第50話 司法試験が終わって

 

 翌日午前十一時、茨城県警から青山係長がやって来た。私は、小会議室に彼を通させると、部下の男性警察官一人と一緒に小会議室に入った。


「青山係長、早速ですが、どの様なご用件で来庁したのでしょう」

「なに、顔合わせをWEBだけでは寂しいと思いましてね」

「余分な事です。顔合わせの挨拶だけならもう十分したでしょう。お帰り下さい」

「連れないですね。東京大学法学部、警察大学校の初任幹部科で一緒に勉強した中じゃないですか」


「えっ、一条主任、本当ですか?」

「本当よ。でも、私は一緒に勉強したつもりは無いわ。青山係長が勝手に言っているだけ。もし用事が無いならお帰り下さい。忙しいんです」

「分かりました。茨城から来たんです。昼食位如何ですか?」

「結構です。食事をしたいなら彼と一緒にして下さい。では」


 そう言うと私は小会議室を出た。冗談じゃないわ。どうせ腹の中は真っ黒に決まっている。



 はぁ、凄い対応だな。まあまたチャンスもあるか。


「君、一条主任はいつもああなの?」

「いえ、自分も驚いています。普段は温和で我々にとても優しい方です。二課のマドンナですから」

「そうか、それを聞いて安心した。今日は顔合わせも出来た。帰ろう」

「えっ、昼食取って行かないんですか。庁内の食堂美味しいですよ」

「いや、俺は外で食べる」


 

 茨城で贈収賄事件が発生し、東京の会社も関わっていると聞いた時は、少しだけ期待していたが、まさか彼女が二課に居るとは思わなかった。運が向いて来たかも知れない。





 七月中旬に四日間行われた司法試験も終わった。全力を出した。これで落ちたら、零れた所を見直して来年受ければいい。


 しかし、千佳のやつ、司法試験の三日前から様子がおかしかったけど、大丈夫かな?俺が試験中は機嫌よく見せていたけど。まあ、これで取敢えず二年次の授業だけに戻れる。コマは少ないから元の生活に戻れるはずだ。


 そうだ、もうすぐ千佳も帰って来るけど今日は外食にするか。


 少しして千佳が帰って来た。

「雄二、ただいま」

「お帰り、千佳」

「どうだった、試験?」

「まあまあだよ」

「じゃあ、大丈夫ね。その言い方なら」

「どうかな、そうだ。今日は外食にしないか?」

「いいけど、今度の金曜日が良いな。今日は作るよ。それに試験終わったから甘えたいし」

「そ、そうか」



 お風呂にも入り、二回戦が終わった後、

「雄二、今の事件が終わったら、旅行に行きたい。夏休みは普通に取れそうにない」

「いいよ。千佳がそういうなら俺は問題ない。それに前みたいに夕飯の下ごしらえも出来るぞ」

「ふふっ、嬉しい」


 また抱き着いて来た。千佳は溜まっていた所為か、週中なのにもう一回戦してしまった。


 翌朝、千佳は、とても素敵な笑顔で起きた。そしてベッドの中で抱き着くと

「雄二、雄二」

「何?」

「こうして居ると嬉しい」

「そ、そうか」


 千佳はあれが本当にエネルギーなんだな。俺は千佳のエネルギー増幅器か?でも彼女がこんな笑顔になるならがんばる価値も有るな。



 千佳が出勤した後、俺は法科大学院に行った。今日は木曜日、一限のみだ。


 いつもの様に教室に入ると神山さんが、直ぐに寄って来た。

「どうだったの司法試験?」


 周りの人がえっ?て顔をしている。


―一条さん、司法試験受けたんだ。

―でも、私達まだ二年になったばかりだよね。

―分からない。でも凄い。


 ほら、こうなった。


「まあまあだったよ」

「ふーん。私は受けたかったけど自分の実力じゃ受けるだけ無駄だと分かったからやめたわ」

「そうか、それは残念だ」

「凄い、上目目線」

「そんなつもりで言っていない」


 そんな話をしている内に教授が入って来た。



 今日は上級民法だけだ。授業については教授から意見を聞かれても直ぐに正答するので、周りから変な目で見られる。でもこれ試験範囲だったし。


 授業が終わり、俺が帰ろうとすると神山さんが声をかけてきた。


「一条君」

「何?」

「今の授業で分からない事が有るの。教えてくれないかな?」

「教授に聞けばいいだろう」

「だって、あの教授苦手なんだもの」

「それは君の個人的感情。そんなものをこの勉強に持ち込む必要はない」

「でも、ねっ、お願い」

「図書室でなら」

「うん♡」

 神山さんの目がハートマークに映ったのは気の所為か。



 二人で図書室に行くと何故か他の女性学生も付いて来た。

「ねえ、あなた達、一条君には私がお願いしたんだから、私だけよ」

「それはないよ。神山さんだけ一条君から個人レッスンなんて。私達も聞きたわ」

「「そうよ、そうよ」」

「俺は構わないが」

 こっちの方が絶対いい。


 結局、図書室では無く小ミーティングルームで神山さんの質問を受ける事になった。彼女は不満顔だが、他の人は嬉しそうな顔をしている。彼女と二人になるよりよっぽどいい。



 八月初旬、短答式試験の合否発表が有った。公式サイトで見ると俺の受験番号が有った。合格だ。後は十一月の最終結果を待つだけだ。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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宜しくお願いします。

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