第2話 日照り
体育館ではひたすらワンオンワンが行われていた
ワンオンワンとは一対一でシュートする側と守る側で
攻防を繰り広げる一般的な軽い試合に近い。
所作を粗方に教わっただけだが
真希の本当に眠っている力を発揮していた。
小さい動きながら力強く
あまりにキレイな所作が相手を圧倒する。
「嘘でしょ……」
ゼエハアと息を切らす先輩の球捕を相手に
元気よくまだまだ動ける真希に
休憩を余儀なくされた。
「すごいねぇ」
「まったくだ」
球捕はスティールに置いてこの少守学園で最強を誇る
そんな相手に体力と攻防で相手をダウンに持ち込む。
「ミスが少ないんだもん……」
息を吹き返した球捕は
自身の劣った部分を呟く。
「真希はあまりに基本が重要視だからね」
スティールは相手のミスが重要になってくるため
基本に忠実でミスする判断を避けている真希は
球捕の天敵だと言えた。
「なんでわかるの?」
「目の動きですかね」
「そんなキョロキョロしてないよぉ」
違いますと説明を変え
手振り身振りで伝えてくる。
「ボールを取りに来るなって時に手ばかり見ているので……」
「あっ! そういえばそうだ!」
これってと久木は真希の動きをメモしているがてらに
ペンを走らせた。
「なにしてんすか? 先輩?」
「真希ちゃんの動きってすごく参考になるのよねぇ」
赤坂はメモを盗み見たが
細かい真希の観察日記のように見える。
「でも確かに真希はどっかで見たような動きをする」
そんな言葉を遮るように
目の前に壁島が座った。
「あれは真希斗って言われる名門のちびリーダーの動きだな」
「名門のお兄さんっていう?」
「たぶんだけどバスケと知らずにやってたんだろうな」
確かに講義の際も
ちょっと言っただけこれですかと質問をぶつけてくる。
「もしかしたらだけどな……」
おーいと声を掛けて
真希を呼び寄せると久木と赤坂も呼ぶ
陣形を組んだかと思うと
スリーオンワンを始めることになった。
「なんですか? なんで三人?」
スリーオンワンとは
三対一のワンオンワンである。
つまり先輩二人と赤坂相手に
軽い試合をするのだ。
「そんなぁ」
「大丈夫だよ? お前は無傷で俺たちに勝つから」
いきなりの敗北宣言に久木と赤坂は驚く
いつも無口で勝ちに行こうとする壁島が
珍しく敗北を差したのである。
「じゃあ行くぞ? 手を抜くなよ」
まず久木と赤坂がフェイントと呼ばれる
強いて言うなら邪魔を行い視界を狭めた。
慣れてきた真希は後ろでに
ドリブルをしながら警戒する。
その隙に壁島が取りに行く手筈だったが
フェイントに真希が突っ込んできた。
「え? なんで?」
そう後ろで壁島がスティールをしようとした
瞬間に二人の油断を見抜き股抜きのパスで
シュートされる。
「これって初心者の動きじゃないよねぇ」
球捕は気が付いた
この子は格上の選手だ。
「私もがんばらないとね!」
「そうです! がんばります!」
ふんふんと遠目に球捕と真希の絆が深まる。
「ただこいつはとっつきやすい」
「こいつは?」
「名門の方は寄れば斬ると殺気だってるんだよ」
この前になと話を続け
偵察に行った時のことを話していった。
記事を書こうと記者が集まっていた
大会について聞きたいのだろうと
誰もが思っている。
「妹さんがバスケットを始めたようですが?」
記者全員が初耳情報に目が点になった
その問答を聞いた途端に気配がぴりついた。
「真希が? って壁島君ですよね」
「バレたか……」
「真希のことなんで知ってるんですか?」
「うちのバスケ部に入ってくれたんでね」
「真希が? それは本当ですか?」
部員全員が顔を見合わせ
記者の集まりを体育館の外へと追いやると
体育館が殺気だつ。
「どうしたんだ? 壁島君?」
「どういうこと?」
記者たちは唯一の手掛かりである
壁島に殺到した。
「まさかとは思ったんですけどね」
その事由について話すと
記者たちが殺到するように取材を申し込んでくる。
【名門以上の実力者が無名高校で兄への再開を望む】
そんな記事をつゆ知らずに
球捕とバスケ談義をかましている真希は
自由にワンオンワンを始めた。
「真希を見ているとなんかあいつを思い出すな」
「私もだよぉ」
「
あいつが見たら喜ぶかなと
遠い空を見つめる。
遠い場所でハックシュンと
白いカーテン越しに誰かがくしゃみした。
「そんなこんなで収穫は真希が大会の鍵になるって情報だ」
夏季大会とデカデカ書かれている広告を手に
ニヤリと笑う壁島に久木は嬉しそうである。
夏の陽炎はどちらに実物を成させるのか
乞うご期待であった。
この世界では男女区切りなく
大会参加が成される
女子と男子の区切りがないため
大会は一つ
王者も男女混合のひとつのチームのみ。
これがこの世界でのバスケットボール
夏季大会では
女子は女子の場所で着替え
男子は男子の場所で着替え
合流となる。
予選での着替えも同等に行われる
チームに人が少ない中で
後々の合流は少し恥ずかしい
というかアウェーだ。
「きいた? あのちびの子が……」
「うそでしょ? あれで?」
大柄な女性の中で
大注目ながら予選で着替える場所は
混雑している。
「真希ちゃん人気だねぇ」
「そうですね球ちゃん」
いつの間にか
球捕を球ちゃんとあだ名呼びになっていた。
「ミーハーなのはいいけど……」
試合はどこかわかってるのかと
問いただす。
「たしか名門の
「いきなり名門よぉ」
その高校の名前を聞いて
近くの大柄な選手が反応した。
「あら? この第一試合の少守学園って?」
「わたしたちです」
「ちびっこいのね」
「頑張ります!」
「威勢もいいのね」
少し哀れなものを見る顔で見つめてくると
情けの言葉を掛けられる。
「怪我はしないようにね…… 観戦席は二階よ」
呆けている真希と球捕を他所に
久木は言ってのけた。
「負け惜しみは負けてからですよ?」
「あら…… 心配しただけでしてよ」
苦笑を浮かべながら着替えを終えていく
ロッカーは磨き上げられているかのような
ピカピカである。
「さすがお嬢様学園だなぁ」
「お嬢様っぽかったですね」
「ちがうよぉ……」
本当のお嬢様学校で有名な木閃高校は
設備も段違いのふかふかな畑だ。
設備では普通の少守学園では
出来ないような特訓も行っている。
「まあ秘密兵器がいるもんねぇ」
そんなこんなで
予選一回戦が始まる……
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