第48話 年が明けて
俺達は大晦日を家で過ごした翌日元旦。早々に一条家に二人で行った。
「雄二君、千佳明けましておめでとう」
「明けましておめでとうございます」
「お父さん、お母さん、お爺ちゃん、お婆ちゃん。明けましておめでとう」
「雄二君、千佳。お節一杯作ってあるからお腹一杯食べてね。お雑煮もあるわよ」
「はい」
俺は、少し空いているお腹を満たそうとしたが、
「雄二君、今日は正月だ。少し位いいだろう」
「そうじゃな。儂も貰おうか」
朱色で中に金色の鶴が描かれた盃と亀が描かれた盃が二つあった。
千佳のお父さんが、俺に鶴の方を渡してお神酒を少しだけ入れると次にお爺ちゃんの盃に注ぎ、そしてお父さんの盃にはお母さんが注いだ。なんともフルーティな香りがする。
「それでは、今年が良い年になります様に」
そう言うとお父さんとお爺ちゃんが一気に盃を煽った。俺もまねて一気に盃を煽ると
ごほっ、ごほっ。
「雄二、大丈夫。お父さんがいきなり日本酒飲ませるから」
「千佳、大丈夫だ。初めての味で喉に引っ掛かっただけだ。お父さん、とても美味しいです」
「おお、そうかそうか。それではまた一杯」
「雄二、大丈夫」
「多分」
ビールより飲み易いけど、強い感じがする。流石に二杯目で終わりにした。
「雄二君、お雑煮食べる?」
「はい」
「千佳、一緒に来て」
「うん」
二人が和室から出て行くと
「雄二君、法科大学院の勉強はどうかね?」
「はい、とても難しいですが、一生賢明勉強しています。可能なら来年の司法試験を受けてみようと思っています」
「だが、君はまだ一年だろう。あれは最低でも二年勉強してから出ないと難しいんじゃないか?」
「はい、学部生の時に法曹コースの科目を随分取りました。今は一年次の勉強と合わせて二年次の勉強も独自でしています」
「ほう、それは楽しみだな」
この子は、目標があるとそれに全身を掛けて打ち込むタイプだな。周りが見えなくなっていないと良いんだが。
「千佳とはどうだね」
「はい、とても仲良く、楽しい生活を送らせて頂いています」
「ほほほっ、孫はいつだ?」
「それはちょっと」
「ははは、父さん。それを今の雄二君に言うのは可哀想だよ」
「そうかな」
そんな話をしているとお母さんと千佳が全員の雑煮を持って戻って来た。
「雄二、お父さん。何話していたの」
「なに、子供はいつ見れるのかって話しだ」
「もう、何言っているの。雄二は今勉強に忙しいんだから。私だって現場研修終わっていないのよ。せめて警部になってから出ないと」
「なに?では後一年と少しで子供を作るのか」
「もう、そういう話じゃない」
千佳が顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
「お父さんもお爺ちゃんも急かせすぎですよ」
「はははっ、冗談だ」
「もう」
それから一時間位、お酒をビールに代えてお父さんやお爺ちゃんと話をした。
「雄二君、初めて飲んだ時より随分強くなったな。素質有りと見込んでいたが、その通りだった」
「すみません」
「なに、謝る事ではない。私の楽しみが増えるだけだ」
「もう、おとうさんったら。雄二、私の部屋に行こう」
「う、うん」
二人が和室から出て行くと
「あれは、千佳が雄二君を尻に敷くタイプかな」
「どうですかね。雄二君、優しいですけど、千佳を良く見ている様な気もしますよ」
「そうか」
私の部屋に雄二と一緒に入った。
「えへへ、二人になれたね」
いきなり口付けをして来た。
「雄二、する?」
「流石にここでそれは?」
「じゃあ、戻ったらね。ねえ初詣行こうよ」
「それはいいな。しっかりとお願いしないと」
「何を?」
「司法試験に合格します様にって」
「それだけ?」
「えっ?私達の事は?」
「も、もちろんお願いするよ」
まあ、家内安全とかかな?
それから洋服のまま少しベッドの上で抱き合った後、二人で下に降りて行った。
「お母さん、私達初詣行って来る」
「待って千佳、行くなら着物。そうだ。雄二君も着物にする。お父さんと背格好が同じだから着れると思うのだけど」
「おお、それはいい。雄二君、来なさい」
俺は、自分の意見は全く言えずにウォーキングタイプのオープンクローゼットに連れて来られた。
和ダンスの上から、いくつか引出して、
「雄二君、どれがいいかね」
俺には、全く分からない。仕方なしに
「お任せします」
「そうか」
着物など一度も着た事の無かったけど結構いい。何とか着て?着させて貰って、和室に行くとお爺ちゃんが
「おおっ、慎之介を見ているようだ。これは嬉しいな」
「そうですね」
また、少しだけお酒を飲みながら話していると千佳が着物を着て戻って来た。去年とは違った青を基調とした着物だ。千佳は洋服も似合うけど着物も良く似合うな。勿論半振袖だ。
「雄二どう?」
「とても似合っている。素敵だ」
「ふふっ、ありがとう。じゃあ行こうか」
「ああ」
この辺では有名な神社だ。参道から長い行列が続いている。
「今年も多いね」
「仕方ないよ。今日は元旦だし」
俺達は、三十分以上待ってやっと境内に着くと賽銭箱にお賽銭をいれて手を合わせた。
家内安泰。俺も千佳も病気などせずに健康でいます様に。そして今年の司法試験に受かります様に。神様何卒宜しくお願いします。
俺は、頭を上げると千佳はまだ、祈っていた。少しして顔を上げると二人で横に退いた。
「雄二、何祈ったの?」
「それ言ったら、願い叶わないって言うでしょ」
「さっき聞いているけど」
「千佳は?」
「うん、色々と。言えば叶えられないんでしょ」
「まあ、そうだけど」
あれからもう一年も経った。あの時どんな状況であれ、一度とはいえ他の男に身を委ねようとした心の穢れは、私の思いを雄二に伝え、心の穢れが落ちて行く様に思い切り積極的にして貰った。今はあの時の様な気持ちは微塵もない。
もう大丈夫。だから思い切り雄二の事をお願いした。私の思いは神様に伝わるはず。
「雄二、おみくじしよ」
「ああ良いぞ」
俺は番号札の入った箱を良く振ると口から一本の棒を出した。八番だ。末広がりで良いかも。その番号の付いた引出しからおみくじを上から取ると開いた。
「やった。大吉だ」
千佳が不味い顔をしている。
「雄二だけずるーい。私なんか吉だよ」
「いいじゃないか。吉だって」
「いつもの悪い癖が出た。大吉引いた人から吉でもいいと言われても嬉しくない」
「そう怒るなよ」
「怒ってなんかないもん」
千佳が可愛くて堪らない。
初詣が終わった後、境内と参道に出ている出店を見て回った。子供たちが楽しそうにしている。心が温まる。
「雄二、私達も早く子供作ろうね」
「えっ?!」
「私ね、雄二が司法修習終わって、私が警部になったら、準備してもいいかなと思っている」
「そ、その時になったらね」
「ふふっ、そうだね」
一条家に戻って、着物を脱いで元の洋服に着替えようとした時
「もう少し、そのままでいたら」
なんとお母さんにお願いされてしまった。お母さんも勿論着物だ。
「ふふっ、雄二君、着物似合うのね。モデルさんみたいにかっこいいから和服はどうかなと思っていたんだけど、素敵だわ」
「お母さん、雄二は私の夫です。そんな顔で見ないで下さい」
「いいじゃない少し位。雄二君素敵よ」
お母さん、お酒でも飲んでいるのか?そう言えばお父さんもお爺ちゃんもいない。お母さんとお婆ちゃんだけだ。
「あの、お父さんとお爺ちゃんは?」
「ああ、応接間で来客の対応しているわ。一応立場が立場だから」
「そ、そうなんですか」
現役警視庁刑事部長と元公安部長。やっぱりいろんな人が挨拶に来るんだろうな。
夕方になって俺達は一条家を後にして自宅に戻った。
「雄二、お腹空いている?」
「あんまり。お腹いっぱい食べたし」
「じゃあ、デザート食べる?」
「デザート?」
「わ・た・し」
「は、はい」
二人でお風呂に入った後、夜遅くまで二人で体力を使った。一年の計は元旦にありって言うけど、大丈夫かな、俺。
―――――
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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