第32話 千代子来襲

 

☆雄二の親戚高原家の会話です。


「お父さん、お母さん、明日から行くね」

「忘れ物とかない?大方の荷物はあっちに送っておいたけど」

「大丈夫、忘れ物有ったら送って貰えば良いし。あいつに買わせればいいよ」

「でも、あんまり無理しちゃ駄目よ。せっかく受かった大学なんだから、しっかりと卒業してね」


「母さん、最初の目的忘れたのか?千代子があいつを丸め込まないと俺がいつまでも働かないといけないじゃないか」

「何を言っているんです。大事な娘が一人で東京の大学に通うんです。お父さんは働いて下さい」

「……………」


 母さんのやつ、だんだん、考え方が変わって来たぞ。どうしたんだ?



 私は翌日、一人で東京に向かった。雄二の所に住めれば一番だけど、出来ない可能性もあるから、お母さんと一緒に大学合格が決まってからアパートを探した。やはり大学の近くは家賃も物価も高いのでちょっと離れているけど、安いアパートを見つけた。この辺の事を思えば全然便利だ。


 雄二の奴を上手く説得出来れば、あいつの家に住む事が出来るし、駄目ならアパートから毎日でも押し掛けてやる。とにかくあいつの家に入り込む事だ。入学式まではまだ時間有るから。




☆雄二の家に戻ります。


「千佳、行こうか」

「うん」


 今日は、千佳を連れて、お墓参りに出かける。目的は大学合格の報告と千佳と婚約した事の報告だ。


 出かける前に母さんの部屋にある遺影に挨拶してから二人で出かけた。家からは四十分位掛かる。都内にある我が家代々のお墓だ。


 墓の傍には花屋さんがある。そこで花と線香を買って我が家の墓に行った。

「ここだよ千佳」

「……………」



 私は初めて高槻家の墓に来た。墓には高槻家代々の墓と印されている。ここに雄二のお父さん、お母さんと妹さん、そしてお爺ちゃんやお祖母ちゃんも眠っているんだと思うと胸が詰まってしまった。


「どうしたの千佳?」

「ううん、何でもない」


 俺は先月の月命日に来た時に供えた花を取ると新しく買って来た花に取り換えた。お堂の前で火を点けた線香をそっと置くと墓に手を合わせた。


 お父さん、お母さん、沙耶。帝都大学に合格した。それと今傍に居る一条千佳さんと婚約した。彼女はとても優しくて俺の事を大事にしてくれる。

 向こうの家族も賛成してくれた。これからはこの子と生涯連添うけど、大変な事が一杯あると思う。その時はそっちから助けてね。



 雄二は、ご家族に何を話しているんだろう。合格の事かな、私の事も話してくれているかな。あっ、終わった。


「千佳も線香あげて」

「うん」


 私は線香を供えると


 一条千佳と言います。雄二君と婚約をさせて頂きました。不束者ですが、雄二君を一生支えて行こうと思います。見守っていて下さい。


 また、涙が出て来てしまった。


「どうしたの?」


 私は直ぐに涙を拭くと

「何でもない。これから月命日の時は雄二と一緒に来て良いんだよね」

「ああ、頼むよ。家族も喜ぶ」

「うん、ありがと」



 それから、街に出てファミレスで食事をした。まだ、午後二時だ。

「雄二の家に行っていいよね」

「もう、俺に聞かなくてもいいよ。千佳が来たい時来なよ。合鍵も渡すから」

「嬉しい」


 とうとう、雄二に認めて貰った。婚約したとはいえ、雄二の心の鎧は固い。開けたらどの位深い底があるのかも分からない。でもいつでも来て良いと言って合鍵もくれると言ってくれた。

 本当に雄二の心の中で私は認められたんだ。本当に嬉しい。


「千佳、今日は良く涙が出るね」

「ふふっ、今ばかりは嬉しくて」


 千佳って思ったより感傷的なんだな。ちょっと可愛く思ってしまった。



 二人で最寄り駅を降りて家に向かうと、門の前で女性が一人立っていた。背中にバッグを背負って大きな荷物を持っている。誰だ?


 近付くとこちらを向いた。


「あっ、雄二。どこ行っていたの?ずっと待っていたんだから。早く入れて」


 お化粧していてすぐには分からなかったが、高原千代子だ。


「俺に何か用事でも?」

「何言っているの。私は今日からここに住むの。荷物が重いから早く家の中に入れてよ」

「はぁ?!何を馬鹿な事を言っているんだ。お前を泊める訳無いだろう」

「私は丸山大学を受かったの。だから雄二の家から通う。ここからなら近いし…」


「なに勝手な事言っているんだ。帰れ。俺はお前をここの家には入れない」


「高原さん、お帰り下さい。あなたがここにいる理由は全くありません」

「何よ、あんた。私は今日からここに住んで雄二の面倒を見るのよ。あんなこそ帰りなさいよ」

「何を言って…」

「千佳、待って。千代子、俺は千佳と婚約した。だからお前をこの家に上がらせる訳には行かない」

「婚約?!そんな事口からの出まかせでしょ」

「本当だ。これを見ろ」


 俺は千佳と一緒に左薬指に着けている指輪を見せた。シンプルだがとても素敵な指輪だ。勿論千佳とペアだ。


「っ!」

 婚約なんて。嘘だ。嘘に決まっている。どうせカップル気どりの指輪だろう。


「そんな指輪で信じられると思っているの。それに婚約なんて解消すればいいだけじゃない。雄二、私は料理も洗濯も掃除も出来る。勿論夜の相手もするわ。だからここに住まわせて」

「駄目だ!」

「だって!…行く所ないの。私を東京で路頭に迷わせるの?変な奴に摑まって悪い事されたら皆雄二の所為だからね」


「えっ?!」

 何言っているんだこいつ。東京に出て来てアパートも借りていないのか?何考えているんだよ。


「自分のいい加減さを俺に押し付けるな!仕方ない。ちょっと待ってろ」


 俺は、千佳と一緒に家の中に入ると

「雄二どうするの?」

「仕方ない、今日はお金を渡して帰させる。流石に路上泊は、させられない」


 俺は自分の部屋からお金の入っている小箱から十万出すと直ぐに外に出た。


「千代子、ここに十万ある。これで帰れ」

「じゅ、十万!」


 せっかくだ、こいつの気が変わる前にお金を貰ってここは一旦引き上げるか。


「わ、分かったわ。でも明日も明後日も来るから」

「来るな!アパート探せ」


 俺は、それだけ言うと門の中に入って鍵を閉めた。千代子が、恨めしそうな顔で俺を見ているが知った事ではない。


 千代子が渋々、帰って行く後ろ姿を見ながら前田さんに連絡しておいた方が良さそうだなと思った。


「雄二、大丈夫かな?」

「何度来ても追い返すしかない」

「でも同じ事言われたら」

「前田さんに連絡する。向こうの家に連絡して貰って、あいつを来ない様にさせるしかない。本人に言ってもどうせ聞かないだろうし」



 仕方ない。一度アパートに帰るか。でも雄二の奴、千佳とか呼んでいる女のとイチャイチャして。何が婚約よ。

あんな女より顔だって体だって私のが良いのに。夜だって経験あるんだから気持ちいい思いさせてあげれるし。なんとかあの女を雄二から引き離さないと。でもあの女誰だ?


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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