第6話3体の怪人③

 黒部、伊織の2人は終始押され気味に戦いを繰り広げていた。サラマンダーとカミキリがそれぞれ接近戦を仕掛け、エレキテントウが電撃で援護する。態勢が出来てしまっていた。


「当たれッ!」


 エレキテントウが伊織に狙いを定め電撃を撃つ。


「ッ!!」


 それを躱す、電撃が当たった地面には5メートル程穴が出来ていた。

 回避行動をとった先にサラマンダーの尻尾の一撃が伊織の胴体に入る。


「がぁっああ!」


 伊織の身体が吹き飛ぶ。


「伊織!」


 黒部は吹き飛んだ伊織の方向を向く。


「よそ見してる場合かっ!」


 カミキリが鉤爪で斬りかかる。


「チィイイ!」


 鉤爪の左手首を掴み止めるとヘッドバッドを当て、怯んだ隙に距離をとり、アーマーの上腕部からトリモチを発射し、カミキリの顔面に当てた。


「!?〜〜〜〜!!!!??」


 顔に付いたトリモチを取ろうともがくカミキリにビームソードで斬りかかろうとするとエレキテントウの電撃が飛んで来て、ソードに当たり、手元から飛んでいってしまった。

 もう一撃を跳んで躱す。当たった地点の地面には2メートル程穴が空いていた。


「クソッ」


 エレキテントウは羽根を羽ばたかせると身体を宙に浮かぶせた。


「ブハッ!姑息な手をっ!!」


 カミキリはなんとか顔から剥がし、手についたトリモチを一生懸命に取っていた。

  

「いい加減降参したほうが身のためだ。」


 カミキリが警告をする。


「グッ!」


 黒部はわかっていた。今押されているのは自分たちの方だと。このまま戦っても敗北は見えている。だが、あの少年が、人間が危ない。素直に諦めて敗北するよりも諦めず奇跡を信じて戦い続ける。この出撃の際そう決心していた。それは伊織も同じだ。


「まだ諦めないさ!さぁ、かかってこい!小学生が林で捕まえて来そうな虫たちに負けてたまるか!」


「そうか、なら手足は切り落とす。情報を聞き出せればそれで良い。覚悟ッ!」


 カミキリが黒部に飛び掛かろうとしたそのとき


「待てっ!!!」


 声が響く。それに反応してその場の全員が動きを止め、声のした方向を見る。

 

「なっ、あ、あ、あれは…」


「えっ?」


 エレキテントウはひどく動揺し、伊織は理解が遅れていた。

 そこにはメガフィス帝国が探し求めていた。龍王装甲その人が立っていた。





「なんだって!?どうして彼があそこに…」


 基地作戦室では早川も驚いていた。保護した少年が戦場にいる普通ならあってはならない事だ。   

 至急オペレーターにゲストルームにてライの所在の確認の連絡を入れさせた。

  

「部屋を出たきり戻って来てないとのことです!」


 オペレーターから報告を受けた。別のオペレーターからは基地内のカメラで地下リニアレールに向かうライが確認されたと報告も入った。

 戦場を映すカメラに映っているのは間違いなくライ本人であった。 


「なんでこんなことを何を考えているんだ。」


 早川はカメラを見ながら、無謀と思えるライの行動に理解が出来ないといった様子だった。




 戦いの現場でも黒部、伊織の2人は呆気にとらわれていた。


「ばかっ!なんで来てんの!なんの為に私等が戦ってると思ってんの!?」


 伊織は思わず声を荒げて怒鳴った。


「逃げろ、君が来ても何も出来ることはない。彼らは君を狙っているんだぞ!」


 黒部も逃げるように促す。ライが捕まってしまってはその力は悪事に使われてしまう。そうなれば何もかもお終いだ。

 しかしライはそんな2人に冷静に言葉を返す。


「オイラは自分の意思でここに来た。そいつ等を倒すことがオイラの使命だと…この鎧が言っている。」


「ほう、面白いその力は如何ほどのものか確かめてやろう。」


 カミキリはこれは楽しみだと言った様子だった。


「…ムッ!2人ともオークコングの増援が着いた。」


 エレキテントウは背後からゾロゾロと出てきたオークコング達を目視で確認した。その数およそ30ほどだ。


「さぁ、この数に戦い慣れてないお前はどう戦うのか楽しみだ。」


 エレキテントウはライに対して煽るように言う。


 ライは両拳を握り、エレキテントウ達を見据える。


「…………龍王装甲の……名に賭けてっ!」


「フフフッ、では見せてもらおう。行けっ!!」


 エレキテントウがライを指指し、合図をするとオークコング達は一斉にライに襲いかかる。


「―クッ!」「やらせるかっ!」


 黒部と伊織はライを守ろうとするが、


「おおっと!」「行かせないよ〜」


 カミキリとサラマンダーがそれを阻止する。


 ―オオオッ!!!!


 オークコング達が大群で攻めてくる。

 ライは内心まだ恐怖が残っているが、


(もう後戻りは出来ないか…)


 覚悟を決める。戦いの心得などない。出来ることは頭から突進。でも目の前の敵は自分を殺しに来る。関係ない、そんな奴らに遠慮などしない、負けない。家族を守る為、生きて父を助ける為この戦い勝たなければならない。

 ライは構える。すると


「覚悟ヲ決メタヨウダナ。ナラ私モ全力デ補助シヨウ。」


 白龍がライに戦いをサポートすると語りかける。


「助けてくれるの?ありがとう頼むよ。」


「手ノ甲ノ爪ヲ伸バセ」


 白龍の言葉に従い、ライは鎧の手甲を意識し、手甲から針状の爪を伸ばす。


「ソノ爪ハ龍王装甲に備ワッテイル数少ナイ武器…接近戦ダケデナク飛バシテ撃ツコトガ出来ル。ソレヲ敵ニ撃ツンダ。」


 ライは言われた通りに両拳を迫るオークコングの集団に突き出す。


(飛べっ!)


そう念じると両腕の手甲の爪は凄まじいスピードで射出され、オークコング達を撃ち抜く。撃った瞬間に新しい爪が生え、また射出される。マシンガンのように素早く連射される。


ズバババババッ! 


 爪の連射で集団の大部分を倒す。しかし、僅かな生き残りが隙をついて距離を詰めて襲いかかる。


「ギィー!」


 一体のオークコングが飛びかかりながら拳を振り下ろす。


「ウッ!」


「恐レルナ、チカラモ硬サもコッチガ上ダ敢エテ受ケテミロ」


 白龍を信じ拳を受ける。 


ゴッ!


 鈍い音が鳴るだが、


「痛くない…?」


 ライ自身には痛みは微塵も感じなかった。顔を軽くポンポンと叩かれたぐらいの感覚しか感じられなかった。


 これには攻撃したオークコングも驚愕していた。


「今ダ殴リ飛バセ」


 ライはオークコングの胸に拳を叩き込む。


「ギッ、ギギギ…」


 殴られたオークコングは10メートル程飛ばされ、うめき声を上げ力尽きた。


「ライ、後ロダ、左腕デ受ケ止メロ」


 後ろを振り向くともう一体のオークコングが攻撃を仕掛けてくる。言われた通り左腕で受け止め、膝蹴りからの顔面に拳を入れ、倒す。


「や、やるぅ…」


 伊織は瞬く間に雑魚を倒した龍王装甲の力に驚き小さな声で呟く。


「やるではないか御使い、次はオレが相手だ。」


 エレキテントウが前に出る。羽根を羽ばたかせ、目を光らせる。


「これは受けきれまい!!喰らえぇ!!」


 目から電撃をライ目掛けて発射する。


「大丈夫ダ、アノ電撃モ平気ダ。」

 

 ライは防御の態勢をとったまま電撃を受ける。

 当たると同時に爆発と土煙が大きく立つ。


「ああっ…」


 黒部と伊織もこれは助からないと死んでしまった思いゾッとする。

 土煙が晴れる、おそらく惨状になってるであろう光景があると誰もが思ったが、


「な、なんだと…最大威力ではなかったが、それでもかなりの電力をチャージしたんだぞ!」


 エレキテントウは言葉無いといった感じで驚愕していた。


「よしっ!なんともない。」


 そこにはピンピンとしたライが立っていた。


「お返しだっ!」


 ライはエレキテントウに向けて手甲の爪を発射した。


「チッ」


 エレキテントウはそれを避けて後方に下がった。 

 それを見たカミキリがライに向かっていく。


「テントウ、お前は俺が相手してた奴を頼む。電撃が通用しないとわかった以上お前では不利だ。ここは俺がやってみる!!」


「くぅ、行かせるかっ!!」


 黒部はカミキリの後を追おうとするが、


「お前の相手はオレだ!」


 エレキテントウが黒部に突進してくる。


「ぬうぅ、このぉ!」


 黒部は押し返そうとするがびくともしない。パワードスーツの力を上回る怪力をエレキテントウは発揮していた。


「ライ森ノ中ニ誘キ出セ、今ノママ正面カラ戦ッテモ勝てテナイ」


 白龍の言葉に従い、ライは森へ走る。カミキリも駆けてその後を追う。

 ある程度森の中を移動すると


「走ル速度ヲ緩メルンダ、捕マル直前ニ後ロ向キデ跳ブンダ」


 言われた通りに走るスピードを緩める。カミキリとの距離が縮む、


「ハハァ!スタミナ切れか?それとも観念したか…」


 カミキリはライのすぐ背後まで近づき、手を伸ばしたそのとき


「跳べ!」


 合図とともにライは背面跳びをし、カミキリの手から逃れた。


「なっ…!」


 ライを逃し手を伸ばした勢いでそのまま前へ出るカミキリ、ライがその背中をとらえる。


「今ダ!」


 ライは手甲の爪をカミキリの背中に向けて発射する。  


 ブスッブスッブスッ!!


 カミキリの背中に爪が数本刺さる。


「ウオッ!?うっ、ぅぅぅ…」


 攻撃に効き目があった。背中を刺されたカミキリは動きが止まる。

 が、それは一瞬に過ぎず、


「やった!当たった!」


「!?イヤ、気ヲ付ケロ」


 自分の攻撃が効いてると思いライは油断していた、そこに白龍が警戒を促す。


「あっ……」


 ライがカミキリを目で捉えたときには既に自分の目の前に立っており、右拳を放つ瞬間だった。


「両腕デ防グンダ!!!」


 回避は無理だと判断した白龍が指示を出す。それに従いライは両腕をクロスして防御の態勢をとった。


「フンッ!!」


 カミキリの拳が防御しているライの腕に放たれた。

 防ぎ切れる…と思われたしかし


「ウワッォォォォ……」


 ライの身体は吹き飛び、数メートル先の木に激突した。


「グウゥ…」


 攻撃を受け止めた両腕、木に激突した背中に激痛とまではいかないがそれなりの痛みを感じる。

 想像ではオークコングより少し強い威力だと思っていた、だが実際は想像の数倍、数十倍の威力だった。 

 それでもなんとか起き上がる。


「フンッ!」


 カミキリは体中に力を入れると背中に刺さった針状の爪が飛び出るように抜けた。


「立ったか…さっきの背面跳びといい直前の防御をとるなど、なかなかに出来るではないか。こちらも手加減無しで行くっ!」


 カミキリは鉤爪から斬撃を放つ、痛みはあるが動けないほどではない、ライは斬撃から逃げる。

 走りながら爪を発射する、だがカミキリは鉤爪でそれを切り払う。さらにライが走る方向の先に斬撃を飛ばす、斬撃で切れた数本の木々が倒れてくる。


「うわぁ!」


 ライの目の前に木々が倒れてきたことで、走っていた足を止めてしまう。


「しめたっ!」


 カミキリは地面を蹴り、ライに飛び掛かる


「うっ…!」


 ライはしまったと思うも一瞬のことで判断出来ずにいた。


「コッチモ飛ンデ体当タリダ。向コウハ避ケルコトモ想定シテハズ。」


 ライは地面を思い切り蹴り、頭を守りながら跳び出した。


 カミキリとライが空中で激突する。


「おおおっ!?」


 カミキリはまさかの行動に驚き、衝突の衝撃に負け、地面に落ちた。


「今ダ、仕掛ケロ!」


 立ち上がって間もないカミキリに中段蹴りを入れる。


「跳ンデ上カラ攻撃ダ」


 すかさず跳び上がり、上段にもう一度蹴りを入れ、蹴った反動で再び宙に舞う


「反転シテ拳ダ」


 空中で反転し、カミキリの顔面に拳を打つ。

 カミキリは顔を覆い怯んでいた。


「好機ダ、攻撃ヲ続ケロ」


 ライは距離を詰め、攻撃を続けた。顔、胴体に拳、蹴りが次々に放たれる。 

 カミキリが鉤爪で攻撃しようと動かす、咄嗟に鉤爪部分を掴み攻撃を封じる


「こいつの一番の武器はこの爪だ、これを使わせなければ…」


 鉤爪を掴んで封じたまま、カミキリの腹に蹴りを連続で放つ。カミキリはダメージを負っている様子であるしかし


「タァッ!タァッ!ウォ!?」


 足を掴まれる。それを見てライは驚き、ふとカミキリを見る。


「馬鹿めオレの武器がこの鉤爪だけだと思ったか、オレにはこんな武器もある。」


 カミキリの頭の触角がライに向く。すると釘のように硬くなり、先端から全体の半分の長さの触角が飛び出し、ライの胸部を攻撃した。


「うがっああぁ!」


 鎧から火花が散り、胸に痛みが走る。鉤爪を掴んでいた手を離し、胸を抑え膝を付く。

 カミキリは追撃でライの鎧の頭部を掴み、無理矢理立たせると強烈なボディブローを入れる。


「ガッ、ア、アア…」


 衝撃で体が僅かに宙に浮く。間を置かず後部から首の根元に手刀を叩き込まれ、今度は体がを地面に叩きつけられる。

 カミキリは地面に倒れるライの脚を掴むと振り回しジャイアントスイングをする。周囲に強い風が吹き始め、やがて竜巻が起こる。回転がピークになったとき、カミキリはライの脚を離す。

 解放されたライは黒い弾丸となり、数十本の木と衝突、真っ二つにしながら森の奥へ飛んでいった。




 黒部とエレキテントウの戦闘は距離を詰めようとする黒部と間合いに入らせまいと電撃を放つエレキテントウという展開になっていた。

 

「こうも撃たれっ放しじゃ近づけない…」


 黒部は尽きる事なく電撃を放つエレキテントウのエネルギーに困っていた。

 どうにか近づけないか思考を働かせながら、3度電撃をやり過ごす。


「ええぃ、クソッ!」


 エレキテントウはしぶとい黒部に苛立つ様子で羽根を羽ばたかせる。目が光り、再度電撃を発射、躱せないと思った黒部はビームで作ったシールドで防ぐ。


ズドンッ!!


 衝撃が襲って来る。なんとか倒れはしなかったが数メートル程衝撃で後ろに下がった。

 もう一撃電撃が発射される。これもビームシールドで防ぐ。衝撃で2メートル程下がる。


「!?」


 黒部はあることに気付く。


(さっきより衝撃が少ない?)


1発目は吹き飛びそうなほど勢いがあったが2発目はそれほどの衝撃がなかった。

 ふと先ほどの3連発攻撃をした場所を見る。電撃が着弾した地点は大きくエグれ穴が出来ている。だがよく見ると


(1発目で出来た穴より2,3発目の穴が小さい?)


 黒部は意を決して再び電撃をシールドで受ける。攻撃を受け数十センチ体が後方に下がる。


「やっぱり、電撃を出す度にその威力は落ちていくのか。」


 しかしまだ謎が残る。威力が落ちたと思ったらまた威力の高い電撃を放つ瞬間がある。


(どこかで電圧を上げるタイミングがあるはず。それさえわかれば…)


 黒部はエレキテントウの行動を思い出す。エネルギーを溜める瞬間があったはずと必死に記憶を遡る。


「そうだ、あいつは電撃を撃つ前、撃った後に羽根を羽ばたかせていた。そこを狙えば。」


 そのタイミングはすぐに来た。エレキテントウが羽根を羽ばたかせる。


「今だ!!」


 アーマーの肩と腰の装甲を展開し、超小型ミサイルとグレネードランチャーを発射する。

 数弾エレキテントウに命中する。


「ぐうぅぅ…」


 エレキテントウはダメージを負い、動きを止めた。そのときを逃すまいとビームソードを持ちエレキテントウに仕掛ける。


「覚悟ォォ!」


 刃を振り下ろす。刀身がエレキテントウの身体に触れるかと思いきや


「やらせん!!」


 エレキテントウは肘と膝の関節部から黄色い液体を噴出する。

 刃より先に黄色い液体が黒部のアーマー胸部に命中する。命中と同時に爆発が起きる。


「だあぁぁぁっ!!」


 背中から倒れる。胸に衝撃と痛みが走る。アーマーの胸部は焦げて中の機械が見えている。


「仕組みに気付いたか。お前の考えている通り俺は羽根を羽ばたかせることで電気エネルギーを蓄えることが出来る。放電する毎に電気エネルギーは減っていくがチャージすれば元通りになる。エネルギーが満タンになれば体が重くて飛べないがな。」


 エレキテントウはエネルギーをチャージしながら近付いて来る。フルチャージしたのか身体中から電気がほとばしっている。

 どうにか出来ないかと黒部は隙を見計らうが身体を動かすより前に電撃が直撃する。


「さらば、死ね!!」


 エレキテントウの目が黒部を捉える。黒部は思わず顔を背ける。電撃が発射したと思われたそのとき


―グサッ!!


「があぁぁぁ!!!!」


 エレキテントウが痛みに悶える様子があった。

その身体にはミサイルとグレネードランチャーで負った傷に更に切り裂かれたような傷があり、血が吹き出ていた。

 何が起こったのかわからないといった様子で黒部は驚いていた。

 しかし一瞬であったが黒部は見ていた。何枚もの小さな三日月型の刃がエレキテントウを斬りつけるのをその三日月型の刃が自身の後方から飛んできたのを。

 後ろを振り返る。黒部の後ろは暗い森が広がっており、その暗闇の中に立つ人影が見える。

 その人影がこちらに歩いて来る。人影が月光の下に現れる。それは黒部や伊織と同じパワードスーツだがカラーリングが赤と白という姿の人物だった。


「はじめまして。黒部隊長ですか?」


 赤と白のアーマーの人物が黒部に話しかける。その声は女性の声であった。


「あ、ああそうだが…君は?」


 黒部はアーマーの女性に何者か問い掛ける


「良かった間に合って。私はアメリカ支部から来ました。オリビア・アランドールです。早川司令の命で救援来ました。」


「助かる、ヤツの羽根を狙ってくれ、あいつは羽根で充電している。」


「了解」


「仲間が一人増えたところで!」


 エレキテントウが羽根を羽ばたかせ電気エネルギーを溜める。

 黒部はありったけの力を振り絞り、エレキテントウの懐に近付く。

 近くに設置していた武器コンテナから筒状の物体が黒部の下に飛んでくる。それを右手にはめて渾身の力で殴る。パンチとともに筒状のユニットから衝撃波が発生し、テントウは吹き飛んだ。

 そこにオリビアの武器三日月型の刃が連なった鞭のような武器クレセントウィップが羽根を切り落とし、目と身体を切り裂いた。

 黒部は素早く背後に周り、飛びつき、カーフブランディングをお見舞いした。

 そして両手を組む、手の装甲が変形し両手を包む形になる。先端が薄く平たい銃口になり、標準を地面に頭を激突し動かなくなったエレキテントウにさだめる。


「カッタービーム発射!」


 平たい銃口から長方形状の光弾が次々と発射され、エレキテントウの身体を切り刻んでいく。


「二人とも先に行ってるぞぉ……」


 エレキテントウは戦いをともにする仲間への言葉を呟くと爆発し、絶命した。





 伊織とサラマンダーは激しい肉弾戦を繰り広げていた。伊織は拳と脚を、サラマンダーは尻尾をフルに使った格闘を展開していた。

 サラマンダーが尻尾で2連撃仕掛けるが、伊織はそれを右拳で阻止する。左拳で殴りかかるがそれをサラマンダーが手で受け止める。すかさずヘッドバッドを浴びせ、背負い投げを決める。が、サラマンダーも尻尾の強烈な一撃を繰り出す。

 尻尾の一撃を受け伊織は仰け反る。間髪入れずに足元に尻尾が迫って来ており、足払いをしようとするのが見えた。


「くっ…!」


 跳んで尻尾による足払いを避ける。そのまま足を揃えドロップキックをする。 

 サラマンダーは蹴られた衝撃で数歩後ろに下がる。が、反撃といわんばかりに尻尾を投げつける。

 尻尾が伊織の体に巻き付く。


「しまった!」


 腕も足も縛られ身動きがとれなくなってしまい、絶対絶命の危機であった。


「オレの尻尾よく燃えるんだよな〜」


 サラマンダーは炎を吐く、炎は尻尾に着火するとあっという間に伊織の全身を包む。


「ぐうぅ!あ、あつ…い…」

 

 このままではパワードスーツの耐熱機能にも限界が来て、全身が本当に焼けてしまう。自分は焼け死んでしまうのか、そう諦めが見え始めたとき


 ブワァァーーー


 伊織の全身に消火剤が撒かれる。火は消えパワードスーツはところどころ焦げていた。


「だっ、誰?」


 伊織は消火剤が放たれた方向を見る。そこには朱色のパワードスーツを装着した人物が立っていた。その手には身の丈を越える槍を持っている。

 朱色のパワードスーツから通信が入る。


「こちらアイルランド基地から来たネイル・ディアミド、これからそちらを援護する。」


 声からして伊織と同い年ぐらいの青年だった。ネイルと名乗る青年は地面を蹴り上げるとサラマンダーに急接近し、朱色の槍アイアンランスで突きを連発する。


「…!!」


 急なことでサラマンダーもアイアンランスを捌くので手一杯といった様子であった。

 アイアンランスによる突きを捌きながら、一瞬の隙に尻尾による反撃に出るが、それを防がれ、逆に尻尾をアイアンランスで刺され、尻尾が動かせないところに蹴りを喰らう。蹴られたと同時に尻尾を切り離し後ろに下がる。


「なかなか出来そうなのね〜、これはどおぅ?」


 サラマンダーは炎を吹く、ネイルはアイアンランスを回し炎を防ぐ。そしてネイルの後ろから伊織が跳び上がり、サラマンダーにグレネードランチャーを撃ち込み命中する。

 サラマンダーは左腹部に焼けた傷と出血が見られた。


「まだなのねっ!」


 サラマンダーは新たに生えた尻尾に炎を吹きかけたと思ったらそのまま尻尾を飛ばす。それは炎を纏ったブーメランのように尻尾はネイル目掛けて飛んでいく。

 尻尾はネイルに当たることなく、アイアンランスで貫かれ、防がれた。しかし槍で貫かれても、尻尾は暴れるように動きまくる。

 これにはネイルも驚くが


「ぐっ…このぉぉ!」


 アイアンランスを薙ぎ払い、尻尾はサラマンダーに飛んでいく。


「あっ…」


 次の瞬間尻尾はサラマンダーに巻き付く。炎を纏っているため、瞬く間にサラマンダーの全身は燃え始める。


「アチッ、アチッ、アチチチチチッ!!」


 サラマンダーは自身の炎に苦しんでいる。


「トドメは任せたぜ」


 ネイルは伊織にトドメを譲る。伊織は物凄い速さでサラマンダーに向かって駆けて行く。全身で風を切りながら走り、膝からスパイクを出し、膝蹴りを命中させた。


グサッ!!


 膝のスパイクがサラマンダーの身体を貫く。


「ううっ〜まさか負けるなっ、なん…」


 サラマンダーは最期の言葉を言い終えるまえに爆発四散した。


「ハァ、ハァ…」


 戦いの疲労から伊織は地面に膝を付く。が、ハッと我に返り気付く。


「まだあの子が一人だっ!!」





 カミキリのジャイアントスウィングで投げ飛ばされたライは何十本の木を真っ二つにしながら地面に激突した。身体中を今まで感じたこと無いほどの痛みが襲ったが10秒ほどで治まり立てるほどまで回復していた。


「ライ、戦エルカ?」


「うっ、ウン大丈夫やれるさ」


「接近戦デハ奴ノ方ガ上手ダ、距離ヲ置イテ倒スシカナイ。」


「どうやって?」


 ライにとっては難しい話だった。手甲の爪はダメージが低く決定打にはならなかった。今は距離を置く技を考えなければならない。


「思イツカナイナラ敵ノ技ヲ盗メ」


「敵の技を?」


「最初ニ電撃ヲ喰ラッタタダロ?アレヲ再現スルンダ。」


「やれって…どうすれば出来るの?」


「指先ニ力ヲ集メルヨウニ集中シロ。自分ナリノ電撃ヲ思イ浮カベルンダ。」


 ライは右指先に神経を集中させる。頭に電撃を思い浮かべて。


(電気、電気…ビリビリっとする感じ…)


パチパチッ!


 指先から極小さな電流が流れた。


「あっ、出来そう!」


 ライは軽く腕を振るうと手から電撃が放たれ、木に命中する。命中した箇所はブスブスと黒く焦げて、煙を立てていた。


「ソレヲ全力デ奴ニ撃チ込メ」


「わかった!」


 そして森の中を移動する音が聞こえる。カミキリが自分を探しているとライは気付いた。


「やってやる」


 ライは覚悟を決めて走り出す。


「何処へ行った?」


 カミキリは周囲を見渡す。龍王装甲を今仕留めなければ後々面倒なことになる。そんな風に思えて仕方なかった。


「っ!出てきたか。」


 カミキリの数十メートル前方に黒い巨体が現れる。ライが堂々として立っていた。


「御使い覚悟っ!」 


 カミキリがライに向かって駆けて行く。それを迎え撃つのにライは手甲の爪を放つ。


「また同じことを!!」


 カミキリは駆けることを止めず、爪を鉤爪で切り払いながらライとの距離を縮めていく。

 今度はカミキリが鉤爪から斬撃を放つ、斬撃は鎧を切りつけていく。


「攻撃ヲ防グンダ、壁ヲ作レ!」


 白龍の指示にライは手を伸ばし、壁を思い浮かべる。

 すると目の前に透明な壁が作られ、攻撃から身を守るバリアとなった。


「何と!防御壁まで使えるのか…だがそんなもの砕いて見せる。」


 カミキリはバリアに殴りかかる、


ドオンッ!!


 バリアから鈍い音が出る。続け様に鉤爪で斬りかかり、蹴りも入れる。


「ンッ!ウオ…」


 バリアの強度はライの力の入れ具合で決まる。ライが衝撃に耐えきれず力を緩めてしまったら。バリアは壊れてしまう。今はギリギリの状態で耐えているのだった。

 が、そこにカミキリが頭の触覚を針のようにしてバリアに突き刺した。それによりとうとうバリアが壊れてしまった。


「よしっ!破れた。御使いかく…」


 バリアを破り斬りかかろうとしたカミキリは直後に吹き飛ばされた。

 それはライが吹き飛ばしたからだ。キャメレオンを倒したものと同じ衝撃波を放っていた。

 不意の攻撃を受けカミキリは動けずにいた。


「今ダ!ライ電撃ヲ撃テ!」


 白龍の指示で先ほど会得して電撃を放とうするが、


「…っ!!!」


 片膝を地に付け、動けなくなってしまう。


(もっ、もう疲れた。う、動けない…)


 身体は巨大になっても基礎体力は子どものままであり、戦闘での肉体的精神的な疲労、受けたダメージ、そしてバリアと衝撃波の超能力を2回使ったことで体力を多く持ってかれていた。


「ヤハリ、力ヲ使ウニハ負担がマダ大キイカ…ダガヤルンダ、ソウシナケレバオ前ガ死ンデシマウゾ。」


 ライは力が入らず重くなった身体を震えを起こしながら無理矢理動かし、右腕を伸ばす。フラフラになりながら、指先はカミキリに狙いを定める。右腕に残り全ての力を集中させる。すると肉眼でもわかるくらい右腕が雷を纏い始めた。

 だがカミキリは飛ばされ痛みがようやく引き、動けるようになった。そしてライを見て力を蓄えていると判断した。技を出される前に速攻で倒すカミキリも残りの力全てを出してライに特攻を仕掛ける。


「死ねぇぇぇぇ!!」


 カミキリが物凄い勢いで迫って来る。ライは意識が途切れる寸前の状態であった。膝を曲げて踏ん張る姿勢をとる。


(この技を出したら自分はこの後どうなるかわからない…でも今はこれに賭ける!)


「雷龍波!!」


 右腕から龍の形をした電撃光線を発射する。光線はかけてくるカミキリの全身を飲み込む。光線を直撃したカミキリは体のところどころ黒焦げて、煙を出していた。


「む…む…無念」


 カミキリは倒れると爆発し命を散らした。そこに先に戦闘を終えた四人が駆けつけて来た。ライは両膝を地に着くとエネルギー切れと言わんばかりに変身が解ける。


「「!!!」」


 オリビアとネイルは黒い鎧の正体を見て驚愕する。


「君一人であの怪物を倒したのか?」


 黒部はしゃがみ込みライに尋ねる。


「うん…凄いギリギリだったけどね。」


 自分達も苦戦した怪物をこんな幼い少年が一人で…四人は龍王装甲の力強さを認識した。


「それよりもオイラもう疲れて動けないよ…」

  

 電源が落ちるようにライは眠りについた。それを黒部が抱き上げる。


「なんてことだ、奴らに狙われるだけの力がこの子には確かにある訳か。」


 黒部はライを見つめて話す。四人はただライを見つめる、その目はまるでこれからの彼の運命を憐れんでいるように。

 

 




 

 








 


 



 


 



 




 




 




 






 

 

 

 







 


 

 


 






 


 







 


 


 






 

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