第42話 四月になれば

 

 今日は、四月一日。

 私は国家公務員そして警察官幹部候補生として警部補待遇で今日から警察大学校初任幹部科で四か月間の研修を受ける。


「雄二、おかしくない」

「とても似合っているし綺麗だよ」

「そうか、じゃあ行って来るね」

「気を付けていってらっしゃい」



 家から一時間半。結構遠い。寮もあるが強制ではない為、私は家からの通学を選んだ。でも特例だと言われた。



 大学校に行くととても広い。そして結構な人がいた。私が入る初任幹部科以外にも多くの課程が有るからだろう。私が周りをキョロキョロ見ながら歩いていると


「一条千佳さん。お久し振りです」

「えっ?」


 後ろを振り向くと青山祐樹が立っていた。

「な、なぜ?」

「おかしくないですよ。民間に入るのを止めて警察官僚を目指していただけです。今日から四か月間宜しくお願いしますね」


 最悪だ。まさかこの男と一緒になるなんて。この後も話しかけて来たが、無視して集合場所に行くと、とても太った背の高い教官らしい人から、入校式の会場に入る様に指示された。

 

 中に入ると初任幹部科と書かれた旗の傍に椅子が有ったので青山となるべく離れて座った。彼も強引に私の傍には来ようとしない。助かった。



 入校式が始まった。校長、副校長の式辞。そして教養部を始めとする各部の長の紹介と説明が有った。


 結構長い。それが終わると別の教官から初任幹部科に入校した人間は付いてくるように言われた。



 教官に連れられて教室に行くと十人しかいなかった。もっと大人数で研修が行われるのかと思ったが、春と秋の二回入校式が有るらしい。良かったのは女性が私以外に二人も居た事だ。



 教室に入ると教官の説明が始まった。ここでは幹部として必要な基礎的な教養を身に着ける事が目的だと言っていた。


 研修は午前九時から午後五時半まで。直ぐに帰っても家に着くのは午後七時だ。座学と実地が有るらしい。実地って何だろう?


 教官の説明が終わると自己紹介が始まった。二人の女性は地方の国立大学から法学を学んでここに来たと言っている。


 名前は、田中由紀子(たなかゆきこ)さんと御前崎茂美(おまえざきしげみ)さん。身長も私程では無いが百六十センチは超えていそうだ。


 田中さんは新潟出身で、御前崎さんは高知出身。早速この二人と仲良くなって青山を遠ざけないと嫌な事になりそうだ。



 私の紹介の順になり席を立つと小声が聞こえる。


―すげぇ、美人だな。

―背も高い。


「一条千佳です。東京大学法学部出身です。宜しくお願いします」

 簡単だがこの位で良いだろう。


―一条って…。

―偶々だろ。



 聞いていると、家から通う人間は私一人の様だ。他の九人は全員寮に入るらしい。青山も寮だ。助かった。




 昼食時間になり、私は早速二人に声を掛けた。

「田中さん、御前崎さん、一緒に食べませんか」

「いいですよ」

「構わないですよ」


 青山がこっちを見て何か言いたげだが、無視した。



 食べていると

「一条さん、その左薬指にある指輪って?」

「私、結婚しているんです」

「「えーっ!」」

「凄い。一条さんの様な美人を捕まえた人って凄いな」

「いいえ、私が彼を捕まえたんです」

「えっ!ご主人の写真持っています?」

「はい」

 雄二の写真見せると


「あの、一条さんのご主人ってモデルさん?」

「ふふっ、違います。今年から東京大学の法科大学院に入りました」

「ふぇーっ、頭いいんだ。美男で頭脳優秀か。羨ましいな。私もこんな彼が欲しいな」

「私もー。一条さんだけずるいー」


 良かった。これでこの二人と仲良く四か月過ごせそうだ。





 千佳が午前七時には家を出る為、一緒に朝食は取るが、食器洗いは俺の当番になった。千佳が申し訳なさそうに頼んで来たので、四か月間だけなら良いよと快く引き受けた。

 

 寮があるというので、そちらの方が楽じゃないかと言ったのだが、俺と四か月間も会えないなんて我慢出来なと言って、自宅からになった。土日は帰れると思うんだが。



 食器を洗った後は、自分の机で勉強だ。学校の入学式は大学と同じ四月十二日だが、四月三日にオリエンテーションが有って、五日には授業が始まる。少し間が空くが遊んでいる様な時間はない。



 午後七時に千佳が帰って来た。

「ただいま」

「お帰り千佳」



 玄関を上がるといきなり抱き着いて口付けをする。いつもの日課だ。


「どうだった。初日は?」

「うーん、午前中は入校式とオリエンテーションで午後から座学。そうだ。女性が二人いた。新潟出身の田中由紀子さんと高知出身の御前崎茂美さん。もう仲良くなって、これから三人で色々勉強する様になるんだ」

 青山祐樹がいるなんて事は口が裂けても言えない。


「良かったな」

 実際、女性が千佳一人って事は無いと思ったが、千佳入れて三人なら要らぬ心配はしなくて良いようだ。千佳は美人だからな。



「雄二、今からご飯の支度する。急いで作るから待っていて」

「分かった。千佳が帰ってくる前に下準備しておこうか。言ってくれれば出来るから」

「うん、ありがとう。ご飯食べ終わったら、メモするから」


 今日は初日という事も有り、遅れるのは仕方ない。明日からは少しは早くなるだろう。


 ご飯を食べ終わって、お風呂に入ってベッドでゆっくりしていると、もう午後十時半だ。

「雄二、ちょっとだけでいいから」

「明日早いんだろう?」

「明日の為のエネルギーを雄二から貰うの」

「……………」

 どういう意味だ?


 結局、寝たのは午前零時過ぎになってしまった。千佳、明日の朝大丈夫かな。でも次の朝も午前五時半に起きて急いで朝食を摂ると、準備して午前七時には出て行った。凄いな千佳は。





 俺は、四月三日に学校に行った。指定場所に行くと全体人数の内、三分の一位は女性だ。思ったより多いな。


 話しを聞いていると法学部出身者は、必修科目の内、三十単位が既習と見なされ、授業を受けなくて良いと説明を受けた。そして二クラスに分けられるということだ。



 俺のクラスで一緒になった女性達は、何か目が輝いているが、別のクラスになった女性達はがっかりしている。どうかしたのかな?


 早速午後にクラス分けされ教室に入った。自己紹介していくと、このクラスには法学部出身の人が多い。そういう事か。



 お昼になり、学食に行こうとすると女性達が寄って来た。

「一条君、一緒にお昼食べませんか?」

「いや、俺は一人で食べるの好きだから」

「えーっ、じゃあ、隣で食べてもいいですか?」

「それはいいですけど」

 面倒だな。


「「「やったぁ」」」



 結局、学食に行っても話しかけられてしまった。皆さん、法曹目指しているんでしょ。色恋は無しにしましょうよ。


 そんな俺の思いもむなしく、教室に戻れば、俺の席の両脇は女性で占められてしまった。他の男子学生が俺に冷たい視線を送って来る。勘弁してくれ。



 次の日、履修登録のオリが有った。一限から五限まであるが、一年次は、四限までしか授業が無い。その上、木曜日は一年次の授業が無いのだ。もっとも予習優先学習を取れと言っているからそれに当てるしかないだろう。

 四限で終わるなら、その後、スーパーにも寄れるし、夕飯の下準備も出来る。良しとするか。


―――――


 警察大学校につきましては、多分に事実と違う内容を書いています。ご理解をお願いします。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



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