第38話 溝は少しずつ広がって行く その一


 

 四年次の履修登録はやはり千佳と同じにする事は出来なかった。俺は、法科大学院の受験を意識した科目を多く入れた。千佳は国家公務員試験受けるからといって特に意識する科目は無い。


 単位から見ると四年次しか取れない単位以外は三年次までに取っているので、余裕のある枠に法曹コースに関わる科目を入れた。

 

 勿論、千佳の取る科目は俺も取る様にして一緒に受けたが、俺だけの科目は俺一人だ。その間、彼女は家に居るのもつまらないと言って、図書室で国家公務員試験の参考書で勉強して、俺と一緒に学食で昼食を摂ったり、一日の授業が終われば一緒に帰った。


何故か俺の家で家事をしたりして過ごしている時もある。


 だけど、法科大学院に入る為の勉強は今までの延長線では無かった。六月に試験申し込みを行った時の試験範囲が俺が想像していたより広かったのだ。


 千佳は俺と一緒に帰って、復習と予習をした後、国家公務員試験の参考書をやっている。彼女曰く、簡単で面白くないと言っていた。流石だ。


 俺は、法科大学院の試験勉強をしている。自然と俺は勉強、千佳は隣でゴロゴロする事が多くなった。


 もちろん金曜日の千佳の家での夕食の後、俺の家に来て月曜日に帰るという習慣は変わらないので、その時間は週中に出来ない事の埋め合わせする事にしていた。


 九月も過ぎ、後期になると千佳はほとんど受ける講義が無くなった。そして俺の勉強が千佳より忙しくなり、俺の家に来てもいつもの様な過ごし方が出来なくなって来た。



 私は雄二が一生懸命勉強して弁護士になろうとする夢には賛成だ。でもこんなに勉強するなんて。


 三年次までは、いつも金曜日は一緒にお風呂に入って、楽しい事して、土曜は洗濯や掃除を二人でしてスーパーにお買物、ご飯を食べた後は楽しい事を思い切りして日曜日も朝はあれを楽しんでその後は映画を見たりお買物したり楽しんだ。勿論日曜の夜もあれをして楽しんだ。


 でも最近は、雄二の勉強時間が多くなりあれの時間も少なくなった。お話をする時間も少なくなった。大学で一緒に講義を受ける時間も少なくなった。


 本当は大学四年間、雄二と一緒に楽しいキャンパスライフを過ごして、私は国家試験を受けて警察官僚になって、雄二は法律の勉強をして弁護士になると思っていた。


 でも今の雄二はまるで高校の時と同じようにひたすら勉強している。少し悲しい。



「雄二、少し疲れたでしょう。お茶入れてあげる」

「千佳、ありがとう」


 前だったら私の方に顔を向けて明るく言っていたのに今は机の方に顔をむけて言う。これも寂しい。


 私が冷蔵庫から冷たい紅茶を持って来るとやっと私の方を向いてくれる。それも少しだけ。直ぐに机に向かう。机の上には厚い本の山。六法の山だ。


 でも、こうして雄二と一緒に居るだけでも嬉しい。



 やっと雄二が机から顔を上げた。もう午前一時だよ。

「雄二、お疲れ様」

「うん、千佳先に寝ても良かったのに」

「駄目、今日はせっかくの土曜日だよ」

「そうだな。ごめんね。勉強ばかりして」

「ううん、雄二が必要な事をしているんだから」

「そう言ってくれると嬉しい」


 そして二人で寝室に行くんだけど、前は土曜日は三回位してくれたのに、今は一回だけ。ちょっと足らない感じ。


 でも私の体の中には、雄二によって目覚めてしまったものがある。最初の時は、全く分からなかった。ただ雄二としている時が気持ち良かった。


 だけど…。大学も二年の終り位から、私の体の底にあるものがはっきり分かるようになった。

 それは…。だから一回では、それが足らないと言って来る。でも今は我慢するしかない。一人でなんてつまらない。




 そんな日々が続いた金曜日、私の授業は無いが、雄二が授業があるので図書室で勉強していると

 

「あの、ここ空いていますか?」


 誰?って感じで相手の顔を見るとちょっぴり爽やかイケメンだ。雄二とは比較にならないけど。


「あの、前に授業一緒だったんです。いつも同じ男の人と受けていましたけど、今日はここで一人なんですか?」

「……………」

 何を言いたいんだろうか。


「あの、この後は授業ありますか?」

「いえ、無いですけど」

「そうですか。それならカフェに行きませんか。少しお話をしたいと思って」

「お断りします」


 しつこいので途中で図書室を出た。こんな時雄二が居てくれたらな。連絡してみようかな。この時間なら雄二、授業の合間だし。直ぐにスマホを取出して掛けると直ぐに出てくれた。


『雄二、私』

『千佳か、どうしたんだ?』

『声聞きたくなって』

『そうか。もうすぐ授業だから』

『ごめんなさい。昼はいつもの様に学食で待っている』

『分かった』


 悪かったかな。私は仕方なく芝生で本を読みながら芝生で時間を潰していると、またあの男が近付いて来た。

「あの」


 また、あの男だ。無視して行こうとすると

「話だけでも聞いて下さい」

「……………」

 何言いたいんだいよ。君は?


「も、もし良かったら、構内のカフェで少しだけ話せませんか?」

 この時も断った。私は雄二以外の男と話すつもりは全くない。



 ある時、雄二が授業の終わった後、教授と話があるからと言って昼食が一緒に食べれなくなった時が有った。仕方ないしに学食で一人で食べているとあの男がまた近寄ってきて


「あの、ここで昼食摂っていいですか?」

「好きにすれば」

 私は無視を決めて早く食べ終わって、外に出ようとすると


「あの、ほんとに少しだけでもいいんです。話をして頂けませんか」

 私はジッとその男を見ると雄二と会うまでは時間も有るし、ほんの少しなら良いかと思い、話をする事にした。


 だけどそれがきっかけで、私達は話す様になった。名前は青山祐樹(あおやまゆうき)君。同じ法学部だが、民間に行く事が決まっているらしく、もうあまり受ける授業が無いそうだ。


 私と同じだ。だからという訳では無いが、雄二の午前中の授業が終わるまで偶にというかほぼ毎日、青山君と話す様になった。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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