第3話闘い

 ライ達はワゴン車に乗り揺られていること数十分、その間も不安にかられていた。


(今からどこに行くのか?父さんは無事なのか?自分達はこれからどうなってしまうのか?)


 車内の静寂がそのその思いを加速させる。そんなライを麗は抱きしめ、頭を撫で安心させようと努める。


「基地には早川君がいるのかね?」


 英丸が運転する黒部に話しかけた。黒部は真っ直ぐ前を見て運転しながら答える


「はい、当面の生活については早川さんが色々と手配をするそうです。  ッ!!」


 黒部は何かに気が付くとハンドルを切った、


バァァァン!!


 すると爆発と爆風が車を襲った


バァン!バァン!バァン!バァン!


「わっ、あわわわっ」


「きゃっ!」


 ハンドルを右へ左へ切り、蛇行運転しながら爆発を避ける、ライ達の身体も激しく揺さぶられる。しかし左前輪が破裂し、走行出来なくなってしまった。


「仕方ない、降りるぞ伊織、アーマーを着るぞ。桂さん一家を少しでも基地の近くまで連れていくんだ!」


「了解」


 車から降りた2人は腕時計のようなものを操作する、すると身体が光り、次の瞬間には黒部は赤と銀の、伊織は紫のパワードスーツを全身に纏った姿になっていた。

 車の後方から猿の顔を持つ集団オークコング達が迫って来た


 車から出たライ達は変身した2人の姿とオークコング達を見て絶句していた


「やはり、来たな。ここは任せて桂さん達を頼んだ」


黒部はオークコング部隊の前に立ち、伊織に言った


「はい、どうか気を付けて。さっ、皆さんこっちに急いで!」


 伊織がライ達を連れその場を離れる。それを追おうとするオークコングを黒部が両腕を広げ制した


「おおっと、これから先は私を倒してから行ってもらおうか」


 ビーム拳銃を取り出し、2発敵に向かい発砲2体のオークコングに命中、当たった2体のオークコングは断末魔を上げ倒れた


「ギィィ」


 1体のオークコングが突っ込んで来るがそれを躱し、


「ハァ!」


 その勢いで蹴りを繰り出しワゴン車に叩きつけた。さらに向かってくる敵に対し、膝蹴りを決め2発パンチを放ち地面に叩き伏せた、もう一体のオークコングにヘッドロックをかけながら、周囲の敵に拳銃を撃ち込む、そしてヘッドロックを解き、顔面にストレートに拳を叩きこんだ。10体近くは倒したがまだまだ敵は残っている。


「早く彼らに追い付かなくては…」


 黒部の胸の中で微かに嫌な予感があった


「これでっ!」


 太もも部分から柄を取り出し、手で握ると柄から刃が現れ、剣になった。 


「ギィ!」


 3体のオークコングが飛び掛かってくる、それを


「なんの!」


 あっという間に斬り伏せた。地面に墜ちたオークコング達は青く光り、消えた


「早めに終わらせる!」


 剣を構え、オークコングの集団に向かって駆けていくのだった。





「急いで下さい、追手が来るかもしれないです。」


 伊織は3人を連れ、森の中を進み基地を目指す


「ヒィ、ヒィ、こんな道年寄りには堪えるどころのはなしじゃないわい」


 英丸が息を切らしながら、愚痴を言う。ライは息を切らさず、やや下を向きながら無言で歩き続ける、そして今起きていることを飲み込もうと必死でもあった。


(殺されるの?オイラ達殺されるの?あの気味の悪い奴らに?父さんは、父さんはアイツ等に怪物に)


 今朝はなんてことのない普通の日常だったのに1日もしない内に映画のような状況に自分達家族は巻き込まれている。それは8歳の少年の頭と心の容量を遥かに超えるものだった


「ライ、大丈夫?」


 麗が背中を擦ってくる。ただ無言で歩き続ける息子を心配して寄り添っていた。


「大丈夫、漫画みたいなことが本当にあるんだなぁって、見てよお姉さんの格好、テレビのヒーローみたいだ」


「そうだね。お父さんを攫ったのあの猿達の親玉だったのね」


「やっぱりアイツ等がお父さんを!早くお姉さんの基地に行ってお父さんを取り戻してもらおう!おじいちゃんはへばっているけど母さんは疲れてない?」


「うん、お母さん平気。何ならこの森の斜面走り抜けちゃうことも出来るわ。ライも疲れてない?」


「うん疲れてないないよ」


 実際全く体力は消耗されていなかった。あのクリスタルが身体に入ってからあり得ないことが連続して起きている。クリスタルのことを話そうか迷ったが、今話すと大変になると思い、留めることにした。


「皆さん森を抜けたら人通りの多いところに出ます。」


 伊織はライ達一家に声を掛けた。


(まずい、この状況で全員守り切れるか?)


 伊織に不安がよぎる。段々と日が沈み、暗くなる森の中、今敵が来たら、そんなことを考えてると


「待てぇぇぇぇぇぇ」


「「!!!?」」


 ライ達を呼び止める声、それは頭上から聞こえ、皆一斉に見上げると高い木に巨大なキャメレオンが立っていた


「キャメレオン…」


「えぇぇやっ!」

 

 木から飛び降りるとキャメレオンの後方からオークコング達が現れた。


「桂英丸とその家族、我々と一緒に来てもらおうか」


 英丸が言い返す


「何だこの化け物、お前達研二くんを攫ったんだろ」


「いかにも、オレはメガフィス帝国のグリモワ様が率いる魔術族のキャメレオン。帝国の命を受け我々のことを調べている奴らを誘拐し、知ってることを洗いざらい吐かせる。龍峰研二は我々が預かった、そしてお前達家族ももらい受ける。かかれぇ!」


 キャメレオンの号令からオークコング達が一斉に迫って来る


「皆アタシの後ろに!」


 伊織はライ達を自身の後ろに下がらせるとリボルバー銃を2丁構え、


「さぁさぁ、かかって来な!」


 迫りくるオークコングに目掛けてリボルバーを発砲し、命中した敵は倒れ、更にそれを踏みつけ敵が迫って来る。


 カチッ、カチッ


「っ!弾切れ?」


 オークコングの攻勢の隙を見てリボルバー銃の再装填を行う、しかしもたつく様子があった


「チッ、あぁもう!時間がかかる。実弾だし、リボルバーだし、」


 その隙を敵は見逃してくれなかった。再装填に戸惑う伊織にオークコングが襲い掛かる。

 

「ええい、邪魔だってのッ!」


 襲って来たオークコングの首元に蹴りを入れ、もう一体に連続でフックをくらわし、更にもう一体には腹部に手刀を叩き込み、背負投げをした。

 なおも敵はかかって来る、伊織は一体のオークコングの頭部に肘打ちを決め、倒すと


「面倒臭いまだこんなにいるの?これでも喰らってな」


 右腕を真っ直ぐ伸ばすと前腕部分のアーマーが開き、銃口が現れた、そしてそこからビームを放った


「!?ギィ!」


 命中したオークコングは跡形もなく吹き飛んだ


「やっぱりビームの方が早くて、使いやすいね。」


 一発で数体の敵が吹き飛ぶ、走りながらビームを連続で放ち、オークコング部隊を壊滅させた。


「娘、俺が相手だ」


 キャメレオンが伊織の前に立ちはだかる。


「クウゥ!」


 伊織は突っ込む様な勢いで飛び出し、キャメレオンの顔面目掛けて右ストレートを放った、右拳がキャメレオンの顔に当たるその直前右腕を掴まれ、阻止され、キャメレオンの両腕が伊織の右腕をしっかりとロックしそのまま投げ飛ばされる。 

 投げ飛ばされたところに蹴りが来るが伊織は瞬時にそれを避け、体勢を変え足払いを仕掛け、足をすくわれたキャメレオンは後ろに倒れる。


「今だっ!」


 伊織は立ち上がり、左肘に全体重をかけて倒れ込み、エルボードロップを繰り出した。


「があぁぁっ!」


 腹部に命中し、キャメレオンは痛みに悶えるが、すぐに伊織を吹き飛ばし、立ち上がり、体制を整える  


「娘!許さんぞっ!」


 キャメレオンは口を開くと舌がすごい勢いで飛び出して来た、伊織はそれを躱し逆に掴んで引き寄せる。


「馬鹿め!」


 キャメレオンは引き寄せられた勢いを利用し、地面を蹴り、勢い良く伊織に突っ込んで来る。

 そのままの勢いで伊織を殴り飛ばす


「このキャメレオンの本当の力を見せてやる。」


 そう言うと周囲の風景に身体の色が合わさり、姿を消した。


「あのカメレオンの化け物何処に隠れた」


 伊織は立ち上がり静かになった森を見渡し、キャメレオンを捜す、


「カメレオンだから保護色で隠れているね。ならセンサーで」


 伊織はアーマーのセンサーを発動させた。アーマーからの視界を通じてセンサーが働く。捜す、しかし見つからない


(何処にいる?)


「此処さ」


「!!?」


 伊織の左側から突然キャメレオンが現れ、拳を見舞った。


「ぐぅっ!」


 キャメレオンは再び保護色で姿を隠した。

 

 殴れた伊織は後ろへ倒れるが、すぐにセンサーで捜索する。


「あんな近くにいて、気が付かなかった?それにセンサーも反応してない。」


「こっちだ!」


 今度は背後から現れ、背中に蹴りを入れた


「がぁぁっ!」


 頭から倒れた伊織、振り向くがすでに姿は無かった。


「アイツ、全然センサーに反応しないじゃん!」


「カッカッカッ、気がついたか。」


 キャメレオンは伊織から10メートル程離れた場所に再び姿を表した


「オレの保護色はあらゆるセンサーに反応しなければ、引っかかることもない、嬲り殺してからアイツ等をやる!」


 キャメレオンが伊織を始末しようと近づく


「そう上手く行かないってよっ!」


 アーマーのビーム砲をキャメレオンに向けて構え、発射した、しかしキャメレオンはそれを避けた


「なんの、小賢しいくらえ、爪ミサイル」


 キャメレオンは伊織に向けて両腕を伸ばすと、両手の爪部分から小型ミサイルを発射した


バァァァン!


 周囲に着弾し、炎が上がる。


「くっ、くぅぅ!」


 身動きが取れずにいると腕のビーム砲に爪ミサイルが命中し、破壊されてしまった。同時に右腕もダメージを受ける


「こんのぉぉぉ、舐めんなよ!」


 伊織は跳び上がり、炎に囲まれた場所を脱出すると、リボルバーを取り出し、キャメレオンに向けて撃った


ガーン!


 弾は胸部に命中したが貫通することなく、弾き飛んだ


「チッ、こんな銃じゃ通用しないってワケね!」


「そんなおもちゃでなにが出来る!ハッ!」


 キャメレオンは舌を伸ばし、リボルバーを握る左手を直撃した、当たった衝撃で左手はリボルバーを放し、リボルバーも5メートル程飛んだところに落ちた。


「うっ、ううぅ」


 痛む左手を負傷した右手で抑える。


「さて、あの一家を連れて帰るのとそのスーツについても知りたいことがある。出来るだけ壊したくないが中のお前は死んでもらう。」





 ライ達3人は少し離れた場所、木の陰から様子を見ていた。


「まずい、ありゃ負けとるぞ。」


 英丸が呟いた。続いて麗も呟く


「私達ただ見てるしかないの…」


 そんな中ライはひたすら黙って見つめている。


(身体に変な感じがする)


 そう違和感を覚えていた。クリスタルが入った腹部が熱くなる、そんな感覚

 するとそこに


「ギィィ!」


 周囲をオークコングに囲まれた。


「こやつらまだ生き残りがおったのか!」


 3人は抗ったが抵抗虚しくオークコング達に捕らえ、キャメレオンの下に連れてかれた。


「でかした。オイッ!3人の命が惜しければ降伏しろ!」


「クッ!」

(今のまま仕掛けたら確実にあの人達が殺されちゃう)


 伊織は痛む両腕を上げ、降伏の意を示した。


「よろしい。そしてそのまま死ねっ!」


 キャメレオンは伊織に殴りかかった。


「グァァッ!」


 殴られた伊織は倒れた。そこにキャメレオンは馬乗りになりさらに殴り続けた。


「グァッ!グゥッ、ガハッ!」


 何十発も殴られ、顔を保護しているアーマーのマスクもヒビが入り、遂には左目から左頬の部分までが見える穴が出来るまで破壊された。

 殴れるとマスクの穴から血が飛び出て来る。 

 その光景にライ達は目をそらし、視界からの情報を遮る。だが殴る拳の音と伊織の殴れて出る唸り声、それを聞くだけで恐怖が全身を襲う。


(ヤバい、ヤバいヤバいヤバい、大変だ、このままじゃお姉さん殺される!そしてオイラ達も殺される!)


 今目の前で行われている生命を奪おうとする行為、テレビドラマでギャングがやってきそうなことを現実で見ている。その残忍さと惨さ、そして次は自分達が殺されるそのとてつもない恐怖で全身が震え上がる。

 女性が殴られているのに何も出来ない。それどころか身体の震えで立っているのも精一杯な状態だった。 

 麗と英丸も絶句して立ち尽くしている。


「うっ、うううぅ…」


 ライの身体を不快感が襲った。  

 思わずその場でうずくまる。それをオークコングが無理やり立たせる。

 麗がライの異変に気付く、


「ライ、どうしたの!?」


「かっ、身体が気持ち悪い」


「おぉ、余りにも刺激的目の前で見てショックをうけたんじゃ。オイッ、やめてくれお前達の言う通りにする、だからその娘を殺さないでくれ!」


 英丸がキャメレオンに叫ぶ、それを聞いて殴るのを止め振り向いた


「止める訳にはいかない。我々の敵を知るためこの娘の鎧を持ち帰らなければならない。」


 既に伊織は虫の息であった、意識も途切れる寸前だった

 キャメレオンは右腕を振り上げるとトドメと言わんばかりに拳を叩き込もうとしていた


「あっ、ああああああ!」


 ライは限界になり頭を抱えてうずくまる、視界が段々と暗くなる。

 薄れ行く意識の中であるイメージが頭の中をよぎった。

 それは暗い闇の中佇むモノがいた。それは一体の巨大な龍、汚れのない純白の龍だった。

 それは威厳があり、神々しさもある誰もが想像する龍そのもの。そんな龍が口をきく


「アイノコよ、お前は選ばれた。」


(一体何に?)


「我等龍の力を宿す鎧 龍王装甲 を着るに相応しい者だ」

 

(鎧?龍の?)


「今現実のお前の目の前には倒すべき敵、いずれ倒すべき敵がいる」


(そうだ、あのキャメレオンがお姉さんを殺そうとしていたんだ。なんとかしようにも怖くて動けないんだ)


「力を与える。暗黒から世界を護れ、定めや規律では測れない正しきことをするのだ」


(戦えっていうの?)


「龍王装甲は装着者の最も優れた力を高めて戦う」


(オイラの一番優れた力?)


「奴らを倒してくれ、我を縛りから解き放ってくれ」


 白い龍はそう告げると闇の中へ消えていく


(まっ、待ってもっと話を聞かせて!)


 龍を追いかける、しかし全く追いつくことが出来ない。それでも必死に追いかける


「お前なら出来る、この先辛いことがあっても必ずやり遂げてくれる」


 龍の最後の声が聞こえる。

 その瞬間ライの身体が光に包まれた、身体が熱い、力がみなぎるそんな感覚があった

 暗い空間から意識が飛ぶ、気が付くと意識は現実に戻っていた。


「夢…だった?」


 自分が見ていたものは何だったのか、こんな非常時に眠っていたのか、あの白龍は何者なのか、考えを巡らせてるが、


「ハッ!お姉さんはっ!お姉さんは生きてる!?」


 そう思い出した一人の人間が殺されなる瞬間を見て、身体が気持ち悪くなってしまったのを。 

 助かってないかもと思いながら恐る恐る伊織を見ると彼女は生きていた。しかし伊織は目を丸くして唖然とした表情でこちらを見ていた。

 それはキャメレオンや麗、英丸、オークコング達も驚いた様子でライを見ており、その場で動揺していない者などそんな状況だった。


「えっ、ナニナニ?あれ?皆の顔とオイラの顔が同じ高さにある。」


敵味方関係ない周囲の視線に困惑したライは自分の姿を見た


「っ!えぇ!なに…これ…っ!」


 それは自分の身体が黒く大きなものになっていた。慌てて脚、胴、胸、腕、顔を触るが全身黒くて硬いものに覆われていた。見た目は伊織や黒部のパワードスーツのようなゴテゴテとしたものではなく、鎧、ヨーロッパの騎士のモノをシンプルにしたような格好だった。腕や脚には龍の鱗のような模様があり、腹部にはライの体内に入ったクリスタルが埋め込まれていた。 

 そして身長も麗や英丸を越し、オークコング達より大きくなっていた。

 目の前で起こったこと、それに対しオークコング達は動揺でライを抑えていた手を放していた。

 それを見たライは全身全霊の力をこめて拳を放った


「ワァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


 右ストレートがオークコングの顔面に命中する、続けてその隣にいるもう一体にボディブローを喰らわせる。殴られた2体は5メートル程吹き飛んだ。

 ライは興奮した様子であった。恐怖の感情はなく、自分と家族がここで死んでたまるか、それだけを考えていた。


(殺されたくない、殺されたくない、殺されたくない、殺されたくない、殺されたくない、皆死んじゃ嫌だ、死んじゃ嫌だ、死んじゃ嫌だ、死んじゃ嫌だ)


家族を殺されたくない、その一心で麗と英丸を抑えているオークコングにかかっていく。

 麗を抑えていた一体に蹴りを入れ、両手の手甲から3本の長い爪が飛び出した、向かって来るオークコング達を次々と切り裂いた。 

 英丸を解放した後力が抜けた抜けた様に膝から崩れる。麗が駆け寄り声をかける


「ライ、ライ!大丈夫っ!?」


 母親の声を聞いてライは我を取り戻す


「はっ!あっ、か、母さん。あれっ?オイラ何をした…」


 周りを見渡す、そこには身体をズタズタに裂かれたオークコング達の死体が、その血潮が広がっていた。


「あっ、あああ、これ、オイラがやったの…」


 目の前の凄惨な状況に今度は自分自身のやった行いの罪悪感と生き物を簡単に壊した己の力に対する恐怖心が全身を襲い、身体が震え鼓動が早くなる


「何これっ、何なんのっ!」


 頭を抱えて混乱する、それを慰めるように麗が抱きしめる


「大丈夫、大丈夫、母さんがっ、母さんが付いてるから。ライはなんにもなーんにも悪くないから」

 

 異形の姿になり、自分より大きくなった怯える息子を優しく抱きしめ、頭を撫で落ち着かせる。 

 次第に落ち着きを取り戻し母親を意識出来るようになった


「母さんっ、母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さんっ!!」


「大丈夫だよ、ライは私とおじちゃんを助けてくれたんだよ。」


 優しく微笑む、そのいつもの笑顔にライは安心を覚える。


それの様子を見ていたキャメレオンは唖然とし、


「…つけた」 

 

 呟くと獲物を見つけた様に嬉々とした様子になる


「見つけた、見つけたぞ!!我らメガフィス帝国の宝、龍王装甲を!こんなすぐ側にあったとは何たる幸運!小僧死んで我らの秘宝返してもらうぞ!!」


 黒い鎧を身に纏ったライに狙いを定め襲いかかる、


 グイッ!


「!?!?」


 キャメレオンは前に進むことが出来なかった、それどころか後ろに引っ張られる。


「行かせないよっ!!」


 ボロボロになった伊織がキャメレオンの腕を引っ張って、動きを止めていた。


「小娘がいい加減くたばれっ!」


 キャメレオンは伊織に爪を向ける、そして零距離で爪ミサイルを撃った、


「ッ!!」


 発射と同時に伊織は超人的な反射神経で避ける、すぐ後ろで爆発が起こる


「なめんなってぇぇのぉ!!」


 伊織は膝の装甲をスパイクを変形させ、膝蹴りを繰り出す。


 グサッ!


 キャメレオンの腹部に命中しスパイクが刺さった。後ろの爆発の衝撃が膝蹴りのスピードと威力を増している。


「ギャアアアアアアァァァァ!!!」


 キャメレオンはダメージを負った腹部を抱え倒れ込んだ、


「っくぅ、ヘヘっどんなもんよっ!」


 一矢報いたそんな誇らしげな顔をして伊織は尻餅をつきながら喜んだ。


「こっ、小娘が!ふざけやがって!!」


 キャメレオンは出血した腹部を抑えながらよろめきながら、爪ミサイル撃とうと再び爪を伊織に向ける


「マズイ…」


 次は躱せる力がない、命中したら終わる。伊織は座り込んだまま覚悟を決める。 

 そしてキャメレオンが撃とうとする


「死ねーー!!」


「待てっ!」


 発射する直前、黒部が駆けつけ、ビーム銃をキャメレオンに向けて発砲した。命中こそしなかったが、キャメレオンは伊織から離れた


「うぅクソ、もう来たのか。」


 黒部はすかさず伊織の下に駆け寄り、銃口をキャメレオンに向けたまま、よびかける


「お前の手下は全て倒した大人しく降参しろ、この傷で勝ち目はない。」


「それは…やってみなきゃわからん!」


 キャメレオンは保護色で姿を消した。


「カメレオンだから保護色か!」


「気を付けて下さい。アイツの保護色はセンサーも誤魔化せる完璧なやつです。」


 伊織は傷だらけの身体で無理やり立ち上がり周囲を警戒する。


「だが奴は怪我を負い、出血をしていた。それが目印になるだろう。」


 キャメレオンは伊織により腹部に穴を開けられており、そこから多量の出血をしていた。周囲に血の付いた箇所がないか探す。


「目の付け所は良い、だが」


 黒部の頭上から声がする、そして


「キエェェェェーーー!!」


 尻尾を黒部の首に巻き付けた


「ぐうぅ!」


「オレの血は超スピードで自然消滅するようになっている」


 キャメレオンは尻尾の力を強め首をさらに締める


 伊織は止めようとするが爪ミサイルを向けられ、動きを止めた。


「お前達はな、何が目的だ?」


「オレ達は奪われたモノを取り返そうと探していたが、そこの小僧が纏ったその鎧あれこそがオレ達の求めていたモノだ。小僧をそしてお前達を殺して持ち帰る。」


「その傷でこれから私達を倒してか、果たして出来るか?」


「出来る!我々メガフィス帝国がもう一度世界の支配者になるならこの命惜しくない!!」


 拳を握りしめキャメレオンは熱意を持って語った。


「そうか、お前の決意はわかった、だが」


 黒部は今まで尻尾を剥がそうと抵抗していたがそれを止め、キャメレオンにタックルをかました。そして


「私達は負けない!!」


 タックルを受けた衝撃でキャメレオンは首を締めていた尻尾を解いてしまう


「今だ!」


 尻尾を掴みジャイアントスイングを繰り出す。


「うおおおぉぉぉ!!」


 そして地面に何度も叩きつける。


「ガァ、ガァァァァァ!」


 キャメレオンも相当のダメージを受けている。


「それぇっ!!」


 尻尾を放し、大木に激突させた。


「アァ、グゥゥゥ…」


「ついでにこれもだ!」


 黒部はアーマーの腰部分を展開し、砲塔に変形した。そしてキャメレオン目掛けて発射した。

 命中したキャメレオンの身体は黄色くなっていた。ペイント弾だった。


「こ、これは」


 キャメレオンが自身の身体を見る


「これでもう隠れることは出来ないだろう」


「クッソォォォ」


 キャメレオンは爪ミサイルを放ち黒部達が身動きがとれなくなった一瞬をつき


「小僧ォッ!お前だけでも道連れにっ!」


 最後の力を振り絞り、ライ、麗に襲いかかる。


「っ!!しまった!」


 黒部はアーマーの前腕部分の装甲を展開しビーム砲を撃とうとするが


「くっ、反応しないっ!?」


 首を締められた際機能の一部が壊れ、ビームが撃てなくなっていた。


(腰のランチャーでは間に合わない!)


 無駄とわかっていても走り出す


「死ねぇ!小僧っ!!」


「あっ、ああああ!」


「っ!ライッ!」


 麗はライを庇うように抱きしめる。


(オイラも母さんも死んじゃう、嫌だ、嫌だ、死にたくない死にたくないよ!)


 そうライが考えると身体中に電撃のように力が走るのを感じた。

 その力は抑えきれないものとなり、キャメレオンに向けて腕を伸ばし、光として放たれた。


「たあぁぁぁー!!」


「何!?うわぁ!」


 光がキャメレオンを包む

 攻撃を受けたキャメレオンは全身から煙を上げながら後ろに下がる。


「たっ、ただの子供が変身しただけでこれほどの力とは…さすがは龍王装甲…だがっ、だが必ずや後の者達がお前を殺してそして、フハハハッ!ハーハッハハ!!」


 キャメレオンはその場で後ろから倒れ、その身体は爆発した。


「終わった、のでしょうか?」


 伊織は黒部に問いかける。


「終わったというよりは始まったのかもしれない。」


 黒部はそう返した。





 ライは立ち上がった。目線の先は自身の攻撃を受け爆発したキャメレオンの身体が燃えている様子だった。そして鎧の変身が解かれ、通常の身体に戻った。


「………」


「…ライっ!」


 麗が駆け寄るとライは力尽きるように倒れ込んだ。







 






 




 




 

 


 




 













































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