第45話 千佳の配属先

 

 私は警察大学校初任幹部科での四か月間の研修が終わり、九か月間の配属先が決まった。場所は警視庁刑事部捜査第二課。

 ここ二課は、主に贈収賄や詐欺、横領や選挙違反など、経済犯罪や企業犯罪を担当している。


 ちなみに初任幹部科で一緒に研修を受けた田中さんは新潟県警に、御前崎さんは高知県警に、そしてあいつ青山は秋田県警だ。もう会う事も無いだろう。


 配属された時、二課員の前で第二課長に紹介された。二課長はお父さんとは大変仲がいいそうだ。

―すげぇ美人が入って来たな。

―ああ、こりゃ。独身が騒ぐぜ。

―でも左小指見て見ろよ。

―ありゃ、男避けじゃないか。

―でも一条って。もしかして一条刑事部長の…。

―そういう事だ。

―駄目だ。手が出せない。

―当たり前だ。



「皆こっちを向いてくれ。今日から我々の二課に配属された。一条千佳さんだ。一条さん、自己紹介して」

「はい、今紹介に与りました一条千佳です。東京大学法学部出身で先日初任幹部科の研修が終わったばかりです。ご指導の程、宜しくお願いします」


 パチパチパチ



「一条さん、そこの席に座って。里山さん、君が教え親だ。色々教えてあげる様に」

「分かりました。二課長」


 何で私がこんな子の教え親になるのよ。普通は初任幹部科出た後は、交番所長やるんでしょ。

 いくら親が偉いからってこんな待遇するなんて、面白くないわ。でもこの子を九か月しっかりと育てれば私の評価も上がるか。まあ仕方ないかぁ。



「一条さん、二課へようこそ。私は里山恵子(さとやまけいこ)よ。早速だけど簡単にオリしようか。こっちに来て」

「はい、お願いします」

 

 私は小会議室に連れて行かれて、二課の仕事の内容や流れ、それと当面私が行う仕事を説明してくれた。


 デスクワークがほとんどで、外に出る事は無い様だ。ちなみに私の方が位は高い。彼女は巡査部長、私は警部補。だけど専任なので腰を低くして聞いた。


 里山さんは、ノンキャリで努力でここまで来た女性だ。交番勤務等も経験している。現場にも足を運ぶが、主にデスクワークが中心のようだけど。




「…という訳で、当面は私の資料作成の手伝いをしてね」

「分かりました」

「それとう、直ぐに分かる事だから教えておくね。一条さんのお父様は、刑事部長としてここ二課も含めて、九つの部署をまとめる方。職位は警視監、警視総監の次のお立場の方。

 当然、周りがあなたを見る目は、私達に向けられる目と違う。その辺を良く理解しておいてね」

「あの、どういう意味ですか?」

「その内分かるわよ」

 私は里山さんにあまり快く思われていない様だ。


 席に戻って見ていると係ごとに仕事が分かれているみたいだ。私は里山さんに指示された通りに資料を作成していると


「一条さん、私は出てくるから。あなたは午後五時半になったら帰って良いわよ」

「えっ?!」


 里山さんは他の警察官と一緒に出て行ってしまった。他の係も人はまばらだ。なんか想像していたのと違うな。



 配属されたら初日から外に出てバリバリ働くと思っていたのに。私は資料を作りながら、チラチラ周りを見ていると、結構女性もいる。

 でも里山さんの様な雰囲気は無く、事務専門みたいな感じだ。里山さんが言っていた一般職員かな?



 里山さんが出て行って、直ぐに私の所に他の係の女性達がやって来た。私に名刺を渡しながら

「一条さん、私こういう者です。これから宜しくお願いします」


 こんな感じで何人かに挨拶されて、少し経った後も何人かの男性警察官が挨拶に来た。


 なるほど、新任の警察官に普通は挨拶に来ないだろう。里山さんが言っていた事はこういう事か。

 私の行動はそのままお父さんつまり警視監の娘の行動として見られる。そして彼らは、お父さんへの印象を良くする為に媚を売って来たという訳か。これはきついかも。



 里山さんは思ったより早く帰って来た。そして鞄から走り書きしているメモを私に渡すと

「一条さん、これ。まとめておいて」

「はい」

 はぁ、先が思いやられるな。




 私は家に帰って、玄関から雄二の部屋に行くなり抱き着いていつもの口付けをすると


「ねえ、雄二聞いてよ」

「どうしたんだ?」

「私今日配属されたんだけど…。事務職みたいな仕事しかさせて貰えないの。初日から先輩達に付いて行ってバリバリ働くのかと思っていたのに。酷いと思わない?」

「それはそうだよ。会社に入ったって、研修終わったばかりの新人をいきなりお客様には出さないだろう」


「それはそうだけどさぁ。雄二、今すぐ夕飯の支度するから」

「ああ、言われた下準備はしてある。野菜洗っただけだけど」

「ふふっ、それでも嬉しい。雄二こっち向いて」

 やっぱり雄二に抱き締められると幸せを感じる。



 私が夕食の支度をしていると雄二はテーブルセッティングをしてくれる。テーブルを拭いたり、クロスを敷いたり、必要な取り皿を出してくれる。なんか新婚だなぁって感じる。幸せだな。



 食事をしながら

「雄二、夏休みはいつまで?」

「十月一日までの二ヶ月間」

「うわぁ、いいなあ」

「千佳だって学生の時はそうだったでしょ。もう働いているんだから仕方ないよ」

「でも私も夏休みは取れるから。ねえどこ行く?」

「そうだな。あっ、うちに別荘があるんだ。行って見るか。ずっと管理人さんに任せたままだから挨拶もしないといけないし」


「何処にあるの?」

「それが、西伊豆なんだ」

「えーっ、無理じゃない」

「そうなんだよ。車の運転免許取るかな。でも時間無いし」

「じゃあ、うちの別荘は?」

「前にも借りているしなぁ」

「もう一条家の人間なんだから問題ないわよ」

「うーん、ちょっと考えさせて」



 雄二は、基本勉強を主に一日の生活を組み立てる。私は、勤務時間を除いて生活を組み立てる。


 雄二の方が一見、時間が自由な様に見えるが、勤務以外はフリーという考えと寝ている時間以外は勉強という事を考えると彼の方が拘束時間は長い。仕方ないのかな。


でも、私が警視庁勤務になったおかげで、夜は自由だ。それだけは嬉しい。前の様に一杯できる。雄二も夏休みという事も有って積極的にしてくれる。嬉しいな。だって私達新婚なんだから。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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