第59話 平穏な日々が続いていくけど
俺と千佳は子作り旅行から帰った後は、付けないでした。妊娠が分かるまでという事だった。なんとも言えないけど、世の中の夫婦ってこんなものなのかな。
でも何故か、気の所為なのか、千佳が輝いて見える。つやつやしている感じだ。これって精神的な事なのかな。まあ、彼女が素敵になるのは嬉しいが。
十月に入っての第一日曜日に竜馬の結婚式が有った。俺と千佳が呼ばれているので二人で出席した。
都内にある有名なホテルの○天の間という所だ。流石早乙女産業の長女の結婚式という感じだ。
俺達は友達グループという感じのテーブルに着くと理三に行った榊原賢二と堂本陽子が座っていた。本当は名前がうる覚えだったけど、テーブルの上にある名札が有ったので助かった。
「高槻、一条さん久しぶり。元気そうだな」
「榊原、堂本さん久しぶりです」
「榊原君、雄二は私と結婚して一条の姓に変わったの。だから今は一条雄二」
「本当か。それはおめでとう」
「ありがとう」
「そう言えば理一に行った安西はどうしたんだ?」
「あいつは、途中で帝都大辞めてしまって。それ以来俺も分からない」
「そうか、残念だな」
俺達が雑談していると司会者が二人の入場を宣言した。部屋の明かりが消えて入口にスポットライトが当たると、真っ白いウエディングドレスを着た早乙女理央さんと白いタキシードに身を包んだ竜馬が現れた。二人共緊張もあるけれどとても素敵に見える。
あっ、そう言えば弁護士になったら式上げるとか俺言ってなかったっけ?でも俺呼ぶ身内いないし。高原家は嫌だからな。友人だけか。と言ってもなぁ。竜馬位かな。
千佳が脇腹を指でトントンしている。顔を向けると、自分と俺の顔を指さした後、新婚のカップルを指さした。
言いたい事は分かったけど…。今答えられないよ。
式が進み、祝辞が披露されている中で司会の人が昨日二人は籍を入れて竜馬は早乙女家の婿養子となり、早乙女竜馬を名乗る事になったと言うと会場からざわめきと大きな拍手が有った。俺達も勿論拍手した。
竜馬といい、俺といい、高校時代からの親友はここまで似るものなのかな。
二人がお色直しの為、会場から出るといきなり堂本さんからの爆弾発言。お酒が入ってるのか
「私ね、高校の時から高槻君を狙っていたんだ。でも一条さんべったりだったし、大学でも二年間一緒だったけど、あの時は二人とももう婚約していたし、羨ましかったけど残念だって感じだった」
「お、おい。陽子いきなり何言っているんだ」
「いいじゃない賢二。こういう事ははっきりとしていた方がいいでしょ」
「TPOとかあるだろう。何もここでいう事は」
「良いわよ。堂本さん。雄二はしっかりと私の夫だから、もうどうにもならないわ」
「うわぁ、凄い上目目線。でもね、賢二とまあ、どうにかなりそうだから。言っちゃった」
大丈夫か堂本さん。酔っているのかな。自分が何を言っているのか分かっていないんじゃな無いか。この二人後でトラブりそう。
式が終わって、二次会にも誘われたけど、疲れたと言って、断った。あの二人は行くようだけど。
一緒に駅まで行く途中
「雄二、私もウエディングドレス着たい。赤ちゃんが出来る前に着たいー」
「うーん。俺もさっき弁護士になったらって約束思い出したけど、考えてみると、俺側の親族っていないんだよな。今日、竜馬の親族や友達見ていると一杯いて羨ましかったんだ。
千佳の方は一杯いそうだし。俺側ゼロで千佳側だけって、考えてみると何か変な感じがして」
「そうか、確かにそうだよね。じゃあ、内輪のパーティにする。そうすれば家族だけでも出来るし。私がウエディングドレス着れるし」
千佳のお願いは叶えてあげたいけど。何か心の中に冷めた自分がいる。ここまで一緒に居て、今更結婚式も無いんじゃないかな。
内輪のパーティと言っても、一条家の人達とは、随分会っているし。今更お披露目も無いよな。
ウエディングドレス着たいなら衣装屋で撮ればいいんだし。でもそれでは千佳が可哀そうだ。もう一度二人でよく考えるか。
「千佳、二人でもっと考えようか」
「何を?家族だけの内輪のパーティだけでもいいじゃない」
「ちょっと考えさせて」
雄二は何を迷っているんだろう。確かに雄二の親族はいないと言って良いけど、内輪のパーティなら私の家族だけで…。あっ、雄二の家族がいない。そういう事か。でも今日のお嫁さん見て着たくなっちゃったなぁウエディングドレス。
式の話はそのまま尻切れトンボの様に千佳の口からは出なくなった。でも千佳の気持ちも分かるし。こういう時相談出来る人がいないのは辛いな。
仕事の方は、デスクワークが多い様だけど、偶に他県との合同捜査本部の調整に入ったり、都内で贈収賄や多額の詐欺事件などが発生するなど忙しくなっている様だ。
更に最近は電子商取引の詐欺や横領も発生しているという事で捜査二課の知能犯対応部署が忙しいらしい。
それに時期的な事なのか、組織調整も大変だと言っていた。でも家には午後七時までには帰って来る。
俺もその位になるので、前よりも夕食が一時間遅れる様になったけど、全然構わなかった。
俺の方は、後藤不動産の件はあったものの、実際は今年二月に入ったばかりの新米弁護士だ。
前田さんの鞄持ちとして毎日、言われた資料を作ったり、一人で情報収集の為、関係官庁に顔を出したりと忙しい毎日を送っている。
そんな時だった。俺は、外から事務所に帰って来ると前田さんが
「雄二君。新しい事案の依頼が来た。茨城県で起きた殺人事件の加害者の弁護だ」
「えっ?殺人事件ですか」
俺は、今まで殺人事件を扱った事が無かった。それも加害者側の弁護だ。
「そうだ。直ぐに、依頼者の所に行くから準備してくれ」
「はい」
俺達は、早速、茨城県にある大頭建設へ向かった。この会社は水戸市にある。何故茨城県の会社が東京の前田法律事務所に依頼して来たか分からないまま、電車で水戸に着くとタクシーに乗って五分位で大頭建設に着いた。五階建ての建物だ。
早速、受付に行って
「大頭大二郎(おおがしらだいじろう)様から依頼を受けました前田です」
「お待ちしておりました。こちらへ」
俺達は三階の大きな部屋に連れて来られた。中には一人の恰幅のいい男の人が机の向こうに立っていた。
「遠い所申し訳ない。私が大頭大二郎です」
「ご依頼に与りました前田卓です。こちらは一条弁護士です」
名刺交換を終わらせると
「早速ですが、詳しい事をお聞かせ願えますか」
「はい、…娘が人を殺しました」
俺は声を出さなかったが、この言葉に一瞬だけ顔が引き攣った。
「実は娘が殺したのは結婚の約束をした男です。名前は青山祐樹」
更にこの言葉に心臓が飛び出しそうになった。覚えのある名前だったからだ。
その後は前田さんがリードするように事案の事を詳しく聞いていた。そして最後に
「大頭さん、茨城県でもこういう事案に関して優秀な弁護士はいると思いますが、なぜ東京のうちの事務所に声を掛けられたんですか?」
「知合いの不動産会社から東京に優秀な弁護士がいる。土地を騙されて買わされそうになった時、その弁護士のお陰で騙されずに済んだ。信頼できる弁護士だと言っていたんですよ。
我々建築業界は弁護士が沢山関わっていましてね。茨城県で依頼するにしても横の関係が有って難しいんですよ」
「そういう事ですか。分かりました。契約書は、明日、この一条弁護士がお持ちします。彼は若いですが優秀です。先程の土地の件も彼と一緒に仕事しました」
「そうですか。前田弁護士が言うなら安心です。一条弁護士、宜しくお願いします」
「はい、こちらこそ」
俺達は大頭建設を後にすると
「雄二君、人の繋がりとは面白いものだな。まさか前の事案の転売先の会社からうちの事務所を紹介されるとは」
「確かに自分も驚きました」
「この足で早速、大頭美代さんに面会に行く」
「はい」
千佳に先に連絡を入れて有ったが、家に着いたのは午後九時を過ぎていた。
しかし、あの青山が殺されたとは。この事は千佳に言う事は出来ないな。
「ただいま」
「お帰りなさい雄二」
千佳の顔が強張っている。
「千佳どうしたの?」
「ニュースであの青山が殺されたって。顔写真も出たから間違いないわ。現役警察官僚の殺人事件としてメディアが騒いでいる」
先に知ってしまったか。
「ああ、今日行った先はその加害者の弁護の依頼だ」
「えっ!本当なの?」
「千佳、これ以上の話は出来ない」
「分かった」
遅い夕食を摂って、千佳と一緒にお風呂に入った。千佳の気持ちは複雑なようで口数が少なかった。
でもベッドの中で事件の事を忘れたいのか激しく求めて来た。そして事が終わると
「雄二」
俺は彼女を優しく抱きながら
「もう事件の事は忘れなさい。いきなりは無理だろうけど。もう千佳には全て終わった事だ」
「うん」
俺は翌日、一度事務所に寄ってから大頭建設に契約書を持って行った。大頭社長は、一通り読んだ後、サインをしてくれると
「一条弁護士。君はまるでモデルの様にカッコいい男だな。その上頭脳優秀。君の事調べさせて貰ったよ。
東京大学法学部を出て法科大学院在学中に司法試験に受かり、司法修習でも常に上位に居たそうじゃないか。君の様な男が娘の結婚相手ならこんな事は起きなかったのに」
「……………」
俺は返す言葉が無かった。
「ああ、すまん。愚痴を言ってしまった。娘の事を思うと気の毒でな。娘の弁護、この通り宜しくお願いします」
ソファに座ったまま、頭を下げて来た。
「はい、前田弁護士と一緒に弁護に当たらせて頂きます」
少しだけ話を聞いたが、娘の美代さんが青山を刺したのか、事故なのか警察でも良く分かっていないそうで、今鑑識が色々調べているそうだ。検察とやり合わないと行けなそうな事案だな。
俺は事務所に帰ってから直ぐにその事を伝えると
「やはりな、昨日、美代さんと会った時、状況が非常にあいまいだった。二人の関係を詳しく調べるぞ。
そして今回の事件に至った状況も細かく調べる。雄二君、数日水戸に泊る必要もありそうだ」
「はい。分かりました」
家に帰ってから千佳に水戸に何泊かする状況も出てくると言うと、少し不平を言っていたが、
「雄二が一人前の弁護士になる為には仕方ないね。頑張って雄二」
「ああ、頑張るよ」
その夜も大変だった。俺体力持つかな?
―――――
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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