第44話 法科大学院に通う学生に色恋の時間は無いですよ

 

 法科大学院に通い始めて既に三ヶ月半が経った。千佳ももうすぐ初任幹部科研修が終わる。


 中々大変なようで土日になるとストレス発散と言って俺を攻めて来た。いつも受けての俺だけど偶には攻め手になってあげると千佳が喜んでいた。



 一限があるのは月曜日だけだ。午前八時半から始まるが、かつて知ったるキャンパスなので午前七時半に出れば少し前に着く。なまじ早く行くと他の男子学生に迷惑になるからだ。


 他の曜日は二限から始まるので、早めに行って図書室で予習の見直しをしている。でも一人の女子に俺が朝早くここで勉強しているのを見つけられてしまった。


 名前は神山奈央子(かみやまなおこ)、俺と同じ法科大学院の学生。俺は知らなかったが帝都大学法学部出身。


 髪の毛が長く。背が高い。百七十センチは超えていそうだ。切れ長の大きな目にスッと通った鼻筋。可愛い唇にそれを引き立たせる輪郭。

 胸はしっかり出ていて、モデル並みのプロポーションだ。大学生まで読モをやっていたらしいが、法曹を志したところで止めたらしい。事情は知らない。



 ふふっ、今日も高槻君、いえ一条君はここで勉強している。月曜日以外は、いつもここにいる。法科大学院に来たのは、彼が目的。


 同じ法学部に在籍していた一条千佳と結婚したと聞いているが、彼女は警察官僚として警察大学校に通っていると聞いている。大学生時代、法学部では誰もが知っていた美男美女のカップルだ。


 でも私にはそんな事は関係ない。彼の容姿と頭脳が欲しいだけ。学生時代、数多の女子学生が彼に声を掛けたが、全員が玉砕。

 理由は彼女がいるだけではないみたいだ。単に女子は一条さん以外興味が無いということだ。


 でも彼は一条さんを好きになって婿養子にまでなった。つまり彼の心に女というものが付け入る隙間があるという事。


「おはうよう。一条君」


 俺はテキストに目を落としながら想定問答を頭の中に浮かばせているといきなり後ろから声を掛けられた。


「おはよう神山さん」

「いつもここね」

「隙間の時間、少しでも予習というか頭の中で今日行われる授業のシミュレーションをしておこうと思ってね」

「ふふっ、流石だわ。ここに私座っていいかしら」

「別に構わないですけど」


 俺は、神山さんとの会話を終えてテキストに目を戻すと

「一条さん、今日は対質ね。楽しみだわ」

「でも、俺の相手は君じゃないだろう」

「教授に頼んで変えて貰ったの。ねえ、お願いがあるの」

「お願い?」

「私が対質であなたに勝ったら、昼食二人で食べて欲しいの」

「そういう約束は出来ない。対質はあくまで授業の一環だ。遊びじゃない」


 神山さんは、同じクラスの中でも優秀な部類に入る。今日の題材で対質をすれば、勝ち目はフィティフィフティだ。負ける気は無いが、安易に受ける訳には行かない。


「それなら、私と二人で昼食取って」

「君も知っているだろう。俺は結婚しているし、昼食は大切な自由時間だ。一人で食べる」

「ねえ、一回で良いの」

「駄目だ」


 普段でさえ、昼食時間には同じクラスの女子だけでなく、学部生の女の子達も一杯寄って来る。


 でも誰も声を掛けないから気にしていないが、ここで神山さんと話をしている所を見せたら、私も話したいという子が出てくるに決まっている。ぜひとも遠慮したいところだ。



 二限目の授業は、教授が出した題材を証人と被告人に分かれて一対一で討論させ、終わった後それを聞いていた他の学生が感想をいい、最終的に教授がどちらが優れた内容だったかを判断するのだ。

 法曹を目指すものとして証人や被告がどんな気持ちで何を話すのかを理解する重要な勉強だ。


 本当は別の男子学生と俺が対質を行う筈だったのに、授業の初めに神山さんに代わった。この人どういう手を使ったんだ?



 勿論、結果は俺の勝ち、本来勝ち負けという事では無いが、俺は神山さんが反論できないまでに追い込んだ。


 二限の授業が終わり、一人で学食に向っていると後ろから神山さんが付いて来て、俺の横に並んだ。


「一条君、見事だったわ。ねえ、二人でさっきの対質の反省会をしたいの。駄目かな?」

「反省会?すでに俺達が終わった後、クラス内で感想を言っていたろ。教授も君の悪かったところを指摘したし、それは必要ないんじゃないか」

「そんな事言わないで。…ベッドの上でも良いわよ」

「はっ?!君の頭は恋愛脳か?ここは法曹になる為に来ているんだ。そんな考え、少なくてもここでは捨てろ。じゃあな」


 まったく、私があの一言言うのにどれだけ覚悟して言ったと思っているのよ。全く無視して。覚えていなさい。この大学院に居る間に絶対に落としてやるから。




 来週から二週間試験だというのに、あの人は何考えているんだ。でもまた千佳に二週間我慢して貰わないと。

 でもこの試験が終われば二か月間の休みに入る。その後は千佳の相手できるからいいか。




 俺は家に帰って来た千佳が料理をしている時に来週の予定を話した。


「千佳、来週十八日火曜日から三十一日月曜まで試験週間に入る。だから…」

「だから?」

 雄二が言いたい事は分かっている。仕方ない事だけど。


「じゃあ、今度の金曜と土曜日、一杯しよ。そしたら我慢してあげる。あと、私も研修が終わる。何処に着任するか分からないからちょっと心配。一応お父さんには声を掛けておく」

「そうか、通えるところだと良いな」

「そうだよ。地方に着任なんかさせられたら、警察辞める」

「えっ?」

「嘘よ。でも通えるところがいいな。あっ、雄二、明日授業無いよね。今週はまだいいんでしょ」

「あ、ああ」




 ふふっ、雄二とこうして居ると、頭の中に有る嫌な事とかが消えて行く。だからずっとして欲しい。それに終わった後は、本当に心が落ち着く。

 自分自身、こんなにこれが好きだとは知らなかった。でもいいんだ。雄二にして貰えばいいから。でもあまり間を空けたくない。一人でしてもつまらないし。


「千佳、もう寝ようか」

「駄目、もう一回だけ」


 俺、痩せ細りそう…。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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宜しくお願いします。


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