第37話 年次が上がれば色々と変わる


 時が急ぎ足で流れます。


―――――

 

 俺と千佳は、少しずつ深くなっていく講義にも特に問題なく付いて行った。試験も何も問題ない。


 目指す方向が同じなので同じサークルやゼミに竜馬や千佳と一緒に入った。


 普段の生活も少し変わった。大学生活も一年を過ぎた頃から一条家の金曜日の夕食に招かれる事になった。


 一条家には千佳を送って行く習慣から偶に家に入って少し雑談して帰るという事もあり、精神的に慣れてきた為だ。


 そんな日常風景も俺達が大学二年も半ばの時、土日だけ俺の所に泊る事になっていた千佳が、金曜日の夕食を頂いている時


「私、金曜日も雄二の家に泊りたい」


 と俺にとっては爆弾発言をしたが、千佳のお父さんは


「二人の様子を見ていてもとても仲がいいようだし、後二年で籍を入れるんだ、いいんじゃないか」

「私も賛成よ」

「いいのう」

 で決まってしまった。



 俺の家には千佳の化粧品や洋服、それに下着類まである。仕方なく新しくタンスを購入して俺の部屋に入れ、俺達は両親の寝室で寝る事にした。



 洗濯物は週に三回、二限からの日に全て千佳がしてくれる。

 千佳と俺の下着が一緒に干されている何となく思う所あるが、千佳が干しているので俺が何を言う訳にもいかない。

 でも千佳のブラとパンティの間に俺のパンツを挾むのは、気の所為か?


 掃除は二人で一緒にする。買い物も二人でして土日の食事は二人でする様になった。




 翌年の正月は成人式が有ったが千佳とは区が違う為、一緒で無いのが残念だけど。


 俺が会場に行こうとすると隣の家から加奈子が出て来た。

 とっても綺麗な赤を基調とした着物を着てピンク色の帯、髪の毛はアップして簪を着けていた。

 加奈子のお母さんが、


「雄二君もこれから行くの?」

「はい」

 前の様な抵抗はない。


「もし良かったら、加奈子と一緒に行ってくれないかしら」

 加奈子は俺の顔をジッと見ている。あれから随分時間が経った。今更、昔のわだかまりを抱えていても仕方ない。


「いいですよ」


 加奈子と加奈子のお母さんがパッと明るい顔になった。

「雄二君、加奈子を宜しくね」

「分かりました」

 この言葉に俺は意味を感じなくていいと思っている。


「雄二、いいの?」

「ああ、行こうか」

「うん」



 加奈子は駅に行く間、口数は少ないものの

「雄二、私一生懸命勉強している。彼氏とかも作っていないから」

 どういう意味か良く分からないが、


「そうか」

 それだけしか答えられなかった。


 雄二には言わなかったけど、将来は小学校の先生になるつもり。だから一生懸命勉強している。

 彼は、卒業したら友達になってくれると言った。出来れば本当はもっと先に進めればと思っている。何とかならないかな。

 そう言えば大学入った頃から、雄二の家に一条さんが泊まりに来ている。二人が付き合っているのは間違いない。だから無理かもしれないけど。



 会場では、中学時代の友人が一杯いて、色々懐かしい思い出を話した。加奈子も中学時代の友人と楽しそうな顔をして色々と話をしている。彼らは高校時代の加奈子の事はほとんどが知らない。それはそれで良かったんだろう。



 成人式が終わって家に向って帰っていると千佳から連絡が入った。


『雄二、今日私の家で成人式のお祝いをするの。来て』

『えっ、でも悪いよ』

『今更でしょう。それにお父さんが絶対に来て欲しいんだって』

 何となく嫌な予感。


『一度着替えてからでいいか?』

『うん、私もキツキツだから着替えて来て』



 俺は一度家に帰るといつも一条家に行く服装に着替えて彼女の家に行った。居たのは千佳のお母さんと祖父母。

 なんと無く気にかかったが、そのまま上がらせて貰った。三十分程経つと千佳のお父さんも帰って来た。日曜でも仕事があるのだろうか?


 そして食事が始まる時

「雄二君、千佳成人おめでとう」

「ありがとう、お父さん」

「ありがとうございます。お父さん」


「おお、ついに雄二君も私をお父さんと呼んでくれるか。これはめでたい、母さんグラスをもう一つだ」

「よかったですね」


「雄二君、もう君とは親子の関係だ。二十も過ぎたし、今日は楽しい会話をしようか」

「ほほほっ、慎之介、雄二君をお前だけに横取りされる訳には行かない。儂も一緒だぞ」

 何となく、やっぱりこうなったか。


 俺は、初めてビールというものを飲んだ。炭酸みたいで苦くて匂いも有ったが、口に含むとスッと喉を通る。

 初めて飲むビールに


「いけるじゃないか」

 と言われて、俺は継がれるままにグラスを出していると




―雄二、赤ちゃんが出来たわ。

―えっ?!

―二人の赤ちゃんよ


 俺が赤ちゃんを抱こうとした時 俺の体がスッと浮かび上がった。



「雄二、雄二」

 深い海の底から這いあがる様に意識が戻って来ると激しい頭の痛みに襲われた。

「うっ」


 周りを見ると白い壁、目の前には千佳がいる。頭の中が理解出来ないままに目を開けると


「起きたのね」

「あ、ああ。ここは?」

「ふふっ、私の部屋よ。お父様が雄二にビールを飲ませていたら意識失ったの」

「えっ?!」

 起きようとして頭が重かった。


「雄二、まだ朝午前六時よ。もう少し一緒にいよ」

 はぁ、やってしまった。もうお酒は控えよう。


 午前九時に一度家に帰り大学に行く準備をして家を出た。千佳も一緒だ。



「昨日はご両親に迷惑かけてしまったな」

「雄二があんなにお酒弱いとは思ってもみなかった。でもお父さんが初めてなのによくこんなに飲んだなって言っていたから素質はあるかもね」

「いやそんな素質は遠慮しておくよ。千佳は飲んだの?」

「えっ、覚えてないの?私はちょっと口にして止めたわ。美味しくないんだもの」

「そうか。俺も控えるかな」

「そうね」


 そして大学に着くといつもの様に授業を受けた。



 そんな生活が続き、ついに俺達は、キャンパスを移動して三年次の講義を受ける事になった。三年次の履修登録も千佳と一緒にした。また一緒に授業を受けれる。


 俺はキャンパスを移ったいい機会なので知り合った教授に弁護士になりたいと相談すると

 法学部四年の後、法科大学院を二年行って司法試験を受けて司法修習に入るか、法曹コースを選んで選抜試験を受けて三年で卒業し、法科大学院に入り途中司法試験に合格すれば司法修習に入れるというのだ。


 だけど、俺は既に三年生になっているので法曹コースは選択できない。四年間法学部で勉強し法科大学院に進みその間に司法試験を受けて最短で二十五才で弁護士になる事にした。司法試験受かればだけど。



 千佳にこの事を話すと

「じゃあ、四年間は一緒に大学に居れるんだよね」

「ああ、俺はその後も勉強が続くが、千佳は国家公務員試験を受けて警察官僚になるという訳だ。

 多分だけど、四年次は履修科目や受ける時間も変って来る」

「えー、やだよ。雄二と一緒がいい」

「でも、千佳は国家行員試験受けるんだろう。俺は法科大学院の受験も視野に入れた履修になるんだから仕方ないよ」


「雄二が心配、変な女に声を掛けられるのが嫌なの」

「千佳も男子学生に随分声掛けられているじゃないか」

「私は、雄二だけだから。気にしなくて良いわ」

「俺も千佳だけだよ。それに卒業すれば籍も入れるんだから」

「分かっているけどさ」


 俺はこの時、まだ法曹の勉強も今までの勉強の延長線だろうと思っていた。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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