第39話 空は晴れているけど、何処かが曇っている その一

 

 今日は雄二の法科大学院合格発表のある日。雄二なら間違いなく合格しているはず。青山君、いえ今は祐樹と呼んでいる、もうお互い名前呼びになっている。彼と会うのも今日が最後だ。だからいつもの様に午前中カフェで会った時、


「祐樹、会うのは今日が最後よ。今までありがとう。だから君と約束した食事だけど、昼食で良いかな」

「そうですか。それは残念です。でも仕方ないですね」

 今日が最後のチャンスか。今しかないな。


 俺は、千佳とカフェで話しながら婚約者の高槻とか言う男の事を聞いた。いつもどんな事をしているのかとか、金曜の夜から月曜の朝までどうやって過ごしているのか聞いた。

 始めは恥ずかしいのか、少し顔を赤くしながらだけど、段々細かく話してくれる様になった。

 この時分かった。この人の心の底にあるものが。だから俺は失敗して元々と思い。コーヒーカップに手を伸ばした彼女の手を触った。


 最初ビクッとして驚いた顔をしていたけど掴んだその手を離す事は無かった。



 私は、祐樹から月曜の朝までの事を色々聞かれた。始めは適当に答えていたが、誘導尋問の様にあの事も口にしてしまった。


 自分でも恥ずかしいのに話していると心の底にあるあれが目を覚まして来た。いけないと思いつつ、自分の口から出る恥ずかしい言葉に、もう話すのは止めようとコーヒーカップに手を掛けた時、祐樹の指が私の手に触れた。


 まるで体に電気が走った様だった。もう一ヶ月近くしていない。そして心の底にあるものが私に話しかけた。我慢出来ないって。



 俺は、俺の手を離さない千佳に

「外で食事でもしましょう」

「はい」


 俯きながら返事をした。ふふっ、もう決まった様だ。


 俺はそのまま、レストランには行かず、別の方向に歩いた。彼女は手を離さない。俺はゆっくりと彼女の肩に手を掛けた。そしたらなんと俺の肩に寄りかかる様にして来た。


 彼が私の肩に手を掛けた。私の心の底にあるあれが、もうすぐだよと言っている。何も考えられなかった。もうあの感覚だけが目の前に有った。お腹の底が待っているのが分かる。


 もう問題ないだろう。ラブホの中に入り部屋の入口まで来た時、彼女のスマホが鳴った。さっきも鳴っていたがそれには気付かなかったようだが、今回は気付いたようだ。何気なく彼女がスマホを手にした時、顔が変わった。


 えっ!雄二!

 私は、今まで心の底に有ったものが一瞬で消えた。


「祐樹、ごめんなさい。もう帰ります」

「えっ、でもここまで来て」

 俺が強引に彼女を体に抱き着いてお尻に手を回したけど


「止めて下さい!」

 大声を出されてしまった。そして突き飛ばす様に体を離されると


「さよなら。もう二度とあなたに会う事はありません」

そう言って走り去りながらスマホの受け答えをしていた。




 ☆少しけだ時間が戻ります。


 午前十一時、家で法科大学院のHPを見ながら発表を待った。そして

有った!俺の受験番号が有った。


俺は無事に法科大学院に合格した。早速、前田さんに連絡した。


『前田さん、高槻です』

『久しぶりだな。どうしたんだ?』

『帝都大学の法科大学院に来年春から行く事になりました』

『そうか、やったな。おめでとう』

『入学時の費用の事で連絡しました』

『そうか。詳細を連絡くれれば手続きするが、雄二君ももう二十二だ。自分で資産管理してもいいんじゃないか。法学部を卒業するんだ。細かい事は言わなくても十分分かるだろう』

『はい。考えてはいたんですが、勉強に夢中だったので。今度その件でお会い出来ますか?』

『分かった。都合の良い日を二、三教えてくれ』

『分かりました』


 雄二君が法科大学院か。いよいよだな。これが最後の役目になりそうだな。しかし、今の家、別荘、土地、国内外の株、現預金、税金の事、銀行や証券会社の付き合い、細かくは墓や檀家等、色々有るがあの子なら問題ないだろう。




 次に連絡するのは千佳だ。今は家にいるはずだ。直ぐにスマホで連絡すると

 あれっ?出ない。何か用事で出れないのかな。少ししてから掛けるか。


 三十分程して掛けると

『雄二、私』

『千佳、三十分前に掛けたけど』

『あっ、ごめん。部屋にスマホ置いたまま、リビングに居たんだ』

『そうか。俺、法科大学院に合格した』

『やったぁ。おめでとう雄二。直ぐに雄二の家に行く』

『うん、待っている』

 なんか少し息切れしている様な気がしたけど気の所為かな。



 いつもなら三十分もかからずにくるのに、一時間程掛かってから来た。

「遅かったね」

「ごめん、ちょっと出かけるのに手間取って」

「……………」

 どういう意味なんだろう?


「雄二、両親にも教えたら、とても喜んでいた。合格祝いしないとねって」

「それは、嬉しいけど」

「いいでしょう。それに来年卒業したら、私達籍入れるのよ」

 千佳が俺に抱き着きながら言って来た。でもいつもの千佳の匂いと違う気がする。気の所為かな。


「わ、分かった」

「それとう、もう前の生活に戻れるんだよね。金曜日はうちで夕飯食べて、金曜の夜と土日は雄二の家に泊る事」

「勿論だ」

「ふふふっ、嬉しい。じゃあ、今日は雄二の家に泊ろう。ねえ、スーパーに買物行こう。久しぶりに私が料理作る」

「わ、分かった」

 嬉しいけど、偉く積極的だな。



 これで雄二との生活が元に戻る。私は一時間前までに起こった事をもう頭の中から消し去ることにした。

 たとえどんな事が有ってもあの様な事は二度としてはいけないと心に誓った。心の底に有るものは今は、我慢出来ると言っている。


 それからは、俺と千佳は前の様な生活に戻った。千佳は俺の家の事は良くやってくれる。洗濯、掃除、それに食事も作ってくれる。


俺も今まで受験勉強と学部の勉強であまり千佳をかまってあげられなかったから、悪いと思っていたが、これで元に戻った感じだ。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


 

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