第43話 大学校の生活は大変なようです


 

 お昼休みになり、私は田中さんと御前崎さんと一緒に昼食を摂っていると

「一条さんは、なんで寮に入らないの?」

「家から通える距離だし、特例だって言われた」

「特例?良く分からないけどいいなぁ。私達なんか午前六時半に起床でしょう、そして午前六時四十分に点呼、終わったら清掃、朝食は午前七時二十分から。こんなのが四か月間続くと思うとうんざり」


「一条さんは、何時に家出てくるの?」

「午前七時かな。ここには午前八時半に着く」

「はぁ。美男で頭脳優秀な旦那様がいて、毎日イチャイチャ出来るし、家から通うから自由度大きいし。なんか不公平だな」


「でも午前五時半には起きて、朝食は午前六時には食べるし、家に帰っても直ぐに夕食の支度しないといけないから。ここは食事出て来るし、飲み屋も併設されているからいいんじゃない」

「私達飲めないから。この前も他の課程の先輩に誘われたけど断った。まさか、ここで変な事にはならないと思うけどね。でもやっぱり注意しないと」

「だよねぇ」

「……………」


 私も飲めないけど警察大学校で犯罪は起きないんじゃないの?あっ、分からない。あいつなら何するか知れない。やはり通いで良かった。


「そうそう、そう言えば青山さんから今度一条さんと一緒に昼食摂りたいなんて言われたけど、知合い?」

「…。大学の法学部で一緒だったの。でも私はあの人と一緒に授業受けた記憶無いし、話した事も無いから。それにそういうの苦手なんだ。あなた達と一緒に食べている方がいいわ」

「一条さん綺麗だからね。初任幹部科にいる他の男子もみんな一条さんの事で噂しているし」


「噂?」

「うん、一条さんのお父さんは警視庁刑事部長じゃないかって。でも名前似ているだけじゃないって人もいるし。本当はどうなの?」

「それは…」

 言ってもいいけど、あまり身内の事を話したくない。でもこの子達なら良いか。


「絶対に言わない約束してくれる」

「「うんうん」」

「本当の事。お父さんは今年から警視庁刑事部長になった。身分は警視監。お爺ちゃんは元公安部長」

「ふぇーっ、エリート警察官僚一家じゃない。なるほどなぁ。だから特例か」

「それは関係無いと思うけど」

 実際は分からない。お父さんに通いは出来ないのって相談はしたけど。




 研修も二ヶ月が過ぎた頃から、構内の他の研修センターで色々な知識を覚える事も始まった。勿論、各センターは各課程の専門知識を習得する所なので、私達は初級レベルの事を学ぶだけだ。


 拳銃の扱いや警棒、手錠の扱いも教えられた。私の手に拳銃は重い。こんなの現場で使うのかなぁ?


 

 少し問題も出た。二人一組で、簡単な実習を行う事になり、人の組み合わせが必要になった。


 残念ながら私、田中さん、御前崎さん、全員が男子と組まなくてはいけないからだ。私は、当然、青山を回避したい。


 教官が、組合わせは隣の席同士と言っていたので青山は回避できたが、あまり好きなタイプの男の人では無かった。


 やたら、私の体を見る人だ。一緒にいて嫌になる。偶に手を触れようとするから直ぐに避けた。


 一緒に実習している時もやたら体を付けようとしてくる。これを毎週一回とは言え、後二ヶ月続くと思うと嫌になる。


 でも青山よりいい。あいつは昔の事をぶり返してくる可能性があるからだ。過去の過ちを繰り返してはいけない。絶対にそんな事になってはならない。



 だからその日だけは、雄二におねだりした。ストレスが溜まって仕方ない。雄二も法曹の勉強が忙しいけど、他センターでの実習は水曜日に行われる。彼は木曜日、授業が無いという事なので、しっかりとして貰った。



 雄二が、千佳は次の日、疲れて無いの?と聞いて来たので、あなたからエネルギー貰っているからと言って返したら、驚いていた。

 二年経って警部になったら、子供の事も考えたいな。その頃には雄二も司法試験受かっている事だろうし。



 昼食の時だけは田中さんと御前崎さんと三人で食事する。二人共


「なんで、あんな目してみるのかしら。周りは皆警察官なんだから、変な事したら簡単に逮捕されるのに」

「私も。男の人って、幹部候補生でも、中身は野獣よね」

「私も同じ思い。水曜日の午後だけは嫌になる」

「早く、この他センター研修終わって欲しいものだわ」


 皆、同じ思いしているんだ。相手が雄二だったらどれだけ嬉しい事か。




 俺、青山祐樹。最初は東京大学法学部を出たら、民間に就職する事にしていた。


 法学部時代、背が高く容姿端麗頭脳優秀の才女、一条千佳を見つけた。


 何度か、授業で顔を見た事は有ったが、いつも同じ男が座っていて声を掛けるチャンスは無かった。


 大学も四年の後期に入り授業も少なくなった時、彼女が一人でいる所を見つけて声を掛けた。


 最初はカフェで一緒に話してくれていたので、俺にチャンスが有るかと思って、食事を誘ったら、スッパリと断られた。婚約者がいたのでは話にならない。


 だから諦めていたが、なんと彼女から俺に声を掛けて来た。理由は婚約者が授業に出ていて会えない時の男避けとして傍に居て欲しいという事だった。


 俺は条件として一度は食事に行くと約束させた。彼女と話をしている内に、性欲の強い女だという事が分かった。


 だから食事に行けると言われた日、カフェでそれらしい話をしながら様子を見ているとまんざらでもない様子になって来た。それが証拠に手を触っても嫌がらない。

 これは大丈夫だと思って、食事に行く振りをしてそのままホテルに向かった。途中スマホが鳴ったが、気が付いていない。


 途中からは彼女の肩を抱いて引き寄せたが、目がとろんとしている感じだ。これは上手くいくと思った。ホテルに入り部屋の前に着いた時だったスマホが鳴った。


 抱かれている肩と反対側の手をバッグの中に入れてスマホを取出し、画面を見ると顔が変わった。


 そして彼女の肩に置いてある俺の腕を振り払うと相手とスマホで何か話した後、彼女は目が覚めたように正気になってはっきりと


『祐樹、ごめんなさい。もう帰ります』

 そう言って帰ろうとしたので彼女を引き寄せ抱いて、お尻まで触ってその気にもっとさせようとしたけど駄目だった。

 

 残念だったが、どうせまた誘えると思ったら、もう全く大学には姿を見せなかった。



 彼女が警察官僚を目指していると聞いたのはカフェで話をしている時、直ぐに方向転換、国家公務員試験を受験して警察官僚の道に代えた。


 目的は彼女。家族はみんな警察官僚と聞いている。彼女と一緒になれれば、俺の未来も明るい。


 もう結婚しているらしいが、チャンスはいくらでもある。俺は、ここ警察大学校で彼女も寮に入るとばかり思っていた。男子寮と女子寮厳しく管理されているが、大した問題ではない。

 だからここに居る間に彼女と出来ればと考えていたが、彼女は家から通えるらしい。


 ここは一般的には寮生活なのだが、彼女は特例処置でも有ったんだろう。後二ヶ月でここも終わるが、警察官僚になっていれば必ず彼女と一緒に仕事をするチャンスもある。まだ大丈夫だ。美味しい果実はゆっくりと食べる事にしよう。


―――――


警察大学校につきましては、多分に事実と違う内容を書いています。ご理解をお願いします。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



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