出す。それにより暴れる様子があった。どうやら痛みは感じるようだった。

 伊織はカミナリボタルの操る蛍を撃ち落としていた。

 黒部はポイズンに攻撃を仕掛けようとする。だが


「ゴッ!」


「何!」


 何処からともなく出てきた生き残りのオークコング達が黒部に組み付きポイズンへの行く手を阻む。

 群がってくるオークコングを返り討ちにしていると、


「スネークハンド」


 ポイズンの左腕が伸縮可能なヘビになり黒部を攻撃する。

 既のところで回避する黒部。ポイズンの方を見るとオークコングだけでなく蛍達もポイズンの周りについていた。


 伊織も迫りくるカミナリボタルの操る蛍達の対処で精一杯だった。

 無数に来る蛍を撃ち落とすが、落としきれず背後などの死角から接触され電撃を喰らってしまっている。


「ぐ…このぉ!」


 伊織は跳び上がる。パワードスーツのジャンプ補助用のブースターを活用し一気にカミナリボタルに接近する。


「覚悟ぉー!」


 拳を振りかざす。しかし


「ライト照射!」


 カミナリボタルは全身を発光させ、強力な光を放ち、目眩ましにした。


「わぁっ!」


 伊織も思わず顔を伏せる。その一瞬


「雷波」


 カミナリボタルは後ろの発光部分から電撃を帯びた衝撃波を放つ。

 ビビビッ


「キャアッ!」


 もろに喰らった伊織は後ろに倒れる。そこに追撃で蛍が群がる。

 バチバチッ

 強い電撃が流れる。


「グウゥゥ…」


 流石に伊織もダウンしてしまう。


「スネークソード」


 ポイズンは右手に銀色の剣を持ち黒部に斬りかかる。


「きっ!」


 黒部も剣を取り出し剣戟を繰り広げる。


「タァ!」


 ポイズンは黒部の薙ぎ払いを避けると大きく下がり、スネークハンドの口を開く。


「ポイズンマシンガン」

 

 スネークハンドの口から毒液がマシンガンのように飛んでくる。


「とあっ!」


 華麗に避け、前腕部の装甲を展開しビームを撃つ。

 しかしポイズンの前にオークコングや蛍が集まり、ポイズンにビームが届くことはなかった。

 そうしてると後ろから吸血ヒルが再び触手で攻撃してきた。反撃でビームを撃つ。吸血ヒル波痛みに悶えるように暴れる。

 するとまたポイズンが毒液を飛ばしてくる。ギリギリで躱し応戦するが、オークコング達が壁になり防がれる。


(妙だ…)


 黒部は違和感を覚える。まだそれが何なのかはハッキリしないが引っかかりがあった。

 ダウンしていた伊織が回復する。サッと倒れた姿勢からリボルバーを構え、カミナリボタルに発砲する。

 弾は右肩を貫通する。


「チイィィ!小娘が!」


 カミナリボタルは電撃を帯びた衝撃波を放つ。


「新しい装備試してみますか!」


 伊織のパワードスーツ左前腕部からビームが円の形になりながら巨大化していく。半円型に伊織を包むと衝撃波を完全に防いだ。

 お返しとばかりにカミナリボタルにリボルバーで3発撃ち込む。腹部に被弾し、火花が飛ぶ。

 その時背後から吸血ヒルの触手が襲ってきて、鞭のようにしならせ、伊織を攻撃する。


「ぐっ…!」


 ビームシールドの発動が間に合わず、壁に叩き付けられる。

 吸血ヒルは完全に2人に狙いを定めた。そのとき、


「お待っとさん!」


 天井近くの壁を突き破り、ライが合流する。


「バカ!あんた何処にいたのよ!心配したんだから…」


 伊織に叱られてしまう。しかしそれは本当に心配していたからであった。


「ご、ゴメン。理由は後で話すから…わっ!なんだこの化物は!」


 ライは目の前の20〜25メートルほどに成長した吸血ヒルを見て驚く。


「フッフッフッ、来たな御使い。」


 ポイズンとカミナリボタルがライに立ち塞がる。


「ムッ!お前たちは?それにあれは何だ!?」


 ライは2人に問いかける。


「コイツは太古の昔人間の生き血を吸って大暴れしていた。吸血ヒルよ…お前を倒すため大勢の血を吸わせ力を付けさせていた。」


「すると行方不明者事件はお前たちがやったのか!?」


「その通り全てはお前の龍王装甲を奪うため!」


 カミナリボタルが衝撃波を放つ。


「ッ!」


 ライも掌から衝撃波を放つ。衝撃波をぶつかり合い相殺した。

 続け様に蛍があちこちから飛んで来てライを攻撃する。


「ビリビリする!この!」


 手甲の爪を伸ばし蛍を斬り落とす。


「エレキネット」


 ライは電撃で出来た網をカミナリボタルと蛍たちにかける。しかし電気エネルギーは全て吸収され網はなくなる。


「馬鹿め、我々電気族に電撃を与えるとはエネルギー補給をしてくれと言っているようなものだぞ!」


 カミナリボタルと蛍達は輝きを増す。


「なるほど…そうか…その通りだ。うん、学習した。なら、火龍」 


 高温火炎を放ち蛍を焼き殺す。炎を突っ切ってカミナリボタルに急接近する。


「ウッオオォォ!」


 右拳をカミナリボタルの顔面に叩き込む。すかさず左拳で殴る。そしてそのまま何発も拳を叩き込む。


「ぐぇ、この!調子に…」


 カミナリボタルが反撃をしてくるが、その攻撃を躱し、そのまま回し蹴りでカウンターを決める。


「シャー!」


 ポイズンがスネークソードで斬りかかって来る。それを前転で回避する。


「オレが相手だ。」


 ポイズンが剣を振るう、ライは爪でそれを受け止める。今度はライが爪で攻撃を仕掛ける。ポイズンは剣捌きでそれをあしらう。そのまま剣戟を繰り広げる。

 ポイズンが突きを2連撃繰り出す。ライはそれを避け、2回目の突きを避けたとき刀身を掴む。手首に手刀を入れるとポイズンが剣を落とす。ポイズンの胴体に蹴りを入れる。

 追撃で爪を飛ばす。それを蛍が身代わりになって防ぐ。


「厄介だ…」


 ポイズンに当たらないことをぼやいていると吸血ヒルの攻撃が来る。


「おっと!」


 攻撃を避けると触手の上を走り、接近する。


「オオォォォッ!」


 手甲の爪で吸血ヒルの体中を斬りつけていく。


「雷龍波」


 電撃光線を浴びせる。吸血ヒルが苦しんでいるのがわかる。

 体のあちこちから煙が立つ。これで大人しくなったかとヒルに近づくライ。

 だが、何本もの触手が動きライに打ち付ける。


「がはっ!グゥ!グワハッ!」


 吸血ヒルはそのまま触手でライを締め上げ、先端を極細にして鎧の隙間に入り、血を吸い始めた。


「ハハッ!良いぞ。御使いの血は他の人間に比べて格別だ、より強大な力が得られるぞ!」


 ポイズンが嬉々とした様子で話す。


「ううぅ!うぅぅぅ…」


 徐々に力が抜かれていく。段々と抵抗出来なくなり意識がなくなりかけたとき、

 バサッバサッ

 伊織が触手を切断し、助けてくれた。


「あ、ありがとう」


「礼なら後、やるよ。」


 ライは電撃光線を伊織はパワードスーツの肩部分からミサイルを発射する。

 直撃を喰らい吸血ヒルは痛がる素振りを見せる。

 が、その直後全身が血のように赤くなり、狂ったように暴れ出した。

 暴れ出した吸血ヒルは敵味方関係無く触手で攻撃する。


「何?あいつ今まで以上に苦しんでるように見えるんだけど。」


「バ、馬鹿な…まさか!」


 ポイズンは吸血ヒルの前に立ちふさがり、


「オイ!オレだ。わからないか?言うことを聞くんだ!」


 吸血ヒルに対して叫ぶ、しかし

 シュッ!

 触手で一蹴されてしまった。


「グフッ!ま、間違いない暴走した!制御できなくなってしまった。」


「なんだって!どういうことだ!」


 カミナリボタルが理解出来ないとばかりにポイズンに説明を求める。


「今までなら千人程度の血では暴走することはない。だがオレ達は見誤っていた。奴は血の中の栄養を吸う。現代の人間の血は遥か昔の人間の血より栄養分が高いんだ。」


「なんだって!」


「昔と今では食べ物や衛生面が違う、今の人間1人の血は昔の人間の数百人分に相当する。更に長らく血を吸っていなかったヤツは高い栄養分を急激に取り、体が吸収しきれなかった。そして御使いの血も吸った、アイツのは特に濃いものだ、有り余るエネルギーがヤツを暴走させてしまったんだ。」


 ポイズンが淡々と語った。

 そこにその機を逃すまいと


「隙あり!」


 ライが攻撃を仕掛けるが


「オゴッ!」


 オークコングが身代わりとなる。


「ムッ!」


 それを見た黒部があることに気がつく。


「そうか、何かがおかしいと思ったがそのヘビはあの巨大ヒルの弱みを握ってるんだ!」


「「なんだって!」」


 ライと伊織は口を揃えて驚く。ポイズンとカミナリボタルもギクッと反応をする。


「そうだ、ヒルや蛍を攻撃するときは護衛は付いてなかったが、ヤツだけは常にボディーガードがいた。とすればあのヘビに何か秘密があると見た。」


「なら、そいつを頼む、オイラはあの化物を!」


 吸血ヒルは壁を壊し、外へ飛び出していった。ライはその場を2人に任せ、吸血ヒルを追う。


「追わすか!」


 カミナリボタルがライの後を追おうとする。そこに


「行かせないよ!」


 伊織がそれを阻止する。


「小娘!」


 カミナリボタルは衝撃波を放つ。だがそれもビームシールドで防がれる。


「纏めて焼く。」


 伊織は近くに置いていた武器コンテナから火炎放射器を飛ばす。飛んできた火炎放射器をキャッチするとカミナリボタルに向けて放火する。

 周りを飛んでいた蛍達は焼き落ちていく。


「これでもう邪魔は出来ないはず!」


 伊織は自信満々に言う。


「なら…!」


 カミナリボタルは衝撃波を出そうとする。それに


「させない!」


 伊織は新調したパワードスーツのブースターを起動し、加速し一気に間合いを詰めた。


「これで…!」


 膝のスパイクを出すとカミナリボタルの胸部に膝蹴りをいれた。

 スパイクはカミナリボタルを貫く。


「あ、あ…ああ、くっ、そ…」


 カミナリボタルは爆散した。

 黒部とポイズンの戦いも佳境に入ってきた。


「お前の毒があの化け物を封じる事が出来ると思うが違うか!?」


「その通り!オレの、というより将軍様からいただいた毒がアイツに流れる血液を固めて殺すことが出来る。」


 ポイズンが口の鋭い2本の牙を見せる。


「この牙に仕込んであるのさ。」


 ビームとポイズンマシンガンの撃ち合いになる。そこで黒部がワイヤー銃を撃ち、左手を封じる。


「とあぁぁー!」


 黒部は高く跳び上がると浴びせ蹴りでポイズンに攻撃する。

 蹴られて怯んでいる隙をついて、背負投げを決める。両手を合わせて、パワードスーツの装甲が展開する。


「カッター光線」


 長方形の薄い光線がポイズンの首を切断する。


「ギャアアァ!」


 首を切断されたポイズンの身体はゆっくり数歩歩いた後倒れた。




 暴れ回る吸血ヒルを止めるのにライは必死だった。


「このっ!止まれ!」


 掌から電撃で作った特大の網をかける。

 バチバチ!

 体に電撃が走りダメージを負う。しかし触手が伸び、ライに叩きつける。

 バシッ!バシッ!

 ムチのような触手の連打にライは叩きのめされる。


「ぐっ!こ、これでもうどうだ!」


 倒れたまま手甲の爪を無数に発射する。爪はほとんど命中し、吸血ヒルから血がダラダラと流れる。だが先ほどと違い痛がる様子はない。ついに、林を抜け住宅街へと姿を出してしまった。


「しまった!」


 ライはあとを追いかける。民家を壊しまくる吸血ヒル、ライは近くで見つけた1メートルほどの岩を持ち上げ、エネルギーを流し込む。石爆弾より強力な岩爆弾を生成する。

 高く跳び上がると、吸血ヒルの真上から岩爆弾を投下する。

 着弾と共に大きな爆発が起きる。吸血ヒルの動きが止まる。

 が、無数の触手がライに向かって来る。ライはそれらを回避し、躱しきれないものは手甲の爪で切り裂いていく。

 だが、背後から来た触手に気が付かず、足首に絡まる。


「あっ…!」


 吸血ヒルは触手を振りわます。ライはアスファルトや民家などの建物に何度も何度も叩きつけられた。


「くそっ!」


 そのとき、

 ブチッ!

 触手の切れる音がした。それと同時にライの身体が宙に投げ飛ばされる。


「う、うわぁー!」


 スッと誰かが受け止めてくれるのがわかった。フッと顔を見ると伊織がライをお姫様抱っこする形で抱えていた。

 そして黒部がビーム銃で触手を狙撃したのだった。黒部はライに駆け寄ると


「遅れてすまない。その通りヤツを止める手段を持ってきた。」


 黒部は足元に切断したポイズンの首を置いていた。


「コイツの牙にはあの化物に効く毒が仕込まれている。なんとかこの牙をあいつに噛ませれば…」


「じゃあ、私がやる。ブースターで一気に加速を付けて接近すれば良いはず。」


 伊織が自ら買って出る。それが一番だとライも思った。ライが高速移動で近づけることも出来るが、獣王装甲との戦いから体力は限界寸前、加速出来るスタミナはなかった。


「よし、では伊織に任せる。私達2人は囮だ。」


 黒部はポイズンの首を伊織に預ける。受け取った伊織はササッと背後に回り込む。

 そして黒部とライは吸血ヒルに攻撃を仕掛ける。


「コッチだ、コッチ!」


 ライは爪を、黒部は腕部ビーム砲を放つ。攻撃を受けながら、2人に向かい前進する。やがて触手を伸ばし2人を殴打する。


「なっ!ぐぅ…!がぁ!」


「だはっ!ぎぃ…うわぁ!」


 やがて2人を振り回し、身体をぶつけ、絞め上げる。


「う…うう…」


 黒部のパワードスーツが徐々にへこんでいく。そのとき

 ビュオッ!

 猛スピードで伊織が吸血ヒルに接近する。ライ達に気を取られ吸血ヒルは気付いていない。


「はああぁぁっー!!」


 伊織は抱えていたポイズンの首の牙を吸血ヒルの身体に噛ませた。

 ドクドクと牙から毒が流れる。

 噛まれたヒルは今日一番のもがきを見せる。


「あ、見てみろ、怪物の体が…!」


 黒部は指を指す。見ると吸血ヒルの全身が灰色になっていく。

 完全に体が灰色になったとき吸血ヒルの動きも止まった。


「トドメだっ!」


 ライは右手にエネルギーを集中させる。すると右手に光で出来た矢が現れる。


「槍龍」


 ライは光の矢を吸血ヒルに向けて投げる。矢は吸血ヒルの身体を貫通し飛んでいく。 

 そして吸血ヒルは燃え上がり、爆発し、倒れた。


 戦いが終わりそれと同時に夜も明ける。朝焼けに照らされた戦場の跡を見て黒部が呟く。


「今回もなんとか勝てたが、我々の想像を超える化け物が出てきたな…次は何が来るのやら…」


「考えても仕方が無い、帰りましょ。」

 

 伊織は切り替えるようにライ達に声をかけ、帰投する。


(あの獣の鎧物凄く強かった。今回はなんとか追い返せたけど次はどうか…)


 ライは俯くが、すぐに顔を上げ


(ならもっと強くならないと!)


 次なる成長を誓い、ライは歩いて行くのだった。



 







 


 



 


 

 


 


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