第39-1話 空は晴れているけど、何処かが曇っている その二
十二月も中頃、
「ねえ、雄二。来年卒業したら籍入れるでしょう。私ね、高槻の性がいいな」
「そのことか。千佳は、あの家を継がないといけないだろう。だから俺は一条の性になるつもりでいたんだけど」
「えーっ、高槻がいい。高槻のままだって家族と一緒に住めるよ」
「でも、高槻の家は俺だけだし。そうだ。千佳にも教えておかないといけない事がある」
「なに?」
「今度、ゆっくり話す。今までお世話になった前田弁護士の事も話したいし」
千佳が頭にクエスチョンマークを一杯描いていたが、いきなりあの話をしても驚くだけだろう。
もう大学も必修科目は取り終わっている。後は来年の試験を受ければ卒業だ。しかし、千佳と結婚か。早いものだな。あれから四年か。そうだ、今年中に墓参り行って来るか。父さんや母さんに報告しないといけないし。
俺は、千佳と一緒に家族の墓に報告に来ていた。三ヶ月ほど来ていなかったからか、花は枯れていた。
それを取り換えて、線香を上げてから
お父さん、お母さん、沙耶。法科大学院に合格した。二年の内に司法試験も受けて司法修習も終わらせれば晴れて弁護士になれる。
傍にいる千佳とも大学卒業したら籍を入れて夫婦になる。そっちから見ていてね。
その時すこし弱い風が吹いた気がした。
それから千佳が線香を上げて手を合わせた時、一瞬だけ突風が吹いた。おかしいな、周りは風なんか吹いていないのに。
手を合わせ終わった千佳が、涙ぐんでいる。
「どうしたの千佳?」
「ううん。雄二と一緒になるんだなって思うと嬉しくて」
「そうか。もうすぐだよ」
「うん」
雄二のご家族は私のした事を許してくれないんだろうな。もしかしたら私自身が雄二に相応しくない女性と思われているのかな。
ごめんなさい。でも一生懸命努力して良い妻になります。
そして最後の試験も終わった二月の中旬、千佳のご両親と話して千佳に子供が出来るまでは、俺の家に住む事。
性は一条にする事、そしていずれ千佳の家で一緒に住む事に話がまとまった。千佳は、もうほとんど俺の家にいる。向こうの両親もそれが当たり前の様に受け止めている。
確かに後一ヶ月もしない内に籍を入れる予定だ。でも式は俺が弁護士になるまで待って貰った。
「雄二、明日はお買物よ。もう授業も無いし、卒業式を待つばかり、そしたら私は雄二の妻になる。嬉しくて堪らない」
ベッドの中で思い切り抱き着いて来た。もう二回戦終わっているのに。千佳ってほんと強いよな。
「雄二、子供何人欲しい。私頑張るから」
いや、がんばるのは俺です。
次の日は、千佳が欲しいと言っている食器を買いにデパートに行った。インターネットで申し込めばと言ったんだけど、実際に目で見て選ぶから良いのという事で来ていた。
ふふっ、嬉しい。二人のペアの食器を揃えるんだ。
俺達は、デパートの食器売り場に行く為に駅からの道を歩いていると前から一人の男が俺達の前に来て止まった。そして
「その人が千佳の婚約者ですか。お幸せに」
そう言って立ち去った。俺は千佳の顔を見ると気まずい表情をしている。俺は千佳に
「誰?」
千佳が口ごもった。千佳の行動に疑いの気持ちなど全くないが、答えない事にもう一度誰って聞いた。
そうしたら千佳は
「友達。雄二が大学の授業で会えない時、午前中、一緒にお話をしてくれた人。色んな男が声を掛けて来た時に助けてくれた人」
確かに俺は法科大学院の入試と法学部の勉強が重なり千佳と会う時間も少なく、千佳にそういう嫌な思いをさせた時、千佳を守ってくれた人なら問題ない。
「そうか、お礼言わないと行けなかったのかな?」
「……………」
雄二ごめんなさい。でもこれだけは言えない。死ぬまで心の中に仕舞っておくから。
千佳は、明らかに動揺している。大学のカフェで話をしたからって名前呼びするのだろうか。
そう言えば、俺が法科大学院の合格を千佳に知らせた時、家にいるなら三十分で来れるはずなのに一時間もかかって…。
「千佳、俺が法科大学院に合格した時、家に居たの?」
「えっ!」
「なんで驚くの。家に居たらなら驚く必要ないでしょ。怒らないから正直に話してくれないか」
「ごめんなさい。雄二ごめんなさい。祐樹とは本当にカフェでコーヒーを飲んでいただけなの」
「えっ?名前呼び?」
「あっ!ごめんなさい。カフェで話している時、段々慣れてしまって」
「そ、そうか」
なんか不自然な言い方だけど、これ以上千佳を追い詰める気もネタもない。せっかくの大切な日を壊してもいけない。
そう思って、あの男が来る前の雰囲気に戻そうと
「千佳、素敵な食器買いに行こう」
「うん」
笑顔が戻った。良かった。
その後は、千佳と一緒に二人のお揃いの食器を購入した。お客様用の食器類は既にあるので、それをそのまま使う事にした。
購入した食器は俺の家に送って貰う様に頼んだ後、千佳の洋服も買おうという事になっていたけど、千佳が家に帰りたいと言うので、そのまま帰宅した。
そして家に帰って玄関を上がった所で千佳が俺に抱き着いて来た。そして
「雄二、思い切り抱きしめて」
「う、うん」
「雄二、私を絶対に絶対に離さないでね。ずっと傍に居てね」
「当たり前じゃないか」
千佳がとても強く俺を抱きしめてくる。さっきの事、関係しているんだろうか。でも考えても仕方ない。俺も思い切り千佳を抱きしめた。
―――――
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます