第47話 秋は静かに過ぎて行くはず

 

 夏休みも終わり、俺は後期の履修登録をした。前期と違い、一限目からが月曜と水曜にある。木曜日は二限一つだ。


 俺は、教授に飽きコマは二年次の授業を受けれないか頼んだが、聞いても腹に落ちないし、今の授業内容を予習で先に進める方が、効果的だと言われた。


 教授の言っている事は確かだ。仕方なく各曜日の空きコマは、クラスの他の学生に気付かれない様に図書室に行った。法科の一年生が居る階は、なるべく避けるか、端の方で気付かれない様に勉強した。



 ・・・のだが、神山さんがストーカーの様に俺に付いてくる。夏休みの時の爆弾発言を厳しくせめて、今度あんな事したら二度と口はきかないと言ったら、流石にシュンとして、一時は大人しかったけど、十一月に入る頃には、また俺に近寄る様になった。勘弁して欲しい。



 二限で終わる時は、そのまま家に帰るのだが、

「ねえ、外だったら他の学生にも分からないでしょ。一緒にご飯食べようよ」

「俺は帰ります。昼食は家で食べるので結構です」

「そんな事言わずにー」


 俺の腕を掴んで、その豊満なお胸様を腕に押し付けて来た。


「止めて下さい」

 と言って思い切り巻かれた腕を振り払うと


「お願い、一回でいいの。お願いだから」

「駄目です。どう見ても一回だけには思えません。失礼します」


 俺は、神山さんを無視して門の方に走った。チラッと後ろを振り返ると追いかけてくる様子も無いので、そのまま歩いて駅に向かった。



「流石の神山女子も一条さんは落とせないですか。俺ならいつでもいいですよ」

「誰があんたなんかと」


 冗談じゃない。成績は普通、顔も普通。誰がこんな男と口をきくもんですか。なんで一条君は、そんなに私を拒絶するんだろう。


 一回位昼食食べたって、奥さんは怒らないだろうに。仕方ない、私も帰るか。まだ、一年と少しある。彼は来年の司法試験を受けるつもりだ。図書室で勉強している内容は二年次のもの。私も必ず受けてやる。



 俺は、家に帰る前に駅前の中華屋で昼食を摂ると、家で千佳が帰って来る直前まで勉強した。


 その後、千佳に言われている今日の夕飯メニューに使用する野菜…だけだけど、水洗いしてトレイの上に水切りざるを置いて洗った野菜を乗せた。


 少しすれば、千佳が帰って来る。



 玄関が開くと直ぐに俺の所に来て軽く口付けをする。

「ただいま、雄二」

「お帰り、千佳。野菜洗いは終わっているよ」

「うん、ありがとう」



 俺は、千佳に対する対応を少しだけ変えた。彼女は性欲が強いのか、いつもしたがる。だから受ける授業が少ない日や授業が午後からの時は、週中でもしてあげた。土日はしっかりとしてあげた。

 そうすると翌朝の千佳の顔が嬉しそうに元気だ。俺もその顔を見ると努力?が報われた気がする。



 学校では依然、神山さんからのアプローチが凄いが、ともかく無視した。なぜ彼女はあんなに俺に迫って来るのか分からない。一度聞いてみるか。



 木曜は二限一コマだけだ。だから俺の方から朝の図書室で

「神山さん、今日二限終わったら、一緒に昼食食べようか?」

「えっ?!いいの」

「ああ」


 ふふっ、ついに一条君も私の魅力に屈したか。後はアリ地獄の様にズルズルと。


「神山さん、顔が怖いんですけど」

「えっ、そ、そんな事無いわ」

 不味い不味い、顔に出ていたとは。



 二限が終わった後、最初は関係なさそうに大学を別々に出た。校門を出ると近くのファミレスに入った。


 ドリンクバーと食事を二人で注文した後、二人でドリンクバーから飲み物を取って来て、俺はストレートに聞いた。


「神山さん、はっきり聞きたいんだけど。なんで俺にアプローチしてくるの?俺は結婚している身だよ。他の女性と親しくする気も恋愛する気も全くないから」

「それは、今の一条君でしょ。来年になったら分からないわ。私と付き合っても恋愛に発展しないなら諦めるけど、私と付き合ってもいない内にそんな事言わせないわ」


「そんな事する訳無いだろう。そもそも俺達は法曹を目指してあの大学院に進んだんだ。そんな事する暇があったら勉強した方がいいんじゃないか」

「勉強は勉強、恋愛は恋愛よ。私と付き合って見なさいよ」

「する気無いと言っている」


 途中で注文の品が来たので、黙って食べた。こんな話をしていると美味しく感じない。



 食べ終わってから

「とにかく、俺は君と付き合う気はさらさら無いから。今の俺は司法試験しか頭にない」

「奥さんの事も」

「それは別だ」


「だったら、勉強と恋愛だって成り立つでしょ」

「分かっていないな。俺は君に興味無いの。俺は千佳という妻だけをこの世で女性と認めているんだ。これ以上、俺の勉強の邪魔をしないでくれ」


 話にならない。俺は伝票を掴むとそのままレジで会計してファミレスを出た。彼女の分も払うのは頭に来るが仕方ない。



 なによ。何が女性は妻だけよ。私だって女だよ。あなたに抱かれてみたと思う女だよ。なんで私の気持ちが分かってくれないのよ。ばか雄二。



 このファミレスの話で、一週間ほど静かになった神山さんだが、やっぱり懲りずに俺の傍に来る。でも前の様なしつこさではない。ひたすら勉強している。これなら別に構わない。



 家でも千佳が仕事に慣れて来た所為か、あまり家で愚痴をこぼさなくなった。あっちは全然収まらないけど。



 司法試験広告が十二月の半ばに有った。申し込みは来年三月。試験は七月半ば。通るか分からないけど受けるしかない。


―――――


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