BASKET SHOOT
あさひ
第1話 ショートヘアー
太陽が輝きながら問いかけてきているような暑い夏
寝癖が特徴の少女はきなこ棒を貪っていた。
「ほんにちはっ!」
「今日も元気だねぇ」
「ほいっ!」
もふもふと口を動かしながら
校門を後にする。
さすがに教室に入る前は
鞄にきなこ棒の袋をしまった。
口の中のきなこ棒をぜんぶ鞄の中に
あった清涼飲料水で喉に流し込むと
教室に入っていく。
「おっ! 今日も前が揃ってる♪」
「姫カット…… だもんね」
「姫様…… おてんばに育たれましたな」
ポーズを決めながら友達と談笑する
この少女がこの物語の主人公であった。
名を
【無駄に馬鹿力】という謎の称号を持つ
普通の少女である。
授業をこなしながら
帰宅部の本領である帰宅まで過ごしていった。
しかし今日は普通とは違っている
それはキレイな蝶を見つけ体育館に来た
ただそれだけの理由である。
行き倒れた人がいた
ただ単に泡を吹きながら倒れていた。
「大丈夫ですか?」
大柄で少女一人ではどうしようもない
ただでかい障害物と言わんばかりの
大きな少年が倒れている。
「うぁぁぁぁ……」
言葉すらもままならない
しかし糸口が鳴り始めた。
【ぐぅぅぅうううっ!】
「ああ…… おなか空いてるんですね」
食堂は今いる体育館からだいぶ遠いのは
学園の設計ミスだろう。
しかし異名を持つ刷田は
軽々と少年を持ち上げる
体積と会わない部分は垂れており
刷田が隠れてしまっていた。
まるで何かの化け物の
いで立ちに周りが驚いているのかと
思ったが誰もが一人の少女を思い浮かべている。
「今日は助っ人帰りか?」
「違いますよぉ」
周りの男子も
いつもの光景といった感じだ。
「力持ちってすごいね」
女子の中には若干だが
引き気味もちらほら見える。
そんな中で目を妙に光らせる上級生がいた
ニヤリと笑いながら後を追っていった。
匂いに釣られて目が覚めた少年は
目の前の料理にがっつきながらも
運んだ少女の体躯を見つめる。
《小さいな…… そこそこ筋肉も見えない》
「なんですか? わたしは食べ物じゃないですよ」
妙な目線に少し委縮した。
「違うよぉ」
後ろからねっとりとした口調で
返答する上級生は
ニヤニヤ笑いながら続ける。
「君って小さいのによく運べたねぇ」
狐が女性だとこんな感じかなと
思わんばかりの女性部長は
質問をゆるりとぶつけた。
「昔から細いのに力が強くて不思議なんです」
「筋肉の密度って聞いたことあるかい?」
「密度ですか? 健康診断で四倍ぐらいと言われた気が……」
「四倍か……」
通りでと納得した上級生は
遅れながらと礼をしながら自己紹介する。
「私は
しがないバスケ部長だよ」
「ちなみに後ろで柱の陰にいるのが
もう一人いるんだけどねぇと
遠い空を見つめるような顔になり
まあいっかと諦めた。
「もう一人いてねぇ……
自己紹介を適当に終わらせ
本題に入る。
「一人足らないんだよねぇ」
「はぁ……」
入部届けを折っていたのを
開きながらペンを渡してきた。
「こいつは
心配でしょ? バスケしよう? ね?」
最後は泣き落としで入部を迫るが
そこまでしなくても入る気だったらしく
話の途中で書き終えている。
「え? いいの?」
「バスケ未経験でもいいならですけど……」
「大歓迎だよぉ」
いつもの口調に戻ると
赤坂を置いて体育館へと向かった。
「まへよ…… まはくひおひてなひ」
言語がもはや意味不明になる赤坂は
あとで集合という目配せを部長からもらう。
「へーひ」
体育館にはバスケ部以外が
固唾を飲んで見ていた。
ネットで分割された
体育館に小柄の少女が
バスケットをするという
狂気の沙汰が公開されようとしている。
あまり意味がわかってない刷田真希と
自信満々に安全を保障するバスケの面々
ルールすらわかってない真希に
丁寧に講義を三十分ほど行っただけだ。
「じゃあ初めは十五分間だけ動いてみようか?」
「はい!」
よちよちとしたドリブルが
展開されていたが徐々にスピードが上がっていく。
「やっぱしな」
遅れてきた赤坂は理由がわかっていた
それを自慢げに語りだした。
「ドリブルは力の制御がコツだけどな」
指をビシッと差した先では
ドリブルで走れるぐらいになった真希がいる。
「一番に簡単なのは怖がることなんだよ」
「怖がる?」
隣にいた男子生徒が疑問を
ぶつけた。
「怖がるってのは単純に力がある状態で恐る恐るドリブルする」
「なるほどね」
理解したのか続きを男子生徒が説明する。
「怖がりながらだと力の強い刷田さんは
知らず知らずにコントロールしちゃってるんだよ」
「そういうこった」
だがそれではいつまでも初心者でなければならない
上級者にはなれないのだろうかと周りに疑問が浮かんだ。
「そこは俺が磨いてやる」
下舐めずりをしながら
小動物のような刷田を舐め見る。
「気持ち悪い……」
原石を見つけ我が物にせんとする
視線に感想が漏れた。
「赤坂の癖が出てるよ」
部長の久木は遠目でもわかる悪寒に
早速にも反応する。
「でもがんばり屋さんだねぇ」
「そうですねぇ」
おじいちゃんとおばあちゃんの会話に上級生二人が
なっている間に遅れて背の高い男子生徒がやってきた。
「おいっす」
目の前の光景が信じられないのか
網をくぐる際に二度見を起こしている。
「誰だ? あのちび助は?」
ドスの効いた低い声に部長が反応した。
「おぉっ! 壁島……」
「ちび助…… 危ないから出てような」
「うぉぉっ!」
脇を抱えられて網の近くまで
持っていかれる。
「ちょい待てい! 新入部員だよ?」
部長の素っ頓狂な反応に
壁島もつい首根っこが反応した。
「ごめんねぇ」
「いえいえ! いなくなった兄みたいで嬉しかったです」
兄がいた
バスケットが上手く背が少し高く
何よりも優しい真希の自慢である。
「お兄ちゃんがいるの?」
「今はどこに?」
久木と壁島がズイっと寄ってくる
しかし言いづらかった。
刷田の兄である
ちがう高校で尚且つバスケの進学校と言われた
名門にいるためである。
「通りで熱心だったんだねぇ」
体育館を覗いたのも
蝶だけではなく兄への郷愁があったからだ。
「で? お前がバスケット部に入る理由は?」
「できればお兄ちゃんに会いたいです」
「できれば?」
「絶対にっ! 絶対にです!」
ふふふと壁島が笑った気がした
久木も目標を早くも見つけてくれて
ホクホクした表情になる。
「で? お兄ちゃんの高校って?」
「全進高校ってとこです」
「ん?」
バスケ部員どころか
見ていた生徒たちも固まってしまった。
【全進高校? 無理でしょ……】
「まっまあ…… 真希ちゃんが連れて行ってくれるんだよ」
「おれも善処する」
そんな中で一人だけ
武者震いしている生徒がいる。
「まじか…… 挑むチャンスがこんな簡単に?」
「さすがにちびったか?」
久木がちゃちゃを入れたのは
ふるふると喜ぶ赤坂紅蓮そのひとだ。
「こんなチャンス二度とないですよ」
「嬉しいのか? 嬉しいのか?」
球捕が先輩らしく共に喜んでいた
目標どころか廃部寸前だったバスケ部が
名門を破ることを目指す。
これ以上ない進展だった
それを超えた喜びを新入部員がしょってきた。
「まずは一人前にしないとね」
「はい!」
新入部員が廃部寸前を目指せ名門打破に
引き上げていく。
この後に
どれだけ刷田が夢を見せてくれるか
久木は内心すごく感動していたのを知っていたのは
近くで見てきた壁島だけであった。
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