第33話 入学

 

 千代子は、次の日もその次の日もやって来た。流石に頭に来て前田さんに向こうの親に言って、千代子を俺の所に来させない様にしてくれとお願いした。


 前田さんにお願いした次の日から千代子は来なくなった。丸山大学に受かったと言っているし、どこかにアパートでも借りたんだろう。

 もしかして最初から借りていたのかも知れない。それで俺の所にあわよくばってところか。



 千佳は毎日俺の所に来て、二人で入学式に着ていく洋服や春の洋服を一緒に買いに出かけり、大学の事で話をしたりした。それから偶に本当に偶にだよ、ちょっとだけ楽しんだ。

 土日は俺の所に泊った。ちょっと慣れて来た所為かあっちは落ち着いて楽しんでいる。


 髪の毛は入学式の少し前、千佳の叔母様の美容院で整えて貰った。



 そして今日は入学式。千佳の家の最寄り駅で待合せ。周りの視線はもう慣れた。駅に来るまでに声を掛けて来る人もいたが無視した。



 駅で待っていると通り行く人がじろじろと俺を見るが、それは気にせずに千佳を待っていると


「雄二、待ったぁ?」

「全然待っていないよ」


 本当は二十分前に来ていたけど。


「雄二、スーツ姿似合うね」

「千佳も良く似合うよ」

 千佳は、黒に近い濃い紺の上着とスカートそれに真っ白はシャツに可愛い白のリボンを首元に緩く付けている。


 俺は濃紺のスーツにチェックのネクタイと誰もが着ているものだ。


「さっ、行こうか」

「ああ」



 会場のある駅までこの駅からでも三十分も掛からない。俺の所も同じ位だ。乗換えも無いし楽だ。

 千佳は容姿が良く女性では背が高い方の百七十センチ、それに今日はいつもより高めのヒールを履いているので、周りの女性から見ると結構高く感じる。


 俺が百八十二センチだから、電車に乗っていても結構目立つ。周りで小声で何か言っているのが聞こえる。


「ふふっ、雄二は何処にいても注目の的ね」

「いや、千佳の方がずっと注目されているよ」

「そんな事ないと思うけど」



 会場に着くと入り口で竜馬が待っていた。約束した訳では無いので、俺達を待っているとは限らないか。


 近くに行くと

「竜馬、おはよう。誰か待っているのか」

「雄二、一条さん、おはよう。お前達に決まっているじゃないか。ここで待って入れば会えるかなと思ってさ。しかし、お前ら目立つな。さっきから周りの男も女の人もみんなお前達を見ているぞ」

「そうか、気の所為じゃないか?」

「雄二は相変わらずだな。後二十分で開場だ。もうすぐだな」

「ああ」


 俺は思い切り緊張しているが、千佳も結構緊張しているのが分かる。



 入学式は一時間二十分行われた。総長の式辞や入学生総代という人が宣誓を行っていたが、あの人が入試トップの人なのかな。



 式が終わると竜馬が

「二人共お昼一緒に食べないか?少し話もしたくてさ」

「ああ、俺はいいよ。千佳は?」

「雄二がいいなら私もいい」

「はぁ、益々熱々だな」

「ふふっ、まあね」


 

 会場の近くはあまり分からないので一度街に出てから近くのファミレスに入った。ドリンクバーと料理を注文すると


「竜馬、久しぶりだな。入学試験以来か?」

「ああ、久しぶりだ。そう言えば又聞きだけど、うちの高校から俺達以外にも何人か帝都大に入ったらしい。人付き合いが広くないので名前は分からないけど。顔を見れば分かるって程度かな」

「そうか。あそこの高校は例年そんなにここに入っていなかったろう」

「ああ、だけど今年は六名も入学したらしい。校長の鼻が高いそうだ」

「なるほど」


「ところで二人共薬指に同じ指輪はめているけど?」

「ふふっ、坂口君。これは婚約指輪」

「えっ?婚約指輪って。お前達婚約したの?」

「うん」

「まあ、色々有ってな」


「そうか、おめでとう。しかしいずれ結婚するだろう位には思っていたけど、まさか大学入学時に婚約しているなんて。想像していたよりスピードが速い。

 もしかして…。ああ、そういう事か」

「そういう事かって?」

「それは簡単に分かるよ。二人共美男美女だ。お互いにそれで虫よけしようって事だろう。良く考えたな」


「まあね」

「まさか、もう同棲って事は無いよな」

「それは流石に無い」

「ふふっ、土日だけ両親に許して貰ったの」

「はぁ、頭もいいし、容姿もいい。それに結婚も早いか。世の中不公平だ」

「なんで?」

「俺はまだ年齢=彼女無しだ」


「でも竜馬モテるんじゃないのか。背も高いし容姿だって悪くないじゃないか」

「雄二に言われても実感が湧かない」


「そう言えば二人共実家からか」

「ああ」

「そうか、俺は一人暮らしだ。うちは家が狭いし、妹が二人いるから追い出された。まあ国立の分、家賃は親が出してくれるけど。バイトしないと小遣いが無い」

「仕方ない所だな」

「いいなぁ二人共。そうだ。二年までは基礎教育だから当分また一緒に勉強出来るな。なるべく履修科目と講義時間合わせようぜ」

「ああ。楽しみにしているよ」

「私も」


 そんな会話をしながら昼食を摂った後、竜馬と別れた。



「雄二、まだ午後二時だよ。私一度スーツを着替えてから雄二の家に行きたい」

「そうしようか。俺もこの堅苦しいのは苦手だ」

「私も」



 午後三時半に千佳と俺は家に戻った。千佳がリビングで寛いでいる間に俺はスーツを普段着に着替えるとリビングに行った。


「雄二」


 いつもの挨拶だ。軽く口付けをすると

「ねえ、ちょっとだけしない。私したくなっちゃった」

「いいけど」



 大学合格が決まった後、初めてしてから隙間の時間に俺の家でする様になった。土日は千佳の両親公認だが、週中は講義に出る。結構しっかりと入れているので、これからは多分出来ないだろう。だから今日だけはいいかなと思った。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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宜しくお願いします。

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